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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■以下では具体的な推奨内容(CQ&A)と注意点や私見を述べる.推奨理由等の詳細はガイドライン本文を参照されたい.

推奨提示
推奨提示はMINDs2014に準拠する

エビデンスの強さ(≒質)
A(強):効果の推定値に強い確信がある
B(中):効果の推定値に中等度の確信がある
C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない

EC(エキスパートコンセンサス):①網羅的文献検索でRCTが存在しない場合,②委員会で複数の投票で合意が得られなかった場合,において,生理学や病態生理を考慮して提言をする臨床的な解決方法(生理学的に当たり前の事象で,介入試験で検証できない臨床上重要なこと)を推奨できる場合に限って提言.「常識的ではあるが臨床上確認しておくと患者にとって有益な事柄」

推奨の強さ
1:強く推奨する
2:弱く推奨する
 今回の推奨決定へのプロセスはGRADEシステムに非常に似ているが,異なる箇所もあるMINDs2014の方式を用いていることに注意されたい.また,SSCG 2012においてungradedという推奨表記があったが,本ガイドラインではEC(エキスパートコンセンサス)がほぼこれに相当する.

 作業工程としては,CQ(Clinical Question)およびPICO(対象,介入,対照,アウトカム)の決定,PubMedでのRCTの網羅的検索,(規定内容に該当するなら)システマティックレビュー,推奨決定となっている.委員会での投票はコアメンバー19名のうち2/3以上の賛同を得られれば承認となる.

 なお,解釈に注意したい部分として,推奨のベクトルがある.「行うことを弱く推奨する」と「行わないことを弱く推奨する」は真逆とは考えない.推奨の強さは①エビデンスの質,②益と害のバランス,③価値観,④コストや資源の利用の4要因によって規定されるものであり,その推奨度は連続的であるため,推奨と非推奨との間に大きな差がないこともありうる.

CQ1.定義と診断
CQ1-1.敗血症の定義は?

A.敗血症は,「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義する.敗血症は,感染に対する生体反応が調節不能な病態であり,生命を脅かす臓器障害を導く.また,敗血症性ショックは,敗血症の一分症であり,「急性循環不全により細胞障害および代謝異常が重度となり,死亡率を増加させる可能性のある状態」と定義する.これらは2016年2月に発表された敗血症の新しい定義「The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)」に準じる.
 2016年2月22日のCritical Care Congressにおいて発表された新しい敗血症の定義であるSepsis-3を採用することとなった.本内容はJAMA誌に掲載されており参照されたい(JAMA 2016; 315: 801-10).ざっくり言えば,炎症主体の概念から臓器障害主体の概念となっており,臓器障害のない感染症は敗血症とみなさなくなった.すなわち,これまでよりも重症度・死亡率の高い集団となる.
CQ1-2.敗血症の診断と重症度分類は?

A.敗血症は,感染症もしくは感染症の疑いがあり,かつSOFAスコア合計2点以上の急上昇により診断する.なお,診断に至るプロセスはICUなどにおいて重症管理をしている場合と,病院前救護,救急外来,一般病棟における場合で分けて考える.

ICUなどの重症管理においては,感染症もしくは感染症の疑いがあり,SOFAスコア合計2点以上の急上昇を確認し,敗血症と診断する.

一方,病院前救護,救急外来,一般病棟では,感染症あるいは感染症が疑われる患者に対しては,qSOFA(quick SOFA)を評価し,2項目異常が存在する場合は敗血症を疑い,臓器障害に関する検査,および早期治療開始や集中治療医への紹介のきっかけとして用いる.最終的には,ICUなどの重症管理と同様に,感染症もしくは感染症の疑いとSOFAスコア合計2点以上の急上昇を確認し,敗血症と確定診断とする.

敗血症の重症度は,大きく敗血症と敗血症性ショックに分類し,従来使用してきた重症敗血症の区分を用いない.敗血症性ショックは,「敗血症の中でも急性循環不全により死亡率が高い重症な状態」として区分し,具体的には輸液蘇生をしても平均動脈血圧65mmHg以上を保つのに血管収縮薬を必要とし,かつ血清乳酸値2 mmol/L(18 mg/dL)を超える病態とする.これらの2つの大きな重症度区分に準じて,個々の患者における重症度と緊急度を判断する.

なお,新たな敗血症の定義と診断Sepsis-3では,感染症(疑いを含む)の評価とSOFA合計スコアの推移(2点以上の急上昇)が診断基準として不可欠な項目であり,敗血症の早期診断と治療開始のためには,日々のルーティンな敗血症スクリーニングが必要である.
 SIRSの診断基準が消え,新たにqSOFAとSOFAスコアがスクリーニング基準および診断基準に組み込まれており,これらはSepsis-3で提示された診断プロセスである(JAMA 2016; 315: 801-10).ガイドライン本文には診断のフローチャートも掲載されており(29ページ参照),これを各施設で活用されたい.

 今回新たに登場したqSOFAは「呼吸数≧22回/分」「収縮期血圧≦100mmHg」「GCS<15」の3項目で構成されており,2つ以上満たせばスクリーニング陽性となる.言い換えれば「呼吸がおかしい」「橈骨動脈が触れにくい/触れない」「意識がおかしい」であり,とにかくベッドサイドで何かおかしいとすぐに気が付きやすいもので構成されていることが分かり,医師のみならずナースをはじめとする他の医療職種でも威力を発揮するスクリーニングツールである.また,SIRS基準では白血球数が必要であったが,qSOFAは採血なしに評価可能である.

(1) qSOFAの注意点
 なお,このフローチャートで特に注意していただきたいのは,qSOFAが2点未満で,基準に該当しなかった場合である.qSOFAスコアは非常に簡便に評価できる3項目ではあるが,当然ながら感度100%とはいかない.私見であるが,Sepsis-3が発表されてから1年弱の間,このqSOFAを適用させてみたが,どうも膿瘍や感染性心内膜炎,蜂窩織炎など比較的時間経過の長い感染症による敗血症においてはqSOFAからすりぬけてしまうようである.そして,これらのすりぬけた全症例の共通点として,呼吸数22回以上を満たすこと,SIRS基準を満たすこと,採血で臓器障害がみられること,の3つが挙げられた.また,中には平均血圧が65mmHgを下回っている症例も1例あった.このように,同じ敗血症でも感染症の違いによってqSOFAでは拾いきれないことがあり,それらを見逃さないための工夫が必要である.

(2) そもそもどこで感染症疑いとするか?
 本診断基準の難点として,感染症が疑われていることが前提である.逆に言えば感染症を疑っていなければそこで終了となってしまう.体温を参考にすればよいとする意見もあるが,体温は特異度が低い上,敗血症でも発熱があるとは限らない.2010年に行われた日本救急医学会の前向き調査Sepsis Registryデータの解析(Crit Care 2013; 17: R271)では4人に1人が36.5℃以下であり,しかもこのような低体温の患者の方が予後が悪いとされているため,体温に頼ったスクリーニングはリスキーである.後述するプロカルシトニンもその感度特異度や数値解釈の難しさを考えればこれだけをもって感染症診断を行うべきではない.

 結局は症状と経過,感染症リスク因子などを総合的に評価する必要がある.ただし,臨床的な経験と感覚で感染症疑いと容易に判断できるケースは多く,敗血症に至るほどの重症度レベルまでなった感染症症例が多数の症例が見落とされることはないと思われるため,実際に問題となるのは非典型症例である.そのような症例では診断に難渋するが,①qSOFA項目の明らかな異常があれば精査の対象となること,②重症度(特に臓器障害やショック)などがあれば緊急性が高く敗血症も鑑別に挙げての何らかの対応が必要となること,を念頭におけば,診断はつかずとも迅速な初期対応は可能になると思われる.

 なお,感染症有無を評価するツールとしてinfection probability scoreというものがある.体温,脈拍,呼吸数,白血球数,CRP,SOFAスコアの数値ごとに点数化され,合計が14点未満なら89.5%の確率(陰性適中率)で感染症を否定できるというものである.私自身は使用したことがないため,使用感は分からないが,項目を見てもすべて非特異的要素で構成されているため,実臨床でどこまで信頼のおけるツールかは判断しづらい(Crit Care Med 2003; 31: 2579-84)

(3) 呼吸数,平均動脈圧,乳酸値計測,SOFAスコアの普及の問題
 この4つはルーチンで見られていないことが多い.とりわけ呼吸数は急変の最も鋭敏なバイタルサインであるにもかかわらず,最も計測漏れするバイタルサインである.また,救急・集中治療を専門としない医師・スタッフは平均動脈圧の評価に慣れていない(そもそも計算方法を知らないこともしばしば).乳酸値計測は血液ガス分析が一般的だが,呼吸状態の評価としてしか用いない医師がいたり,乳酸値が計測項目に入っていない血液ガス分析機を採用している施設もまだ多い.SOFAスコアはICU領域において長年用いられてきた臓器障害スコアリングシステム,ではあるものの実際に日常診療で日々のSOFAスコアを計測しているICUは限られている.敗血症を診断する上で各施設でのこれらの問題点の解決は必須である.研修会等で周知徹底する必要があるだろう.
CQ1-3.敗血症診断のバイオマーカーとして,プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン-6(IL-6)は有用か?

A.
①ICUなどの重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEPまたはPCTを評価することを弱く推奨する(P-SEP:2B,PCT:2C).感染症診断の補助検査としてIL-6を日常的には評価しないことを弱く推奨する(2C)

②救急外来や一般病棟などの非重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEPまたはPCTまたはIL-6を日常的には評価しないことを弱く推奨する(P-SEP:2C,PCT:2D,IL-6:2D)
 本推奨は,①ICUで全身状態が不安定な状況で敗血症を疑うが感染症の確定診断に苦慮する状態,②外来あるいは一般病棟入院中で全身状態は悪くはないが敗血症が疑われる状態の2つの状況を想定して検討されたものであるということを理解しておく必要がある.このような場合ではこれらのバイオマーカーが補助的診断ツールとして機能する可能性がある.現時点での評価は上記の通りであり,ICU以外では有用性はいまいちといったところであろうか.

 これらのバイオマーカーは診断ツールではない上にそこまで感度特異度が抜群にいいというわけではないのだが,とりわけ普及しているプロカルシトニンを見ると,実臨床ではあたかも診断ツールかのように計測されており,施設によっては感染症疑い患者でルーチンで計測を行っているなど,不適切使用が圧倒的に多い(宣伝するプロカルシトニンのメーカーも明らかな保険適用外使用をすすめてきたこともあり,プロモーションコードはいったいどうなってるのかと思ったことがある).その上,でてきた数値をちゃんと解釈できる医師は少数派と思われる.カットオフをどこに設定するかでもかなり変わるため,ちゃんと理解して使用しなければ計測するだけ無駄である.

 私見であるが,基本的に敗血症と診断できた状況で計測する意味はなく,また,細菌感染か否かの鑑別確定のために使用するものでもない(実際に計測して主治医が判断に悩む数値(0.1~0.5)がでてコンサルトされることはしばしばあるが,これらの多くの場合は計測しなくていい状況で計測しているだけである).結果的に抗菌薬不適切使用につながっているケースも多数見受けられた.そういう意味ではこれからプロカルシトニン等の院内採用を考えている施設は今一度熟慮されたい.

 そもそも,今回のガイドラインより敗血症の診断はSepsis-3に準じるものとしており,これらのバイオマーカーはSepsis-3基準では一切評価されていないことに注意されたい.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(1) 概要
日本版敗血症診療ガイドライン2016(3) 感染の診断,画像診断,感染源コントロール→

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# by DrMagicianEARL | 2017-01-04 19:08 | 敗血症 | Comments(0)
■日本集中治療医学会/日本救急医学会合同特別委員会による日本版敗血症診療ガイドライン2016がオンライン公開となった.
「日本版敗血症診療ガイドライン2016 (J-SSCG2016)」先行公開のお知らせ
http://www.jsicm.org/haiketu2016senkou.html
■今回のガイドラインは,2012年の日本版の改訂というよりゼロから作り直しである.領域は大幅に増えて19項目,Clinical Questionの数は100個弱に及ぶ.作成メンバーも全体で70名以上の大所帯となっている.2014年の夏にkick offとなり,1年かけて吟味に吟味を重ねて骨格となるClinical Questionを作成,その後1年半かけてシステマティックレビューと推奨作成を行った.COIに関しては,金銭面におけるCOI(economic COI)のみならず学術的COI(academic COI)も公開している.
本ガイドラインの特徴(ICUとCCU 2015; 39: 443-8)

1) 2016年の発表をめざし,名称は「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016」とした.(その後Sepsis-3発表があり重症敗血症という病名がなくなったため現在の名前に変更)
2) 単なる改訂版の位置づけではなく,一般臨床家にも理解しやすい内容かつ質の高いガイドラインを作成し,広い普及を目指す.
3) 中立的な立場で活躍するアカデミックガイドライン推進班を作成するなど,先進的な組織作りを行い,本邦における大規模ガイドライン作成のモデルを目指す.
4) システマティック・レビューなどを通して,新たに見出されたエビデンスをガイドラインと独立して論文化し,救急・集中治療領域の資産とする.
5) 将来への橋渡しとなることを企図して,多くの若手医師をワーキンググループメンバーに登用している.
6) 質の担保と作業過程の透明化を図るため,相互査読制度,各班内の討議のオープン化,作業過程と討議過程の最終公開を行う.
7) クリニカルクエスチョンとガイドライン最終案の2回でパブリックコメント募集を行う.

今回のガイドライン作成を通してめざす本当の意義(ICUとCCU 2015; 39: 443-8)

国際的なガイドライン(SSCG)があるのに本邦独自のガイドラインを作成することの意義を疑問視する声も大きい.しかしながら,この議論は,複合産業である自動車産業が,わが国の発展にどれだけ寄与してきたかを議論するに近いものと考えている.かつて輸入車しかなかった時代に,まずは模倣あら始めることで国産車を作る試みを始めた先達のおかげで,我が国の多種多様な産業がどれだけ発展したかは改めて述べるまでもない.本邦独自のガイドラインの作成の意義を考えた時,「諸外国と同等のガイドラインさえも作れない国でいいのか?」と問いかけたい.
■このように質の高さと透明性の確保という面でかなり力の入ったガイドラインとなっており,見た目はかなりしっかりしたガイドラインである.ただし,次回改訂に向けた宿題が多数あるのも事実であり,今回作成にたずさわらせていただいた私もそれを痛感している.よって,ガイドラインの弱点も知った上で活用していただきたい.

(1) システマティックレビューはRCTのみで行っている

■今回のガイドラインは作成メンバーが70名以上とはいえ,CQは100個弱に及んでおり,人数も時間も厳しい状況であった.既知の優れたRCTのシステマティックレビューがあり,かつその後にエビデンスを覆すような新規のRCTがでていなければシステマティックレビューは行わないが,そうでない場合,あるいはシステマティックレビューが不足している等の事情があればシステマティックレビューをワーキンググループで行っている.しかし,質があまり高くないRCTしかなくその一方で大規模観察研究を複数有するような介入があった場合,RCTのみでのシステマティックレビューから出される推奨のみでよいのか?という点はlimitationであろう.

■同時に,RCTがないが観察研究はある介入であった場合,今回は観察研究のシステマティックレビューは行っておらず,エキスパートオピニオンとしてまとめた推奨文を作成している.相互査読,委員会での承認,パブコメを経たものとはいえ,作成時の議論の時間も厳しかったワーキンググループもあり,人によっては解釈がかなり異なってくる可能性もあるため注意が必要である.

(2) システマティックレビューへの不慣れ

■今回の作成メンバーのうち,システマティックレビューに長けたメンバーはごく一部であった.このため,MINDsのシステマティックレビュー講習をメンバーは受講しているが,近年のシステマティックレビューから推奨に至るまでの過程の難解さに直面した.その不慣れさが推奨に現れていることも否定できず,パブコメではGRADEシステムの専門家の先生から厳しい指摘があったのも事実である(ただし今回は,似てはいるもののGRADEではなくMINDs方式である).

■バイアスリスク評価やエビデンスの質評価を行う課程では,ある程度決まった法則はあるもののメンバー間での意見の相違も多数生まれ,議論を要するが,実際に行ってみて痛感したのは,かなり長期間の訓練を要するものだということである.

(3) システマティックレビューの質としては・・・

■前述の通り,限られた人数で時間的制約もある中,近年の一般的なシステマティックレビューと同様の方法をとることは難しかった.たとえば,システマティックレビューでは文献検索エンジンは最低2つ以上用いるべきとされているが,今回はPubMedのみに限定している.検索式にしても,網羅しつつヒット数を絞り込めるような検索式を立てているが,本来ならば対象と介入のtermのみで構成した取りこぼしのない感度100%を目指す検索式が望ましい.しかし,それをやれば領域によっては万単位の文献ヒット数となり,これを仕分けるには膨大な時間を要してしまう.

■includeしたRCTのアウトカムであるが,生物学的研究でのデータは非正規分布であるとの考えから,連続変数については平均値と標準偏差の組み合わせではなく中央値と四分位範囲の組み合わせを提示している論文が増加している.しかし,中央値と四分位範囲ではメタ解析はできず,そのようなRCTは解析から除外しているワーキンググループもあれば,除外せずに中央値と四分位範囲を平均値と標準偏差に変換する手法(当然ながら数値の信頼性は落ちる)をとったワーキンググループもある.

(4) 推奨が提示できなかった項目がある

■今回のガイドラインでとりわけ奇怪と思われても仕方がない部分が2か所ある.免疫グロブリン製剤とリコンビナント・トロンボモデュリンである.これらは,RCTが複数ありシステマティックレビューを行った上で推奨を出すも,委員会での複数回の投票で2/3以上の賛同を得られなかった結果,「明確な推奨を提示できない」となったものである.SSCGどころか他のガイドラインでもこのような文面はまず見かけないし,現場にとっては混乱を招きかねない.修正に修正を重ねても議論が紛糾する領域は必ず存在するのだから,合議制なり何らかの落としどころを規定しておいた方がよかったのではないだろうかと感じている.

(5) 現場で即座に使える形ではない

■これは問題点というよりガイドラインそのものがもつ解決不能の弱点であり,今回のガイドラインに限らず,救急集中治療領域のあらゆるガイドラインに言えることである.本ガイドラインは本編だけで300ページ以上,付録も約150ページにおよぶ.推奨文の案に対するパブコメ期間は2週間ずつ2回設けられたが,その期間ですべての文章を熟読できた人はほとんどいないのではないだろうか?(それくらい情報量が多かったので).

■本来,ガイドラインはその治療に不慣れな医師でも標準レベルの医療の質を提供するものであるが,この分量をポンと渡されて目の前の敗血症患者の救命のために緊急の現場で使うのはかなり厳しいものがある.しかも19領域,CQ&Aの羅列が100個近く並ぶが,これをどのように治療の流れとして組み立てていくかをその場で考えるには本ガイドラインだけでは非現実的である.

■また,4年前にSSCG 2012や2012年の日本版が出たとき,臨床現場や研究会で私が感じたのは,CQ&Aのみしか見ておらず推奨文にも目を通していない医師の存在である.分量が多ければ多いほど,この現象は起こりやすいと推察される.

■よって,とりわけ救急・集中治療が専門でない医師が臨床現場で活用するのであれば,このガイドラインの内容をしっかり理解した上で,各施設の現状に合わせたコンパクトなフローチャート等に「圧縮」「翻訳」する必要がある.

■次回からは本ガイドラインの内容について見ていく.
日本版敗血症診療ガイドライン2016(2) 敗血症の診断→
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# by DrMagicianEARL | 2016-12-27 15:53 | 敗血症 | Comments(0)
■日本で普及している重症急性膵炎に対する膵局所動注療法(CRAI)は,有効であるとするエキスパートオピニオンが多いものの,そのエビデンスは非常に限られています.1996年にAm J Surgに報告したTakedaらの報告が英文誌ではCRAIの最初の報告であり,急性壊死性膵炎53例の観察研究で,CRAIによる死亡率の有意に改善したとしています.その後,多数の動物実験に加え,小規模観察研究もいくつも報告があり,おおむねCRAIが優れているという結果でした.

■一方で,RCTはポーランドで行われた78例をオープンラベルRCTがあり,CRAI群と非CRAI群に割り付け,死亡率5.1% vs 23.1%でCRAI群の方が優れているという結果でした.ただし,症例数が少ないことに加え,患者背景や重症度評価は非CRAI群の方が不利な条件となっており,輸液量の記載すらもなく,これでここまでの死亡率の差がつくことは信頼性がやや欠けると言わざるを得ません.

■2015年にHoribeらが報告したメタ解析では,CRAIが死亡率や外科手術介入必要度を改善させるという結果となっています.

■これらを見るに,CRAIは有用そうなのですが,実際に各施設の先生に聞いてみると,CRAIを用いない施設でも死亡率に遜色はないようで,日本でもCRAIを行わない施設が多数存在します.やはり観察研究であっても多施設での検討が必要ということでしょう.今回,JSEPTIC-CTGにおいて検討された本邦大規模観察研究が報告されたので紹介します.CRAIを検証する上で重要な研究であると同時に,貴重な重症急性膵炎の大規模データベースです.今後も様々なpost-hoc解析がなされることでしょう.結果は,CRAIの有効性は示せずでした.Propensity score matching解析を用いなかったのは意外でしたが・・・.あと,これはDICに対するrTMでもそうですが,これまでの研究や今回のJSEPTICの結果を見るに,ルーチンでCRAIをやる必要はなさそうだけど,重症度が高い症例ほど有効な可能性はあるかなと感じました.
重症急性膵炎の治療におけるプロテアーゼ阻害薬の持続局所動注は有効性なし
Horibe M, Sasaki M, Sanui M, et al. Continuous Regional Arterial Infusion of Protease Inhibitors Has No Efficacy in the Treatment of Severe Acute Pancreatitis: A Retrospective Multicenter Cohort Study. Pancreas. 2016 Dec 13. [Epub ahead of print]
PMID:27977624

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,急性壊死性膵炎を含む重症急性膵炎(SAP)の患者におけるプロテアーゼ阻害薬の持続局所動注(CRAI)の効果を評価することである.

【方 法】
本研究は2009年から2013年までの日本の44施設において行われた後ろ向き研究である.日本の厚生労働省研究班(2008年)の基準によりSAPと診断された18歳以上の患者を連続的に登録した.我々はプロテアーゼ阻害薬のCRAIと死亡率,感染症発生率,外科手術介入の必要度の関連性を多変量ロジスティック回帰解析を用いて評価した.

【結 果】
1159例の患者が登録され,必要なデータが全て揃っている1097例の患者が解析に組み込まれた.プロテアーゼ阻害薬のCRAIを施行された患者は374例(34.1%)であり,施行されていない患者は723例(65.9%)であった.多変量解析では,プロテアーゼ阻害薬のCRAIは死亡率(OR 0.79, 95%CI 0.47-1.32, p=0.36),感染症発生率(OR 0.97, 95%CI 0.61-1.54, p=0.89),外科手術介入の必要度(OR 0.76, 95%CI 0.50-1.15)の減少に関連していなかった.

【結 論】
SAP患者の治療においてプロテアーゼ阻害薬のCRAIに有効性は見られなかった.

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# by DrMagicianEARL | 2016-12-26 17:17 | 文献 | Comments(0)
■ジャーナリストであり医師でもある村中璃子氏がウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した「日本の反ワクチンパニック拡散を止めること」の記事が日本語訳がでないとのことですので,本ブログでざっと日本語での要約と補足資料を置いておきます.全文および原文はWSJサイトで御確認ください.内容は主にHPVワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン:子宮頸がんワクチン)と池田修一氏の不適切な研究についてですが,MMRワクチンで自閉症を発症するという捏造を行い医師免許取り消しとなったウェイクフィールド氏にも触れています.

■読んでいただければ分かる通り,反HPVワクチン騒動は日本の問題のみではなくなってきているようです.ワクチンに限った話ではないですが,根拠なき恐怖がもたらす実害は想像をはるかに超えた大きなものとなりえます.
全文・原文
Stopping the Spread of Japan’s Antivaccine Panic
Riko Muranaka
http://www.wsj.com/articles/stopping-the-spread-of-japans-antivaccine-panic-1480006636
日本の反ワクチンパニック拡散を止めること
寄稿:村中璃子氏

主な内容

■2013年6月、HPVワクチンが全国予防接種プログラムに含まれてからわずか2カ月後に有害な副反応疑いの報告が多数明らかとなったため、日本政府は積極的接種推奨を中止し、接種対象年齢層の女子のワクチン接種率は約70%から1%以下に低下した。
※日本産婦人科学会が同様のデータを発表しています。

■子宮頸がんは日本では毎年約9,300例の浸潤性子宮頸癌があり3,000例が死亡しており、多くは、HPVワクチンによって予防することができるものである。HPVワクチンの効果、有効性、安全性は何度も証明されていて、世界保健機構(WHO)および日本の医療機関によって支持され推奨されている。
※疫学データ,ワクチンについての詳細は以下の国立がん研究センターサイト,厚生労働省ホームページが参考になります
http://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html

■日本の厚生労働省の厚生科学審議会が策定した「ワクチン副反応検討部会」は、HPVワクチンと症状に因果関係はなく、ほとんどの症例は心身症の可能性が高いと結論づけた。名古屋市での約7万例の解析でも、ワクチン誘発症状とHPVワクチンとの間には有意な関連性は見られなかった。
※名古屋市のデータに関しては以下を参照ください(Wedge2016年6月)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7148

■しかし、2016年3月16日に、有害事象を調査するために政府から委託された主任研究者である信州大学の池田修一氏が、厚生労働省の科学研究費補助金の委員会で誤解を招く遺伝子やマウスの実験データを提示し、同日にテレビで「間違いなく脳障害の徴候がある。この結果は、このような脳障害を訴える患者に共通する客観的な所見を明確に反映している」と語っている。

■Wedge誌(2016年7月号参照)で村中璃子氏が報告した通り、ワクチン接種患者に統計的に有意な遺伝型はないことが判明、また、自己抗体沈着の証拠として提示された緑色蛍光の脳切片はワクチンを接種されたマウスのものではなく、1匹のマウスのみが使用されたチャンピオンデータであった。この告発のもと、信州大学は調査委員会を設置して調査を行い、11月15日に、信州大学は村中璃子氏の告発内容に同意する内容の記者会見を行ったが、データ捏造にはあたらないとした。一方で池田氏は実験の再現性を実証することを要求され、厳重注意を受けた。
※厚生労働省ホームページ参照
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp160316.html
※2016年11月16日読売新聞を参照
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161116-OYTET50005/

■厚生労働省は「厚生労働省としては、厚生労働科学研究費補助金という国の研究費を用いて科学的観点から安全・安心な国民生活を実現するために池田班への研究費を補助しましたが、池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての池田氏の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております。また、厚生労働省は、この度の池田班の研究結果ではHPVワクチン接種後に生じた症状がHPVワクチンによって生じたかどうかについては何も証明されていない、と考えております。」という前例のない声明を発表した。
※厚生労働省ホームページ参照
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp161124.html

■2016年7月以降、数十名の副反応疑いの被害者が、各地の地方裁判所に日本政府とワクチン製造会社に対して訴訟を起こした。日本のメディアはこの訴訟を取り上げたが、医学的根拠については無視しており、これは、原告の主張に対する信頼性を不当に高めている。

■HPVワクチンの問題は過去最大のワクチンスキャンダルであるウェイクフィールド事件を連想させる。1998年、アンドリュー・ウェイクフィールド氏はMMRワクチンが自閉症を引き起こしたという証拠としてLancet誌に「科学的データ」を発表したが、後に捏造であったことが判明し、2010年に論文は取り下げ、医師免許は取り消しとなっている。
※下の方にあるリンク参照

■今年の初めに、ウェイクフィールド氏は「Vaxxed:From Cover-Up to Catastrophe」という映画を発表した。自閉症の子どもをもつロバート・デ・ニーロがトライベッカ映画祭でこの映画を上映しようとした。これにより、米国での反ワクチン感情が再び高まった。
※補足:実際にはトライベッカ映画祭で上映されることが発表されると「科学的な信憑性が低い」との批判を浴び、上映中止となった。しかし、配給会社はマンハッタンのアンジェリカ・フィルム・センターで公開した。

■我々は傍観して科学的ではない主張が全世界の人命を危険にさらすような状況を許容すべきでない。日本政府はHPVワクチンの積極的な接種勧告を復活させ、他国もワクチンの不合理な恐怖がさらに勢いづく前に、肯定的な範を示すべきである。
【文献】ワクチンやそれに含まれるチメロサール,水銀は自閉症と関連しない.メタ解析(Wakefieldの論文捏造の詳細含む)
http://drmagician.exblog.jp/22025386/

MMRワクチンと自閉症の関連性に関する2014年8月の騒動について(Brian Hookerの不適切論文撤回)
http://drmagician.exblog.jp/22464500/

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# by DrMagicianEARL | 2016-12-19 11:06 | 感染対策 | Comments(0)
■救急集中治療領域に限った話ではありませんが,RCTで得られたエビデンスを,そのRCTの患者登録基準の範囲を超えて解釈してしまうということが臨床現場ではよくあり,結果的にその医療介入が不適切になる,効果が得られない,有害事象が増す,ということが起こってきます.エビデンスを臨床に活かす際は必ずそのRCTの登録基準,除外基準を熟読しておく必要がありますし,また,実際に登録された患者の背景データもチェックし,それが実臨床において目の前の患者に適応できるかを見極める必要があります.そしてその乖離が目に見える形でまとめられたのが観察研究です.当然ながらRCTよりエビデンスの質は落ちますが,観察研究の方が圧倒的にリアルワールドに近いものであるという大きなメリットがあり,私はRCT論文だけを読むというスタイルはおすすめしません.

■今回紹介する研究は,過去の救急集中治療領域でのメジャーな15のRCTの登録・除外基準を抽出し,それがリアルワールドでどのくらいの患者が適格性を有するのかを検討したものです.結果は,半数以上が脱落.救急集中治療でのRCTは「質のいい」「きれいな」重症患者を対象にしていますので,いざ実臨床に応用してみると違った結果になってくることはよく経験されるかと思います.
救急集中治療の無作為化比較試験における患者適格性:国際的2施設観察研究
Ivie RM, Vail EA, Wunsch H, et al. Patient Eligibility for Randomized Controlled Trials in Critical Care Medicine: An International Two-Center Observational Study. Crit Care Med. 2016 Oct 24. [Epub ahead of print]
PMID: 27779514

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,各試験の患者適格性の率を評価することにより,重症患者における無作為化比較試験(RCT)から得られた情報が一般化できるかを検討した.

【方 法】
本研究は前向き観察コホート研究である.我々は1998年から2008年の間に出版された,救急領域で最も引用された15のRCTを抽出した.各RCTの登録基準と除外基準を検討し,各RCTごとに本研究ICUに入室した各患者の適格性を評価し,コホートにおける潜在的試験適格性の率を計算した.研究はカナダおよび米国の2つの大学病院の3つのICUで行った.対象は,2010年11月または2011年7月に内科または外科ICUに入室した成人患者とした.

【結 果】
15の研究のうち,特によく見られた登録基準は,敗血症(6研究)または急性呼吸窮迫症候群(4研究),侵襲的人工呼吸(5研究),ICUタイプやICU在室期間関連(5研究)の臨床基準であった.本研究ICUに入室した93例の患者のうち,52%(48例)の患者はいかなるRCTの登録基準も満たさなず,30%(28例)は適格性が15研究のうち1つしか満たさなかった.試験の非適格性は,特異的除外基準への該当(スクリーニング評価で52%)よりもむしろ,ほとんどが登録基準を満たさなかった(87%)ことによるものであった.陽性スクリーニング評価のうち,85%はICU入室初日に満たしていた.

【結 論】
評価された患者の半数以上が,救急領域の15の主要なRCTのいずれにも登録する適格性がなく,ほとんどが研究の特定の臨床的条件がないことによるものであった.RCTの登録基準を満たした患者のほとんどはICU入院初日にその基準を満たしていた.

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# by DrMagicianEARL | 2016-12-15 11:16 | 文献 | Comments(0)

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