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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■救急集中治療領域に限った話ではありませんが,RCTで得られたエビデンスを,そのRCTの患者登録基準の範囲を超えて解釈してしまうということが臨床現場ではよくあり,結果的にその医療介入が不適切になる,効果が得られない,有害事象が増す,ということが起こってきます.エビデンスを臨床に活かす際は必ずそのRCTの登録基準,除外基準を熟読しておく必要がありますし,また,実際に登録された患者の背景データもチェックし,それが実臨床において目の前の患者に適応できるかを見極める必要があります.そしてその乖離が目に見える形でまとめられたのが観察研究です.当然ながらRCTよりエビデンスの質は落ちますが,観察研究の方が圧倒的にリアルワールドに近いものであるという大きなメリットがあり,私はRCT論文だけを読むというスタイルはおすすめしません.

■今回紹介する研究は,過去の救急集中治療領域でのメジャーな15のRCTの登録・除外基準を抽出し,それがリアルワールドでどのくらいの患者が適格性を有するのかを検討したものです.結果は,半数以上が脱落.救急集中治療でのRCTは「質のいい」「きれいな」重症患者を対象にしていますので,いざ実臨床に応用してみると違った結果になってくることはよく経験されるかと思います.
救急集中治療の無作為化比較試験における患者適格性:国際的2施設観察研究
Ivie RM, Vail EA, Wunsch H, et al. Patient Eligibility for Randomized Controlled Trials in Critical Care Medicine: An International Two-Center Observational Study. Crit Care Med. 2016 Oct 24. [Epub ahead of print]
PMID: 27779514

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,各試験の患者適格性の率を評価することにより,重症患者における無作為化比較試験(RCT)から得られた情報が一般化できるかを検討した.

【方 法】
本研究は前向き観察コホート研究である.我々は1998年から2008年の間に出版された,救急領域で最も引用された15のRCTを抽出した.各RCTの登録基準と除外基準を検討し,各RCTごとに本研究ICUに入室した各患者の適格性を評価し,コホートにおける潜在的試験適格性の率を計算した.研究はカナダおよび米国の2つの大学病院の3つのICUで行った.対象は,2010年11月または2011年7月に内科または外科ICUに入室した成人患者とした.

【結 果】
15の研究のうち,特によく見られた登録基準は,敗血症(6研究)または急性呼吸窮迫症候群(4研究),侵襲的人工呼吸(5研究),ICUタイプやICU在室期間関連(5研究)の臨床基準であった.本研究ICUに入室した93例の患者のうち,52%(48例)の患者はいかなるRCTの登録基準も満たさなず,30%(28例)は適格性が15研究のうち1つしか満たさなかった.試験の非適格性は,特異的除外基準への該当(スクリーニング評価で52%)よりもむしろ,ほとんどが登録基準を満たさなかった(87%)ことによるものであった.陽性スクリーニング評価のうち,85%はICU入室初日に満たしていた.

【結 論】
評価された患者の半数以上が,救急領域の15の主要なRCTのいずれにも登録する適格性がなく,ほとんどが研究の特定の臨床的条件がないことによるものであった.RCTの登録基準を満たした患者のほとんどはICU入院初日にその基準を満たしていた.

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# by DrMagicianEARL | 2016-12-15 11:16 | 文献 | Comments(0)
■敗血症性ショックを疑ったけど,感染巣が不明で感染症かどうかも分からない,なんて患者に遭遇することは珍しくないと思いますし,ICTもそのような状況でコンサルトを受けることがあると思います.そのような患者は予後が悪いのかなと思ってましたが,そうでもないようです.今回紹介する論文はフランスのICUから,多施設共同前向き観察研究です.発症から敗血症性ショックが疑われてICUに入室し,24時間以内に感染巣や病原微生物の根拠が得られたか否かで患者を評価しています.

■結果は,予後に有意差なし.早期に感染症の根拠が得られなかった患者は26%,そのうち別疾患と診断したものが44%(全体の11%),あとで敗血症性ショックと診断できたものが28%(全体の7%)でした.また早期診断群の方が,糖尿病患者が少なく,発熱がより高く,意識レベルが高く,CRPやプロカルシトニンが高いという患者背景でした.24時間以降に診断がついた敗血症性ショックの感染巣は何か特殊なのかなと思ったら,通常の敗血症の疫学とほぼ変わらない結果でした.敗血症性ショックもどきを呈した薬剤副作用としては,ビグアナイド系経口血糖降下薬(メトホルミン)が最多で,次いでレニンアンギオテンシン系降圧薬,β遮断薬,プロポフォールが続いていました.

■これを見るに,感染巣が特定できようができまいが,やはり初期の循環管理をしっかり適切に行うことが要であろうと思われます.私自身は敗血症に対して抗菌薬投与を1時間以内に投与することをpracticeとしていますが,本心ではおそらく1時間以内じゃなくてもいいと思っています.抗菌薬の早期投与がいいという過去の研究はすべて観察研究であり,いかに多変量解析を行っているとはいえ,抗菌薬投与が全治療のスタートラインとなっていて循環管理が遅れているのを反映しているだけ,という可能性がそれなりにあるからです.実際に予後に影響を与えるのは抗菌薬早期投与よりも早期のショック治療だと思います(かといって抗菌薬投与が遅すぎるのもよくないでしょうけど).まあこのあたり,いろいろ思うところがあるなと感じながらも1時間以内に適切な抗菌薬を選択して投与をすべくやってます.
24時間時点で診断がついていない敗血症性ショック:実際的多施設前向きコホート研究
Contou D, Roux D, Jochmans S, et al. Septic shock with no diagnosis at 24 hours: a pragmatic multicenter prospective cohort study. Crit Care. 2016 Nov 6;20(1):360
PMID:27816060

Abstract
【背 景】
敗血症と考えられたショック管理の24時間後の明らかな感染巣の欠如はよく見られ,シナリオの妨げになる.我々の目的は,発症から24時後に未診断のショックの頻度と原因を検討し,早期に診断された敗血症性ショック患者の予後と比較することである.

【方 法】
我々はフランスの10の集中治療室(ICU)において,実際的前向き多施設共同観察コホート研究を行った.抗菌薬処方につながる感染症が臨床的に疑われ,循環作動薬を要する循環不全があると定義された敗血症性ショック疑いでICUに入室した患者を全例連続的に登録した.

【結 果】
計508例の患者が敗血症性ショックの疑いでICU入室となった.それらのうち,374例(74%)が早期に敗血症性ショックと診断され,一方で134例(26%)がショック発症から24時間の検索で感染巣も微生物学的根拠も同定できなかった.これらのうち,37/134例(28%)は24時間移行に敗血症性ショックと診断され,59/134例(44%)は敗血症を模倣した状態(敗血症性ショック様.ほとんどは薬剤有害反応,急性腸間膜虚血,悪性疾患に関連)であり,38/134例(28%)はICU在室終了まで原因不明のショックであった.早期に診断された敗血症性ショック患者とそうでない患者では,ICU死亡,ICU在室期間,気管挿管期間,循環作動薬使用期間に差はなかった.多変量Coxモデルでは,敗血症性ショックの早期診断有無で60日死亡リスクに差はみられなかった.Sepsis-3の定義による基準に合致した患者のサブグループ(369/508例)における感度解析でも同様の結果であった.

【結 論】
敗血症性ショック疑いでICUに入室した患者の1/4は発症から24時間以内に感染症の根拠が検出できず,そのうちのほぼ半数は最終的に敗血症性ショック模倣疾患と診断された.早期診断の敗血症性ショックとそれ以外の患者で予後に差はみられなかった.

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# by DrMagicianEARL | 2016-12-12 20:10 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックに大量輸液は必要だが,過剰輸液も死亡リスクに悪影響を与える,ということがずっと言われてきましたが,あくまでも観察研究によって提唱されていた仮説であり,試験ごとに比較すると,やはり重症度が高まるほど輸液量が多いことが避けられず,過剰輸液のせいで死亡リスクが悪化するのか因果関係は不明,というのも事実です.

■今回,敗血症性ショックの大量輸液においてプロトコルを組んで輸液制限が可能かを検討したRCTが報告されたので紹介します.結果は,輸液制限群の方が好ましいという結果.非常に興味深い内容・・・ですが,除外基準として重度の呼吸不全や腎代替療法の患者を除外している,無作為化時点で既に両群とも中央値にして4000mL以上の輸液が既に入っており初期輸液にしては多すぎですし,患者背景を見るに治療する際の難治性因子となる不利な項目が標準ケア群の方が多い,輸液制限群にプロトコル違反が3割もいる,などなど,limitationは非常に多く,素直には受け取れない結果と私はみていますので,現時点でこのプロトコルをリアルワールドで使う気にはなれません.まあサンプル数がそれほど多くないfeasibility trialですので,今後のさらなる検討を期待します.
初期管理後の成人敗血症性ショックにおける蘇生輸液量の制限:CLASSIC無作為化並行群間多施設共同実現可能性試験
Hjortrup PB, Haase N, Bundgaard H, et al; CLASSIC Trial Group; Scandinavian Critical Care Trials Group. Restricting volumes of resuscitation fluid in adults with septic shock after initial management: the CLASSIC randomised, parallel-group, multicentre feasibility trial. Intensive Care Med. 2016 Nov;42(11):1695-1705
PMID:27686349

Abstract
【目 的】
敗血症性ショックで集中治療室(ICU)に入室した患者における初期蘇生後の蘇生輸液制限プロトコルと標準ケアプロトコルの効果を評価する.

【方 法】
スカンジナビアの9つのICUにおいて,初期輸液蘇生を受けた151例の敗血症性ショック成人患者を無作為化した.輸液制限群では,輸液ボーラス投与は重度の低灌流のサインが生じたときのみ許可し,標準ケア群では循環指標が改善し続ける限り許可した.
※本文より
低灌流のサイン:乳酸値≧4mmol/L,ノルアドレナリン投与下で平均動脈圧≦50,皮膚のまだら模様が膝蓋部からさらに拡大,尿量≦0.1mL/kg/hr(無作為化から2時間以内限定)


【結 果】
主要評価項目である第5病日時点およびICU在室中の蘇生輸液量は,輸液制限群の方が標準ケア群よりも少なかった[第5病日平均差-1.2L(95%CI -2.0 to -4.0); p<0.001,ICU在室中平均差-1.4L(-2.4 to -0.4); p<0.001].全輸液量およびバランスまたは重篤な有害反応は両群間で統計学的有意差はみられなかった.輸液制限群で主要なプロトコル違反が27/75例に行われていた.虚血性イベントは,輸液制限群で3/75例,標準ケア群で9/76例(OR 0.32; 95%CI 0.08-1.27; p=0.11),急性腎傷害の悪化は27/73例 vs 39/72例(OR 0.46; 95%CI 0.23-0.92; p=0.03),90日死亡は25/75例 vs 31/76例(OR 0.71; 95%CI 0.36-1.40; p=0.32)生じていた.

【結 論】
敗血症性ショックの成人ICU患者において,蘇生輸液を制限するプロトコルは標準ケアプロトコルと比して蘇生輸液量を減少させることができた.臨床的アウトカムは輸液制限群ですべての項目で有益な傾向がみられたが,本試験はこれらの探索的結果において差を示すには検出力不足であった.

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# by DrMagicianEARL | 2016-12-08 16:12 | 敗血症 | Comments(0)
■世界保健機関WHOにより2015年から11月の特定の週が世界抗菌薬啓発週間(World Antibiotic Awareness Week)と定められました(2016年は11月14~20日).この流れに合わせる形で,日本政府は今年2016年から,11月を「対策推進月間」と定めて対策強化に乗り出し,感染症と抗菌薬の基本的な知識を広げるため,国民啓発会議を立ち上げることになりました.
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1.薬剤耐性菌の脅威

■これまで多数の抗菌薬が開発されてきましたが,なかでも1970年代以降は広範囲の菌に有効な抗菌薬が多数登場し,一時は「これで細菌感染症は撲滅できる」という楽観的な予測をしていた専門家もいたくらいでした.しかし,近年状況は大きく変わりました.米国でポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっています.抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない菌)が発生し,病院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものでした.感染症に対する武器である抗菌薬を手にしたにもかかわらず,我々は今抗菌薬を失い始めています.

■1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となりましたが[1],それから20年足らずでペニシリンが効かない黄色ブドウ球菌が急増しました.しかし,実際にはペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが報告されています[2].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られていて,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要がありました.つまり,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったということです.

■これまでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かないESBL,NDM-1,KPC,MBLといった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっています.このような多剤耐性菌は免疫が弱った患者が感染するものと考えられてきましたが,近年,一般市民に感染するMRSAが増加傾向にあり[3,4],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株という耐性菌であることも分かっており[5],2011年には京都でほとんどの抗菌薬が無効の淋菌が報告されています[6,7].最近では,「スーパー耐性菌」として米国等で高度耐性菌の発生がメディアで報じられるようになりました.

■このように菌の耐性化と新たな抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割には(ジェネリック医薬品の登場もあり)あまり収益が見込めない分野であり[8],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加しています[9].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われていますが,その背景には,1980年代以降,新規開発の抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状があります[10].2016年のEUの報告書でも,2003年から2013年にかけての医薬品ベンチャー投資のうち抗微生物薬開発に充てられたのはわずか5%未満でした[11].抗菌薬の効果を維持するとともに,新薬を開発するため,資金を含めた各国政府の支援と求める宣言を85の製薬会社が共同で発表しています[12]

2.耐性菌危機に対する急速な世界の動き

■2015年6月にドイツはシュロス・エルマウで開催されたG7首脳会議(サミット)において,抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の拡大を防ぐため,先進7カ国(G7)が協調して新薬を開発し,家畜への抗菌薬の不適切な使用を減らすなどの対策強化を盛り込んだ共同声明が出されました.2016年9月の神戸で行われたG7保険大臣会合でも4つの共同声明の中で3番目に薬剤耐性(AMR)対策が盛り込まれています[13].また,同時期に行われた国連総会でも,薬剤耐性菌についてのハイレベルミーティングが行われました[14].さらに,世界銀行は,「薬剤耐性菌感染症は未来の経済への脅威である」というレポートを出しています[15].このように,世界首脳の集まりにおいて重要な議案に取り上げられるほどに事態は危機を迎えつつあります.
2016年国連総会ハイレベルミーティングの内容
(1) 人,動物に対する抗菌薬の使用・販売量のサーベイランスと規制の仕組みを充実させる.
(2) 新規抗菌薬の開発や迅速診断の改善のため革新的な研究を推進する.
(3) 薬剤耐性菌の感染症をいかに防ぐかについて医療従事者や市民の教育を行う.
■また,これらの問題は単にヒトの医療のみにとどまりません.ヒトの衛生のみならず,家畜の衛生,環境の衛生の関係者が連携して対策に取り組むべきであるとする「One Health」の理念が普及・推進されています.2016年11月10・11日に北九州市で「第2回世界獣医師会-世界医師会”One Health”に関する国際会議」が開催されます.

■今や耐性菌対策は国家レベルの問題となっており,放置すれば2050年には癌よりも多い年間1千万人が耐性菌によって死亡するとの予測もあります.現在世界各国がアクションプランを開始しています.新規の抗菌薬開発を促進させること,抗菌薬を適切に使用すること,感染症を予防することで抗菌薬使用を減少させることが必要であり,今ある抗菌薬を未来に残す必要があります.

3.日本での対策

■世界の流れに日本が乗り遅れていた中,日本では2015年の抗菌薬啓発週間から感染症医の有志によるキャンペーンが行われました.さらに,2016年2月には感染症関連の8学会(日本感染症学会,日本化学療法学会,日本環境感染学会,日本臨床微生物学会,日本細菌学会,日本薬学会,日本医療薬学会,日本TDM学会)合同創薬促進検討委員会・抗微生物薬適正使用推進委員会が厚労省,文科省,経産省への提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」[16,17]を出しています.
8学会合同の提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」の主な内容
(1) 戦略的な耐性菌サーベイランスの実施
(2) 院内感染対策・制御のさらなる徹底
(3) 行政との連携による抗菌薬適正使用支援の推進
(4) 新規創薬を促進するための施策・連携・協力(日本版GAIN法制定など産官学連携施策が必要)
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■日本政府もようやくこれらの問題に対応する形で,2016年4月5日に我が国の行動計画(アクションプラン)が策定・公表され[18,19],「抗菌薬の使用量を3分の2に減らす」「耐性菌に効果のある新薬の開発」など具体的なプランを立て始めました.
日本政府が提示した2020年までの目標
(1) 2020年の人口千人当たりの1日抗菌薬使用量を2013年水準の3分の2に減少させる.
(2) 2020年の経口セファロスポリン系(≒セフェム系),フルオロキノロン系,マクロライド系の人口千人あたりの1日使用量を2013年水準から50%削減する.
(3) 2020年の人口千人当たりの1日静注抗菌薬使用を2013年水準から20%削減する.
(4) 2020年の肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下に低下させる.
(5) 2020年の黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる.
(6) 2020年の大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる.
(7) 2020年の緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる.
(8) 2020年の大腸菌および肺炎桿菌のカルバペネム耐性率0.2%以下を維持する.
■また,日本での耐性菌の調査・研究を行う新たな組織を国立感染症研究所と国立国際医療研究センターに2つ設置し,2017年度予算の概算要求に2組織の設置など耐性菌対策費5.7億円を盛り込んでいます.

■このアクションプランを受けて農林水産省は家畜における耐性菌対策について活動を行っています[20]

■2016年10月に内閣官房・厚生労働省はYahoo!でネットアンケート調査を行いました.
内閣官房・厚生労働省によるネットアンケート

アンケート1:体調が悪いときに薬を飲む方は多いと思いますが,抗菌薬(抗生物質)は,風邪やインフルエンザに効果がないということを知っていますか?[21]
投票数:135137票
知っている:57%
知らなかった:43%

アンケート2:抗菌薬(抗生物質)の不適切な使用は,薬の効かない細菌の出現,いわゆる薬剤耐性問題の原因と言われています.あなたは,「薬剤耐性」について知っていますか?[22]
投票数:11月1日12時現在で36000票,投票継続中


4.一般市民の方へ

■一般市民レベルでは,抗菌薬の不適切使用をなくし,感染症を防ぐことが必要です.
(1)風邪などのウイルス感染症に抗菌薬は効きません.
■抗菌薬が効かない風邪やインフルエンザなのに,よく外来で「抗菌薬がほしい」とおっしゃる患者さんは大勢おられます.中には,抗菌薬を使わなくても普通に治っただけなのに,病院で処方された抗生剤を飲んだタイミングでよくなったから「抗生剤がよく効いた,今後も飲もう」なんて勘違いされるケースもよくあります(これを言う医療従事者も中にはいるんですよね・・・).上の内閣官房・厚生労働省のアンケート調査における回答者のコメントを見てもこのような方が大勢おられることがうかがえます.

■もちろんこれは一般市民の方が悪いわけではありません.抗菌薬が不要な患者さんに漫然と抗菌薬を処方してきた医療側に大きな問題があり,これが医療・市民の両方で慣例化してしまっているという現状があります.実際には,医療現場で使用されている抗菌薬の半分は不必要あるいは不適切であるとされています[23]

■本記事は世界的な耐性菌対策として書いてはいますが,不必要な抗菌薬を処方しない理由としては耐性菌以外にも理由はあります(というより,抗菌薬を処方しない理由として耐性菌の話しかしないのでは患者さんも納得されないと思いますが・・・).急性呼吸器感染症1531019例の研究[24]では,肺炎による入院は抗菌薬投与群で18例/10万回受診,非投与群で22例/10万回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果で,抗菌薬はほぼ効果がないに等しい数値であり,むしろアレルギーや下痢などの副作用(場合によってはアナフィラキシーショックや重症の腸管感染症を引き起こして腸切除に至るケースもあります)のリスクの方がはるかに高いです.要するに,風邪程度で抗菌薬を服用するのは害の方が益を上回る可能性が高く,当然ながらコストもかかります(ただし,A群溶血性連鎖球菌による咽頭扁桃炎や百日咳では抗菌薬は必要です).

■風邪と思っても抗菌薬が必要となるケースも中にはありますが,それを正確に判断することは困難です.しかし,最初はただちに抗菌薬を処方せず症状軽減の薬剤のみを処方して様子を見て,その後悪化したときだけ使用する,という方法が,抗菌薬を最初から処方する場合と比較して症状の期間にほぼ差はなく,抗菌薬使用量が減少した,と報告されています[25]
(2)抗菌薬は医師から処方されたときのみ服用しましょう.(たとえ家族であっても)他人に抗菌薬をあげない・もらわないようにしましょう.
■家に昔病院でもらった抗菌薬が残っていたり,友人・知人・家族から抗菌薬をもらったりすることがあるかもしれません.あるいは最近は抗菌薬をインターネットで海外から購入することもできます.しかし,医師の診察による感染症の診断なしに勝手に抗菌薬を内服するのは効果も安全性もまったく保障できないばかりか診断を遅らせてしまう要因になりかねません.必ず病院を受診して感染症の診断を受け,抗菌薬の必要性有無を判断してもらい,その上で処方をされたときだけ内服しましょう.
(3)処方された抗菌薬は途中でやめず,必ず処方内容通りきっちり内服しましょう.
抗菌薬は効果を考えて投与間隔や投与期間を設定して処方されます.勝手にやめてしまったり服用を忘れたりすると効果が不十分になったり,菌が抗菌薬に耐性を獲得してしまう可能性があります.
(4)手洗いは感染症の予防となり,抗菌薬の使用を減少させます.
■手洗いが感染症を予防することは既に数多くの報告がなされており,日常生活で最も簡単な予防手段です.当然ながら抗菌薬が必要となる感染症の予防にもつながりますし,耐性菌が体内に入ることも防いでくれます.

[1] Bush K. The coming of age of antibiotics: discovery and therapeutic value. Ann N Y Acad Sci 2010; 1213: 1-4
[2] Abraham EP, Chain E. An enzyme from bacteria able to destroy penicillin. 1940. Rev Infect Dis 1988; 10: 677-8
[3] Naimi TS, LeDell KH, Como-Sabetti K, et al. Comparison of community- and health care-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. JAMA 2003; 290: 2976-84
[4] Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med 2006; 355: 666-74
[5] Christina F, et al. Epidemic Profile of Shiga-Toxin–Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 2011; 365:1771-80
[6] Ohnishi M, Saika T, et al. Ceftriaxone-resistant Neisseria gonorrhoeae, Japan. Emerg Infect Dis 2011; 17: 148-9
[7] Ohnishi M, Golparian D, et al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55: 3538-45
[8] Livermore D. Can better prescribing turn the tide of resistance? Nat Rev Microbiol 2004; 2: 73-8
[9] French GL. What’s new and not so new on the antimicrobial horizon? Clin Microbiol Infect 2008; 14: S19-29
[10] Infectious Diseases Society of America. The 10 x ’20 Initiative: pursuing a global commitment to develop 10 new antibacterial drugs by 2020. Clin Infect Dis 2010; 50: 1081: 3
[11] https://english.eu2016.nl/documents/reports/2016/02/10/2016-report-on-antibiotic-rd-initiatives
[12] http://www.bbc.com/news/health-35363569
[13] http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/g7kobe/communique.html
[14] http://www.bbc.com/news/health-37420691
[15] http://www.worldbank.org/en/topic/health/publication/drug-resistant-infections-a-threat-to-our-economic-future
[16] 門田淳一,館田一博,二木芳人.新規抗菌薬の開発に向けた8学会提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」—提言発表の背景と目的ー.日化療会誌 2016; 64: 131-2
[17] 創薬促進検討委員会・抗微生物薬適正使用推進委員会.世界的協調の中で進められる耐性菌対策.日化療会誌 2016; 64: 133-7
[18] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/yakuzai_gaiyou.pdf
[19] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/yakuzai_honbun.pdf
[20] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/koukinzai.html
[21] http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/25663/result
[22] http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/26082/result
[23] Hughes JM. Preserving the lifesaving power of antimicrobial agents. JAMA 2011; 305: 1027-8
[24] Meropol SB1, Localio AR, Metlay JP. Risks and benefits associated with antibiotic use for acute respiratory infections: a cohort study. Ann Fam Med 2013; 11: 165-72
[25] de la Poza Abad M, Dalmau GM, Bakedano MM, et al; for the Delayed Antibiotic Prescription (DAP) Group. Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2016; 176: 21-9
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# by DrMagicianEARL | 2016-11-01 12:15 | 抗菌薬 | Comments(0)
■私は普段から口酸っぱく「高酸素血症は(挿管処置時をのぞく)一利なしどころか有害,SpO2が98%以上なら投与酸素量はすみやかに下げるべき」と言っています.医療従事者は低酸素血症には敏感ですが,高酸素血症は放置してしまうことが多々あり,その根底には,高酸素血症は有害でないという勘違い,SpO2 98%以上はPaO2 100-500mmHgに相当することが周知されていない,SpO2が高いときにモニターアラームが鳴るような設定がほとんどされていない,ということが挙げられると思います.

■高酸素血症のデメリットは何かと聞くと,多くの人は高炭酸ガス血症による呼吸性アシドーシス,さらにはCO2ナルコーシスを挙げると思いますが,それ以外のデメリットを挙げられますか?これまで分かっている知見では,肺胞内酸素が急激に吸収されることによる肺胞虚脱,肺サーファクタントの減少が生じることによる気道閉塞,吸収性無気肺,さらにはこれらの影響によるずり応力(shear stress)による肺傷害(atelectrauma)から炎症を惹起してARDS悪化の要因となりえます.また,気管支繊毛が不全状態となり気道クリアランスが低下することによる感染リスク増大,急性心筋梗塞における冠血流量低下や梗塞範囲増加などがあります.実際,観察研究では高酸素血症で死亡率が増加している報告が救急集中治療領域でいくつも報告されており,そのうちのいくつかは低酸素血症よりも死亡率が高くなっています.

■今回御紹介するRCT,Oxygen-ICU trialは高酸素血症を回避する酸素療法プロトコル(SpO2 94-98%に管理)と,高酸素血症を許容する従来の酸素療法(SpO2 98-100%,上限PaO2 150mmHg)を比較したところ,高酸素を回避した方が死亡リスクが43%有意に低下したという結果(NNT 11.6)となり,これまでの観察研究結果を指示する結果となりました.ちなみに私はICU患者に対しては本研究の高酸素回避プロトコルよりもさらに低いSpO2(目標値88-92%)で管理しています.

■なお,高酸素血症の有害性等は以下の記事にまとめておりますのでご参照ください.
SpO2の落とし穴 ~酸素投与患者の「SpO2 99%」を見て安心してませんか?~
http://drmagician.exblog.jp/22262792/
集中治療室の患者の死亡率における保守的vs従来型酸素療法の効果:Oxygen-ICU無作為化比較試験
Girardis M, Busani S, Damiani E, et al. Effect of Conservative vs Conventional Oxygen Therapy on Mortality Among Patients in an Intensive Care Unit: The Oxygen-ICU Randomized Clinical Trial. JAMA 2016, Oct.5 [Epub ahead-of-print]

Abstract
【背 景】
不必要な酸素療法による潜在的有害性が示唆されているにもかかわらず,重症疾患患者は相当な期間高酸素血症状態となっている.動脈血酸素化のコントロール戦略は合理的ではあるが,臨床においては評価されていない.

【目 的】
酸素投与の保守的プロトコルは集中治療室(ICU)に入室した患者の予後を改善しうるかを評価する.

【方 法】
Oxygen-ICU試験は2010年3月から2012年10月までに,イタリアのモデナ大学病院の内科外科ICUに72時間以上入室することが予測された全患者を登録して行われた単施設オープンラベル無作為化臨床試験である.原案でのサンプルサイズは660例であったが,480例を登録した後,登録が困難との判断で早期中止となった.

【介 入】
患者は,PaO2を70-100mmHgまたは動脈血酸素飽和度SpO2を94-98%に維持するように酸素療法を受ける群(保守群)と,標準的ICUに沿ってPaO2を150mmHgまでまたはSpO2を97-100%まで許容する群(従来群)に無作為に割り付けられた.主要評価項目はICU死亡率とした.副次評価項目は,ICU入室から48時間以上後の新規の臓器不全と感染症の発生率とした.

【結 果】
計434例(年齢中央値64歳,188[43.3%]が女性)が,保守的(218例)または従来的(216例)の酸素療法を受け,修正intent-to-treat解析に登録された.ICU在室中の毎日の時間加重平均PaO2は,保守群(PaO2中央値87mmHg [四分位範囲79-97])よりも従来群(PaO2中央値102mmHg [四分位範囲88-116])の方が有意に高かった(p<0.001).ICU在室中に,保守的酸素療法群で25例(11.6%),従来型酸素療法群は44例(20.2%)が死亡した(絶対リスク減少[ARR] 0.086 [95%CI 0.017-0.150]; 相対リスク[RR] 0.57 [95%CI 0.37-0.90]; p=0.01).新規のショックエピソード(ARR 0.068 [95%CI 0.020-0.120]; RR 0.35 [95%CI 0.16-0.75]; p=0.006),肝不全(ARR 0.046 [95%CI 0.008-0.088]; RR 0.29 [95%CI 0.10-0.82]; P =0.02),新規の血流感染(ARR 0.05 [95%CI 0.00-0.09]; RR 0.50 [95%CI 0.25-0.998; P =0.049)の発生率はは保守的酸素療法群の方が低かった.

【結 論】
72時間以上ICUに在室する重症疾患患者において,保守的酸素療法プロトコルは従来型治療と比較して低いICU死亡率であった.これらの予備的知見は計画されていなかった試験の早期中止に基づいており,本アプローチの潜在的利益の評価のためにはより大規模の多施設試験が必要である.

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# by DrMagicianEARL | 2016-10-17 00:00 | 文献 | Comments(1)

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