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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■MRSAはMethicillin Resistant Streptococcus Aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の略であり,黄色ブドウ球菌の中でもmecA(methicillin耐性)遺伝子を持ち,βラクタム系抗菌薬に耐性化したものと定義されている.このため,耐性化していない黄色ブドウ球菌はMRSAに対してMSSA(Methicillin Sensitive Streptococcus Aureus)と称する.以下,黄色ブドウ球菌はSAと略す.

■1928年のフレミングのpenicillinの発見と1940年代のチェインらによるpenicillinの実用化により,SAによる化膿性感染は克服された.しかし,1940年代末には一部の国でpenicillin耐性SAの割合が50%を越え,1950年代には80%に達した.これらの耐性菌は菌体内にプラスミド性のペニシリナーゼ遺伝子を持ち,その酵素活性によって,penicillinのβラクタム環が加水分解されて活性を失うことによる耐性化機構をもっていた.このペニシリナーゼ遺伝子保有菌は世界中に広がり,現在もなお臨床の場で分離されるSA,特にMRSAの大部分が保有している.ペニシリナーゼはその後開発されたABPCなどの広域ペニシリンも加水分解でき,耐性化をSAに与えている.それに対し,ペニシリナーゼに加水分解されないペニシリン系抗生物質であるメチシリン,オキサシリンなどが1960年に開発された.

■1960年に英国で5440株のSAが集められ,同一病院由来のSAの3株がメチシリン耐性を示していたのがMRSAの最初の報告である[1].1961-1962年に集められた22000株には99株(0.45%)のMRSAが検出された[2]

■本邦では1980年代になってMRSAの分離が次第に見られるようになった.MRSA病院感染が急激に増加するに至った背景には1981年の第3世代セファロスポリン系抗菌薬の発売とその後の多用が引き金になっていると推察されている.MRSA分離頻度は50%に達するも,MRSA感染症発症率は概ね0.8%前後のほぼ定常状態にあり,増加傾向はみられないことから,本邦でのMRSA病院対策は効果的に遂行されている.しかしながら,2006年の診療報酬改正では感染対策費が姿を消しており,これがどう影響するかは未知数である.

■近年話題となっている市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増加しており,一般的なMRSAをHA-MRSAと表記することが増えてきた.

■高病原性のPanton-Valentine leukocidin(PVL:白血球破壊毒素.遺伝子コードlukS-lukF)遺伝子を有するMRSA市井感染症(PVL+CA-MRSA)が欧米で話題となっている[3].1990年代初頭,西オーストラリアのアボリジニの間で初めて報告されて以来,欧米において刑務所,スポーツチーム,学童などで集団発生が報告されている.PVL+CA-MRSAは遺伝子的にHA-MRSAとは異なっており,重篤な軟部組織感染ないし壊死性肺炎(致死率75%)を伴うため,公衆衛生上の脅威となっている.本邦では1979-80年代初期にはかなり認められたPVL+MRSAであるが,1999-2002年にはほとんど認められなくなった.しかしながら,本邦でもいつまた再度アウトブレイクするかは不明であり注意が必要である.

[1] British Med J 1961; 1: 124-5
[2] Lancet 1963; 1: 904-7
[3] Emerge Infect Dis 2003; 9: 978-84
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-03 12:19 | MRSA | Comments(0)
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(4)

質疑応答


Q1「DICの治療開始ラインはどこからなのか?についてのスライドですが,急性期DIC診断基準をまだ満たしていなくてもその徴候があれば抗DIC治療薬を開始するということでしょうか?」

A「急性期DIC診断基準を満たしていなくても早期から抗DIC治療薬を投与していく,という意味ではありません.抗DIC治療薬はあくまでも凝固過剰状態の際に使用すべきもので,局所封鎖という生態防御反応の一面も有する以上,凝固に対する安易な抗DIC治療薬投与はすべきでないと考えています.凝固の過剰となるのを防止,あるいは緩めるという意味で,急性期DIC診断基準を満たしていない段階では,末梢循環不全の解除,すなわち蘇生バンドルの100%達成が重要であるということです.」


Q2「ARDSに対してrTMを使用する呼吸器内科医の医師もおられますが,このあたりはどうお考えですか?」

A「難しいところではあります.機序的にはrTMはARDSに対しても有効と考えていますが,臨床的にはまだ有効と言えるような大規模studyがないのが現状です.症例集積による報告はありますが,実際,ARDSにおいてはrTMをどの段階で開始するか,どれぐらいの投与量が必要なのかが全く分かっていませんし,やはり出血という副作用も考慮しなければなりません.一度出血するとrTMの場合は半減期が長いため非常に難渋することもあって,私自身一度痛い目にあっています.現時点では適切な使用法が不明な以上,私はrTMをARDSに使用したことはありません.ただ,機序的にはいいと思いますので,使用法によって臨床現場での経験・データの蓄積で有用であると,改善率が上昇したというのであればその施設においては選択肢にいれるのもありかもしれません.」


Q3「抗DIC治療薬を終了する目安はありますか?」

A「抗DIC治療薬を終了する基準は特にコンセンサスが得られておらず,施設ごとに,医師ごとに異なると思います.DICが改善したらやめるのか,PLTが正常化したらやめるのか,DICが改善傾向を示した時点でやめるのか,TATが正常化したらやめるのか,など様々で,目安については当院ガイドラインでも触れてはいません.一般的には急性期DIC診断基準が3点以下になったらやめる施設が多いようです.私の場合は,急性期DIC診断基準の点数そのものよりも点数の動きを指標にします.すなわち,①急性期DIC診断基準の点数が減少傾向に転じた,②APACHEⅡ,SOFA scoreが減少傾向,③末梢循環不全が解除された(バイタルサイン,ScvO2,乳酸など),の3つを総合的に判断して投与を終了しています.これにより早期終了が可能ですし,再発もほとんどなく,投与終了時の急性期DIC診断基準がまだ4点以上であっても軽快しています.原疾患治療が奏功していれば,抗DIC治療薬の投与日数は非常に少なくて済むはずです.」


Q4「重症敗血症は28日死亡率ではなく90日死亡率で評価すべきとおっしゃっておられましたが,それは先生の御経験からでしょうか?」

A「ひとつは,他の主治医が蘇生バンドルを遵守しなかった場合において,なんとか急性期は生き抜いたけど,臓器不全が残ったり二次感染が起こったりというケースの場合,たいていは28日くらいは生きています.ですが,状況は二転三転と繰り返されつつ悪化していき,より長期で見れば亡くなってしまう,これが90日というスパンで見ると明確になります.このようなケースを当院ICUに入室した重症敗血症患者で見てきた経験があります.もうひとつは,某大学の教授からデータを見せてもらったことです.5つの大学病院における重症敗血症の死亡率比較で,28日死亡率はほとんど差がない.ところが90日死亡率では明らかに死亡率がばらついており,大学病院によってはほとんど助かっていません.これらのことから,重症敗血症,特に敗血症性ショックの死亡率は90日で見るべきだという考えに至りました.」


Q5「DIC治療を行わない施設においてDIC治療を推奨する場合はどのようにした方がいいでしょうか?」

A「これは非常に難しいと思います.原疾患治療をしっかりやればDICを併発しても治るケースもあるし,大規模RCTで死亡率を有意に改善した抗DIC治療薬がないのも現実である以上,強く推奨する根拠が乏しいのも現実であり,そのこともあって,抗DIC治療薬投与日数を極力短期間に済まそうと私も先述の投与終了の目安を決めています.ただ,抗DIC治療薬のメリットもあり,死亡率以外のアウトカム,たとえばDIC離脱までの早さが早いほど,血小板が回復して後期での出血リスクを軽減できますし,ICU入室日数短縮によって医療コスト軽減がrTMのコストを上回る可能性もあります.また,抗生剤治療が必要な敗血症において,DICによる微小血栓が病巣への抗生剤到達を阻害しているケースもあり,抗DIC治療薬によって抗生剤との相乗効果が得られるというメリットもあります.また,先ほどの,各試験のプロトコルの甘さなども考慮して推奨するとよいかもしれません.」
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-31 09:46 | 敗血症 | Comments(0)
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(3)

5.DIC
 DIC,ARDSの治療については当院の院内ガイドライン作成において最も難渋したところである.実際,この領域においては施設毎に治療方針がかなり異なっている.

 敗血症のメディエータに関与する薬剤(いわゆる抗サイトカイン薬)の中で死亡率を改善させる薬剤は存在するのか?これに対する答えは「存在しない」である.ただし,前提として「大規模RCTにおいては」という言葉がつく.これまで数々の抗サイトカイン薬が出てきてはPhaseⅡ,PhaseⅢで姿を消しており,唯一敗血症に効果ありとされたAPC製剤も2011年10月に効果なしとして市場撤退している.薬剤が本当に有効ではなかったこともあるが,その一方で,RCTのプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性ある.多施設で行う以上,そのスタディが定めるプロトコル以外については制約がない.施設によってはあまり好ましくない治療を行っているところもある.とある薬剤においては,1例1例洗いなおしてみると,抗菌薬投与が遅れていたり蘇生バンドルが甘かったりなどして死亡率悪化の要因となっており,ずさんなプロトコルにより本来威力を発揮するはずの薬剤が無効になっている可能性がある.

 このような現状において,はたして,本当に生存率をアウトカムとしてとらえるべきであろうかという疑問がある.多施設RCTがよく,さらにその蓄積であるSystematic Reviewの結果は真に正しいのか?もしくは,1つ1つの薬剤に有意差はないが改善傾向があるのであれば,それらの積み重ねにより総合的な生存率改善に繋がる可能性はあるのではないか?その上でも,多施設ではなく,単施設,すなわち,自らの施設で,多施設RCTを上回る最も死亡率が改善する治療法こそが最大のエビデンスともいえる.そういう視点からDICやARDSの治療薬を眺め,採用ラインを決めることが重要であると考えている.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 重症敗血症でのDIC治療薬で現在主軸となっているのはアンチトロンビン製剤(AT:ノイアート®など)とリコンビナント・トロンボモデュリン(rTM:リコモジュリン®)である.ATはKyberSept trialでは敗血症全体では死亡率改善なし,サブ解析においてヘパリン非併用群で死亡率を改善したと報告されている.一方のrTMはPhaseⅢでヘパリン群との比較において,DIC離脱率を有意に改善し,28日死亡率は改善傾向をみせたが有意差がなかった.rTM,ATいずれもDIC症例におけるプラセボ比較大規模RCTを厳格なプロトコルで行えば生存率改善の可能性ある.rTMのphaseⅢに参加した施設は多くが三次救命機関であるが,そうでない施設も含まれており,プロトコルの甘さは否定できない.加えて,たとえ三次救命病院であっても,敗血症ちりょうにおける適切な蘇生バンドルが行われたか,適切な抗菌薬が投与されたか,などには疑問が残ることが日常診療で三次機関との連携時に感じることもある.また,ヘパリン群との比較となったことも国内RCTでの限界を現しているのかもしれない.実際には大阪大学などがpre-postの比較で有意に死亡率改善を見せたなどの報告があり,現在米国で進められているrTMのPhaseⅡの結果が待たれている.ATは本邦ではエキスパートコンセンサスで第一選択となっている.一方のrTMはまだ新薬であるがゆえにエキスパートコンセンサスには掲載されていないが,次回改訂において第一選択に切り替わる可能性がある.当院においては,敗血症院内ガイドライン導入に伴い,総務部との複雑なやりとりはあったもののなんとかD-ダイマー迅速キットの院内導入が達成され,DICの即日診断が可能となった.一方で,ATⅢは外注検査であり,結果まで1日を要する.これらの事情から早期に適応がとれるrTMを当院では重症敗血症の第一選択に位置づけた.

 当院での敗血症性DICに対する治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)を選択考慮としている.これは当院にヘパラン硫酸(オルガラン®)がないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければrTMを第一選択とし,これにATやFFP(新鮮凍結血漿)を加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 合成プロテアーゼ阻害薬についてであるが,DICに対する治療効果は経験的評価によるものであり,エビデンス自体は乏しく,実際の効果の程は疑問である.使用するのであれば,メシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)となる.メシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)は凝固のみならず線溶系も抑制してしまうため,線溶系抑制型DICとなる敗血症病態では不利に働きうるため推奨されない.ヘパリン製剤(未分画ヘパリン,低分子ヘパリン)については,rTMがある以上は選択肢から除外とした.血液製剤では難治性遷延性のDICでは血小板輸血は慎重とすべきであり,むしろFFPの輸注(ADAMTS13補充)を推奨した.

6.ARDS
 ARDSであるが,当院では従来のALI/ARDSの診断基準を治療上の基準としては用いず,昨年10月に行われたヨーロッパ集中治療学会で改訂となったARDS診断基準を用いることにした.これは,軽症・中等症・重症と3区分あり,以前よりも治療方針が明確にたてやすくなったからである.なお,これによりヨーロッパでは今後はALIという病名は消えていくかもしれない.

 ARDSの治療は原則として原疾患治療と呼吸管理に尽きる.当院で採用しているARDS治療薬剤はステロイド(メチルプレドニゾロンmPSL:ソルメドロール®)と好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット:エラスポール®)である.ステロイド療法は賛否両論ある治療法である.大量ステロイドパルス療法は効果が否定的であり,推奨はしていない.一方,低用量に関しては推奨しており,発症早期(72時間以内)からmPSL少量投与を考慮するとした.

 問題となるのはシベレスタット製剤(エラスポール®)の扱いである.本薬剤は国内PhaseⅢで死亡率を有意に改善したとしている.しかしながら,コントロール群がプラセボでない,解析方法がper-protocol,片側検定,解析が製薬会社で行っているなど多くの問題をかかえた試験である.特に片側検定という統計学的手技を用いたことにはおおいに疑問があり,両側検定が今や当たり前となっている現在において驚愕すべきものである.実際,両側検定を行うと有意差が消失する項目が複数存在することから,製薬メーカーが恣意的にこのような解析を行ったとしか考えられない.また,市販後比較試験でも死亡率を有意に改善という結果がでているが,投与群と対照群の患者背景に有意差どころかかなりの相違があり,施設ごとに使用不使用の割付がなされているという奇妙な比較であること,解析が製薬会社で行っていることなど以前としてエビデンスと呼ぶにはあまりにも質が悪い試験である.

 一方,海外ではどうか.海外ではSTRIVE studyというものが行わ,結果は真逆で,シベレスタットは死亡率を有意に悪化させた.本試験は400例以上の多施設大規模プラセボ対照RCTであり,投与群とコントロール群で患者背景に有意差なし,180日死亡率が投与群で悪化したというものである.これに対してメーカー側は以下のように反論している.まず「重症例が多かった」.これについては,コントロール群の死亡率はPhaseⅢと比較して特に大きな差はなく,本当に重症例が多かったのかはおおいに疑問が残るところではある.次に,「PhaseⅢと同じプロトコルの症例を抽出したサブ解析では死亡率が改善した」と反論している.しかし,サブ解析には追試が必須であり,また,全体として死亡率が悪化した以上,死亡率が改善したサブグループ以外のグループでは死亡率が増加することは数学的に自明である.先述の通り,プロトコルの甘さでRCTにおいて効果があるのに死亡率に有意差がでないという可能性はあるが,死亡率がさらに有意に悪化するのはプロトコルの甘さでは説明できない.

 以上から言える結論であるが,①死亡率が有意に改善した2つの試験はいずれも奇異な統計処理によってエビデンスを作った可能性がある,②SIRS由来の軽症ARDSに対する早期使用では予後を改善する可能性がある,③ARDS全体では予後を悪化させる傾向がある,特にSIRS由来以外の症例や重症例では逆に予後を悪くしうる,ということである.こうなると死亡率改善と悪化が患者の重症度と原疾患次第で決まるわけで,その境界ラインの判断は非常に曖昧となる以上,本薬剤の使用は極めてリスキーなものであり,私個人は一切使用していない.

 しかしながら,SIRS由来・軽症・早期に対する適応がある以上,治療選択肢を残すという意味で当院ガイドラインでは,診療マニュアルでの表記において「軽症のARDSと診断した早期(72時間以内)に限り投与を考慮してもよいかもしれない(極めて弱い推奨).ただし,肺炎など,肺の直接侵襲が原因のARDSが疑われる場合は投与すべきではない.」とした.また,院内ガイドライン診療概要での表記では 「本製剤をARDSに使用することは推奨し難いが,治療選択肢を残すという意味でその使用を極めて弱い推奨で残した.「本製剤を使用する医師は無効どころか逆効果となる可能性もあることを肝に銘じるべきであり,安易な使用は患者死亡につながりうることを認識する必要がある. 」と記載し警告している.

 繰り返しになるが,最後にもう一度強調する.DIC,ARDS,AKIなどの敗血症合併疾患の最も有効な治療法は何か?原疾患治療・蘇生バンドルこそがDIC・ARDS・AKIにおける最大の予防法かつ治療法である.
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-30 14:45 | 敗血症 | Comments(0)
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(2)

3.蘇生バンドル ~SSCGとの違い~
  蘇生バンドルは重症敗血症/敗血症性ショックに適応し,敗血症発症後(もしくは来院後)6時間以内に全項目を100%実践する.できる限り全例ICUに搬送して治療するが,急変場所はICU以外がほとんどである.この場合,ICUに搬送してからの治療開始では遅く,ER・一般病棟から施行開始する.

 流れとしては,まず重症敗血症と診断し,血液・尿・画像検査を行う. 検査において当院とSSCGと異なる点は,まず心臓超音波検査の重要性を強調している点である.敗血症病態では収縮能低下がしばしば生じ,輸液管理が重要なる異常,最低限度の簡単なものでよいので評価はしておくべきであるとした.また,エンドトキシンは計測すべきでないとした.これは,当院ではエンドトキシン計測が外注であり,結果が返ってくるのに数日を要するため,治療経過に影響を与えないこと,病原体由来因子PAMPsがエンドトキシン以外にも多数あることが分かってきていることなどが理由である.また,血液ガス分析の重要性強調し,乳酸値評価を重要視している.さらに,感染巣を特定し,細菌検査(各種培養検査)を行い,1時間以内に適切な抗菌薬投与を開始する.そして全例とも酸素療法を開始する.これはSSCGとは異なるが, 呼吸正常の患者も含め全例で酸素投与し,PaO2 100-150mmHgを目標とし,挿管不要であれば全例NPPV装着することを当院では推奨している.さらに,中心静脈カテーテル,動脈カテーテルを挿入し,適度な鎮静を行い,Early Goal-Directed Therapyへと治療を移していく.

 酸素療法についてであるが,敗血症では重症であるほど,末梢循環不全が生じ,組織での酸素利用障害が生じやすい.こうなると酸素が末梢組織で利用されずに通過し,静脈に帰ってきてしまい,SpO2やPaO2が正常値であっても末梢組織では酸素が不足するという自体に陥り,ScvO2は正常値よりむしろ高くなることもある.実際にScvO2が85%を越えてくると,何らかの酸素利用障害が生じていると考えるべきであり,その指標となるのが乳酸値である.よって,末梢組織でできる限り酸素供給量を増やすためにも酸素分圧を上げて100-150mmHg程度にコントロールすべきである.また,挿管不要患者で全例ともNPPVを装着する理由は,呼吸状態悪化時の迅速対応が可能であること,ARDSの予防(PEEPによる抗炎症効果),EGDTでの大量輸液による肺うっ血予防,酸素化効率の上昇が挙げられる.

 循環動態管理であるが,Early Goal-Directed Therapy(EGDT)が現在スタンダードとなっている.EGDTで最も有名な論文は2001年のNew England Journal of Medicineに掲載されたRivers.Eらのものであり,EGDTを施行することで,従来の治療法より16%という劇的な生存率改善が得られた治療法である.重症敗血症に対して有効な治療法があまり確立されていなかった当時においてこの16%という数字は驚異的である.この論文においては初期の大量輸液とScvO2モニタリングによる管理が死亡率を低下させる
ことが強調されている.

 そして,2010年のAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌でEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)が報告された.これはEGDTに乳酸値を下げることを目標にしたプロトコルを加えた治療法であり,EGDT群より9.6%の生存率改善が得られている.このstudyの対象は重症患者であるが,敗血症患者でのサブ解析ではさらに生存率が上昇している.単純計算ではあるが,EGDTによる16%の生存率改善効果とELGTによる9.6%の改善効果を合わせれば,SSCが目標とする25%の死亡率改善を達成しうるものであり,当院ではELGTを採用した.

 EGDT Goal.1は血管内用量確保であり,初期大量輸液(晶質液)により中心静脈圧(CVP)を8-12mmHgにコントロールする.急性腎傷害の有無にかかわらず躊躇せず大量投与し,目標値を達成すればTKO(to keep open)で20-40mL/hrで投与し,血圧低下や乳酸高値などで必要であればその都度ボーラス投与を行う.ヘスパンダー®,サリンヘス®などのHES製剤は腎障害リスクを2倍にし,線溶系にも影響を与えてしまうため,禁忌とした.近年,CVPがモニター管理として不向きであるという論文が多く見られるが,有用であるとされるPiCCOシステムが当院にはなく,12時間以内であればCVPは有用であるという報告もあることから,当院では原則CVP管理を行い,CVPが不正確であれば,呼吸変動幅>1mmHgもしくは>5%が輸液反応群であることを参考にすることを推奨している.なお,カテコラミンを使用せずとも,輸液だけで血圧は回復することが多い.

 EGDT Goal.2は灌流圧確保であり,カテコラミンで平均血圧を65-90mmHgにコントロールする.これは十分な輸液負荷が行われたことが最低条件であり,そうでなければカテコラミン投与は奏功しないどころか逆効果になる危険性すらあり,敗血症で血圧が低下したのを見ていきなりドパミン投与は最悪の選択肢といえる.カテコラミン投与はGoal.1が達成された上で行うべきである.使用するカテコラミンはSSCGではノルアドレナリン,ドパミンいずれでもよいとしているが,当院ではノルアドレナリンを第一選択とし,ドパミンは推奨していない.これは,重症敗血症病態ではサイトカインによりアドレナリンβ1シグナルが阻害されており,ドパミンでは昇圧効果が得られにくいこと,β2作用が働くと血管拡張と頻脈を招き,血圧がむしろ低下するリスクがあること,細菌にβ受容体があり,増殖とバイオフィルム形成を促進してしまうこと,白血球にβ受容体があり,機能不全を招きうることが挙げられ,なにより,末梢血管拡張による血流分布異常が主体の敗血症性ショックではアドレナリンα受容体刺激薬を投与する方が病態生理的にも理にかなっている.実際にドパミンよりノルアドレナリンの方が死亡率が低いとする報告も複数ある.カテコラミン不応性の患者にはwarm shockであることを確認して,バソプレシン少量持続投与(4時間まで)することが推奨される.さらに,バソプレシンでも反応しない重症例においては低用量ステロイド療法を考慮するとした.

 EGDT Goal.2のもうひとつの目標として尿量確保(≧0.5mL/kg/hr)がある.敗血症性の急性腎傷害は他の急性腎傷害とは異なる病態と捉えるべきであり,輸出細動脈が高度に拡張することによる灌流圧低下が本態であると考えられており,灌流圧を上昇させる上でも輸液負荷とノルアドレナリンが奏功する.一昔前にドパミン神話ともいうべき低用量ドパミン療法が流行していたが,現在では2000年のLancetに掲載されたANZICS trialをはじめ多数のstudyでその効果は否定されており,SSCGでも推奨されていない.また,組成バンドル期での利尿剤投与は当然ながら禁忌である.

 EGDT Goal.3は組織酸素供給改善であり,ScvO2≧70%の確保と,乳酸値の改善である.SSCGではHt 30%を目標にした輸血とドブタミン投与が推奨されているが,確たる根拠があるわけではなく,当院では「考慮する」程度に留め,酸素療法,鎮静により酸素需給バランスを整えつつ,早期のCHDF(グラム陰性桿菌関与が強く疑われるならPMX併用を考慮)を推奨している.また,乳酸値改善目的で,輸液負荷の下で血管拡張薬を投与する.

 早期CHDFは炎症性メディエータの除去が目的であり,除水は不要,蘇生期の最初からの使用でもよい.この使用法はNon-renal Indication(腎障害有無に関係なく施行)と言われる.得られる効果としては,β1シグナル阻害因子除去による心収縮力改善,血管拡張物質の除去により糸球体濾過率の上昇,Death受容体family除去による血管内皮細胞保護などが挙げられる.カラムに関しては現時点でどれがよいかのエビデンスは現在のところ存在せず,一部で強く推奨されているPMMA膜はクリアランス値で有用性に疑問がある(RCTも特になし).

 エンドトキシン吸着カラムPMX-DHPについては現在賛否両論の状態にある.PMXはエンドトキシンのみならず,ANAや2-AGなどの内因性大麻を吸着する.エンドトキシン濃度が敗血症患者の重症度・死亡率に相関するという報告を見ると有用な可能性がある.一方,エンドトキシンは病原体毒素PAMPsの1つに過ぎないことが判明しており,エンドトキシンとサイトカインの濃度に相関ないこと,高エンドトキシン血症ではなくPAMPEMIA概念が提唱されてきており,生体側要因Alamin除去がむしろ必要との意見もあり,有効性については意見が分かれる.エビデンスにおいては,PMX-DHPの早期施行が28日死亡率,MAP,昇圧薬使用量,臓器不全の改善に対して有意に効果的であったとしたEUPHAS studyがあるが,このstudy自体に問題が多数あり,報告者自身も不完全なstudyであったことを認めている.これらの問題を解決すべく,現在イタリアでEUPHAS2 Project,フランスでABDO-MIX,アメリカでEUPHRATES trialが進行中であり,この結果が待たれる.症例集積ではどの報告においても早期の使用でなければ効果を示さないことから,グラム陰性桿菌感染が強く疑われるケースではできるだけ早くに施行することを検討する.

4.管理バンドルの重要項目
 敗血症病態では炎症性サイトカインによるインスリン抵抗性増大,輸液,ステロイド,カテコラミンなどの投与による高血糖状態にあり,この状態が持続すると,多核白血球の機能が低下し,ミトコンドリア障害による酸化ストレス増大と細胞障害,炎症反応増幅が生じるため,血糖コントロールが必要である.SSCG 2008では血糖値150mg/dL以下とされているが,2009年のNew England Journal of Medicineに掲載されたNICE SUGAR trialでは,インスリン強化療法群と144-180のコントロール群との比較で後者の方が90日死亡率が有意に低いと報告されている.このstudyは大規模かつ極めて質が高く,低血糖リスクもふまえればこの144-180(数値上分かりやすいように当院では140-180に設定)にコントロールするのが現状では最良であると考えられ,次回SSCG改訂でもこの数値に変更されるようである.

 また,近年,血糖値自体よりも血糖値の変動を抑制することの意義が注目されてきている.重症患者では血糖値変動(glucose variability)と死亡率に相関関係あり,血糖変動が大きい症例ほど予後不良であると報告されている.加えて,インスリン皮下注によるジェットコースター型の血糖降下がしばしば行われているが,血糖値低下幅が大きいほど酸化ストレス増大,臓器障害,血管内皮細胞障害増大,アポトーシス促進が生じることが分かっている.以上から,血糖変動幅を抑えるアルゴリズムを用いた血糖4時間毎計測下でのインスリン持続静注を当院では推奨している.

 敗血症と腸管の関係であるが,腸内細菌叢,腸管細胞,免疫系は互いにCross-talkの関係にある.ここに重症敗血症が関与すると,免疫系においてはCARS状態に加え,IgA分泌が低下,蛋白異化亢進による免疫細胞のautophagyが生じ,全身の免疫力低下をきたす.また,腸内細菌叢においては抗菌薬・胃酸抑制薬投与や腸管蠕動低下による腸内細菌叢変化からの二次感染,いわゆるBacterial Translocationが生じる.さらに,腸管細胞においては腸管浮腫や腸管細胞apoptosisによる腸管機能不全をきたす.これらにより,急性期を過ぎると腸管からの全身悪化リスクが高まることになる.これを予防する上で早期経腸栄養は非常に重要である.

 早期経腸栄養の推奨については世界的にコンセンサスが得られており,ヨーロッパのESPEN,北米のASPEN/SCCMでともに24時間(~48時間)以内に開始し,72時間以内に目標量に向かって増量開始することが推奨されている.開始栄養剤については当院ではペプタメンAF®を推奨している.一方,早期経腸栄養開始の目安についてはESPEN,ASPEN/SCCMともに定めているわけではなく,施設によって基準は,身体所見やカテコラミン量評価から少量のガストロフィンを投与し,腹部レントゲン評価まで様々である.当院では開始の目安として,Shock Vitalでないこと,カテコラミン投与量が少量であること,カテコラミンを開始または増量しようとしていないことを基準としている.なお,蠕動音,排便排ガスを開始基準に用いてはならない.この方法で当院では経腸栄養を10-20mL/hrの速度で開始しているが,トラブルになったことは現時点では経験していない.なお,開始初期は経腸栄養で投与できる栄養量は少ないため,これに経静脈栄養加えるかがESPENとASPEN/SCCMで意見が分かれていた.すなわち,早期から経静脈栄養を行っていくESPENに対し,ASPEN/SCCMはpermissive underfeecingの観点から,早期経腸栄養が不可能でない限りは7日以内の経静脈栄養は行うべきでないとしている.この論争に終止符を打ったのが2011年にNew England Journal of Medicineに報告されたEPaNIC trialであり,死亡率に有意差はでなかったものの,平均ICU滞在日数,感染症発症率,腎補助療法施行率,人工呼吸器使用率,医療費においてASPEN/SCCMの方が有意に優れており,ESPENの早期経静脈栄養に一利なしと結論づけられた.これにより,輸液による急性期のカロリー補充は推奨されないとした.
 
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-26 12:35 | 敗血症 | Comments(0)
2012年1月12日に大阪の中之島ダイビルで敗血症診療の講演をさせていただいた.
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(1)

1.敗血症の概要と現状
 敗血症とは,感染症を基盤とした全身性炎症反応症候群(SIRS)である.感染症診療では,病原微生物・医師・患者(感染部位)の三角関係で考えるが,このうち患者サイドに生じるのが敗血症であり,敗血症と菌血症は必要条件でもなく,十分条件でもない,すなわち,炎症性サイトカインなどの各種メディエータが局所で過剰な状態となり,これらが血管内に漏出して全身に播種し,全身症状を引き起こされるのが敗血症病態である.

 感染症においては凝固と炎症が生じており,これらはいずれも生体防御反応である.しかしながら,これらはCross-talkの関係にあり,凝固と炎症は相互に作用しつつ増強し,SIRS,DICへと進展していく.さらにはCARSや凝固消耗などにより免疫力の低下もきたし,臓器不全へと進展していく.近年では凝固と炎症は不可分であるという考え方に移行し始めている.しかしながら,実際の臨床現場においてこの凝固と炎症のCross-talkは実感しにくい,言い換えるならば凝固と炎症だけでは足りないと私は考えている.すなわち,凝固,炎症に加えて虚血という概念を加えると臨床現場の治療に直結しやすいと思われる.虚血と凝固,虚血と炎症もCross-talkのような関係にあり,これらの3つを敗血症病態の基礎に起き,総合的な治療を行っていくべきであり,虚血に対する治療はもっと強調されるべきであると考える.

 DICという概念があるために凝固は有害であると捉えられがちであるが,先述の通りこれは生体防御に有効である.敗血症病態においては血小板が病原微生物由来のPAMPsを認識し,好中球に結合して血小板好中球複合体を形成し,セレクチンSの働きにより好中球がetosisを起こし,自らを犠牲にしてNETsと呼ばれる粘着性の網を放出し,効率的に病原体を捕捉・殺菌する.このNETsは通常の感染症ならば感染から120分程度たたなければ起動しないが,重症感染症病態では血小板結合によりわずか30分で起動することが可能である.NETsに含まれるhistoneは強力な血小板凝集作用を示し,これに血管内皮細胞から起こる凝固カスケード反応と相まって微小血栓が形成される.好中球,血小板,血管内皮細胞にもCross-talkのような相互作用が存在し,凝固はこれらの間に介在する要因である.この凝固における3つの細胞の関連をとらえたcell-based process of hemostasisという考え方が近年提唱されている.すなわち,生態防御としての凝固の役割は,NETsなどによる効率的な病原体除去と微小血栓での局所封鎖による病原体やHMGB1,histoneなどの全身への拡散防止であり,これが制御できず過剰状態に至ったものがDICである.

 敗血症性ショックではWarm ShockとCold Shockという2つの異なるショック病態が存在し,その病態の原因には,血管内皮細胞傷害による末梢血管の拡張から収縮へ転じる過程があり,この境界ラインはおおよそ6-10時間とされている.この過程において,DICが生じてくることになる.逆に言えば,DICが生じてきたということは,血管内皮細胞がかなり傷害されてきていることを意味する.よって,我々がなすべきことは,血管内皮細胞が傷害されてしまうまでに,6時間以内に初期治療を完了させることである.

 重症敗血症,敗血症性ショックを扱う上で,当院ではその診断基準をACCP/SCCMのものから改変している.1つは重症敗血症基準のうち血圧低下項目に「平均血圧<60mmHg」を加えている.これは,末梢循環を考える際は収縮期血圧よりも平均血圧が重要であるからである.もう1つは敗血症性ショックに「乳酸>36mg/dL」を加えたことである.これにより,血圧が低下していなくても,高乳酸血症を伴えばショックとして扱い,迅速に治療を開始するようにしている.

 敗血症性ショックのみならず,あらゆるショック病態におけることであるが,血圧だけを見てショックを判断してはならない.血圧低下はショックの原因の1つに過ぎず,また,ショックの簡便なスクリーニングの道具に過ぎない,つまり,血圧が正常でもショックのことがあることを認識する必要がある.現在ショックは第3世代まで定義が進んでおり,たとえ血圧が維持されていても,末梢組織,細胞での酸素利用障害などを含む酸素代謝異常,もしくは灌流障害と定義される.すなわち,ショックで重要なのは,酸素需給バランスを表すScvO2と酸素代謝・灌流障害を表す乳酸値である.これら両方のパラメータを改善させることがショック治療では必要であり,血圧だけを見ているとショックを見落とす可能性がある.

 アジア(日本含む)では敗血症の死亡率が高い.その原因として,アジアではSSCGの蘇生・管理バンドルの遵守率がそれぞれ7.6%,3.5%と極めて低いことが2011年のBMJで報告されている.本邦では敗血症の治療成績は決して悪くはないが,これは集中治療部がある病院の話である.本邦では救急・集中治療・感染症医でなければSSCGどころかSIRSさえほとんど知らないのが現実である.加えて本邦の医学生のバイブル「Year Note®」にはSIRS,敗血症の定義,治療の記載はあるものの,医師国家試験に出題されたことは一度もない.これは集中治療医がいない当院でも非常に顕著であった.

2.敗血症治療の概要
 当院では敗血症治療において3つの目標を掲げている.1つ目はCold Shockに至る前に初期治療を完了すること,2つ目は多臓器障害を残さないこと,3つ目は二次感染を起こさないことである.これらの目標を達成せずに急性期を乗り切っても予後・死亡率は非常に悪い.1つでも達成できなければ長い目で見ると予後が悪く,後遺症も残りやすい.28日間は生存していても何度も感染を繰り返し,臓器不全が進行し,最終的には亡くなってしまう.そういう意味で敗血症の死亡率は28日で見るべきではなく,90日で見るべきであり,そうすることで,初期治療がきっちり行われたか否かの差は明確になる.これらの3つの目標を達成すれば敗血症性ショックといえども3日でカタをつけることも可能である.

 重症敗血症治療においては,先述の凝固・炎症・虚血を治療のターゲットとして,集中治療の基本パラメータである感染,循環,呼吸,代謝,栄養のすべてから治療に望む.これは敗血症のみならず集中治療領域の基本的考え方であり,どの治療も不可欠である.1つに対する治療が他の要素にも働き,各治療法を組み合わせることで相乗効果が得られる.

 敗血症性ショック治療においては当院では3つのGolden Timeを定めている.すなわち,来院もしくは病棟内発症から1時間以内に適切な抗菌薬を投与開始し,6時間以内に循環動態を回復させ,24時間以内に早期経腸栄養を開始することです.このGolden Time内に初期治療を完了させるためにも,多岐にわたる治療項目を優先順位をつけつつ順序だてて円滑に行うため,SSCGが推奨する通り,当院でも蘇生バンドルと管理バンドルを定めている.蘇生バンドルとは,6時間以内に100%達成すべき項目であり,予後決定因子であると言える.一方,管理バンドルとは,24時間以内に開始すべき管理治療項目である.

 重症敗血症治療の歴史の変遷にも触れておく.重症敗血症治療は抗菌療法から始まり,抗炎症療法,抗凝固療法,さらには血管内皮細胞保護療法へと発展してきており,敗血症分野の研究は著しく進んでおり,新規創薬も盛んである.現在使用可能な薬剤の中にも敗血症でも有効ではないかと効果が期待されているものがいくつかある.2011年12月に販売開始となったアジスロマイシン注射製剤は抗菌作用のみならず抗炎症作用も期待されており,さらにphagocyte delivery systemにより,貪食能が高まったAlert Cellに選択的に取り込まれて効果を発揮する可能性が期待されている.エスモロールなどのアドレナリンβ1受容体遮断薬も敗血症病態において抗炎症作用,心筋保護作用,蛋白異化抑制作用が期待されている.PDEⅢ阻害薬もCold Shockにおいては理論上非常に有用ではないかと期待されており,敗血症における臨床応用研究が待たれる.高脂血症治療薬であるstatine製剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)も抗炎症効果,血管内皮細胞保護作用があり,敗血症,ARDS病態において重症化予防になりえるとする報告が相次いでいる.また,DIC治療薬であるリコンビナント・トロンボモデュリン製剤も抗炎症作用,血管内皮細胞保護作用が臨床レベルでも研究されており,期待がもたれている.そして,未来の治療として,正常免疫化による病原体の排除が提唱されている.これまで用いられてきたSIRSの概念から脱却して正常の炎症反応によって病原体が除去されていく過程を検証することが重要とするfuture directionが昨年のJAMAに掲載されている.また,近年基礎研究が盛んな再生医療領域においては,間葉系幹細胞(MSCs)があり,点滴投与でよく,入手しやすく,アレルギーも少なく,損傷部位に集束するEngraftment効果を有しており,さらに抗炎症作用も確認されている.
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-25 12:35 | 敗血症 | Comments(1)

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