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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

Summary
・市中肺炎(CAP)でも院内肺炎(HAP)でもない,介護施設や在宅医療の患者による肺炎(HCAP)が米国で提唱されており,CAPやHAPと異なる抗菌薬の使用法が必要とされている.
・本邦と米国で医療社会的背景が異なるため,米国のHCAPにあたる本邦独自の医療介護関連肺炎(NHCAP)が提唱され,その診療ガイドラインが2011年に日本呼吸器学会より発表された.
・NHCAPはその重症度よりも起因菌(耐性菌)によって予後が変わりうる.
・NHCAP診療ガイドラインはそのほとんどが抗菌薬に内容を割かれており,口腔ケア,リハビリテーション,誤嚥予防薬に関する記載は極めて少ない.
・NHCAP診療ガイドラインにおける耐性菌リスクの基準は,検出菌の解析によるものであり,起因菌によるものではなく,ガイドラインが推奨する抗菌薬が,治療・耐性菌出現抑制の観点で適切かどうかは根拠が乏しい.
1.NHCAP診療ガイドラインの概要・作成に至る背景
■2011年に日本呼吸器学会より医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドラインが作成・発表された.本ガイドラインはEBMの手法により作成され,エビデンスレベルと推奨グレードの分類は,医療技術評価総合研究医療情報サービス事業Mindsに準じて行われている.作成委員は以下の通りである.

委員長
河野 茂  長崎大学病院

作成委員
関  雅文 大阪大学医学部附属病因感染制御部
渡辺 彰  東北大学加齢医学研究所抗感染症開発部門
進藤有一郎 名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学
朝野 和典 大阪大学医学部附属病院感染制御部
石田 直  倉敷中央病院呼吸器内科
寺本 信嗣 筑波大学附属病院ひたちなか社会連携教育研究センター
門田 淳一 大分大学医学部総合内科学第二講座

作成協力者
今村 圭文 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座(第二内科)

■肺炎は日本の死因の第4位であり,高齢者ではその死亡率は極めて高い.肺炎による死亡者のなかで65歳以上の高齢者が占める割合は95%である.日本呼吸器学会では2000年に市中肺炎(CAP)診療ガイドライン,2002年に院内肺炎(HAP)診療ガイドラインを公表し,それぞれ2007年,2008年に改訂している.しかしながら高齢者肺炎に対する診療の規範として,両ガイドラインは不十分であった.その原因として,高齢者は病院と市中の中間的存在である介護施設などの医療関連施設に入所していることもあり,CAPとHAPの両方の特徴を持ち,若年者とは異なる予後を示してきたことが挙げられる.

■米国では胸部疾患医学会ATSおよび感染症学会IDSAが2005年に共同発表したHAP診療ガイドライン[1]の中で,医療ケア関連肺炎(HCAP;healthcare-associated pneumonia)として扱うことを提唱している.CAPの重症度判定はPSI,CURB-65などがあるが,この基準はHCAPでは役に立たないと報告されている[2,3].その原因として,ADLなど重症度評価に用いられない因子が影響していること,連続変数のカットオフ値がCAPとHCAPで異なること,治療の制限(DNR)などが挙げられた[4].

■本邦においてもHCAPは適応されるべきものであったが,米国と本邦で医療環境がかなり異なっているため,単純にHCAPを日本に導入できるものではない.米国には介護保険がなく,在宅医療を受けている患者はCAPには含まれている一方,米国では亜急性期療養施設やナーシングホームが多く存在し,これはHAPに含まれている.これを日本の現状と合わせてみると,米国のHCAPの範囲は狭く,日本には馴染まない.そこで,在宅医療を受けている患者から,長期療養病床群に入っている患者まで幅を広げたものが日本版のHCAP,すなわち医療介護関連肺炎(NHCAP;Nurseing and Hearlthcare-associated pneumonia)ということになる.

■NHCAPの患者は,重症度よりも区分が重視される.これは,HCAPにおいて,CAPとの比較で死亡率が高いが,有意に死亡率に差が出たのが重症ではなく中等症であったからである.さらに,HCAP患者においては中等症と重症ではほぼ同等であった.緑膿菌やMRSAなどの耐性菌検出割合は,CAPにおいては重症度に比例して高まるが,HCAPにおいては重症度は無関係であった.HCAPにおいては不適切な初期抗菌治療は死亡リスクを高め[5],起炎菌判明後にその抗菌スペクトラムを変更しても予後は変わらない[6]ことが分かっている.よって,重症度よりも耐性菌リスクを考慮した区分が必要となり,これが,HCAPを独立した肺炎カテゴリーとして区別する必要性がでてきた理由である[7].NHCAPも同様の考えとなっている.

■NHCAP患者の背景としてはCAP群と比較すると以下の点が特徴的である.
(1) 抗菌薬曝露歴
(2) 高齢
(3) 合併症が多く存在(特に中枢神経系疾患)
(4) 貧血,低ナトリウム血症,アシデミア
(5) 低アルブミン血症,BMI低値
(6) 誤嚥の関与が非常に多い
(7) ADL不良
このように,NHCAP患者では抗菌薬治療のみならず,適切な全身管理と誤嚥対策が必須となる[4].

■NHCAPにおけるもう一つの問題は高齢者医療という見地から見たときに生じる.長期的には改善が得られない症例に対する医療の継続に関しては現在も議論の決着がついておらず,日本老年期医学会もようやく重い腰を挙げたところである.治療区分の判断にあたっては主治医の倫理的裁量に委ねられているのが現状で,NHCAP診療ガイドラインにおいても抗菌薬選択にあたり,科学的エビデンスのみでなく倫理的要件も考慮し,提示している.

2.NHCAP診療ガイドラインの問題点
■どんなガイドラインも作成後は厳しい批判に曝されることはしばしばある.専門医師だけでなく専門外医師まで幅広く使用できるガイドラインは,「常識の範囲内」という枠の中で定められ,専門医師から見れば欠点も多数見えてくることとなる.問題はその指摘を作成委員がどこまで認識し,どう改訂していくかにかかっている.
※小生も本診療ガイドラインの内容には異論はあるうちの1人であり,担当患者の中で肺炎患者が最も多い呼吸器内科医ではあるが日常診療において本ガイドラインは使用していない.2012年4月7日にNHCAPフォーラムが東京で開催され,作成委員のうち数人が講演した.小生も参加したが,トータライザーまで使用し,NHCAPガイドラインを使用しない理由の第2位が「異論がある」であったにもかかわらず,作成委員は一言述べたに留まり,ディスカッションなしのほぼスルー状態であったのは残念でならない.

■まず第一に「そもそも社会背景が非常に複雑なNHCAP患者において診療ガイドラインを定める必要があるのか」という声が多いのも事実であり,これは学会・フォーラムで作成委員も感じるところであったようだ.口から食べ物を摂取するという,生物の生命維持上最も必要な機能が加齢により失われた時点で老衰とみなすべきなのかもしれず,これに対して明確な治療を定めることにも異論があるだろう.しかしながら,ガイドラインとはその専門の医師のみでなく,専門外の医師も使用するものであり,高度な専門性を有したり煩雑なものになることは極力避けるべきであり,その目的は専門外であっても標準レベルの治療方法を提示すること,その疾患における啓蒙であることが大きく挙げられることから,ガイドラインは少なくとも必要であろう.

■HCAPの概念そのものを否定する文献も存在する[8].HCAPの概念は抗菌薬の不必要に過剰なスペクトルカバーを行わせるものであり,HCAPというカテゴリーは不要であるとしている.

■NHCAPの社会背景や背景疾患などの複雑性を強調しているにもかかわらず,ガイドラインはほとんど抗菌治療に内容をさいている.作成委員が呼吸器・感染症医だけで作成したためこのような内容になったと思われるが,そもそもNHCAPの治療の場は在宅や施設から始まっており,根本治療といえども抗菌薬はその治療法の1つに過ぎない.NHCAP治療は医師だけでは困難で,本当に大変なのは抗菌薬治療が終了してからであり,あらゆる医療職がかかわって治療を行う必要があり,医師以外も使用できるガイドラインでなければならないはずである.超高齢化社会に向けて動いている日本の現状において抗菌薬治療だけを前面におしだしたガイドラインではとてもやってはいけないだろう.口腔外科,耳鼻咽喉科,消化器内科,理学療法士,言語聴覚士,看護士,介護福祉士などが作成にかかわっていないNHCAP診療ガイドラインでNHCAPの治療をすすめるのは問題である.口腔ケア,誤嚥予防薬,呼吸ケア,リハビリなど,NHCAP治療に必須となる各種治療がほとんど記載されておらず,これで本当に治療が行えるかはおおいに疑問がある.
※抗菌薬治療終了後からが誤嚥性肺炎との本当の戦いなのかもしれない.人工呼吸器装着患者におけるweaningと同様に,誤嚥性肺炎においては経口摂取の“weaning”を始める必要があり,スムーズな治療をすすめていくためにもプロトコルが必要である.このプロトコルにおいて抗菌薬の位置づけは最初だけに過ぎないことは容易に分かる.初期からの口腔ケア,リハビリから始まり,嚥下・咳反射刺激を与えつつ経口摂取訓練を開始,食後2時間の座位保持を経て嚥下訓練食を開始し,食上げを行いながら状態に応じてACE阻害薬,アマンタジン,シロスタゾール,半夏厚朴湯などを投与していく.こういった流れのバンドルを作成する重要性がガイドラインには全くない.NHCAPガイドライン発表から1年たった2012年の日本呼吸器学会学術講演会(神戸開催)においてもNHCAPや誤嚥性肺炎の演題は抗菌薬や基礎疾患背景,プロカルシトニンとの関係のみに留まった.

■治療区分を4群にわけており,とりわけ重要となるのが耐性菌リスクにより分けたB群とC群である.ここで注意したいのは,antibiogramである.地域ごとに耐性菌リスクは大きく異なり,耐性菌リスクが高いと判定されても実際の耐性菌保有率が高くないことはよく経験されることである.この場合,地域によってはガイドラインで推奨されている抗菌薬が過剰スペクトラムとなりえる.実際にはその地域のlocal factorとantibiogramをふまえた抗菌治療を行わなければならない.しかしながらここまでの内容をガイドラインに記載するのは,専門外医師も使用することを考えれば,感染症治療の専門性を要求するという意味で常識の範囲を逸脱してしまう.それならば,各総合病院の感染対策室がその地域のlocal factorとantibiogramを明確に提示し,地域全体の抗菌薬適正使用を啓発する文面を強調して記載すべきである.
※当院の地域では誤嚥性肺炎患者に経口第3世代セフェム薬を投与して治療を開始する老健施設の嘱託医が非常に多くみられるが,当院以外の地域でも同様の現象が非常に多くあるようである.スペクトラムをはずしているどころか抗菌薬としてほぼ無効であろう経口第3世代セフェムをこのように使用されているのを見れば,NHCAPガイドラインのいったいどこに問題点があるのか浮き彫りになってくるはずだ.

■NHCAP患者から耐性菌が検出されることが多いのは誰もが経験していることだが,検出菌が必ずしも原因菌ではないこともしばしば経験される.実際,緑膿菌やMRSAの肺炎はそこまで頻繁に経験するものではない.ガイドラインの根拠となっている耐性菌率がはたして現場にマッチしたものなのかを検証することは非常に難しいため,ガイドラインにこれ以上のことを要求するのは不可能だろう.しかしながら,超広域スペクトラムをあまり使用せずとも治療成績がよい施設も多い.また,同一菌の誤嚥を繰り返す患者も多いことは記憶しておくべきことだろう.
※小生の病院の誤嚥性肺炎ではほとんどがSBT/ABPC(ユナシン®)で治療可能であるし,カルバペネム系,キノロン系,アミノグリコシド系は全くと言っていいほど使用していない.緑膿菌もPIPC(ペントシリン®)やCAZ(モダシン®)で十分治療可能であり,MRSAの検出率はそれなりにあるが,抗MRSA薬の使用数も非常に少ない.そもそも過剰な広域抗菌薬を投与するから耐性菌検出率が上昇し,耐性菌による感染症発症も生じてくるわけである.NHCAP診療ガイドラインの推奨抗菌薬は米国のものに比しておさえてはいるが,それでもまだ過剰な印象があり,逆に耐性菌増加に繋がりかねない.

[1] Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 388-416
[2] Intern Emerg Med 2011 ; 6: 431-6
[3] Respirology 2008; 13: 731-5
[4] Intern Emerg Med 2011; 6: 389-91
[5] Int J Infect Dis 2011; 15: e545-50
[6] Chest 2008; 134: 963-8
[7] Chest 2009; 135: 633-40
[8] Lancet Infect Dis 2010; 10; 279-87
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# by DrMagicianEARL | 2012-04-22 17:24 | 肺炎 | Comments(0)
■1952年にフィリピンの土壌から検出された放線菌Streptomyces erythreus( 新:Saccharopolyspora erythrea)の代謝産物から単離・精製されたエリスロマイシンの発見を発端に,1957年にR.B.Woodwarsにより“マクロライド”という用語が提唱され,マクロライド系抗菌薬が多数開発されるようになった.マクロライド系抗菌薬(MLs)は複雑な大環状(macrocyclic)のラクトンリングが多数連なった構造をしており,比較的大きい分子量を有する.以下では代表的な3剤である,エリスロマイシン(EM:エリスロシン®),クラリスロマイシン(CAM:クラリス®,クラリシッド®),アジスロマイシン(AZM:ジスロマック®)について記す.

1.マクロライド系の抗菌効果とPK/PD
■EMは経口投与により胃の中で分解され,ヘミケタルを作る.これが胃を刺激するため,EM特有の消化器症状が現れる.胃内の酸に安定性を増し,消化器症状を少なくし,生体内利用率,組織移行性,抗菌スペクトラムを改善したのが,EMの半合成誘導体である新世代マクロライドと言われるCAMとAZMである.EM,CAMはラクトンリングが14個,AZMは15個であるため,それぞれ14員環MLs,15員環MLsと呼ばれる.CAMはEM分子の炭素6位がメトキシ基に置換されており,経口による吸収が増し,抗菌スペクトラムが広くなっている.

■MLsは菌の50S ribosomeサブユニットの単一ドメイン(23rRNA分子のドメインVの2058 位および2059 位のアデニン塩基付近)に可逆的に1:1の割合で結合することで蛋白合成の延長反応を阻害し,抗菌効果を発揮する.その作用機序については不明な点も多いが,14 員環MLsはペプチジルtRNA の転位反応を阻害する.この結果,MLsはribosomeからのペプチジルtRNA の解離を促進す
ることでタンパク合成を阻害していると考えられている[1].さらに,他の作用機序として50S サブユニットの会合阻害も報告されている[2]

■EM経口薬は,空腹時によく吸収され,内服3時間後に血清濃度がピークに達する.CAM,AZMは経口でEMよりよく吸収され,血清濃度のピークは1時間以内に達する.EMとAZMは空腹時に内服すべきである.CAMは食後内服が可能である.

■多くのMLsは肝臓で代謝されるが,AZMは代謝されずにそのまま胆汁中に排泄される.また,わずかであるがMLsは尿中にも排泄される.

■MLsの特徴として,組織移行性が非常に高く,血清濃度をはるかに上回る組織内濃度を保つことができる.ただし,中枢神経へは移行性は悪い.また,免疫担当細胞である好中球,マクロファージなどに選択的に取り込まれ,炎症部位に集積しやすい特徴(phagocyte delivery,biological drug delivery system)を有する[3,4].細胞外濃度と比較した貪食細胞内濃度はEMで6.5倍,CAMで12.6倍,AZMで40.0倍となる[5,6].肺胞マクロファージ内においては投与4時間後で血漿中の濃度の1700倍以上となり,その後24時間まで血漿中濃度は低下していくのに対し,肺胞マクロファージ内濃度は上昇し続けることが分かっている(Phizer株式会社資料).AZMを貪食したマクロファージに細菌が近づくとAZMを放出することも知られている[7]

■マクロライド系抗菌薬における抗菌作用の濃度依存性または時間依存性の分類に関しては,必ずしも一致した見解が得られていないものの,EM, CAM およびAZM の抗菌作用は時間依存的効果と考えられていた[8].しかしながら,AZMの食細胞内濃度残存時間も考慮すると,AZMは濃度依存的効果も有しているともいえる.PAE(Post Antibiotics Effects)で見ると,肺炎球菌のPAE はEM で平均3.8hrs(1.9-7.7hrs),CAM で平均3.9 hrs(2.2-7.7hrs),AZM で平均2.9hrs(0.8-5.8hrs)が示されている[9,10].抗菌薬の治療効果と相関のあるPK/PDパラメータは,EM ではTAM(T>MIC)と考えられている.CAM に関しては,従来TAM との相関が指摘されていた.しかし,最近では,遊離薬物濃度でPK/PD パラメータの相関を見た場合に,AUC0-24h/MIC が最も良く治療効果と相関すると報告されている[11,12].また,AZM もAUC0-24h/MICと考えられている.

■MLsはほとんどのグラム陽性菌と一部のグラム陰性菌に対して優れた活性を有する.また,とりわけよい適応となるのはマイコプラズマ,クラミジア,レジオネラ,リケッチアの一部などの細胞内細菌である(これらにβラクタム系抗菌薬は無効).Peptostreptococcusなどの口腔内嫌気性菌にも抗菌活性はあるが,Bacteroides属などの腹腔内嫌気性菌に対する抗菌活性はAZM注射製剤以外はないと考えた方がよい.その他に非定型抗酸菌,アクチノミセス,スピロヘータ(梅毒),減り子縛ター・ピロリにも抗菌活性を有する.カンピロバクターにおいては耐性がなければ,臨床的に長い経験もあるためよく使用される.2011年にドイツで大流行した大腸菌O-104(ESBL産生)感染者を対象にAZMを投与したところ28日以上長期保菌者はAZM群で22人中1人,抗菌薬非投与群で43人中35人で有意差あり.AZM群全員が最低3回の便検査で陰性化したことも報告されている[13]

■AZM注射製剤(AZM IV)はAZM錠剤とは別の薬剤と考えてよいほど抗菌スペクトラムが異なる.AZM IVはその高い移行性と極めて高い組織内濃度から,AZMに耐性化した菌であっても有効となることが近年発見されてきている.AZMに対する耐性化率が高い肺炎球菌においても,MICが128μg/mLを越える高度耐性株にまで臨床効果が得られたことが報告されており[14],MLs耐性肺炎球菌に対する効果は臨床薬理学を専門とする一部の研究者の注目を集めている[15].ただし,これらが意味することは,AZM IVは超広域抗菌薬として考えるべきであり,正常細菌叢破壊や耐性菌の菌交代現象に対する注意が必要ということでもある.従来MLsはClostridium difficile関連腸炎をきたしにくい薬剤とされていたが,AZM IVでは嫌気性菌にも強い抗菌活性を有し,注意する必要がある.なお,AZM SR製剤は錠剤と注射製剤の中間レベルの効果を持つ.
※当施設でもAZM耐性肺炎球菌においてAZM SRやAZM IVの単独治療での軽快例を複数経験している.

■静菌作用の抗菌薬とされているが,抗菌薬の組織濃度,対象微生物の種類や増殖速度によっては殺菌的に働く.実際,A群溶連菌,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌には殺菌的に作用することが知られており,このため耳鼻科・呼吸器領域の市中感染症で乱用されがちである.これらの領域においては,非定型菌やレジオネラでない限りはペニシリン系で十分対応できることを忘れてはならない(ペニシリン系が第一選択となることがほとんどである).実際に,呼吸器感染症の原因菌においてはMLs耐性菌は増加傾向にあり,肺炎球菌に対しては耐性化率が80%以上に達している.また,第一選択であるマイコプラズマにおいても耐性化が進行している.外来においては適切に病態を判断し,MLs処方は慎重とすべきである.非定型菌の疑いがなければ,MLsはペニシリン系アレルギー患者にのみ適応させるべきである.また,マイコプラズマであっても,気管支炎レベルであれば無治療で軽快しうる.

2.マクロライド系に対する耐性化機序
■腸内細菌や緑膿菌などの非発酵菌の外膜をEMは透過することができない.また,何種類かの排出ポンプによる耐性化をきたすものもあり,あるものはM-phenotypeと呼ばれ,A群β溶連菌,肺炎球菌,その他の連鎖球菌で認められている.

■MLsに対する肺炎球菌の主な耐性機序としては,①メチル化酵素(ermB 遺伝子保有)による23SrRNA の特定アデニン塩基のメチル化,②マクロライド排出型タンパク質(mefA 遺伝子保有)による薬剤の汲み出し,③23SrRNA の点突然変異,または④ 50S リボソームタンパクの変異(L4,L22)が示されている.これらの耐性菌の分布には地域差があり,欧州と日本ではermB 遺伝子保有株,米国においてはmefA 遺伝子保有株の分離頻度が高いと報告されている[16]
近年,ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP),マクロライド耐性肺炎球菌(ERSP),フルオロキノロン耐性肺炎球菌(QRSP)が臨床上問題となっているが,さらに,これに加えてペニシリン(PCG),第二世代セファロスポリン,マクロライド,テトラサイクリン,トリメトプリム/ スルファメトキサゾールのうち2 薬剤以上に耐性を獲得した多剤耐性肺炎球菌(MDRSP)も海外では問題となっている[17].本邦ではPRSPはそれほど多くなく,PRSPであっても肺炎であれば高用量PCGで治療が可能であり,今でも肺炎球菌の第一選択薬はPCGであることは変わりなく,第一選択としてMLsを使用する必要性はない.

■AZM耐性肺炎球菌に対してAZM錠剤は無効であるが,AZM SR,AZM IVは有効となりうる(上述参照).

■臨床におけるMLsの使用量の増加に伴い,2000年頃からMLsに耐性を示すMycoplasma pneumoniae(Mp)が出現し始め[18],本邦では2005年に15%程度と報告されていたが,2006年には30.6%にMLs耐性を認めていると報告された.そして,2011年にはMLs耐性Mpが全国で大流行することとなった.耐性機構は肺炎球菌と同じく,メチル化酵素(ermB 遺伝子保有)による23SrRNA の特定アデニン塩基のメチル化による耐性化がある.ポンプ機構やプラスミドを介した耐性機構などは見出されていない.

■乳幼児などで抗菌薬経口投与が難しい場合はMpにCLDMが用いられる場合があるが,MLs耐性MpではCLDMにも耐性が生じる.一方でテトラサイクリン系,ニューキノロンには感受性があり,耐性株に推奨される.しかしながら,耐性株は日常診療では実感されにくい.これは,MLs投与後の平均解熱日数が,感受性菌が1.5日であるのに対し,耐性菌は3.7日と2日間程度しか延長せず,難知性症例として感じにくく,MLsに感受性があるかのように感じるからである.Mpは,感染した細胞内に過剰に活性化酸素を産生させて軽く組織を傷害することの他には直接細胞傷害作用はなく,肺炎の病像は決して菌による直接侵襲の結果ではなく,宿主の免疫応答がサイトカインを介して過剰な炎症を惹起した結果である.MLsには気道上皮細胞あるいはマクロファージなどからのサイトカイン産生を抑制する作用があり,耐性菌であっても,これによる治療効果が存在するため解熱する.結果,症状は消失するも平均2日間の発熱期間延長により菌排出期間が遷延して耐性菌の流行が拡大しやすくなる.
※MLs耐性Mpとして当院に紹介されてくるケースの中には,Mp感染症でなかったケースも多く,実際にMLs耐性Mpが報道されていた数だけ大流行していたかどうかは疑問の余地もある.Mp抗体価のとらえ方,診断方法があまり知られていないこと,Mp-IgM迅速キット(イムノカード®)の偽陽性例多発などにより他の菌と誤診されていた可能性もある.何より肺炎に対して,原因菌にスペクトラムはあるが効果の乏しい経口第3世代セフェムを投与して効果がないとしてMpと判断してはならない.

[1] Antimicrob Agents Chemother 1982; 21: 811-8
[2] Antimicrob Agents Chemother 1995; 39: 2141-4
[3] J Antimicrob Chemother 1998; 31: S5
[4] Antimirob Agents Chemother 2007; 51: 103-9
[5] Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1991; 10: 828
[6] Jpn J Antiobiot 2000; 53: S60-71
[7] Antimicrob Agents Chemother 1989;33:277-82
[8] Respir Med. 2001; 95: S12-9
[9] Antimicrob Agents Chemother 2000; 44: 1894-9
[10] J Antimicrob Chemother 1998; 41: 149-53
[11] 40th Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy. 2000;
1388: 28.16
[12] Antimicrob Agents Chemother 2002; 46: 1425-34
[13] JAMA 2012;307:1046-52
[14] Intern Med 2009; 48: 527-35
[15] Jpn J Antiobiot 2009; 62: 483-91
[16] J Antimicrob Chemother. 2002; 50: S39-47
[17] Clin Infect Dis. 2003; 36: 963-70
[18] Microbiol Immunol 2001; 45: 617-20
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# by DrMagicianEARL | 2012-04-12 09:09 | 抗菌薬 | Comments(0)
■敗血症領域において,あるいは呼吸器集中治療領域においてARDSはいまだに死亡率の高い疾患であり,有効な治療薬がない本疾患攻略は永遠の課題である.その治療にあたり,ARDSの診断基準などには問題点が多い.ARDS診療を的確に行っていくためにも,ARDSを診断基準からとらえるのでなく病態生理の観点から正確に見極める必要がある.ARDS診断基準の問題点を含め,以下にARDSの変遷を記す.

■急性呼吸窮迫症候群(ARDS:Acute Respiratory Distress Syndrome)が認識されはじめたのは,気道確保や人工呼吸が行われるようになった1950年代以降である.それまでは数時間で死亡していた急性呼吸不全の症例が,人工呼吸器を装着することで数日から数週間生存できるようになり,さらには回復するものもでてきた.急性発症でびまん性の両側性肺浸潤影を呈するこの疾患が見られるのは人工呼吸器装着患者に限られていたため,当初は人工呼吸器が原因と考えられ,“respirator lung syndrome”と呼ばれたこともある[1].ベトナム戦争従軍医師は,胸部以外の外傷で出血性ショックになった負傷兵の中に,ショックから蘇生した後に急性呼吸不全を起こし,死亡する者がいることに気づき,“wet lung”や“shock lung”,ベトナムの地名から“Da Nang lung”と呼んだ[2]

■1967年にAshbaughとPettyらによって,ARDSの疾患概念が初めて報告された[3].この文献では,外傷,脂肪塞栓,急性膵炎,肺炎,誤嚥など様々な原因により急性呼吸不全をきたした12人の症例を報告しており,酸素投与に不応性の低酸素血症,肺コンプライアンス低下などの臨床的特徴や,肺胞内ヒアリン膜形成や炎症細胞残屑などの病理学的特徴も記述している.このときすでに,「PEEPを使えば,肺虚脱を防いで酸素化が改善するので時間稼ぎにはなるが,原因疾患を治療しなければ予後は不良である」ことが指摘されていた.この報告により,初めてARDSの疾患概念が広く知られるようになった.その当時はまだARDSとも呼ばれておらず,文献タイトルも“acute respiratory distress in adults”となっていた.

■そして,AsgbaughとPettyによる1971年の発表[4]で“adult respiratory distress syndrome”と名づけられ,ARDSという略語が使われるようになる.これは当時既に知られていた“infant respiratory distress syndrome(IRDS)”に対比してつけられたが,その後,ARDSは成人・小児いずれにも起こることが分かり,アメリカ・ヨーロッパ・コンセンサス会議(AECC:American-European consensus conference on ARDS)により“acute respiratory distress syndrome”と統一され,2000年には急性肺傷害(ALI:Acute Lung Injury)が追加された.これが現在のALI/ARDSである.

■AECCによる診断基準が作られた頃,臨床研究では大規模な無作為比較試験(RCT:randomized controlled trials)の信頼性は高いと評価され,多くの検討が開始されだした.そこで,依然として治療成績が改善しないALI/ARDSに対しても大規模RCTを行うことにより,効果的な治療方法が見つけだされると期待された.しかし,そのためには多数の患者を登録する必要があった.そのため,単純で簡便な診断基準がAECCにより作り上げられた.これによりALI/ARDSに対して新しい人工呼吸様式や新しい薬剤による多くの大規模RCTを行われるようになった.しかし,その結果のほとんどはnegative dataであり,未だに有効な新しい治療薬は何一つ提示されていない.ひとたびRCTで否定的な結果が出た場合に,現状ではその治療方法についてのRCTが再び行われることは有り得ず,多くの治療方法が消えていった.

■このように,多くの医療関係者がARDSに対する様々な研究を行っているにもかかわらず,新たな治療法が見出されてこない原因の1つとして,AECCによるALI/ARDS診断基準[5]に問題がある.AECCの診断基準はあくまでもentry criteriaであり,あまりにも幅が広いため,逆に診断において確実性,正確性が問題とされる.その原因は炎症と病理学的診断が含まれていないことに集約される.AECCの定義は簡潔で使い易いが,その基準となる4つの項目は全て問題がある.これらの基準はすべて曖昧であり,わずか2つの陽性基準(両側肺の浸潤影,低酸素血症)と1つの陰性基準(心不全の否定)から作られており,診断基準とするには信頼性に乏しい[6]

■胸部X線所見やPaO2/FiO2比(P/F比)はprone positionによる体位変換や人工呼吸時のPEEPレベルなどの初期治療により容易にその値が変わる.胸部X線所見や酸素化能などはARDSの臨床経過を調べるには有用かもしれないが,予後に関するARDSの重症度の評価にはならない.このようなことから,AECCの定義はARDS患者の異なる背景を考慮に入れるにはあまりにも幅広い概念であり,不十分である[7].また,AECCの定義は肺での生理学的異常にのみ焦点を絞っているため病因の違いは無視されている.AECCの定義に合致する程度の肺の異常所見は,臨床においてはARDSに特有のものではない.

■AECCの定義は肺以外の臓器不全の存在をまったく評価していないことも問題である.ARDSは様々な原因疾患に由来する症候群であり,その背景は多岐にわたる.また同様に原因疾患が異なることからARDSという症候群へと発展する過程もそれぞれ異なることを考慮していないため,原因となる背景の臓器不全の程度や病態生理が反映されていない.診断時における肺以外の臓器不全の存在がARDSの予後を決定するのに重要な因子であると報告されている[8,9].ARDS患者で純粋に呼吸不全が原因で死に至る割合は9-16%に過ぎず,多くは他の臓器不全の進展により死亡するとされている[10-12]

■ARDSに対する多くの治療法が効果を示せない中,サブグループ解析を行うと多くのRCTでその治療効果が認められることがある.すなわち,AECCによるARDSの定義はARDS患者における治療効果を判定するには患者背景はあまりにもheterogeneousになりすぎている.その中で現在確認されていることは,pulmonary ARDSとextrapulmonary ARDSとは異なった病態であるということである.感染,ショック,外傷などによりARDSが生じる生化学的および炎症性メカニズムの解明により新しい定義が作り出されれば,新しい治療方法により反応する患者を特定することが出来るかもしれない.AECCの定義はARDSが臨床上確認された時点での生化学的,免疫学的,病態生理学的な過程に基づいたものではない.つまり,ARDSに至る過程のhomogeneityが欠如していることは異なった病態の患者を混同することになる.ARDSを導くinflammatory cascadeは複雑であり,多くの過程が関与して炎症反応が活性化されており,そのメカニズムは各々の初期の病態生理学的変化により異なっている.したがって,異なった過程がARDSを発生しているため,AECCで定義されたARDS患者が同じ治療に反応するとは限らないわけである.

■2011年10月5日にヨーロッパ集中治療学会(ESICM)で,ARDSの新しい診断基準が発表された.この診断基準ではPEEPがある状態でのP/F比を用いており,軽症,中等症,重症に分類して治療法を定め,ALIという名前は消えた.しかしながら,この診断基準も原疾患を考慮したものとは言えず,今後のさらなる改訂が待たれる.

■まずは,多彩な原因からARDSへと発展する過程を解明すれば,それによりARDSの重症度を決めることができる.また症状が変化していく臨床経過において,より早期に新しい治療方法の研究に登録することができ,さらに同一の過程を持つ適切な患者を登録することができる.そうすることにより特殊な治療に反応するであろう患者を標的にすることができる.また,予後を左右する臓器不全の存在は,登録基準とされるよりもend pointとして用いることができるようになる.ARDSの発症メカニズムを考慮した定義にはAECCのような簡便性は失われるかもしれないが,同一の免疫学的,生化学的状態から生じる病態を判別することができれば,より早期に同一のグループを選び出すことができる.このように厳密な定義を用いればRCTへの登録患者数は制限されるが,ARDSの治療成績を向上に繋がる可能性がある.実際にサブ解析やhomogeneousな症例集積報告がでてきている.

[1] Minn Med 1967; 50: 1693-705
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[11] Am Rev Respir Dis 1985; 132: 485-91
[12] Eur Respir J 1997; 10: 1297-300
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# by DrMagicianEARL | 2012-04-09 13:40 | 敗血症性ARDS | Comments(0)
■HIV感染によるニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)は有名であるが,実際のHIV患者の診療経験がなければ見逃してしまうことがほとんどである.地域にある当院においてもHIV感染によるニューモシスチス肺炎は年に1-2例あり,多くが多数の開業医や当院外来医師の診察・治療を経ても改善が得られず,呼吸器内科に紹介されてAIDSと診断されるパターンとなる.本邦は先進国の中でも唯一のHIV/AIDS患者が増加している国であり,日和見感染症を発症してはじめて発見されるAIDS患者「いきなりエイズ」が増加していることから,HIVにみられる真菌症を診療する機会も増加している.日常診療において遭遇する可能性は年々高まってきており,見逃しによる重症化はなるべく避けたいものである.

■以下の症例は小生が研修医1年目のときに経験し,院内学会で報告した非常に懐かしい肺炎症例である.考察内容は当時のままにしてあるため,若干内容が古いので注意されたい.小生が夜間当直の際に救急搬送され,そのまま担当医となり,診断・治療に至った.AIDS/ニューモシスチス肺炎の典型的パターンであり,珍しくもなんともないが,このケースがHIV感染者で発見される最も多いパターンであるにもかかわらず,多くの医師にいまだに見逃され,診断が遅れてしまう現状がある.

■HIV感染間もない時期に急性症状を発症することがあるが,多くは感冒とみなされ,自然寛解してしまうため,HIV感染が見逃されている.この時点での診断は困難かもしれないが,せめてAIDS発症によるPCPはきっちりと疑い診断すべきであろう.

46歳男性

【主 訴】呼吸困難

【現病歴】2009年8月から徐々に羸痩を自覚していた.同年9月15日より発熱あり,近医Aでの胸部レントゲン写真にてインフルエンザと肺炎の合併と診断され(インフルエンザチェック未施行),毎日点滴加療を受けていた.9月20日よりクラリスロマイシン内服にて経過を診ていたが,呼吸困難感は増悪.9月23日・24日に当院総合内科外来を受診され,セフォチアム塩酸塩の点滴を受け,クラリスロマイシン400mgを処方される.しかし,近医BでSpO2 87%と著明な低酸素血症を認めたため,当院に救急搬送され,呼吸不全で緊急入院となった.

【既往歴】1999年 A型肝炎

【生活社会歴】喫煙歴,飲酒歴はない.職業は寿司屋職人であり,アスベスト等粉塵曝露歴はない.ペットも飼っていない.妻,息子3人と同居している.アレルギー歴なし.

【家族歴】特記なし

【主な入院時現症】身長 169cm,体重 68kg.体温 38.3℃呼吸数 22/分脈拍 117/分,整.血圧 105/62 mmHg.SpO2(自発呼吸,room air)87%.眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄染もない.口唇チアノーゼ認めず.表在リンパ節を触知せず,皮疹も認めない.頚静脈の怒張を認めない.頚部血管性雑音聴取せず.甲状腺腫大を認めない.呼吸音は清明でラ音を聴取しない.心音に異常はない.腹部は平坦,軟で圧痛はない.腸蠕動音は正常.肝・脾を触知しない.神経学的異常は認めない.

【主要な検査所見】
尿所見:比重 1.020,蛋白(+),糖(-),潜血(-).
血液所見:赤血球 376万/μl,Hb 11.1 g/dl,白血球 6900/μl(好中球83.0%,好酸球0%,好塩基球0%,単球5.0%,リンパ球12.0%),血小板 17.8万/μl,PT INR 1.51,APTT 33.0秒,血漿フィブリノゲン 553.1mg/dl.
血液生化学所見:空腹時血糖 109 mg/dl,総蛋白 8.6 g/dl,アルブミン 3.1 g/dl,尿素窒素 23.7 mg/dl,クレアチニン 0.8 mg/dl,総ビリルビン 0.5 mg/dl,AST 40 IU/l,ALT 8 IU/l,LDH 330 IU/l,ALP 145 IU/l,γ-GTP 22 IU/l,CK 56 IU/l,Na 138 mEq/l,K 4.4 mEq/l,Cl 101 mEq/l,Ca 8.3 mg/d.
免疫学所見:CRP 17.1 mg/dl,CEA 0.71 ng/ml,CA19-9 1.00 U/ml,尿中肺炎球菌抗原(-).
動脈血ガス分析:pH 7.457,PaCO2 40.9,PaO2 57.3,HCO3 28.2,BE 4.0.
心電図:正常洞調律.
胸部X線写真:下肺野優位にびまん性浸潤陰影を認める.両側胸郭横隔膜角は鋭角.心拡大認めず.
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胸部CT:全肺野にびまん性の間質性浸潤陰影を認める.右下肺野に胸郭に平行な索状陰影を認める.胸水貯留なし.
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喀痰好酸球試験:陰性.

【経過】
CT画像から間質性肺炎と診断.比較的若年の間質性肺炎であることから,好酸球性肺炎,過敏性肺臓炎,特発性間質性肺炎,真菌性肺炎,膠原病等を鑑別にあげた.A型肝炎の既往があるため,性行為感染症のリスクと考え,過去の性交歴を聴取したところ,同性愛者ではないが,不特定多数の女性との性交歴があった.このことから,HIV感染によるニューモシスチス肺炎(以下PCP)を疑い,HIVスクリーニングを施行したところ,陽性であったため,引き続きWestern-Brot法による検査を施行した.
※当時,小生は既に関西HIV臨床カンファレンスに参加しており,A型肝炎既往を見てHIV感染を疑うこと知っていたため,救急搬送時の段階で性交歴を聴取した.逆に,もし当時同カンファレンスに参加していなければ,HIVを疑うのは第3病日以降になっただろう.

入院後は新たに抗生物質は投与せず,入院前に処方されたクラリスロマイシンは中止とし,酸素療法,プレドニゾロン40mg/日投与にてまずは経過観察とした.酸素は6Lマスクで95%以上をキープし,労作時呼吸困難は改善傾向となったが,38-39℃の発熱が持続していた.

第3病日にKL-6 1251 U/ml,β-D-グルカン 272.3 pg/mlと判明し,ニューモシスチス肺炎の可能性が高いと判断し,体重を考慮し,ST合剤12錠/日(スルファメトキサゾール4800mg,トリメトプリム960mg)投与を開始した.後日判明した喀痰中PCRにてPneumocystis jiroveci陽性,サイトメガロウイルスC7-HRP陰性であり,ニューモシスチス肺炎と確定診断した.
HIVに関しては,Western-Blot法にて再検し,陽性であったため,HIV感染による後天性免疫不全症候群と診断した.第5病日の採血にてCD4 9.3%,CD8 45.6%,CD4/CD8 0.20(転院先の検査ではCD4 47/μl)であった.

なお,抗核抗体,マイコプラズマ抗体,p-ANCA,c-ANCA,CH-50,免疫複合体Clq,クラミジア抗体,IgE RIST,SP-D,SP-Aは全て正常範囲であり,他の鑑別疾患は否定的であった.

ST合剤とプレドニゾロン投与により第3病日より36℃台に解熱し,呼吸困難感も改善し,SpO2は経鼻酸素2Lで95%前後で安定した.今後は専門施設による治療の必要があると考え,第7病日に他院に転院の運びとなった.転院先で肺炎治療が終了し,現在は外来通院で抗HIV療法を施行されている.

【考察】
ヒト免疫不全ウイルス感染後,無症候キャリア期を経て,CD4リンパ球の減少によって後天性免疫不全症候群を発症し,ニューモシスチス肺炎に至った症例である.

PCPの原因はPneumocystis jiroveciによって引き起こされ,AIDS,悪性腫瘍,白血病,膠原病,臓器移植などの基礎疾患を有し,抗癌剤,免疫抑制薬,副腎皮質ステロイドなどを投与された免疫不全宿主や未熟児(新生児間質性肺炎)に発生する,日和見感染症である.AIDSに伴うPCPは,しばしば前兆として,感冒症状を数週間にわたって示し,その後感染が顕在化することが多い.呼吸困難,空咳などが比較的頻度の高い臨床症状であるが,理学所見に乏しく,酸素療法に抵抗性のある低酸素血症があったことも本症例は矛盾しない.治療には第一選択薬としてST合剤(トリメトプリムを5mg/kg×3/day)があり,代替薬としてペンタミジンが治療に用いられるが,自然寛解はほとんどなく,1ヶ月生存率85%の予後不良疾患である.

HIVに感染するとCD4リンパ球が減少し,200/μL以下に減少すると高率にAIDSを発症するとされている.本症例では47/μLであり,AIDS発症には十分であった.

PCPの治療は,ST合剤(S:スルファメトキザゾール,T:トリメトプリム)を用い,トリメトプリム投与量5mg/kg×3/day×14-21daysとする.代替薬はペンタミジンを用いる.AIDSを合併し,かつPaO2 70mmHg以下の症例についてはステロイド(プレドニゾロン40mg/day)の投与が推奨されている.

HIV感染症に見られる真菌症として最も重要な疾患はPCPである.AIDS動向委員会報告では35.7%と最も高頻度であり,びまん性スリガラス陰影,β-D-glucan高値を見た場合はPCPを考慮し,HIV感染症の可能性を想起する必要があり,過去の性交歴,覚醒剤等注射歴など詳細な問診が重要となる.

AIDS動向委員会の報告を見ると,新規HIV,AIDS感染者は年々増加傾向にあり,本邦では1日あたり4人が,大阪では2日に1-2人がHIV/AIDSと診断されている計算となる.累積HIV感染者数は1万人を越えており,男女比は圧倒的に男性が多い.これは男性の同性愛者による感染が多いことが関係している.

【結語】
後天性免疫不全症候群の発症によりニューモシスチス肺炎をきたした1例を経験した.

HIVと診断された患者の多くがほぼ同時に日和見感染症を発症している.以前のHIVによる日和見感染症は同一患者で繰り返し発症するものであり,多くの場合はHIV感染が明らかになっており,治療を行うのはHIV診療に慣れている医療施設が多かった.ところが近年,AIDS患者はあらゆる医療施設で診療されることになり,またHIV感染が判明しないままに診断・治療が開始される場合が多く,必ずしも最善の治療とはならない可能性がある.

これまでは厚生労働省のHIV予防啓発が主体であったが,HIV/AIDS患者増加に伴い,これからは診断・治療も一般医師は知識として有する必要がある.専門施設に関係なく,あらゆる医療従事者がAIDS発症者の診断・治療に携わり得る時期に来ている.発症の背景が明らかでない日和見感染症をみた場合,詳しい患者の社会的背景の問診は勿論のこと,HIV抗体検査をルーティンにとり入れるべきである.
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# by DrMagicianEARL | 2012-04-01 12:42 | 肺炎 | Comments(0)
■MRSA感染症においては最も古いVCM(バンコマイシン®)を対照群として,新規抗MRSA薬でRCTが行われてきた.LZD(ザイボックス®)はその高い移行性によりMRSA肺炎において理論上はVCMより有効ではないかと言われており,RCTは複数存在する.しかし,臨床現場ではLZDはその薬価の高さから敬遠される薬剤でもある.LZDであればVCMより治療期間が短くなるため,結果的に医療費は安くなり早期退院に持ち込めるという意見もあるが,経済面まで考慮した報告はまだない.

■2件のprospective double-blind RCT[1,2]があり,院内肺炎の治療においてLZDはVCMの固定用量(1g1日2回)に比べて統計的に非劣性であることが報告されており,両試験を統合した事後解析においてMRSA患者のサブグループ解析を調べたとき,その生存率(LZD 80.0% vs VCM 63.5%, p=0.03)および治癒率(59.0% vs 35.5%, p<0.01)はVCM群に比してLZD群で有意に改善されていたと報告された[3,4]

■しかしながら,VCM群で低い有効率と高い死亡率となった原因は,これらのstudyではVCMの用量が最適化されていなかったためとの指摘もあり,問題があった.現行のガイドラインでは,初回のVCM投与量は体重に基づき,その後はトラフ濃度に応じて順次調整することが推奨されており[5,6],最適化された用量のVCMとLZDの比較を行うため,今回ZEPHyR(ゼファー)trialが施行され,報告に至った.

■なお,メタ解析も2010年,2011年に報告されており[7,8],2つともLZDとグリコペプチド系(VCM,TEIC)の臨床効果,死亡率に有意差なし,1つでLZDで副作用(血小板減少,消化管出血)が有意に高かったと報告されている.

■下にZEPHyR studyのAbstractを掲載しておく.本studyではMRSA院内肺炎の治療に関して,per-protocolにおける試験終了時の臨床効果(主要評価項目)はVCMよりLZDが有意に高かったと結論づけている.その他結果は
・治療終了時のMRSA陰性化率はLZD群がVCM群より30%高い
・全体的な有害事象および重篤な有害事象はLZD群とVCM群で同様であったが,腎毒性はVCM群でほぼ2倍多く認められた.
・投与開始3日目時点で15μg/mLを越えるVCMトラフ濃度は,いかなら臨床反応の改善とも関連性がなかった.
・LZD群の死亡率は以前の事後解析と同程度であったが,VCM群では低値であった.
・60日死亡率には有意差なしであった.

■本studyにおける問題点は以下の通りであろう.
・メインスポンサーはLZDの製薬メーカーであるPhizer製薬である.
・ITT解析ではなくper-protocol解析を用いているため,無作為化が担保されていない可能性がある.
・per-protocol集団のベースラインで人工呼吸管理,菌血症,糖尿病,腎疾患,心疾患がVCM群で多いにもかかわらず,ベースラインの有意差検定がなされていない.
・血小板減少がLZD群とVCM群とでさほど差がなかったのは,VCM群に菌血症が多かったことから,敗血症性DICを合併していた可能性がある.
・非劣性試験であるにもかかわらず,LZDがVCMより臨床効果が高いという,優越性を強調してしまっている.
・Kaplan-Meier曲線が本文に掲示されていない.

■本studyを片手にPhizer製薬のMRが医師にLZD(ザイボックス®)を推奨してくることは容易に想像されるが,上記の問題点の通り,そう簡単にLZDがVCMよりよいと結論づけられるものではない.実際,臨床効果が得られるにもかかわらず60日死亡率に有意差がなかったのはインパクトファクターに欠ける.これに関しては,本文考察やメーカー側が「VCM用量を最適化したこと,院内肺炎患者のケアの質が全体的に改善されていること,VCM無効に対するサルベージ療法にLZDがしよう可能であったことを反映している可能性がある」と主張している.その一方で,60日死亡率は掲示しているのにKaplan-Meier曲線を掲示していないことはおおいに疑問が残る.そこで,Kaplan-Meier曲線を入手したところ,LZD群とVCM群の曲線はほぼ重なっており,差はまずないに等しいことが分かる.
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この曲線が本文に掲載されていないのは,メインスポンサーのPhizer社の要望により意図的に隠されたのではないかという疑いが残る.

Wunderink RG, Niederman MS, Kollef MH, Shorr AF, Kunkel MJ, Baruch A, McGee WT, Reisman A, Chastre J.
Linezolid in methicillin-resistant Staphylococcus aureus nosocomial pneumonia: a randomized, controlled study. (ZEPHyR study)
Clin Infect Dis. 2012 Mar 1;54(5):621-9. Epub 2012 Jan 12.

Abstract

BACKGROUND: Post hoc analyses of clinical trial data suggested that linezolid may be more effective than vancomycin for treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) nosocomial pneumonia. This study prospectively assessed efficacy and safety of linezolid, compared with a dose-optimized vancomycin regimen, for treatment of MRSA nosocomial pneumonia.

METHODS: This was a prospective, double-blind, controlled, multicenter trial involving hospitalized adult patients with hospital-acquired or healthcare-associated MRSA pneumonia. Patients were randomized to receive intravenous linezolid (600 mg every 12 hours) or vancomycin (15 mg/kg every 12 hours) for 7-14 days. Vancomycin dose was adjusted on the basis of trough levels. The primary end point was clinical outcome at end of study (EOS) in evaluable per-protocol (PP) patients. Prespecified secondary end points included response in the modified intent-to-treat (mITT) population at end of treatment (EOT) and EOS and microbiologic response in the PP and mITT populations at EOT and EOS. Survival and safety were also evaluated.

RESULTS: Of 1184 patients treated, 448 (linezolid, n = 224; vancomycin, n = 224) were included in the mITT and 348 (linezolid, n = 172; vancomycin, n = 176) in the PP population. In the PP population, 95 (57.6%) of 165 linezolid-treated patients and 81 (46.6%) of 174 vancomycin-treated patients achieved clinical success at EOS (95% confidence interval for difference, 0.5%-21.6%; P = .042). All-cause 60-day mortality was similar (linezolid, 15.7%; vancomycin, 17.0%), as was incidence of adverse events. Nephrotoxicity occurred more frequently with vancomycin (18.2%; linezolid, 8.4%).

CONCLUSIONS: For the treatment of MRSA nosocomial pneumonia, clinical response at EOS in the PP population was significantly higher with linezolid than with vancomycin, although 60-day mortality was similar.

[1] Clin Infect Dis 2001; 32: 402-12
[2] Clin Ther 2003; 25: 980-92
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# by DrMagicianEARL | 2012-03-30 17:01 | MRSA | Comments(0)

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