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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

当院の抗菌薬適正使用ガイドライン(2012年5月発表)
各項目についてのガイドラインに記載した解説文はこのブログでは省略(抗菌薬の基本原則にだいたいの内容は記載している).ここではなぜこの項目にしたのかについてのみ下に記載した.

第2章.抗菌薬使用で考慮すべき事項
1.抗菌薬選択基準と届出制
1-1.抗菌薬は以下の点を考慮して選択する.
① 推定あるいは同定された原因微生物の種類
② 薬剤感受性
③ 臓器移行性
④ 細胞内移行性(細胞内増殖菌)
⑤ 患者重症度(感染症,基礎疾患)
⑥ 患者臓器障害(腎機能障害,肝機能障害)
⑦ 既往歴(薬物アレルギー)
⑧ 副作用頻度
⑨ local factor / antibiogram
⑩ コスト

1-2.以下の抗菌薬の使用に際しては,必ず抗菌薬使用届けを提出する.
①抗MRSA薬:ABK(ハベカシン®),VCM(バンコマイシン®),TEIC(タゴシッド®),LZD(ザイボックス®),DPT(キュビシン®)
②カルバペネム系抗菌薬:IPM/CS(チエナム®),MEPM(メロペン®),DRPM(フィニバックス®)
※DPT(キュビシン®)は2012年5月現在未採用

1-3.以下の抗菌薬の使用に際しては,抗菌薬使用届けは不要であるが,その耐性化率,広域なスペクトラムから,熟慮の上選択することが望ましい.
TAZ/PIPC(ゾシン®),FMOX(フルマリン®),CMZ(セフメタゾン®),SBT/CPZ(スルペラゾン®),CAZ(モダシン®),CFPM(マキシピーム®),TFLX(オゼックス®),PZFX(パズクロス®),CPFX(シプロキサン®),LVFX(クラビット®),GRNX(ジェニナック®),GM(ゲンタシン®),AMK(アミカシン®)
 抗菌薬使用届けが本当に必要かについては賛否両論がある.「一部の適正使用できていない医師のためにやっている届出制で真面目にやってる先生にとっては無駄に仕事が増えるだけ」という意見もあったが,その意見には小生は耳を貸していない.なぜなら,当院においては適正使用できていない医師は“一部”ではなく“ほとんど”だからである.

 本届出制によりカルバペネム系の処方数が少なくなる一方で他の広域抗菌薬の処方数が増加するという現象は当院では生じていない.ただし,届出制に含まれていない広域抗菌薬についてもあまりスペクトラムを把握されずに使用されている現状は多い.これらのこともあって届出制に関する記載を冒頭にもってきている.なお,2012年5月から当院では月ごとに抗菌薬使用届けを提出していない医師名が医局に張り出されるようになった.

 届出用紙にはなぜその抗菌薬を選択したかの理由を記載する欄があり,ICTが介入を行う際はそこをチェックするが,「必要だから」の一言だけなど,主治医がなぜその抗菌薬を選択したのかがさっぱり分からないこともよくある.この書き方で提出しておきながらICTにコンサルトをしてくるのはどうなのだろうか.
2.PK/PDによる抗菌薬の分類
2-1.病原微生物を効果的に殺滅するため,薬物動態(PK:Pharmacokinetics)的思考と薬力学(PD:Pharmacodynamics)的な思考を行い,抗菌薬投与設計を行うことが推奨される.

2-2.時間依存的抗菌薬は一度に高用量を投与するよりも分割して投与回数を増やすことで効果が得られる抗菌薬である.このような抗菌薬には以下のものがある.
ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系,CAM(クラリス®),EM(エリスロシン®),CLDM(ダラシン®)

2-3.濃度依存的抗菌薬は分割投与よりも1回投与量を増加させることで効果が得られる抗菌薬である.このような抗菌薬には以下のものがある.
ニューキノロン系,アミノグリコシド系,DPT(キュビシン®),メトロニダゾール製剤(発売予定)

2-4.時間・濃度両方に依存的な抗菌薬は投与総量を増やすことで効果が得られる抗菌薬である.このような抗菌薬には以下のものがある.
VCM(バンコマイシン®),TEIC(タゴシッド®),AZM(ジスロマック®),LZD(ザイボックス®)

2-5.時間依存的要素を持つ抗菌薬の投与時間については,理論上投与時間を長くすれば効果が上昇するとされているが,適切な投与時間を推奨する根拠は不十分であるが,多くの抗菌薬では投与時間は最低でも投与時間は1時間かけるべきである.

2-6.重症敗血症,人工呼吸器,低アルブミン血症(毛細血管からの血漿漏出),心不全,体外循環(例;血漿交換,人工心肺),手術で留置されたドレーン,重症熱傷,好中球減少などにおいては体内分布容積が増加するため,抗菌薬の用量が不十分となりえることを留意する.

2-7.播腫性血管内凝固症候群(DIC)を併発している場合は,微小血栓により病巣に抗菌薬が到達できない可能性があり,DIC治療を検討する.DIC治療については当院のDIC診療ガイドライン,敗血症診療ガイドラインを参照のこと.
 解説ではPK/PD理論のおおまかな原則を記載している.また,各抗菌薬の動態のみならず,PK/PDに影響を与える因子についても記載している.DICについても言及したのはオーバーではあるが,本項目を記載したのは,他の院内ガイドラインとの連携や認知を高める目的もあるからである.
3.抗菌薬が不要な病態の判断
3-1.抗菌薬が必要な病態かを判断し,不要な投与は極力避けるべきである.

3-2.抗菌薬投与を白血球,CRPだけで判断してはならない.感染部位・臓器特異的が明らかでないならば,敗血症もしくは重症状態でない限り抗菌薬を投与せず責任病巣・起因菌の検索を行うことが推奨される.

3-3.ほとんどの風邪症候群(感冒,咽頭炎,副鼻腔炎,気管支炎)はウイルス感染症であり,重症例でない,もしくは明らかな細菌感染の徴候がない場合,抗菌薬投与は推奨されない.

3-4.既に抗菌薬を投与していて感染症が否定された場合は直ちに抗菌薬投与を中止すべきである.

3-5.保菌を治療しない.
 医療現場で使用されている抗菌薬の半数は不必要あるいは不適切であると報告されており,実際に当院の臨床現場で抗菌薬が不要の状態に対して抗菌薬が使用されているケースは非常に多い.現在風邪症候群に対する抗菌薬投与を明確な理由なしに行わないようICTから呼びかけを行っている.なお,当院ではプロカルシトニンは採用していない.

■本章内容解説においての引用文献数20.

←院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第1章.序論」
→院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第3章.初期抗菌薬の選択(1)」
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# by DrMagicianEARL | 2012-07-06 15:55 | 感染対策 | Comments(0)
※今回のこの記事はエビデンスに基づいた特集というわけではありません.あくまでも小生の一意見・考察に過ぎないので.第1回.

■高齢者の誤嚥性肺炎においては抗菌薬の選択には多数の意見があり,議論されている領域である.NHCAP(医療介護関連肺炎)診療ガイドラインにおいては選択抗菌薬が示されているが,広域すぎる印象もあり,むしろ耐性化や菌交代などが増加するのではないかと小生は危惧している.しかし,NHCAP診療ガイドラインの有効性に関して実際に検証するのは非常に困難であり,数年の歳月を要するだろう.いずれはガイドライン遵守群と非遵守群の比較が必要になると思われる.ここで論ずべきは耐性菌リスクで分けたB群・C群の取り扱いである.

■NHCAP診療ガイドラインにおける抗菌薬選択は重症度と耐性菌リスクの2つのfactorで4群に分けて提示している.

(1) A群
外来治療可能なNHCAP患者.
推奨抗菌薬:
・βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン経口薬(CVA/AMPC,SBTPC)+マクロライド系(CAM or AZM)
・GRNX,MFLX or LVFX
・CTRX+マクロライド系(CAM,AZM)
※LVFXは抗嫌気性菌活性があまりないことに注意

(2) B群
非重症かつ耐性菌リスクがないNHCAP入院患者.
推奨抗菌薬:
・CTRX
・SBT/ABPC
・PAMP/BP
・LVFX IV
※LVFXは抗嫌気性菌活性があまりないことに注意
※PAMP/BPは緑膿菌に対する抗菌活性が弱い

(3) C群
非重症かつ耐性菌リスクがあるNHCAP入院患者.
推奨抗菌薬:
・TAZ/PIPC
・抗緑膿菌性カルバペネム系(IPM/CS,MEPM,DRPM)
・抗緑膿菌性セフェム系(CFPM,CRP)+ (MTZ IV,CLDM)
・ニューキノロン系(CPFX,PZFX)+SBT/ABPC
MRSAリスクがあるなら上記に抗MRSA薬(VCM,TEIC,LZD)追加を検討
※MTZ IVは2012年中に発売開始予定

(4) D群
重症で人工呼吸器装着などの集中治療を考慮するNHCAP入院患者.
推奨抗菌薬:
・TAZ/PIPC
・抗緑膿菌性カルバペネム系(IPM/CS,MEPM,DRPM)
・抗緑膿菌性セフェム系(CFPM,CRP)+ (MTZ IV,CLDM)
上記にニューキノロン系(CPFX,PZFX)or AZM IVを追加
MRSAリスクがあるなら上記に抗MRSA薬(VCM,TEIC,LZD)追加を検討

■この推奨抗菌薬で疑問となるのが,日常診療で誤嚥性肺炎に使用している抗菌薬よりも非常に広域である点である.とりわけ,NHCAPで問題となるC群の扱いについては推奨抗菌薬の再考が必要になると思われ,そのキーとなるのが耐性菌リスクの評価である.NHCAP診療ガイドラインが定める耐性菌リスクは「過去90日以内に広域抗菌薬(抗緑膿菌ペニシリン,第3・第4世代セフェム,カルバペネム,キノロン)の2日間以上の投与があった」「経管栄養が施行されていた」の少なくとも1項目を有する場合と定めており,さらにMRSA検出歴があればMRSAリスクありとされている.ただし,これはあくまでも喀痰からの検出菌によって抽出されたリスクファクターであり,その菌が肺炎の原因になっていたかは調査されていないし,耐性菌リスクのある患者の肺炎が耐性菌によって生じているかどうかのエビデンスもない.実際には耐性菌リスクあり,もしくは喀痰から緑膿菌,MRSAを検出しても,B群の抗菌薬で軽快することは非常に多い.この疑問に対して,うまく説明し得るのが大阪大学感染制御部の朝野和典教授の持論である.朝野教授は肺炎治療の限界と問題点を疫学的観点から見事に浮かび上がらせている.
 肺炎の診断方法は30年間進化していない.喀痰はどこから分泌されているのかは明らかになっていないし,実際に病巣からでている喀痰なのか,中枢に近い気管支からでたものなのかは不明であり,常在菌や保菌状態の菌まで紛れ込む.多数の肺炎球菌やインフルエンザ桿菌などがグラム染色で見えれば原因菌の可能性は極めて高いと言えるが,誤嚥性肺炎,NHCAPの患者においては喀痰培養で肺炎の原因菌は診断できず,あくまでも参考結果に過ぎない(喀痰培養をやらなくていいという意味ではない).

 肺炎は統計学的に見れば抗菌薬の影響を受けない.なぜなら新しい抗菌薬・ガイドラインが世にでても80歳以上の肺炎の死亡率は減少していない.超高齢者肺炎の死亡率が有意に減少したのはペニシリン系,マクロライド系抗菌薬がでたときだけであり,その後,セフェム系,カルバペネム系,抗MRSA抗菌薬がでても死亡率は不変である.加えて,肺炎が直接原因で死ぬことは統計学的にはほとんどない.一部の重症化,敗血症やARDSをきたした症例は別だが,それ以外のケースで亡くなることはなく,若年者の年齢別死亡者数は交通事故程度である(逆に,交通事故程度は死ぬので治療は行う必要がある).高齢者では肺炎死亡率が上昇するが,実際には肺炎が直接原因でなく,心不全などの合併症によって亡くなることがほとんどである.例外的に喀痰で診断がつけられ,適切な抗菌薬が投与される肺炎の代表的なものとして肺炎球菌肺炎がある.肺炎球菌によるCAP(市中肺炎)とHCAP(医療ケア関連肺炎)の死亡率を比較した報告では,7%vs30%と有意にHCAPの死亡率が高い.抗菌薬よりも宿主の基礎疾患の影響が大きいことがうかがえる.

■以上より肺炎診療における喀痰の細菌学的検査および抗菌薬治療には思った以上に低い限界があることを医療者は認知するべきである.

■喀痰から肺炎起因菌を診断することはいまだにできない.にもかかわらずNHCAP診療ガイドラインでは喀痰検出菌で耐性菌リスクを定め,該当する患者群にはかなりの広域抗菌薬やその併用を推奨している.耐性菌出現をおさえつつ抗菌薬を使用しなければならないが,これでは逆に耐性菌が増加してしまうのではないかという懸念がある.

■適切な治療と,不適切な治療を受けた患者群の比較では,不適切な治療を受けた群の予後が有意に不良であると報告されている.さらに,不適切な治療を行った群では,その後抗菌薬を広域なスペクトラムに広げて適正化しても予後は変わらないと報告されている.ただし,この報告では喀痰培養による分離菌が含まれているため,原因菌診断という面においては,初期治療が本当に不適切であったかどうか不明である.また,耐性菌の分離された群に適切な抗菌薬を選択したからといって,予後が改善するか否かは不明である.よって,NHCAPの患者では耐性菌が分離される率が高くなるが,必ずしも分離菌でないため,耐性菌の分離された患者にその細菌を標的に抗菌薬を選択することは過剰な治療となる可能性がある.

■当院では誤嚥性肺炎やNHCAPがたとえC群であってもSBT/ABPC,CTM+CLDM,CTX+CLDM,AZM IVといった選択が基本レシピであり,原則としてカルバペネム系,ニューキノロン系を第一選択に用いることはない(これは重症例でも同じで,肺炎に対してカルバペネム系,ニューキノロン系を第一選択とするのは特殊例のみである).当院のみの少数例での検討だが,緑膿菌,MRSAをカバーしないこの初期抗菌薬でもB群とC群の患者の死亡率は同等であり,死亡例はほとんどが慢性心不全増悪か窒息であった.当院でのNHCAP治療戦略は抗菌薬効果判定を治療開始から3-4日後に行い,効果が不十分かつ培養結果に耐性菌が検出された場合にのみその耐性菌に有効な抗菌薬にescalationする方法である.敗血症に陥っていないのであれば,後でescalationに切り替えても十分に治療可能ということが自施設の検討で示唆された.これは他の施設の医師に聞くと同様の印象をもつところがそれなりにある.広域で治療を開始するde-escalationよりも,昔ながらのescalationがNHCAPには向いているのかもしれないし,これによりNHCAP診療ガイドラインよりも耐性菌出現を減じることができるかもしれないが,これに関してはさらなる大規模多施設の検討が必要であろう.また,NHCAP自体がかなりlocal factorやantibiogramの影響を受けるため,地域によっては耐性菌が実際に肺炎の起因菌として多い可能性もありえるため,これらの要因を加味する必要もある.

■いずれにせよ,NHCAP診療ガイドラインの抗菌薬選択において必要と思われるのは,C群からB群に矢印をつけることである.すなわち,耐性菌リスク,MRSAリスクがあっても,医師の判断でB群の抗菌薬を使用してもよいという選択肢をつけることであろう.

■加えて抗菌薬治療はあくまでも患者の免疫力に補助的に使用するものであり,根本は原因を遮断することにあり,以前の記事「抗菌薬以外の誤嚥性肺炎治療」をより強く推奨する必要がある.

■NHCAP診療ガイドラインは内容については小生はかなり批判はしているが,“肺炎を考える機会を与えた”という意味ではよいきっかけとなったいえる.本ガイドラインを査読した上で,antibiogram,local factorを考慮し,各施設にマッチした自施設でのNHCAP診療ガイドラインを作成するのが望ましいと思われる.

誤嚥性肺炎(NHCAP)における抗菌薬(1)につづく
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# by DrMagicianEARL | 2012-07-03 13:46 | 肺炎 | Comments(4)
■リコンビナント・トロンボモデュリンα(rTM:商品名リコモジュリン®;旭化成ファーマ)は日本で開発され,国内PhaseⅢ[1]でヘパリン群より有意なDIC離脱率を示したが,死亡率では有意な改善は示せていない(改善傾向はあり).PhaseⅢのサブ解析で,敗血症性DICにおいては28日死亡率でヘパリン群よりrTM群が10.2%死亡率を改善させている.その後,pre-post比較でのrTMによる死亡率改善の報告はあるが,二重盲検RCTでの報告はなかった.

■一方,海外ではリコンビナント活性型プロテインC製剤(rhAPC:Xigris®)がイーライリリー社から販売されており,敗血症に対する治療薬としてSurviving Sepsis Campaign Guidelinesにおいても推奨されていた.rTMはトロンビンと結合してプロテインCを活性化し,APCに変換することで効果を発揮しており,rTMの有効性を示す上で,APCの過去のデータはよく引用されていた.しかしながら,その後出血リスクと有効性の低さが指摘され,メタ解析したCochraneからの2008年のレビュー[2]では「重症敗血症や敗血症性ショックにrhAPCを使用すべきとするエビデンスはなく,出血性合併症を増やし,新たなRCTによって治療効果が証明されない限り用いてはならない」と警告が発せられた.PROWESS-SHOCK study[3]によってその効果が否定され,2011年10月に市場撤退し,姿を消すに至った.

■海外では本邦とは違い,DICが治療対象でないため,その概念は乏しく,rhAPCはDICでない敗血症症例にまで使用されていたことが有効性を示せなかった原因と推察される.DICをきたしている症例には有効と思われるが,非DIC症例においてその効果がどこまであるかは不明である.加えて,出血の問題もrhAPCにはつきまとっていた.そもそもrhAPCの有効性を示した最初のPROWESS study[4]自体に数多くの無視できない問題があったのも事実であり,このstudyから安易にrhAPCを承認してしまった米国FDAへの批判も多い.また,rhAPCを販売していたイーライリリー社がSurviving Sepsis Campaignのメインスポンサーであったことも関係していたのかもしれない.

■なお,rhAPC製剤販売中止から半年近くたってから,米国集中治療学会(SCCM)が2005-2008年に収集した15000例の解析結果で,敗血症診断の24時間以内に投与を開始した症例では予後良好という結果がCritical Care Medicine誌に掲載された[5].PROWESS-SHOCK studyとは異なる結果であるが,データ収集終了から4年たった,それもrhAPC製剤が市場撤退した後に本論文が登場した理由は謎である.

■これに対し,rTMはトロンビンと1対1に結合して効果を発揮するためrhAPC製剤より安全であることが推定され,DIC症例に適応を絞っているため,国内データも併せると,敗血症性DIC症例における死亡率改善に寄与するのではないかと期待が持たれていた.しかしながら,大規模でのプラセボ対照RCTを行うには国内では限界があった.

■そこで,旭化成ファーマは米国Artisan Pharmaに委託し,rTM(ART-123)の海外でのPhase2b trialが行われた.

ART-123(recombinant human soluble thombomodulin) Phase 2b study
【目的】敗血症性DICに対するrecombinant human soluble thombomodulin(rTM)の効果・安全性を確認する.

【方法】参加地域は米国,カナダ,欧州,オーストラリア,ニュージーランド,アルゼンチン,イスラエル,一部のアジア地域であり,登録患者は敗血症性DIC(もしくは凝固障害)患者750例,研究デザインは二重盲検プラセボ対照RCT,プライマリーエンドポイントは28日死亡率とされた.なお,本studyはArtisan Pharmaが行っていたが,途中で旭化成ファーマがArtisan Pharmaを買収し,旭化成ファーマアメリカとなっている.rTM群370例,プラセボ群371例であり,患者背景に有意差はない.DICの診断は急性期DIC診断基準ではなく,血小板数とPT INRで判定している.rTM,プラセボともに6日間の投与を行った.

【結果】28日死亡率はrTM群 17.8% vs プラセボ群 21.6%,p=0.273であった.p<0.3を達成しており,この結果をもってPhaseⅢへの移行が決定した.また,レトロスペクティブな解析では,1つ以上の臓器不全があり,かつPT INR>1.4の患者においてrTMの有効性がより高まることが確認された(死亡率:rTM群 26.3% vs プラセボ群 38.2%).重大な有害事象,中和抗体出現についてはrTM群とプラセボ群で有意差は認めなかった.TAT,D-DimerはrTM群で速やかに減少することが確認された.rTMの薬物動態は過去の研究(日本でのPhaseⅡ)と同等であり,性別,人種,年齢によって薬物動態は影響を受けないことが確認された.


■rTMのPhaseⅢ studyは旭化成ファーマアメリカが行う.目的は重症敗血症および凝固障害を対象としたrTMの安全性と効果の判定,プライマリーアウトカムは28日死亡率であり,800例の登録を予定している.登録基準として,PT INR>1.4に重きを置いている.

■気になるのはDICの診断基準である.PhaseⅡ・ⅢともにD-dimarすら用いておらず,DICというよりは凝固障害に対する治療であるため,この結果がそのまま本邦のDIC治療に結びつくのかは疑問が残る.ただし,PhaseⅡの解析におけるPT INR>1.4での有効性は興味深い.

[1] Saito H, Maruyama I, Shimazaki S, et al. Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravscular coagulation:results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 2007; 5: 31-41
[2] Marti-Carvajal A, Salanti G, Cardona AF. Human recombinant activated protein C for severe sepsis. Cochrane Datebase Syst Rev 2008; 1: CD004388
[3] Ranieri VM, Thompson BT, Barie PS, et al. Drotrecogin alfa (activated) in adults with septic shock. N Engl J Med 2012; 366: 2055-64
[4] Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recommbinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med 2001; 344: 699.
[5] Casserly B, Gerlach H, Phillips GS, et al. Evaluating the use of recombinant human activated protein C in adult severe sepsis: results of the Surviving Sepsis Campaign. Crit Care Med 2012; 40: 1417-26
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# by DrMagicianEARL | 2012-06-18 23:25 | 敗血症性DIC | Comments(0)
2012年4月27日に院内の全職員を対象として院内抗菌薬適正使用ガイドライン案の概要発表+パネルディスカッションを行った。以下はそのガイドライン案の序論。

1.はじめに
 2010年12月3日に米国カリフォルニア州のモノ湖でGFAJ-1という新種の細菌を発見したとNASAが発表した.この細菌は地球上の既知の生物とは異なり,リンの代わりにヒ素を摂取してDNAとタンパク質を作り出すという前代未聞の生命体であった.このような極限環境における新種の微生物は数年に1度出現する.細菌にとって極限環境で生き抜く手段を得るのはそう難しいことではなく,様々な抗菌薬に曝露されるようになった昨今においても同様である.
※【2012年7月9日追記】スイス連邦工科大チューリヒ校と米プリンストン大の各研究チームが別々に,この細菌はヒ素濃度が高い環境でも生存できるだけで低濃度のリンを利用していることを実験で確認したとする報告が2012年7月8日のSicenceネット版に掲載された.

 米国でポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっており,抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌が発生し,院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものである.

 1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となったが[1],それから20年足らずでペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が急増した.しかし,実際にはペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが報告されている[2].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られており,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要があった.すなわち,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったことは容易に想像できる.

 これに対し,キノロン系抗菌薬は自然界には存在しない化合物であったため[3],本剤耐性菌株が出現する可能性は低いと考えられていたが,この抗菌薬に対しても耐性菌が出現し,その頻度は上昇傾向にある[4]

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かないESBL,NDM-1,KPC,MBLといった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっている.このような多剤耐性菌は日和見感染が主体であると考えられてきたが,近年,市中感染型MRSAが増加傾向にあり[5,6],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株であり[7],2011年に京都で発見された多剤耐性淋菌[8,9]も記憶に新しい.

 このように菌の耐性化の新規抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割にはあまり収益が見込めない分野であり[10],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加している[11].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われているが,背景には1980年代以降,抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状がある[12].加えて,医療現場で使用されている抗菌薬の半数は不必要あるいは不適切であるとされている[13]

 カルバペネムならグラム陰性桿菌にほとんど有効という時代は既に終わっており,本邦であってもカルバペネム耐性緑膿菌は珍しくはない[14,15].特に緑膿菌とAcinetobacter baumanniiは多剤耐性株の分離頻度も高まっており,通常利用可能なすべての抗菌薬が無効であることも経験される[16,17].器質拡張型βラクタマーゼextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生によるカルバペネム以外のほとんどの抗菌薬に対する薬剤耐性は世界中に拡散しているが[18],近年,カルバペネムすら加水分解するβラクタマーゼを産生する腸内細菌科の細菌が日本でも臨床分離されている[19]

 各医師が思いのままに処方を繰り返して行ったら,仮にその処方がその症例の治療には正解であったとしても,近い将来,その施設がペニシリン開発以前の時代に逆戻りしてしまう可能性すらある[20].既にESBL産生大腸菌などで現実となっているように[21],病院由来の高度耐性菌が市中に拡散する危険性もある.カルバペネムを含むすべての抗菌薬が無効な大腸菌による尿路感染敗血症が市中で発生するというシナリオもかなり現実味を帯びてきている[22]

 これらを背景として抗菌薬の適正使用が必要な理由は耐性菌増加防止が第一に挙げられるが,これはあくまでも将来的予測,地域医療における理論である.

 大腸菌ESBL,VCM MIC 2のMRSA,多剤耐性アシネトバクターMDRAB,Stenotrophomonas maltophilia,これらの4種の菌が担当している肺炎患者の喀痰から出てきたらどうするか?これは現実に当院で2012年1月に起こったことである.抗菌薬の不適切な使用により高度な多剤耐性菌がそれも複数同時に検出するということは当院でも例外ではないということである.

 臨床現場においての適正使用の意義は,実際に投与する患者の臨床経過に大きく直結するものであり,患者の予後改善,副作用軽減,入院期間減少,医療コスト軽減に大きく関与する[23-25]ことも認識しなければならない.

2.2012年4月現在の当院の状況
 当院が所属する二次医療圏において当院のantibiogramはまだ優秀な方ではあるが,2010年を境にカルバペネム系抗菌薬の使用本数が倍増しており,現在も増加傾向にある.これは患者数増加による使用数増加も要因ではあるが,倍増の理由の全てを説明しうるものではない.

 経口抗菌薬では経口第3世代セフェム系抗菌薬の処方数が全体の44%を占めており,ニューキノロン系,マクロライド系の使用量も多い.経口抗菌薬が処方される状況において,発熱や感冒症状が対象となっていると推察される.本邦での経口第3世代セフェム系抗菌薬はその大多数が誤用と言われている.現在,経口の第3世代セフェム系抗菌薬は,その体内利用率の低さと移行性の低さ,耐性菌誘発率の高さから,使用が推奨される状況はほとんどなくなってきており,使用法は見直されるべきであろう.

 周術期,パスにおいては使用される予防的抗菌薬が固定化されているが,感染対策委員会の積極的介入はなく,その抗菌薬が適正かの検討が必要であろう.周術期では予防的抗菌薬よりも術中の清潔操作,標準予防策がとりわけ重要であることは言うまでもない.

 2012年2月の当院の薬事審議会では感染対策委員会主体で抗菌薬の大幅な削減を行った.これは,在庫管理・コスト削減の問題のみならず,同系列薬剤を極力少ない種類におさめ,医療従事者間の混乱を予防し,医療従事者の感染症治療に対する知識の向上,ひいては感染症治療のレベルアップにつながる,などの副次的効果を期待してのことである.

 感染対策室としてはカルバペネム系,経口第3世代セフェム系等の抗菌薬使用数を減少させることが主目的ではない.初期治療の選択,de-escalationなどを考慮すれば,適正使用を行うことが目的であり,それにより使用数が大幅に減少できると考えている.

3.目 的
 抗菌薬適正使用については,米国疾病管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)のサイトで,“A Public Health Action Plan to Combat Antimicrobial Resistance”と名づけられたプランが解説されており,抗菌薬の適正使用を“Appropriate antimicrobial drug use is defined as use that maximizes therapeutic impact while minimizing toxicity and development of resistance.”のように明確に定義している.また,オランダの研究者で,抗菌薬の適正使用研究で知られるGyssensは“Maximal efficacy of the treatment should be combined with minimal toxicity at the lowest cost.”と定義している[26].これにより,抗菌薬適正使用は,①最大の効果,②最小の副作用,③抗菌薬耐性の最小化にまとめられる.抗菌薬適正使用はこれらを実現するための活動ということになる.

4.ガイドライン・ポリシー
 当院の抗菌薬適正使用ガイドラインは私が当院に就職する前の2007年の第4版が最終改訂であり,それ以降は改訂がなされていない.今回は全面的に大幅改訂を行い,ほぼ一から作り直している.これまで定めていなかった緩和ケア患者に対する抗菌薬使用の項目を作成したことも新たな変更点である.

 本ガイドラインは可能な限りの最新のエビデンスに基づいた抗菌薬の使用法を提示するものであり,本邦あるいは当院の事情に合わせた指針として作成している.適正使用という観点においては推奨されるべきものではあるが,必ずしも全患者においてその使用法が第一選択として適応されるものとは限らない.あくまでも個々の患者での状況を踏まえた的確かつ適切な使用が行われるべきであり,それにより患者が得る利益が損なわれないのであれば,本ガイドラインより優先すべきである.また,多岐の領域に渡る感染症において,各医師にエキスパート並みの抗菌薬使用法を要求するのは非現実的であり,常識の範囲で必要最低限度の抗菌薬適正使用のための原則を記載している.

 本ガイドライン施行にあたり,その有効性を適宜フィードバックし,かつ診療に影響を与えうる新たな知見・根拠が得られた場合,新たな抗菌薬を採用した場合は適宜考察し,ガイドラインの改善点を抽出し,改訂を行うことが望ましい.

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# by DrMagicianEARL | 2012-06-03 11:57 | 感染対策 | Comments(0)
■2012年度の診療報酬加算改訂により感染防止対策加算が入った.加算は一定以上の基準を満たした施設に与えられ,加算1と加算2の大きく2つの群に分類される.

■感染防止対策加算1
以下の要件を満たせば加算1の適応となり,患者1人あたり入院初日に400点が加算される.また,加算1を算定している医療機関同士が連携し,年1回以上,互いの医療機関に赴いて,相互に感染防止対策に係る評価を行っていることを満たせば,感染防止対策地域連携加算として患者1人あたり入院初日にさらに100点が追加される(計500点).
① 専任の院内感染管理者が配置されており,感染防止に係る部門を設置していること.
② 感染症対策に3年以上の経験を有する専任の常勤医師,5年以上感染管理に従事した経験を有し,感染管理に係る適切な研修を修了した専任の看護師(医師又は看護師のうち1名は専従),3年以上の病院勤務経験を持つ感染防止対策にかかわる専任の薬剤師,3年以上の病院勤務経験を持つ専任の臨床検査技師からなる感染防止対策チームを組織し,感染防止に係る日常業務を行うこと.
※専従は専任とは異なり,感染対策業務以外の日常診療は行えない(週1回の外来ならOKとの話も・・・?).
③ 年4回以上,感染防止対策加算2を算定する医療機関と合同の感染防止対策に関する取組を話し合うカンファレンスを開催していること.
④ 感染防止対策加算2を算定する医療機関から感染防止対策に関する相談を適宜受け付けること.

■感染防止対策加算2
以下の要件を満たせば加算2の適応となり,患者1人あたり入院初日に100点が加算される.
① 一般病床の病床数が300床未満の医療機関であることを標準とする.
② 専任の院内感染管理者が配置されており,感染防止に係る部門を設置していること.
③ 感染症対策に3年以上の経験を有する専任の常勤医師,5年以上感染管理に従事した経験を有する専任の看護師(医師,看護師とも専任で差し支えない),3年以上の病院勤務経験を持つ感染防止対策にかかわる専任の薬剤師,3年以上の病院勤務経験を持つ専任の臨床検査技師からなる感染防止対策チームを組織し,感染防止に係る日常業務を行うこと.
④ 年に4回以上,感染防止対策加算1を算定する医療機関が開催する感染防止対策に関するカンファレンスに参加していること.

■感染防止対策加算要件をまとめると,以下の16の項目の施行が必須となる.
1.ICT(感染制御チーム)設置
2.院内感染状況の把握
3.抗菌薬の適正使用
4.職員の感染防止等
5.1回/週のICTラウンド(回診)
6.院内感染事例の把握
7.感染防止対策の実施状況の把握・指導
8.サーベイランス⇒分析・評価⇒感染対策へ
9.アウトブレイク対応
10.それらの記録
11.抗菌薬適正使用推進
12.広域抗菌薬の届出制等
13.広域抗菌薬の投与量・期間の把握
14.職員研修
15.マニュアルの作成
16.マニュアルの遵守確認

■感染防止対策加算は,各病院の感染対策レベルの底上げにはなるが,その主旨が意図せぬ方向に動いていることも事実であり,病院利益も絡んでか現状は非常に複雑である.

■この感染防止対策加算が2012年度から施行されるにあたり,加算1の病院では500点,加算2では100点と大幅な利益純増が見込まれるため,各病院がこの加算をとるため躍起になっている.とりわけ加算1と加算2が組まなければいけないため,加算2の病院を加算1の病院が取り合うという現象が日本全国で生じた.その理由として,加算要件維持が非常に困難であろうことが予想されること(加算1の病院といえども達成が困難である項目がある),厚生労働省が想定していた数をはるかに上回る膨大な数の病院が加算2をとってきたため予算圧迫を避ける名目で厚生労働省が加算2の病院を切りかかることが容易に予想されることが挙げられる.実際,加算2の病院のうち,これまで感染対策などほとんどやってこなかった病院は半数近くを占めるのではないだろうか?これらの加算2の病院が切られてしまうと,当然ながら,生き残れない加算2の病院ばかりと組んだ加算1の病院もまた要件を満たせなくなるため共倒れになる.こうなると,感染対策の豊富な経験がある切られそうにない加算2の病院を加算1の病院が取り合うということになり,いわゆる“お見合いパーティー”なるものが各地で開催されていた.

※当院の所属する二次医療圏内に大学病院もあるため,この大学病院が基幹となって,二次医療圏内の加算1の6病院,加算2の11病院の計17病院をつなぐ巨大なネットワークが作られた.しかしながら,先日開催された合同カンファレンスに小生が参加し,その雰囲気を見ると,加算2の11病院中,おそらく生き残れるのは半数にも満たないことが予想された.それほど加算2の病院の多くは無理して加算2をとりに来ているようで,twitterでの情報交換を見ても,これは他の地域でも同様のようである.カンファレンスでの感染対策に関する話に半数以上の病院が入ってこれない状況を小生は目の当たりにした.ましてアカデミックな話になればもはやポカーンとした表情になっていた.カンファレンスでは「各病院とも振り落とされないように。なんとかして監査をクリアせよ」との言葉が発せられている.
※当院はICNがいないため加算2の病院であるが,長年の感染対策の経験と豊富なサーベイランスデータを有するため,切られることのない病院と踏んだのか,大学病院から猛烈なラブコールを受けてタッグを組むことになり,加算2でありながら加算1と同様に当院からネットワーク会議の世話人を出すに至っている.加算1をとりに行くことも検討してはいるが,このような加算2の病院群の現状を見るに,加算1をとるのもそれなりにリスキーなのかもしれない.


■今回,感染対策において,口腔ケアもかなり重要視されている.歯科・口腔外科との連携も非常に大事なものとなってくる.その中で重要な疾患は人工呼吸器関連肺炎(VAP)と誤嚥性肺炎であろう.誤嚥性肺炎における口腔ケアの重要性は言うまでもない.VAPにおいては口腔ケアの有効性を示す報告は少ないが,理論的にも経験的にも口腔ケアは重要視されている位置づけにある.ただし,その頻度や方法についていまだに未解決な部分も多く,今後の課題となるだろう.

■感染対策での連携において,集団感染発生時(アウトブレイク)の連携は非常に重要で,各連携毎に必ず対応策を考えておく必要がある.マスコミ対策もそのうちの1つである.

■感染対策で各病院のデータ集積・提供は必須である.挙げられる項目例として以下のものがある.
①血液培養検体数
②カルバペネム系などの広域抗菌薬使用数
③消毒薬消費量データ
④各種サーベイランス(SSI,CRBSI,耐性菌,尿道留置カテーテル,ポート,スコープ)
⑤各病院感染対策ガイドライン
⑥各病院のantibiogram

※今回の感染対策防止加算の要件において,重大な欠陥を指摘するとすれば,開業医に対する指導が何一つ入っていないことであろう.抗菌薬を適正に使用できている開業医がはたしてどれだけいるのかおおいに疑問であり,当院でも経口第3世代セフェムを投与したが効かないと紹介されてくる患者や,目まぐるしく抗菌薬を短期間毎に変えて効かないと紹介されてくる患者,さらには開業医でカルバペネム系を点滴されているという驚くべきケースも散見する(製薬メーカーは開業医にカルバペネム系抗菌薬を絶対に販売すべきでないと小生は考えている).MRSAの持込例が非常に多いことも考えると,開業医レベルでの抗菌薬適正使用を行わなければコミュニティーでの感染制御は限界がある.

※経口抗菌薬に対する適正使用を推進している病院はどうやらかなり少ないようである.大学病院は研究機関でもあるため,経口抗菌薬の種類を減らすという策がとれない上,膨大な数の外来に介入していくのは非常に困難であり,現実的に不可能であるからかもしれない.しかし,経口抗菌薬を野放しにして本当に感染対策がすすむのかおおいに疑問がある.当院では2012年から経口抗菌薬(経口第3世代セフェム,キノロン,マクロライド)の適正使用についての介入を開始しており,大幅な経口抗菌薬採用数の削減とともに,経口第3世代セフェムの使用量を大幅に減少させることを目標としている.

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# by DrMagicianEARL | 2012-05-15 14:32 | 感染対策 | Comments(0)

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