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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

 敗血症性ショックにおけるノルアドレナリンとドパミンの論争が続いていた.SSCGではいずれでもよいとしているが,病態生理学的にはノルアドレナリンの方が有用とする意見が多く,臨床的にもノルアドレナリンが死亡率が低いとする報告がでてきていた.メタ解析ではJ Intensive Care Med online March 24, 2011が既に出ており,ノルアドレナリンの方が有意に死亡率が低いとの報告であった(6研究,N=2043).

 本ブログにおいては敗血症性ショック(Warm Shock)の急性期治療におけるEGDTと昇圧剤についてまとめている.⇒くわしくはこちら

 今回Critical Care Medicineからのメタ解析.11研究,N=2768.結論は,ドパミンの方が死亡率,不整脈発生率がノルアドレナリンより高いという報告で,ノルアドレナリンを支持する内容.これが今後のEBMになっていくと思われ,敗血症性ショックではノルアドレナリンが第一選択に推奨され,ドパミンは推奨されない.

De Backer, Daniel MD, PhD; Aldecoa, Cesar MD; Njimi, Hassane MSc, PhD; Vincent, Jean-Louis MD, PhD, FCCM
Dopamine versus norepinephrine in the treatment of septic shock: A meta-analysis
Critical Care Medicine:
March 2012 - Volume 40 - Issue 3 - p 725–730

Objectives: There has long-been controversy about the possible superiority of norepinephrine compared to dopamine in the treatment of shock. The objective was to evaluate the effects of norepinephrine and dopamine on outcome and adverse events in patients with septic shock.

Data Sources: A systematic search of the MEDLINE, Embase, Scopus, and CENTRAL databases, and of Google Scholar, up to June 30, 2011.

Study Selection and Data Extraction: All studies providing information on the outcome of patients with septic shock treated with dopamine compared to norepinephrine were included. Observational and randomized trials were analyzed separately. Because time of outcome assessment varied among trials, we evaluated 28-day mortality or closest estimate. Heterogeneity among trials was assessed using the Cochrane Q homogeneity test. A Forest plot was constructed and the aggregate relative risk of death was computed. Potential publication bias was evaluated using funnel plots.

Methods and Main Results: We retrieved five observational (1,360 patients) and six randomized (1,408 patients) trials, totaling 2,768 patients (1,474 who received norepinephrine and 1,294 who received dopamine). In observational studies, among which there was significant heterogeneity (p < .001), there was no difference in mortality (relative risk, 1.09; confidence interval, 0.84–1.41; p = .72). A sensitivity analysis identified one trial as being responsible for the heterogeneity; after exclusion of that trial, no heterogeneity was observed and dopamine administration was associated with an increased risk of death (relative risk, 1.23; confidence interval, 1.05–1.43; p < .01). In randomized trials, for which no heterogeneity or publication bias was detected (p = .77), dopamine was associated with an increased risk of death (relative risk, 1.12; confidence interval, 1.01–1.20; p = .035). In the two trials that reported arrhythmias, these were more frequent with dopamine than with norepinephrine (relative risk, 2.34; confidence interval, 1.46–3.77; p = .001).

Conclusions: In patients with septic shock, dopamine administration is associated with greater mortality and a higher incidence of arrhythmic events compared to norepinephrine administration.
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-21 19:01 | 敗血症 | Comments(0)
肝肺症候群
Hepatopulmonary syndrome
~A Liver Induced Lung Vascular Disorder~

1.肝肺症候群の概要
 末期肝疾患患者には何らかの肺ガス交換機能異常がみられることが多い.大量の腹水による胸郭容積の減少,胸水貯留とその結果起こる無気肺などによって酸素化は悪化する.これら非特異的な要因以外に,肝疾患に特有の肺血管系の異常が起こってくることがある.それが肝肺症候群と門脈肺高血圧症である.以下ではHPSについて説明する.

HPSは1977年に初めて報告された症候群であり,①肝疾患,②肺内血管拡張(基礎に心肺疾患を伴わない),③動脈血低酸素血症,を3徴とし,あらゆる年代の肝疾患患者が罹患しうる.諸報告によれば,慢性肝疾患を有する患者においては,4-47%が本疾患を有するとされている.

2.臨床症状
症状は主として労作時呼吸困難であるが,特に立位で低酸素症状が増悪するのが特徴とされている(platypnea;扁平呼吸or起座位呼吸困難).また,座位より立位で動脈血中酸素飽和度の5%以上の低下,もしくは動脈血酸素分圧の4 Torr以上の低下がみられるとされている(orthodeoxia).他には,しばしばばち指やチアノーゼを呈する.慢性肝疾患患者で動脈血酸素分圧が空気呼吸下で70mmHgを下回れば本症を疑い,精査を行う必要がある.

なお,進行した肝疾患患者では貧血,腹水,水分貯留,筋萎縮などの肝疾患に関連する様々な合併症によって呼吸困難が認められる頻度が高く,呼吸困難があるからといって肝肺症候群と診断するのは早計である.

3.病態
低酸素血症の機序は肺内血管の拡張による右左シャントの増大であるが,肺内血管拡張の様式によって2つに分類されている.著しい肺毛細管の拡張がびまん性に起こり,換気血流不均衡が増大するタイプ1 と,肺動脈と肺静脈あるいは左房を直接つなぐ血管が新生されるタイプ2があるが,両者が混在することも多い。確定診断をするためにはこの肺内の血管拡張を証明する必要がある.正常肺の毛細血管径は5-8μm程度であるが,肝肺症候群では血管径は500μmに達する.この口径差を利用し,血管拡張を検出する方法として,後述する経胸壁のコントラストエコーと凝集アルブミンを用いた肺血流シンチグラフィがある.

肺血管が拡張すると,混合静脈血が直接的にまたは肺内シャントを経由して肺静脈へ流入しやすくなる.肺胞換気は増加しないのに,肺血流が増えるため換気血流不均衡が起こり酸素化不良となる.肝硬変患者の30%では低酸素性肺血管収縮が抑制または消失するため,さらに肺血流が増大する.肺内シャント増大や換気血流不均衡の程度は低酸素血症の程度に反映される.それに対して,門脈肺血管交通の低酸素血症との関与は僅かである.換気血流不均衡とシャントの増悪が肝肺症候群におけるorthodeoxia発生メカニズムの本態である.下側肺肺胞の肺血管トーンが変化に乏しいため換気に呼応した重力性の血流変化が起こりにくいことがorthodeoxiaの原因と考えられる.

HPSの重症度が進むに従って酸素拡散障害は悪化する.病期が進行し拡散障害が生ずると,心拍出量が増大するほど赤血球が通過する時間が短くなるのでかえって酸素化が悪化する.この現象は肝疾患一般と一部の肝肺症候群において認められる.拡散能低下のもう一つの原因は,肺胞毛細血管間隙が広すぎてヘモグロビンと一酸化炭素が完全な平衡に達することができないことであると考えられている.

このような肺血管拡張という病理学的変化が生じる原因としては血行力学的な要素や血管拡張作用をもつ物質(酸化窒素,グルカゴン,プロスタサイクリンなど)の関与が示唆されているが,詳細は不明である.

4.検査
 胸部X線撮影,胸部単純CTでは異常所見はみられないことがほとんどである.多くは非特異的な所見を示し,び漫性の肺血管拡張の存在によるものと考えられる軽度の間質性陰影が下肺野に認められることがある.毛細血管レベルでの動静脈瘻なので,造影CTでも特に異常はみられないことがほとんどである.

 動脈血ガス分析では拡散障害を主体とし,二酸化炭素蓄積を伴わないPaO2の低下と肺胞動脈血酸素分圧較差の増大を特徴とする.A-aDO2の算出は,純酸素100%を安静臥位にて20分吸入した後に施行したABGデータで行う.算出式は以下の通りである.
A-aDO2=716-PaO2-PaCO2/0.8
本算出式にてA-aDO2>15 Torrであれば,拡散障害があるとみなされる.この基準を満たした上で,室内気でのPaO2を指標として以下のような重症度分類が用いられている.
 軽 症:PaO2≧80
 中等症:80>PaO2≧60
 重 症:60>PaO2≧50
 超重症:50>PaO2 or PaO2<300mmHg(100% O2)
また,100%酸素下でのシャント率(QT/QS)も指標となる.

 肺肝症候群は,心肺疾患が基礎にないことが前提であるが,肝肺症候群から心機能に影響を与えることはある.肺内シャントの存在のため,肺低血圧症,左心系容量負荷増大による左房・左室の拡大を心臓超音波検査で認めることがある.

 確定診断としては,コントラスト心臓超音波検査と肺血流シンチグラフィの2種類がある.いずれもHPSに対しては同等の精度を有するため,侵襲性の少ない前者を第一選択とするのが望ましい.ただし,前者は定量的評価はできないので,追跡フォローするのであれば肺血流シンチグラフィの方が望ましい.

経胸壁コントラストエコーは微小な気泡を造影剤として用いる検査法で,定量性はやや劣るものの簡便で感度の高い検査である.激しく撹拌した少量の生理食塩水(約20mL)を静脈内に投与するとまず右心が造影される.その後、気泡は肺血管床へと移動するが,撹拌した生理食塩水に含まれる気泡の直径は15μm以上のため,直径2-8μmの正常肺毛細血管を通過することができず捕捉される.従って右心造影後7心拍以内に左心に気泡が現れれば肺血管の拡張があると判断される.なお,心臓超音波検査では微小気泡であるレボビストという造影剤を用いた検査もあるが,この造影剤は径1.3μmの気泡であり,正常人でも肺毛細血管を通過して左心に出現してしまうのでHPSの診断としては意味がない.

肺血流シンチグラフィでは造影剤としてテクネチウムでラベルした凝集アルブミン(99mTcMAA)を用いる.凝集アルブミンの径は20μm以上であるため,気泡と同様,静脈内に投与しても通常は肺の毛細血管を通過せず大循環に現れてこない.従って肺以外にアイソトープの取り込みがみられた場合には肺内に血管拡張が存在することが証明される.この検査では肺と肺以外(脳・甲状腺など)に集積したアイソトープの量からシャント率を定量することができる.

5.治療・予後
HPSは進行性で,ガス交換能はしだいに悪化していく事が多く,自然緩解はほとんどない.HPSを合併した肝硬変症例は,合併しないものに比べて予後が極めて悪く,多くが肝細胞機能低下,門脈圧亢進といった合併症で死亡すると報告されている.このことから,HPSの存在自体が肝疾患の進行を早め,門脈圧亢進による合併症のリスクを増すという報告がなされている.

HPSに対しては,在宅酸素療法やインドメタシン,ソマトスタチンの投与が有効という報告もあるが,長期予後を改善した報告はなく,その効果は対症療法程度に留まっている.実際には有効な内科的治療法は現在のところ存在しない.1997年頃から肝移植によって肝肺症候群が治癒したとの報告が相次ぎ,現在では肝移植が肝肺症候群に対する唯一の根本的治療法であると認識されている.しかし,肝移植後,酸素化能が正常化するには年単位の時間を要することが多い.

術後死亡率および移植後から低酸素血症の改善までの期間は,HPSの重症度が高く,術前低酸素血症が重篤であるほど延長することが明らかにされている.今までに行われたうちで最も大規模な単一施設研究では,HPS患者の肝移植後5年生存率は76%であるという結果が得られており,HPSがなく肝移植を受けた患者の5生率とのあいだに有意差はなかった.HPS合併例で肝移植を受けない場合の死亡率がHPS非合併例に比して有意に高い事実を加味すれば,肝移植がHPS患者にとっていかに有効かが分かる.この研究で死亡の予測因子として最も強い影響が認められたのは術前PaO2が50 Torr以下であることと,肺血流シンチにおける脳の取込みが20%以上であることであった.

移植以外の治療ではHPSの予後は悪いので,PaO2が60 Torr以下の肝肺症候群の患者はほかの疾患で肝移植の候補になっている患者より優先度を高く考えねばならない.上述のようにHPSは進行性であること,HPS自体が肝障害を悪化させること,低酸素血症が高度になれば肝移植の手術成績が悪くなることといったことから,HPSを示す症例では,肝機能が維持されている段階でも肝移植の適応となりうるため,今後我が国でも肝肺症候群に対する肝移植手術の症例数は増加していくと思われる.

6.周術期合併症
HPSの合併症は低酸素に起因するもの以外に血管拡張そのものが関与するものがある.肺血管床は凝血塊などの微小な血液内浮遊物を取り除くフィルターの役割も果たしている.肺血管が拡張するHPSではこのフィルターとしての機能が損なわれるため,大循環系の塞栓症を発症する危険性がある.HPSの患者に脳の出血梗塞や脳膿瘍が発生したとする症例報告がすでになされている.周術期には血栓や空気などが静脈内に混入する可能性が高いため,肝肺症候群の患者では中枢神経系や心筋の虚血症状に十分注意する必要があると思われる.

7.最後に
 HPSは医師の間ではまだあまり知られている病態ではなく,消化器内科医の間でもマイナーである.それだけに肝硬変などに合併したHPSは見逃されやすく,早期の移植の機会を逃してしまいかねない.肝硬変は適応は受けにくいが,HPSの診断があることで移植の機会を得る可能性は大きく増すであろう.確定診断法であるコントラスト心臓超音波検査は手技が簡便であり,短時間ですむ外来でも可能な検査であり,慢性肝疾患患者の4-47%がHPSを有することをふまえれば,HPSの3徴を満たす患者には積極的に行うべきであろう.
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-20 18:30 | Comments(0)
■MRSAはMethicillin Resistant Streptococcus Aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の略であり,黄色ブドウ球菌の中でもmecA(methicillin耐性)遺伝子を持ち,βラクタム系抗菌薬に耐性化したものと定義されている.このため,耐性化していない黄色ブドウ球菌はMRSAに対してMSSA(Methicillin Sensitive Streptococcus Aureus)と称する.以下,黄色ブドウ球菌はSAと略す.

■1928年のフレミングのpenicillinの発見と1940年代のチェインらによるpenicillinの実用化により,SAによる化膿性感染は克服された.しかし,1940年代末には一部の国でpenicillin耐性SAの割合が50%を越え,1950年代には80%に達した.これらの耐性菌は菌体内にプラスミド性のペニシリナーゼ遺伝子を持ち,その酵素活性によって,penicillinのβラクタム環が加水分解されて活性を失うことによる耐性化機構をもっていた.このペニシリナーゼ遺伝子保有菌は世界中に広がり,現在もなお臨床の場で分離されるSA,特にMRSAの大部分が保有している.ペニシリナーゼはその後開発されたABPCなどの広域ペニシリンも加水分解でき,耐性化をSAに与えている.それに対し,ペニシリナーゼに加水分解されないペニシリン系抗生物質であるメチシリン,オキサシリンなどが1960年に開発された.

■1960年に英国で5440株のSAが集められ,同一病院由来のSAの3株がメチシリン耐性を示していたのがMRSAの最初の報告である[1].1961-1962年に集められた22000株には99株(0.45%)のMRSAが検出された[2]

■本邦では1980年代になってMRSAの分離が次第に見られるようになった.MRSA病院感染が急激に増加するに至った背景には1981年の第3世代セファロスポリン系抗菌薬の発売とその後の多用が引き金になっていると推察されている.MRSA分離頻度は50%に達するも,MRSA感染症発症率は概ね0.8%前後のほぼ定常状態にあり,増加傾向はみられないことから,本邦でのMRSA病院対策は効果的に遂行されている.しかしながら,2006年の診療報酬改正では感染対策費が姿を消しており,これがどう影響するかは未知数である.

■近年話題となっている市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増加しており,一般的なMRSAをHA-MRSAと表記することが増えてきた.

■高病原性のPanton-Valentine leukocidin(PVL:白血球破壊毒素.遺伝子コードlukS-lukF)遺伝子を有するMRSA市井感染症(PVL+CA-MRSA)が欧米で話題となっている[3].1990年代初頭,西オーストラリアのアボリジニの間で初めて報告されて以来,欧米において刑務所,スポーツチーム,学童などで集団発生が報告されている.PVL+CA-MRSAは遺伝子的にHA-MRSAとは異なっており,重篤な軟部組織感染ないし壊死性肺炎(致死率75%)を伴うため,公衆衛生上の脅威となっている.本邦では1979-80年代初期にはかなり認められたPVL+MRSAであるが,1999-2002年にはほとんど認められなくなった.しかしながら,本邦でもいつまた再度アウトブレイクするかは不明であり注意が必要である.

[1] British Med J 1961; 1: 124-5
[2] Lancet 1963; 1: 904-7
[3] Emerge Infect Dis 2003; 9: 978-84
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-03 12:19 | MRSA | Comments(0)
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(4)

質疑応答


Q1「DICの治療開始ラインはどこからなのか?についてのスライドですが,急性期DIC診断基準をまだ満たしていなくてもその徴候があれば抗DIC治療薬を開始するということでしょうか?」

A「急性期DIC診断基準を満たしていなくても早期から抗DIC治療薬を投与していく,という意味ではありません.抗DIC治療薬はあくまでも凝固過剰状態の際に使用すべきもので,局所封鎖という生態防御反応の一面も有する以上,凝固に対する安易な抗DIC治療薬投与はすべきでないと考えています.凝固の過剰となるのを防止,あるいは緩めるという意味で,急性期DIC診断基準を満たしていない段階では,末梢循環不全の解除,すなわち蘇生バンドルの100%達成が重要であるということです.」


Q2「ARDSに対してrTMを使用する呼吸器内科医の医師もおられますが,このあたりはどうお考えですか?」

A「難しいところではあります.機序的にはrTMはARDSに対しても有効と考えていますが,臨床的にはまだ有効と言えるような大規模studyがないのが現状です.症例集積による報告はありますが,実際,ARDSにおいてはrTMをどの段階で開始するか,どれぐらいの投与量が必要なのかが全く分かっていませんし,やはり出血という副作用も考慮しなければなりません.一度出血するとrTMの場合は半減期が長いため非常に難渋することもあって,私自身一度痛い目にあっています.現時点では適切な使用法が不明な以上,私はrTMをARDSに使用したことはありません.ただ,機序的にはいいと思いますので,使用法によって臨床現場での経験・データの蓄積で有用であると,改善率が上昇したというのであればその施設においては選択肢にいれるのもありかもしれません.」


Q3「抗DIC治療薬を終了する目安はありますか?」

A「抗DIC治療薬を終了する基準は特にコンセンサスが得られておらず,施設ごとに,医師ごとに異なると思います.DICが改善したらやめるのか,PLTが正常化したらやめるのか,DICが改善傾向を示した時点でやめるのか,TATが正常化したらやめるのか,など様々で,目安については当院ガイドラインでも触れてはいません.一般的には急性期DIC診断基準が3点以下になったらやめる施設が多いようです.私の場合は,急性期DIC診断基準の点数そのものよりも点数の動きを指標にします.すなわち,①急性期DIC診断基準の点数が減少傾向に転じた,②APACHEⅡ,SOFA scoreが減少傾向,③末梢循環不全が解除された(バイタルサイン,ScvO2,乳酸など),の3つを総合的に判断して投与を終了しています.これにより早期終了が可能ですし,再発もほとんどなく,投与終了時の急性期DIC診断基準がまだ4点以上であっても軽快しています.原疾患治療が奏功していれば,抗DIC治療薬の投与日数は非常に少なくて済むはずです.」


Q4「重症敗血症は28日死亡率ではなく90日死亡率で評価すべきとおっしゃっておられましたが,それは先生の御経験からでしょうか?」

A「ひとつは,他の主治医が蘇生バンドルを遵守しなかった場合において,なんとか急性期は生き抜いたけど,臓器不全が残ったり二次感染が起こったりというケースの場合,たいていは28日くらいは生きています.ですが,状況は二転三転と繰り返されつつ悪化していき,より長期で見れば亡くなってしまう,これが90日というスパンで見ると明確になります.このようなケースを当院ICUに入室した重症敗血症患者で見てきた経験があります.もうひとつは,某大学の教授からデータを見せてもらったことです.5つの大学病院における重症敗血症の死亡率比較で,28日死亡率はほとんど差がない.ところが90日死亡率では明らかに死亡率がばらついており,大学病院によってはほとんど助かっていません.これらのことから,重症敗血症,特に敗血症性ショックの死亡率は90日で見るべきだという考えに至りました.」


Q5「DIC治療を行わない施設においてDIC治療を推奨する場合はどのようにした方がいいでしょうか?」

A「これは非常に難しいと思います.原疾患治療をしっかりやればDICを併発しても治るケースもあるし,大規模RCTで死亡率を有意に改善した抗DIC治療薬がないのも現実である以上,強く推奨する根拠が乏しいのも現実であり,そのこともあって,抗DIC治療薬投与日数を極力短期間に済まそうと私も先述の投与終了の目安を決めています.ただ,抗DIC治療薬のメリットもあり,死亡率以外のアウトカム,たとえばDIC離脱までの早さが早いほど,血小板が回復して後期での出血リスクを軽減できますし,ICU入室日数短縮によって医療コスト軽減がrTMのコストを上回る可能性もあります.また,抗生剤治療が必要な敗血症において,DICによる微小血栓が病巣への抗生剤到達を阻害しているケースもあり,抗DIC治療薬によって抗生剤との相乗効果が得られるというメリットもあります.また,先ほどの,各試験のプロトコルの甘さなども考慮して推奨するとよいかもしれません.」
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-31 09:46 | 敗血症 | Comments(0)
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(3)

5.DIC
 DIC,ARDSの治療については当院の院内ガイドライン作成において最も難渋したところである.実際,この領域においては施設毎に治療方針がかなり異なっている.

 敗血症のメディエータに関与する薬剤(いわゆる抗サイトカイン薬)の中で死亡率を改善させる薬剤は存在するのか?これに対する答えは「存在しない」である.ただし,前提として「大規模RCTにおいては」という言葉がつく.これまで数々の抗サイトカイン薬が出てきてはPhaseⅡ,PhaseⅢで姿を消しており,唯一敗血症に効果ありとされたAPC製剤も2011年10月に効果なしとして市場撤退している.薬剤が本当に有効ではなかったこともあるが,その一方で,RCTのプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性ある.多施設で行う以上,そのスタディが定めるプロトコル以外については制約がない.施設によってはあまり好ましくない治療を行っているところもある.とある薬剤においては,1例1例洗いなおしてみると,抗菌薬投与が遅れていたり蘇生バンドルが甘かったりなどして死亡率悪化の要因となっており,ずさんなプロトコルにより本来威力を発揮するはずの薬剤が無効になっている可能性がある.

 このような現状において,はたして,本当に生存率をアウトカムとしてとらえるべきであろうかという疑問がある.多施設RCTがよく,さらにその蓄積であるSystematic Reviewの結果は真に正しいのか?もしくは,1つ1つの薬剤に有意差はないが改善傾向があるのであれば,それらの積み重ねにより総合的な生存率改善に繋がる可能性はあるのではないか?その上でも,多施設ではなく,単施設,すなわち,自らの施設で,多施設RCTを上回る最も死亡率が改善する治療法こそが最大のエビデンスともいえる.そういう視点からDICやARDSの治療薬を眺め,採用ラインを決めることが重要であると考えている.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 重症敗血症でのDIC治療薬で現在主軸となっているのはアンチトロンビン製剤(AT:ノイアート®など)とリコンビナント・トロンボモデュリン(rTM:リコモジュリン®)である.ATはKyberSept trialでは敗血症全体では死亡率改善なし,サブ解析においてヘパリン非併用群で死亡率を改善したと報告されている.一方のrTMはPhaseⅢでヘパリン群との比較において,DIC離脱率を有意に改善し,28日死亡率は改善傾向をみせたが有意差がなかった.rTM,ATいずれもDIC症例におけるプラセボ比較大規模RCTを厳格なプロトコルで行えば生存率改善の可能性ある.rTMのphaseⅢに参加した施設は多くが三次救命機関であるが,そうでない施設も含まれており,プロトコルの甘さは否定できない.加えて,たとえ三次救命病院であっても,敗血症ちりょうにおける適切な蘇生バンドルが行われたか,適切な抗菌薬が投与されたか,などには疑問が残ることが日常診療で三次機関との連携時に感じることもある.また,ヘパリン群との比較となったことも国内RCTでの限界を現しているのかもしれない.実際には大阪大学などがpre-postの比較で有意に死亡率改善を見せたなどの報告があり,現在米国で進められているrTMのPhaseⅡの結果が待たれている.ATは本邦ではエキスパートコンセンサスで第一選択となっている.一方のrTMはまだ新薬であるがゆえにエキスパートコンセンサスには掲載されていないが,次回改訂において第一選択に切り替わる可能性がある.当院においては,敗血症院内ガイドライン導入に伴い,総務部との複雑なやりとりはあったもののなんとかD-ダイマー迅速キットの院内導入が達成され,DICの即日診断が可能となった.一方で,ATⅢは外注検査であり,結果まで1日を要する.これらの事情から早期に適応がとれるrTMを当院では重症敗血症の第一選択に位置づけた.

 当院での敗血症性DICに対する治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)を選択考慮としている.これは当院にヘパラン硫酸(オルガラン®)がないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければrTMを第一選択とし,これにATやFFP(新鮮凍結血漿)を加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 合成プロテアーゼ阻害薬についてであるが,DICに対する治療効果は経験的評価によるものであり,エビデンス自体は乏しく,実際の効果の程は疑問である.使用するのであれば,メシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)となる.メシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)は凝固のみならず線溶系も抑制してしまうため,線溶系抑制型DICとなる敗血症病態では不利に働きうるため推奨されない.ヘパリン製剤(未分画ヘパリン,低分子ヘパリン)については,rTMがある以上は選択肢から除外とした.血液製剤では難治性遷延性のDICでは血小板輸血は慎重とすべきであり,むしろFFPの輸注(ADAMTS13補充)を推奨した.

6.ARDS
 ARDSであるが,当院では従来のALI/ARDSの診断基準を治療上の基準としては用いず,昨年10月に行われたヨーロッパ集中治療学会で改訂となったARDS診断基準を用いることにした.これは,軽症・中等症・重症と3区分あり,以前よりも治療方針が明確にたてやすくなったからである.なお,これによりヨーロッパでは今後はALIという病名は消えていくかもしれない.

 ARDSの治療は原則として原疾患治療と呼吸管理に尽きる.当院で採用しているARDS治療薬剤はステロイド(メチルプレドニゾロンmPSL:ソルメドロール®)と好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット:エラスポール®)である.ステロイド療法は賛否両論ある治療法である.大量ステロイドパルス療法は効果が否定的であり,推奨はしていない.一方,低用量に関しては推奨しており,発症早期(72時間以内)からmPSL少量投与を考慮するとした.

 問題となるのはシベレスタット製剤(エラスポール®)の扱いである.本薬剤は国内PhaseⅢで死亡率を有意に改善したとしている.しかしながら,コントロール群がプラセボでない,解析方法がper-protocol,片側検定,解析が製薬会社で行っているなど多くの問題をかかえた試験である.特に片側検定という統計学的手技を用いたことにはおおいに疑問があり,両側検定が今や当たり前となっている現在において驚愕すべきものである.実際,両側検定を行うと有意差が消失する項目が複数存在することから,製薬メーカーが恣意的にこのような解析を行ったとしか考えられない.また,市販後比較試験でも死亡率を有意に改善という結果がでているが,投与群と対照群の患者背景に有意差どころかかなりの相違があり,施設ごとに使用不使用の割付がなされているという奇妙な比較であること,解析が製薬会社で行っていることなど以前としてエビデンスと呼ぶにはあまりにも質が悪い試験である.

 一方,海外ではどうか.海外ではSTRIVE studyというものが行わ,結果は真逆で,シベレスタットは死亡率を有意に悪化させた.本試験は400例以上の多施設大規模プラセボ対照RCTであり,投与群とコントロール群で患者背景に有意差なし,180日死亡率が投与群で悪化したというものである.これに対してメーカー側は以下のように反論している.まず「重症例が多かった」.これについては,コントロール群の死亡率はPhaseⅢと比較して特に大きな差はなく,本当に重症例が多かったのかはおおいに疑問が残るところではある.次に,「PhaseⅢと同じプロトコルの症例を抽出したサブ解析では死亡率が改善した」と反論している.しかし,サブ解析には追試が必須であり,また,全体として死亡率が悪化した以上,死亡率が改善したサブグループ以外のグループでは死亡率が増加することは数学的に自明である.先述の通り,プロトコルの甘さでRCTにおいて効果があるのに死亡率に有意差がでないという可能性はあるが,死亡率がさらに有意に悪化するのはプロトコルの甘さでは説明できない.

 以上から言える結論であるが,①死亡率が有意に改善した2つの試験はいずれも奇異な統計処理によってエビデンスを作った可能性がある,②SIRS由来の軽症ARDSに対する早期使用では予後を改善する可能性がある,③ARDS全体では予後を悪化させる傾向がある,特にSIRS由来以外の症例や重症例では逆に予後を悪くしうる,ということである.こうなると死亡率改善と悪化が患者の重症度と原疾患次第で決まるわけで,その境界ラインの判断は非常に曖昧となる以上,本薬剤の使用は極めてリスキーなものであり,私個人は一切使用していない.

 しかしながら,SIRS由来・軽症・早期に対する適応がある以上,治療選択肢を残すという意味で当院ガイドラインでは,診療マニュアルでの表記において「軽症のARDSと診断した早期(72時間以内)に限り投与を考慮してもよいかもしれない(極めて弱い推奨).ただし,肺炎など,肺の直接侵襲が原因のARDSが疑われる場合は投与すべきではない.」とした.また,院内ガイドライン診療概要での表記では 「本製剤をARDSに使用することは推奨し難いが,治療選択肢を残すという意味でその使用を極めて弱い推奨で残した.「本製剤を使用する医師は無効どころか逆効果となる可能性もあることを肝に銘じるべきであり,安易な使用は患者死亡につながりうることを認識する必要がある. 」と記載し警告している.

 繰り返しになるが,最後にもう一度強調する.DIC,ARDS,AKIなどの敗血症合併疾患の最も有効な治療法は何か?原疾患治療・蘇生バンドルこそがDIC・ARDS・AKIにおける最大の予防法かつ治療法である.
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-30 14:45 | 敗血症 | Comments(0)

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