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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(2)

3.蘇生バンドル ~SSCGとの違い~
  蘇生バンドルは重症敗血症/敗血症性ショックに適応し,敗血症発症後(もしくは来院後)6時間以内に全項目を100%実践する.できる限り全例ICUに搬送して治療するが,急変場所はICU以外がほとんどである.この場合,ICUに搬送してからの治療開始では遅く,ER・一般病棟から施行開始する.

 流れとしては,まず重症敗血症と診断し,血液・尿・画像検査を行う. 検査において当院とSSCGと異なる点は,まず心臓超音波検査の重要性を強調している点である.敗血症病態では収縮能低下がしばしば生じ,輸液管理が重要なる異常,最低限度の簡単なものでよいので評価はしておくべきであるとした.また,エンドトキシンは計測すべきでないとした.これは,当院ではエンドトキシン計測が外注であり,結果が返ってくるのに数日を要するため,治療経過に影響を与えないこと,病原体由来因子PAMPsがエンドトキシン以外にも多数あることが分かってきていることなどが理由である.また,血液ガス分析の重要性強調し,乳酸値評価を重要視している.さらに,感染巣を特定し,細菌検査(各種培養検査)を行い,1時間以内に適切な抗菌薬投与を開始する.そして全例とも酸素療法を開始する.これはSSCGとは異なるが, 呼吸正常の患者も含め全例で酸素投与し,PaO2 100-150mmHgを目標とし,挿管不要であれば全例NPPV装着することを当院では推奨している.さらに,中心静脈カテーテル,動脈カテーテルを挿入し,適度な鎮静を行い,Early Goal-Directed Therapyへと治療を移していく.

 酸素療法についてであるが,敗血症では重症であるほど,末梢循環不全が生じ,組織での酸素利用障害が生じやすい.こうなると酸素が末梢組織で利用されずに通過し,静脈に帰ってきてしまい,SpO2やPaO2が正常値であっても末梢組織では酸素が不足するという自体に陥り,ScvO2は正常値よりむしろ高くなることもある.実際にScvO2が85%を越えてくると,何らかの酸素利用障害が生じていると考えるべきであり,その指標となるのが乳酸値である.よって,末梢組織でできる限り酸素供給量を増やすためにも酸素分圧を上げて100-150mmHg程度にコントロールすべきである.また,挿管不要患者で全例ともNPPVを装着する理由は,呼吸状態悪化時の迅速対応が可能であること,ARDSの予防(PEEPによる抗炎症効果),EGDTでの大量輸液による肺うっ血予防,酸素化効率の上昇が挙げられる.

 循環動態管理であるが,Early Goal-Directed Therapy(EGDT)が現在スタンダードとなっている.EGDTで最も有名な論文は2001年のNew England Journal of Medicineに掲載されたRivers.Eらのものであり,EGDTを施行することで,従来の治療法より16%という劇的な生存率改善が得られた治療法である.重症敗血症に対して有効な治療法があまり確立されていなかった当時においてこの16%という数字は驚異的である.この論文においては初期の大量輸液とScvO2モニタリングによる管理が死亡率を低下させる
ことが強調されている.

 そして,2010年のAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌でEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)が報告された.これはEGDTに乳酸値を下げることを目標にしたプロトコルを加えた治療法であり,EGDT群より9.6%の生存率改善が得られている.このstudyの対象は重症患者であるが,敗血症患者でのサブ解析ではさらに生存率が上昇している.単純計算ではあるが,EGDTによる16%の生存率改善効果とELGTによる9.6%の改善効果を合わせれば,SSCが目標とする25%の死亡率改善を達成しうるものであり,当院ではELGTを採用した.

 EGDT Goal.1は血管内用量確保であり,初期大量輸液(晶質液)により中心静脈圧(CVP)を8-12mmHgにコントロールする.急性腎傷害の有無にかかわらず躊躇せず大量投与し,目標値を達成すればTKO(to keep open)で20-40mL/hrで投与し,血圧低下や乳酸高値などで必要であればその都度ボーラス投与を行う.ヘスパンダー®,サリンヘス®などのHES製剤は腎障害リスクを2倍にし,線溶系にも影響を与えてしまうため,禁忌とした.近年,CVPがモニター管理として不向きであるという論文が多く見られるが,有用であるとされるPiCCOシステムが当院にはなく,12時間以内であればCVPは有用であるという報告もあることから,当院では原則CVP管理を行い,CVPが不正確であれば,呼吸変動幅>1mmHgもしくは>5%が輸液反応群であることを参考にすることを推奨している.なお,カテコラミンを使用せずとも,輸液だけで血圧は回復することが多い.

 EGDT Goal.2は灌流圧確保であり,カテコラミンで平均血圧を65-90mmHgにコントロールする.これは十分な輸液負荷が行われたことが最低条件であり,そうでなければカテコラミン投与は奏功しないどころか逆効果になる危険性すらあり,敗血症で血圧が低下したのを見ていきなりドパミン投与は最悪の選択肢といえる.カテコラミン投与はGoal.1が達成された上で行うべきである.使用するカテコラミンはSSCGではノルアドレナリン,ドパミンいずれでもよいとしているが,当院ではノルアドレナリンを第一選択とし,ドパミンは推奨していない.これは,重症敗血症病態ではサイトカインによりアドレナリンβ1シグナルが阻害されており,ドパミンでは昇圧効果が得られにくいこと,β2作用が働くと血管拡張と頻脈を招き,血圧がむしろ低下するリスクがあること,細菌にβ受容体があり,増殖とバイオフィルム形成を促進してしまうこと,白血球にβ受容体があり,機能不全を招きうることが挙げられ,なにより,末梢血管拡張による血流分布異常が主体の敗血症性ショックではアドレナリンα受容体刺激薬を投与する方が病態生理的にも理にかなっている.実際にドパミンよりノルアドレナリンの方が死亡率が低いとする報告も複数ある.カテコラミン不応性の患者にはwarm shockであることを確認して,バソプレシン少量持続投与(4時間まで)することが推奨される.さらに,バソプレシンでも反応しない重症例においては低用量ステロイド療法を考慮するとした.

 EGDT Goal.2のもうひとつの目標として尿量確保(≧0.5mL/kg/hr)がある.敗血症性の急性腎傷害は他の急性腎傷害とは異なる病態と捉えるべきであり,輸出細動脈が高度に拡張することによる灌流圧低下が本態であると考えられており,灌流圧を上昇させる上でも輸液負荷とノルアドレナリンが奏功する.一昔前にドパミン神話ともいうべき低用量ドパミン療法が流行していたが,現在では2000年のLancetに掲載されたANZICS trialをはじめ多数のstudyでその効果は否定されており,SSCGでも推奨されていない.また,組成バンドル期での利尿剤投与は当然ながら禁忌である.

 EGDT Goal.3は組織酸素供給改善であり,ScvO2≧70%の確保と,乳酸値の改善である.SSCGではHt 30%を目標にした輸血とドブタミン投与が推奨されているが,確たる根拠があるわけではなく,当院では「考慮する」程度に留め,酸素療法,鎮静により酸素需給バランスを整えつつ,早期のCHDF(グラム陰性桿菌関与が強く疑われるならPMX併用を考慮)を推奨している.また,乳酸値改善目的で,輸液負荷の下で血管拡張薬を投与する.

 早期CHDFは炎症性メディエータの除去が目的であり,除水は不要,蘇生期の最初からの使用でもよい.この使用法はNon-renal Indication(腎障害有無に関係なく施行)と言われる.得られる効果としては,β1シグナル阻害因子除去による心収縮力改善,血管拡張物質の除去により糸球体濾過率の上昇,Death受容体family除去による血管内皮細胞保護などが挙げられる.カラムに関しては現時点でどれがよいかのエビデンスは現在のところ存在せず,一部で強く推奨されているPMMA膜はクリアランス値で有用性に疑問がある(RCTも特になし).

 エンドトキシン吸着カラムPMX-DHPについては現在賛否両論の状態にある.PMXはエンドトキシンのみならず,ANAや2-AGなどの内因性大麻を吸着する.エンドトキシン濃度が敗血症患者の重症度・死亡率に相関するという報告を見ると有用な可能性がある.一方,エンドトキシンは病原体毒素PAMPsの1つに過ぎないことが判明しており,エンドトキシンとサイトカインの濃度に相関ないこと,高エンドトキシン血症ではなくPAMPEMIA概念が提唱されてきており,生体側要因Alamin除去がむしろ必要との意見もあり,有効性については意見が分かれる.エビデンスにおいては,PMX-DHPの早期施行が28日死亡率,MAP,昇圧薬使用量,臓器不全の改善に対して有意に効果的であったとしたEUPHAS studyがあるが,このstudy自体に問題が多数あり,報告者自身も不完全なstudyであったことを認めている.これらの問題を解決すべく,現在イタリアでEUPHAS2 Project,フランスでABDO-MIX,アメリカでEUPHRATES trialが進行中であり,この結果が待たれる.症例集積ではどの報告においても早期の使用でなければ効果を示さないことから,グラム陰性桿菌感染が強く疑われるケースではできるだけ早くに施行することを検討する.

4.管理バンドルの重要項目
 敗血症病態では炎症性サイトカインによるインスリン抵抗性増大,輸液,ステロイド,カテコラミンなどの投与による高血糖状態にあり,この状態が持続すると,多核白血球の機能が低下し,ミトコンドリア障害による酸化ストレス増大と細胞障害,炎症反応増幅が生じるため,血糖コントロールが必要である.SSCG 2008では血糖値150mg/dL以下とされているが,2009年のNew England Journal of Medicineに掲載されたNICE SUGAR trialでは,インスリン強化療法群と144-180のコントロール群との比較で後者の方が90日死亡率が有意に低いと報告されている.このstudyは大規模かつ極めて質が高く,低血糖リスクもふまえればこの144-180(数値上分かりやすいように当院では140-180に設定)にコントロールするのが現状では最良であると考えられ,次回SSCG改訂でもこの数値に変更されるようである.

 また,近年,血糖値自体よりも血糖値の変動を抑制することの意義が注目されてきている.重症患者では血糖値変動(glucose variability)と死亡率に相関関係あり,血糖変動が大きい症例ほど予後不良であると報告されている.加えて,インスリン皮下注によるジェットコースター型の血糖降下がしばしば行われているが,血糖値低下幅が大きいほど酸化ストレス増大,臓器障害,血管内皮細胞障害増大,アポトーシス促進が生じることが分かっている.以上から,血糖変動幅を抑えるアルゴリズムを用いた血糖4時間毎計測下でのインスリン持続静注を当院では推奨している.

 敗血症と腸管の関係であるが,腸内細菌叢,腸管細胞,免疫系は互いにCross-talkの関係にある.ここに重症敗血症が関与すると,免疫系においてはCARS状態に加え,IgA分泌が低下,蛋白異化亢進による免疫細胞のautophagyが生じ,全身の免疫力低下をきたす.また,腸内細菌叢においては抗菌薬・胃酸抑制薬投与や腸管蠕動低下による腸内細菌叢変化からの二次感染,いわゆるBacterial Translocationが生じる.さらに,腸管細胞においては腸管浮腫や腸管細胞apoptosisによる腸管機能不全をきたす.これらにより,急性期を過ぎると腸管からの全身悪化リスクが高まることになる.これを予防する上で早期経腸栄養は非常に重要である.

 早期経腸栄養の推奨については世界的にコンセンサスが得られており,ヨーロッパのESPEN,北米のASPEN/SCCMでともに24時間(~48時間)以内に開始し,72時間以内に目標量に向かって増量開始することが推奨されている.開始栄養剤については当院ではペプタメンAF®を推奨している.一方,早期経腸栄養開始の目安についてはESPEN,ASPEN/SCCMともに定めているわけではなく,施設によって基準は,身体所見やカテコラミン量評価から少量のガストロフィンを投与し,腹部レントゲン評価まで様々である.当院では開始の目安として,Shock Vitalでないこと,カテコラミン投与量が少量であること,カテコラミンを開始または増量しようとしていないことを基準としている.なお,蠕動音,排便排ガスを開始基準に用いてはならない.この方法で当院では経腸栄養を10-20mL/hrの速度で開始しているが,トラブルになったことは現時点では経験していない.なお,開始初期は経腸栄養で投与できる栄養量は少ないため,これに経静脈栄養加えるかがESPENとASPEN/SCCMで意見が分かれていた.すなわち,早期から経静脈栄養を行っていくESPENに対し,ASPEN/SCCMはpermissive underfeecingの観点から,早期経腸栄養が不可能でない限りは7日以内の経静脈栄養は行うべきでないとしている.この論争に終止符を打ったのが2011年にNew England Journal of Medicineに報告されたEPaNIC trialであり,死亡率に有意差はでなかったものの,平均ICU滞在日数,感染症発症率,腎補助療法施行率,人工呼吸器使用率,医療費においてASPEN/SCCMの方が有意に優れており,ESPENの早期経静脈栄養に一利なしと結論づけられた.これにより,輸液による急性期のカロリー補充は推奨されないとした.
 
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-26 12:35 | 敗血症 | Comments(0)
2012年1月12日に大阪の中之島ダイビルで敗血症診療の講演をさせていただいた.
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(1)

1.敗血症の概要と現状
 敗血症とは,感染症を基盤とした全身性炎症反応症候群(SIRS)である.感染症診療では,病原微生物・医師・患者(感染部位)の三角関係で考えるが,このうち患者サイドに生じるのが敗血症であり,敗血症と菌血症は必要条件でもなく,十分条件でもない,すなわち,炎症性サイトカインなどの各種メディエータが局所で過剰な状態となり,これらが血管内に漏出して全身に播種し,全身症状を引き起こされるのが敗血症病態である.

 感染症においては凝固と炎症が生じており,これらはいずれも生体防御反応である.しかしながら,これらはCross-talkの関係にあり,凝固と炎症は相互に作用しつつ増強し,SIRS,DICへと進展していく.さらにはCARSや凝固消耗などにより免疫力の低下もきたし,臓器不全へと進展していく.近年では凝固と炎症は不可分であるという考え方に移行し始めている.しかしながら,実際の臨床現場においてこの凝固と炎症のCross-talkは実感しにくい,言い換えるならば凝固と炎症だけでは足りないと私は考えている.すなわち,凝固,炎症に加えて虚血という概念を加えると臨床現場の治療に直結しやすいと思われる.虚血と凝固,虚血と炎症もCross-talkのような関係にあり,これらの3つを敗血症病態の基礎に起き,総合的な治療を行っていくべきであり,虚血に対する治療はもっと強調されるべきであると考える.

 DICという概念があるために凝固は有害であると捉えられがちであるが,先述の通りこれは生体防御に有効である.敗血症病態においては血小板が病原微生物由来のPAMPsを認識し,好中球に結合して血小板好中球複合体を形成し,セレクチンSの働きにより好中球がetosisを起こし,自らを犠牲にしてNETsと呼ばれる粘着性の網を放出し,効率的に病原体を捕捉・殺菌する.このNETsは通常の感染症ならば感染から120分程度たたなければ起動しないが,重症感染症病態では血小板結合によりわずか30分で起動することが可能である.NETsに含まれるhistoneは強力な血小板凝集作用を示し,これに血管内皮細胞から起こる凝固カスケード反応と相まって微小血栓が形成される.好中球,血小板,血管内皮細胞にもCross-talkのような相互作用が存在し,凝固はこれらの間に介在する要因である.この凝固における3つの細胞の関連をとらえたcell-based process of hemostasisという考え方が近年提唱されている.すなわち,生態防御としての凝固の役割は,NETsなどによる効率的な病原体除去と微小血栓での局所封鎖による病原体やHMGB1,histoneなどの全身への拡散防止であり,これが制御できず過剰状態に至ったものがDICである.

 敗血症性ショックではWarm ShockとCold Shockという2つの異なるショック病態が存在し,その病態の原因には,血管内皮細胞傷害による末梢血管の拡張から収縮へ転じる過程があり,この境界ラインはおおよそ6-10時間とされている.この過程において,DICが生じてくることになる.逆に言えば,DICが生じてきたということは,血管内皮細胞がかなり傷害されてきていることを意味する.よって,我々がなすべきことは,血管内皮細胞が傷害されてしまうまでに,6時間以内に初期治療を完了させることである.

 重症敗血症,敗血症性ショックを扱う上で,当院ではその診断基準をACCP/SCCMのものから改変している.1つは重症敗血症基準のうち血圧低下項目に「平均血圧<60mmHg」を加えている.これは,末梢循環を考える際は収縮期血圧よりも平均血圧が重要であるからである.もう1つは敗血症性ショックに「乳酸>36mg/dL」を加えたことである.これにより,血圧が低下していなくても,高乳酸血症を伴えばショックとして扱い,迅速に治療を開始するようにしている.

 敗血症性ショックのみならず,あらゆるショック病態におけることであるが,血圧だけを見てショックを判断してはならない.血圧低下はショックの原因の1つに過ぎず,また,ショックの簡便なスクリーニングの道具に過ぎない,つまり,血圧が正常でもショックのことがあることを認識する必要がある.現在ショックは第3世代まで定義が進んでおり,たとえ血圧が維持されていても,末梢組織,細胞での酸素利用障害などを含む酸素代謝異常,もしくは灌流障害と定義される.すなわち,ショックで重要なのは,酸素需給バランスを表すScvO2と酸素代謝・灌流障害を表す乳酸値である.これら両方のパラメータを改善させることがショック治療では必要であり,血圧だけを見ているとショックを見落とす可能性がある.

 アジア(日本含む)では敗血症の死亡率が高い.その原因として,アジアではSSCGの蘇生・管理バンドルの遵守率がそれぞれ7.6%,3.5%と極めて低いことが2011年のBMJで報告されている.本邦では敗血症の治療成績は決して悪くはないが,これは集中治療部がある病院の話である.本邦では救急・集中治療・感染症医でなければSSCGどころかSIRSさえほとんど知らないのが現実である.加えて本邦の医学生のバイブル「Year Note®」にはSIRS,敗血症の定義,治療の記載はあるものの,医師国家試験に出題されたことは一度もない.これは集中治療医がいない当院でも非常に顕著であった.

2.敗血症治療の概要
 当院では敗血症治療において3つの目標を掲げている.1つ目はCold Shockに至る前に初期治療を完了すること,2つ目は多臓器障害を残さないこと,3つ目は二次感染を起こさないことである.これらの目標を達成せずに急性期を乗り切っても予後・死亡率は非常に悪い.1つでも達成できなければ長い目で見ると予後が悪く,後遺症も残りやすい.28日間は生存していても何度も感染を繰り返し,臓器不全が進行し,最終的には亡くなってしまう.そういう意味で敗血症の死亡率は28日で見るべきではなく,90日で見るべきであり,そうすることで,初期治療がきっちり行われたか否かの差は明確になる.これらの3つの目標を達成すれば敗血症性ショックといえども3日でカタをつけることも可能である.

 重症敗血症治療においては,先述の凝固・炎症・虚血を治療のターゲットとして,集中治療の基本パラメータである感染,循環,呼吸,代謝,栄養のすべてから治療に望む.これは敗血症のみならず集中治療領域の基本的考え方であり,どの治療も不可欠である.1つに対する治療が他の要素にも働き,各治療法を組み合わせることで相乗効果が得られる.

 敗血症性ショック治療においては当院では3つのGolden Timeを定めている.すなわち,来院もしくは病棟内発症から1時間以内に適切な抗菌薬を投与開始し,6時間以内に循環動態を回復させ,24時間以内に早期経腸栄養を開始することです.このGolden Time内に初期治療を完了させるためにも,多岐にわたる治療項目を優先順位をつけつつ順序だてて円滑に行うため,SSCGが推奨する通り,当院でも蘇生バンドルと管理バンドルを定めている.蘇生バンドルとは,6時間以内に100%達成すべき項目であり,予後決定因子であると言える.一方,管理バンドルとは,24時間以内に開始すべき管理治療項目である.

 重症敗血症治療の歴史の変遷にも触れておく.重症敗血症治療は抗菌療法から始まり,抗炎症療法,抗凝固療法,さらには血管内皮細胞保護療法へと発展してきており,敗血症分野の研究は著しく進んでおり,新規創薬も盛んである.現在使用可能な薬剤の中にも敗血症でも有効ではないかと効果が期待されているものがいくつかある.2011年12月に販売開始となったアジスロマイシン注射製剤は抗菌作用のみならず抗炎症作用も期待されており,さらにphagocyte delivery systemにより,貪食能が高まったAlert Cellに選択的に取り込まれて効果を発揮する可能性が期待されている.エスモロールなどのアドレナリンβ1受容体遮断薬も敗血症病態において抗炎症作用,心筋保護作用,蛋白異化抑制作用が期待されている.PDEⅢ阻害薬もCold Shockにおいては理論上非常に有用ではないかと期待されており,敗血症における臨床応用研究が待たれる.高脂血症治療薬であるstatine製剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)も抗炎症効果,血管内皮細胞保護作用があり,敗血症,ARDS病態において重症化予防になりえるとする報告が相次いでいる.また,DIC治療薬であるリコンビナント・トロンボモデュリン製剤も抗炎症作用,血管内皮細胞保護作用が臨床レベルでも研究されており,期待がもたれている.そして,未来の治療として,正常免疫化による病原体の排除が提唱されている.これまで用いられてきたSIRSの概念から脱却して正常の炎症反応によって病原体が除去されていく過程を検証することが重要とするfuture directionが昨年のJAMAに掲載されている.また,近年基礎研究が盛んな再生医療領域においては,間葉系幹細胞(MSCs)があり,点滴投与でよく,入手しやすく,アレルギーも少なく,損傷部位に集束するEngraftment効果を有しており,さらに抗炎症作用も確認されている.
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-25 12:35 | 敗血症 | Comments(1)
■敗血症患者では,インスリン抵抗性の増大により急性高血糖が頻繁に生じる[1].また,ブドウ糖輸液,ステロイド療法およびカテコラミン投与がインスリン抵抗性をさらに増悪させ,急性高血糖を増強させる.高血糖が発生あるいは継続することにより,多核白血球の粘着能・走化能・貪食能・殺菌能が低下し,感染防御能が低下する.このため,敗血症患者における血糖降下療法は重要と考えられてきた.しかし,その目標血糖値や管理法に関しては近年まで不明確なままであった.

■2001年と2006年に1施設無作為化比較試験であるLoeuven studyⅠ・Ⅱが行われ,これのmeta analysisによると,80-110mg/dLの血糖管理(IIT:強化インスリン療法)では,死亡率・有病率が減少するが,低血糖発生率が有意に上昇し,110-150mg/dLを目標とするならば,死亡率が軽減し,低血糖発生率は増加しないが有病率は減少しないと報告された[2].この結果をもとにSSCG 2008では,敗血症患者で推奨される目標血糖値を150mg/dL以下としている.しかしながら,Leuven studiesには統計法,研究法,IITそのものに問題点を抱えていた.このため,他の研究で血糖降下療法の効果の是非を再確認する必要があった.

■2008年に敗血症患者を対象としたIITの効果を検証した最初のRCTであるVISEP trial[3]では,IIT群による28日死亡率の低下は1.3%と軽微で,統計学的有意差はなかった.また,90日死亡率の検討では,IITは有意でないが4.3%死亡率を増加させた.さらに,IITは赤血球輸血率を有意に9.4%増加させ,透析必要率を有意でないが5%増加させた.低血糖(40mg/dL以下)の発生率は,コントロール群の4.1%と比較して,IIT群では17.0%と有意に増加した.又、低血糖の発生は敗血症患者の90日死亡の増加に関わると報告された.

■2009年に報告されたNICE-SUGAR trial[4]はICU患者を対象にIITに有効性を検討した最大のRCTで,IITの90日死亡に対する効果を通常血糖管理群(目標血糖値144-180mg/dL)と比較した研究であり,IITの検討に関して最も信頼に足るRCTであると評価を得ている.これによると,IITは28日死亡を有意でないが1.5%上昇させ,90日死亡を2.6%有意に上昇させた(IIT vs 従来型:27.5% vs 24.9%).また,血液培養陽性率は両群間で有意差はなかった.重症敗血症患者を対象としたsub-set analysisでも,IITは90日死亡を有意でないが2.5%上昇させていた.これにより,敗血症患者に対するIITの有害性が報告された.なお,本trialはIIT群で高度低血糖がみられたために早期に中止されている.

■現在までに報告されたすべてのエビデンスを統合すると,敗血症患者に対し強化インスリン療法を施行することは推奨することができない.このため,敗血症患者ではやや高めの血糖帯である144-180mg/dLを目標としてコントロールし,高血糖と低血糖の発生を防ぐのが最も妥当な方法であり,この血糖管理が敗血症患者の標準治療となると思われる.

■近年,DDP-4阻害薬の登場により,血糖値自体よりも血糖値変動(glucose variability)を抑制することの意義が注目されてきている.重症患者での血糖値変動増加と死亡率が相関していることが報告されており[5],さらに,重症疾患でのIITを提唱したLeuven studyの解析で,血糖の変動が大きい症例ほど予後不良であったとも報告されている[6].また,血糖値低下幅が大きいほど酸化ストレス増大,臓器障害,血管内皮細胞障害増大,アポトーシス促進が生じることが報告されている[7-11].以上より,速効型インスリン皮下注によるスライディングスケールでのジェットコースター型の血糖コントロールは行うべきではなく,血糖の変動幅をできるだけ抑えるためのインスリン持続静注によるアルゴリズムが必要となる.

■アルゴリズムは各病院での設定になるが,血糖幅を30mg/dL前後とする細かいインスリン静注速度変更のスケールを使用し,血糖測定を初期は1時間毎,安定すれば4時間毎に行うことが推奨される.

[1] South Med 2007; 100: 252-6
[2] Diabetes 2006; 55: 3151-9
[3] N Engl J Med 2008; 358: 125-139
[4] N Engl J Med 2009; 360: 1283-97
[5] Crit Care Med 2010; 38: 838-42
[6] Crit Care Med 2010; 38: 1021-9
[7] JAMA 2006; 295: 1681-7
[8] Diabetes 2003; 52: 2795-804
[9] Nature 2001; 414: 813-20
[10] Diabetes 2005; 52: 1615-25
[11] Am J Physiol Endocrinol Metab 2001; 281: E924-30
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# by DrMagicianEARL | 2011-12-08 11:15 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症に対するステロイドパルス療法はすでに否定されている[1,2].そもそも合成グルココルチコイドは一部の細胞には確かに抗炎症作用を導くものの,敗血症病態においては効力を示さない.この理由として,合成グルココルチコイドは,
①グルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されること
②細胞選択性がないこと
③Alert Cellは必ずしもグルココルチコイド受容体を発現していないこと
④敗血症進行の過程でグルココルチコイド受容体は発現量を減少させること
が挙げられる.

■ステロイド投与量を増加したとしても,グルココルチコイド受容体が存在しない以上,Alert細胞機能を抑制することはできず,結果的にはグルココルチコイド受容体の発現する白血球系細胞にアポトーシスを誘導し,感染症を増悪させてしまう[3]

■しかしながら敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり[4,5],ステロイドカバーの役割を担う可能性がある.

■外傷や全身性炎症の急性期管理に用いられる薬物の中には,副腎機能を低下させる可能性のある薬物がある.ベンゾジアゼピン系鎮静薬やオピオイドはACTHの放出を抑制し,副腎皮質からのコルチゾル分泌を抑制する可能性がある.また,抗真菌薬であるケトコナゾールやフルコナゾール,シクロスポリン,フェニトイン]などはコルチゾル分解を促進させる.また,コルチゾル担体であるコルチコステロイド結合グロブリンは好中球エラスターゼの基質であり,好中球エラスターゼによりコルチコステロイド結合グロブリンが切断されるため,フリー体のコーチゾルの遊離が高まる.このため,局所炎症では好中球の浸潤によりコーチゾルレベルが高まり,細胞保護が合理的に行われているが,侵襲的手術や敗血症のように好中球エラスターゼレベルが血中で上昇する病態では,炎症部位へのコーチゾル運搬が障害される.敗血症性ショックや多発外傷ではアルブミンのみならずコルチコステロイド結合グロブリンが低下し,コルチゾルの血漿消失半減期が短縮することも知られている.

■ステロイドカバー目的で少量ステロイド長期間投与の有効性が報告されている.RCTにおいて,特に注目を集めたのがhydrocortisone 50mg×4/day+fludrocortisone 50mcg×1/dayを5日間投与するか否かで無作為化したもので[6],ステロイド投与の有無による全体での有意差はないものの,ACTH刺激試験への反応によってステロイドの効果が異なること,つまりACTH非反応群(副腎不全群,229例)では,ステロイドによって28日死亡率が63%から58%に有意に減少したことを報告した.2004年のmeta-analysisでは,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告された[7].このことから,SSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨されるに至る.

■一方で,2008年のCORTICUS studyは症例数が500例と大規模であり,hydrocortisone 50mg×4/dayの5日間投与の有無による二重盲検化多施設RCTであった[8].これによると,28日死亡率は全体でもsub-set analysis(ACTH非反応群のみでの解析,ACTH反応群のみでの解析)でもステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc analysisでは,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには①ベースの患者の重症度が低い,②ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),③有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

■一方,2004年のmeta-analysisが2009年にup-dateされ,少量ステロイド長期投与による死亡率の軽減は,CORTICUS studyを加えてもなんとか維持されていた[9].また,ステロイド非投与群での死亡率からみた敗血症の重症度とステロイドの効果についても言及し,低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを示した.さらに,ACTH刺激試験の反応性に関わらず,ステロイドの効果は同様で,ステロイドによってショックから有意により多く回復することを報告した.すなわち,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要があり,重症度を想定していないSSCG 2004を遵守した場合は,死亡率に有意差はでていない[10]

■ACTH刺激試験において計測されるコルチゾルは総コルチゾルであり,フリーコルチゾルではない.血中のコルチゾルは通常90%が蛋白結合型の不活性型で,活性を持つのは残りの10%のフリーコルチゾルである.敗血症などの重症疾患では先述の通りフリーコルチゾルの割合が50%にまで増加する.しかし,特にアルブミン低下が著明な(<2.5 g/dL)重症患者では,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されてしまう.以上から,総コルチゾール測定では副腎機能低下を判定することは不正確であり,フリーコルチゾルの測定結果もすぐに得られない上に重症患者での基準値が明確でないという問題点から,ACTH刺激試験を行う意義は乏しいと考えられる.

■このような現状を踏まえ,敗血症などにおけるステロイド使用に関するsystematic reviewを行い,重症患者における副腎不全の定義と対処法に関するステイトメントが出された[11].これによれば,重症患者の中に副腎不全患者が存在し,敗血症性ショックやARDSの患者ではACTH刺激試験を行わず,グルココルチコイドを投与する.敗血症性ショック,特に輸液や昇圧薬に反応しない敗血症患者では,低用量のグルココルチコイドの使用を考慮すべきであるとしている.

■近年,バソプレシンとステロイドの相乗効果が注目されており,ノルアドレナリン+ステロイド併用群よりもバソプレシン+ステロイド併用群の方が反応がみられるとの報告が2篇あり[12,13],バソプレシン使用中で反応が乏しい場合にヒドロコルチゾンによる低用量ステロイド療法の併用を考慮する.


[1] N Engl J Med 1987; 317: 653-8
[2] N Engl J Med 1987; 317: 659-65
[3] Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2008; 295: 998-1006
[4] JAMA 2002; 288: 862-71
[5] Am Surg 2006; 72: 552-4
[6] JAMA 2002; 288: 862-71
[7] BMJ 2004; 329: 480-84
[8] N Engl J Med 2008; 358: 111-24
[9] Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18
[10] Intensive Care Med 2010; 36: 222-31
[11] Crit Care Med 2008; 36: 1937-49
[12] Circulation 2003; 107: 2313-9
[13] Intensive Care Med 2011; 37: 1432-7
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# by DrMagicianEARL | 2011-12-07 11:28 | 敗血症 | Comments(0)
1.ScvO2(SvO2)と乳酸,ELGT
■肺動脈カテーテル(Swan-Gantzカテーテル)で得られる混合静脈血酸素飽和度SvO2は酸素需給バランスの指標であり

 SvO2=SaO2-VO2/(1.34×Hb×CO)

で表されることから,SvO2の決定因子は動脈血酸素飽和度SaO2,酸素消費量VO2,Hb濃度,心拍出量COの4因子である.SaO2が正常であれば(SaO2はSpO2で判断できる),SvO2は全身の酸素消費量と酸素供給量の比に反比例することがわかる.すなわち,SvO2は全身の酸素供給量バランスの指標として臨床的に重要な意義をもつ.重症敗血症病態のような組織低灌流状態では,組織における酸素供給量を酸素消費量が上回るため,SvO2の低下を認める.よって,SpO2,PaO2が正常であっても酸素投与を行うべきである.

■SvO2の正常値は70-80%である.敗血症初期はSvO2はhyperdynamic stateにより上昇する.さらに病態が進行すると,末梢組織の灌流障害が生じSvO2は低下に転じる.60%以下になると前身の酸素需給バランスがうまくいかなくなっている状況が出現している.50%以下になると,生命に危険な状態が近づいていることを示しており,緊急に対策を立てる必要がある.

■SvO2は終末細動脈の酸素飽和度を反映する.組織への酸素拡散には終末細動脈での酸素分圧40mmHg以上を必要とし,ヘモグロビン酸素解離曲線においてこれは酸素飽和度70%に相当する.実際にはSvO2を測定するには肺動脈カテーテルを挿入しなければならないが,重症敗血症全例に施行するのはナンセンスである.そこで,SvO2の代用として頸静脈からの中心静脈カテーテルで計測するScvO2計測が簡便で有用である.このことから,ScvO2≧70%という目標が設定されている.

■しかしながら,重症化してもSvO2が正常や高値を示すケースがある.そのようなケースにおいては,組織に酸素が行かず静脈系に帰ってきている,すなわち組織酸素代謝異常により酸素利用障害が生じている可能性を留意する必要がある.そのため,乳酸値とセットで評価する必要がある.実際,敗血症性ショック後期のScvO2高値は死亡率と有意に関連することが報告されている.この報告によると,生存者の平均ScvO2が72-87%(中央値79%)であるのに対し,死亡者の平均ScvO2は78-89%(中央値85%)となっている.

■末梢や大腿静脈などから採取した静脈血酸素飽和度はScvO2と有意差があるため,ScvO2の代用とするのは不適切である.

■以前に行われた研究では,重症患者にジクロロ酢酸を投与し乳酸の代謝を改善すると乳酸値は低下するが転帰は改善しないという結果が得られている.つまり,乳酸値が高かったり,なかなか下がらなかったりすると転帰が不良である原因は高乳酸血症そのものなのではなく,乳酸値上昇を引き起こす要因が関与している可能性が高いと考えられる.敗血症では重症なほど組織の酸素利用障害が強く,敗血症における高乳酸血症の主因は酸素利用障害である.

■乳酸の低下を目標としたEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)の報告では,ICU入室時に乳酸値が高い(3.0mEq/L以上)患者において,EGDTに加え乳酸値を繰り返し測定し2時間以内に乳酸値が20%以上低下するように管理することで死亡率を有意に改善している.EGDTで16%の死亡率改善,さらにELGTを加えることで9.6%改善しており,単純計算すればEGDT+ELGTにより25.6%改善できるわけであり,これはSSCGの目標である重症敗血症死亡率25%改善にかなうものである.また,死亡率以外には短期臓器不全の減少,早期の人工呼吸器離脱,早期のICU退室において有意差がみられた.

■乳酸値を測定するだけでは転帰を改善することはできない.乳酸値を測定しモニタリングすることと並び,得られた値に応じた治療計画も重要である.ELGTの報告では,治療期間中における両群の治療法についての主な差違は,乳酸値測定群の方が輸液量が多く,血管拡張薬を投与された患者の割合が多かったことである.目標指向型輸液療法は広く推奨されているが,重症患者における血管拡張薬の使用の是非については賛否両論があった.しかしながら,重症患者に対する血管拡張薬投与の有効性を指摘する論文も複数発表されていた.十分な輸液負荷による血管内容量を保持しながらの血管拡張薬投与は,むしろ微小循環障害を改善し,末梢組織での酸素代謝・供給を改善する.ショック治療の歴史が血圧重視から末梢循環不全の改善へと変遷している流れを考えれば,このような結果が得られるのも十分にありえた話である.

■ELGT群において用いた治療アルゴリズムは,EGDT群よりも積極的な治療を行うように設計されている.しかし,ELGT群では対照群と比べ乳酸値が速やかに低下するわけではないという結果が得られている.これは,高乳酸血症は組織血流の低下を十分に反映するわけではなく,重症疾患における高乳酸血症の発生機序が複雑であることが如実に表されているともいえる.実際,IL-6,TNFα,IL-1βが活性型ピルビン酸脱水素酵素(PDH)を減少もしくは活性を低下させ,あるいはミトコンドリア呼吸に障害をきたすなどして骨格筋の乳酸増加をきたしたり,骨格筋のNa-K-ATPase活性上昇によって乳酸が産生されたり,クリアランス低下が原因で乳酸が蓄積することなどが指摘されており,虚血以外の機序による乳酸産生経路も存在する.

2.輸血
■敗血症をはじめ,ICUで治療される重症患者は様々な原因により貧血となる頻度が高く,赤血球輸血が必要となることが多い.

重症患者の貧血の原因
1.大量輸液による血液希釈
2.手術・処置に伴う出血
3.検査のための採血
4.赤血球寿命の低下
5.赤血球産生の低下
6.異常赤血球の産生
7.溶血
8.エリストポエチン産生の低下
9.鉄代謝の異常
10.栄養障害

ICU入室患者の貧血有病率
ICU入室時の平均Hb 10.5-11.3 g/dL
Hb<12.0 g/dLの頻度 60-70%
Hb<9.0 g/dLの頻度 20-30%
以前から貧血ありの患者 13%

かつては重症患者であるがゆえに組織への酸素供給を目的に輸血をしてHbレベルを高めることが望ましいとされた時代もあった.しかしながら,敗血症患者に輸血をして酸素供給量を増加させても酸素消費量は増大しないことがいくつかの研究で示されており,酸素供給を上げるための輸血には意味がない.しかし,SSCG 2008が推奨するEGDTアルゴリズムではScvO2改善目的でHt≧30%を目標に輸血をするように推奨しており,この対処法は従来のHbレベル7.0 g/dLという輸血を制限した基準から外れることになる.このHt≧30%を目標とする輸血基準が死亡率改善にどれほどの重要性を持っているのかは明らかになってはいない.また,こうした患者においてどれくらいの期間,こうしたより高めの輸血基準を続けるべきなのかもわかっていない.現時点では,今後の検討でその意味が明らかにされるまでは,敗血症の初期においてはEGDTのアルゴリズムにのっとって輸血を考慮すべき,としかいえない.

■敗血症患者を含む重症患者では貧血となりやすい.しかし,それに対する輸血には危険性を伴うといったジレンマがある.重症患者の貧血の原因のひとつにエリスロポエチン(EPO)産生低下があるため,機序的にはEPO投与が有効と考えるかもしれないが,SSCG 2008ではEPOは推奨されていない.

■EPO投与についての多施設二重盲検RCTは3つあり,2つは死亡率に有意差なし,1つはEPO群が有意に死亡率を低下させたが,EPO群において血栓性合併症発症リスクが有意に高くなることも判明し,EPO使用は安全性という点で懸念されることとなった.これらの結果やEPO試験のメタ解析から,腎不全による赤血球産生能低下というEPOを投与すべき明確な理由があるのならば投与してもよいかもしれない.しかし,重症敗血症に合併する貧血の特異的治療法としてはEPOを使用すべきではない.

3.ドブタミン
■SSCGではScvO2を上昇させることを目的にドブタミン(DOB)の使用を推奨しているが,実は根拠となる文献がない.重症敗血症の初期では心室筋のβ1受容体作用は強く障害されているため,DOB投与によっても心収縮力の増加は得られにくく,むしろ低下する場合が多い.末梢組織の酸素需要が高まることによって自然にhyperdynamic stateになっている状態で心拍出量を必要以上に上げても予後は改善しないと言われている.しかもβ2受容体作用によって頻脈や血管拡張をきたし,心筋障害を助長したり昇圧の妨げとなり得ることも考えると,デメリットの方が大きい可能性がある.加えて,先述の通りDOAと同じ機序で,DOB 5γ以上で細菌増殖やバイオフィルム形成,免疫細胞のアポトーシスを誘導してしまうことから,DOBは使用しても5γ未満とすべきかもしれない.

4.CHDF
■血液浄化法の領域では,持続的血液透析濾過(CHDF)が30-40kDaの中分子量物質を血液中から除去できることから,各種メディエータの中でも様々なサイトカイン(分子量5-30kDa)を非選択的に除去できるとされ,敗血症に対するimmunomodulationの1つとして1990年代から施行されていた.このような,腎臓という臓器のサポートとしての血液浄化療法を行うのではなく,病因物質を除去して,病態そのものを改善するために血液浄化療法を行うことをnon renal indicationとよぶ.2000年代になって,血液浄化法によるhumoral mediator除去に関連した3つの理論が提唱された.

■1つ目は2004年に提唱された“peak concentration hypothesis”である.これには,SIRSとCARSの時相が異なるsequential theoryと同時期に混合してみられるparallel theoryがあり,CRRTにより各種mediatorが除去され,それぞれのピークを抑えることで破綻した免疫機構が改善する.たとえば,sequential theoryでは,炎症反応,あるいは抗炎症反応のみをtargetにステロイド,抗菌薬などの薬物療法で対応することも可能だが,炎症・抗炎症反応が混合するparallel theoryの状態ではステロイドは使いづらい.この場合は,腎補助療法は非選択的に各種メディエータの濃度を低下させないが,高い血中濃度ピークを削ることができ,それにより内因性のクリアランスで処理できるレベルに維持することで病態の進展を防ぎ,他の薬物療法に比較し有利である.この理論に引き続き,血液浄化法により血中だけでなく組織や間質のサイトカイン濃度を低下し得るとした“Honore concept”や,血液浄化法を用いた高メディエータ血症対策によってリンパ流量を増加させることが可能となり,結果的にmediatorを組織や間質から血中へ排出し得るとした“Alexander concept”が相次いで提唱され,広く受け入れられるようになった.

■海外では,急性腎傷害に対する腎補助療法のモードの差が予後に差を与えるというエビデンスは示されていない.ただし,理論的には中分子量の除去高率はCHDFよりもCHFの方が高く,海外ではCHFが第一選択となっていることが多い.しかしながら,CHF(≠CHDF)は重症敗血症/敗血症性ショック早期にnon-renal indicationで実施しても転帰が悪化し,サイトカインは除去できず,臓器不全の進展を助長し,人工呼吸,カテコラミン,腎代替療法などの臓器補助療法が必要な状態が遷延するという惨憺たる結果が2009年に報告されており,CHFは推奨されない.

■海外からの報告では,敗血症性ショックの患者に濾過量を増加させることにより循環が改善したと報告されている.また,正常腎の1日の糸球体濾過量に相当する180 Lレベルの6-9 L/hで4-6時間程度の短時間だけ限外濾過を行うshort-term high-volume hemofiltration(STHVH)により,敗血症性ショック症例で血圧の上昇とカテコラミン投与量の減量効果を示し,早期施行群で効果が高いことを示している[25].このことからCHDFは早期からの使用が望ましいものと考えられる.

■また,本邦ではPMMA-CHDFが行われている施設もあり,敗血症性ショックに対する効果として,血中IL-6濃度の低下とともに,血圧の上昇,尿量増加とともに,組織酸素代謝失調の指標となる血中乳酸値の低下が示されている.しかし,PMMA-CHDFの有効性を示した報告は敗血症性ショック以外のものも含めて全て症例集積研究のような低いレベルの小規模報告である.PMMA膜は他の膜に比べて透水性に劣り,濾過量を多くすることができないため,少ない濾過液流量を補うために透析液を併用したCHDFを選択する必要がある.

■本邦でPMMA-CHDFが有効だったとする報告では多くが「PMMA-CHDFが炎症性サイトカインを高率よく吸着して除去した」と主張している.しかし,PMMA-CHDFで実測されたIL-6のクリアランスはサイトカイン高値群でも8.9±9.0 mL/minであり,その効率は決して高くない.Sieberthらは,ある溶質の血中濃度を持続的血液濾過で低下させる条件として,①半減期が60分以上であること,②ふるい係数が1の病因物質で,③濾過流量は2L/hr以上必要であるとしている.この理論によれば,サイトカイン濃度を低下させるには最低でも約34mL/minのクリアランスを得る必要があり,PMMA-CHDFはこれらのクリアランス値を大きく下回っており,PMMA-CHDFが炎症性サイトカインの制御に有効であるという主張には説得力がない.
SSCGでもADQI(Acute Dialysis Quality Initiative)でもPMMA-CHDFについては言及されておらず,海外ではまったく評価されていない.そもそもPMMA-CHDFが血中サイトカインを低下させるかどうかについてすらRCTで実証されておらず,まず小規模なRCTであってもPMMA-CHDFがサイトカインの血中濃度を下げるということが実証される必要がある.さらに,生命予後をアウトカムするならば敗血症を対象にした少なくとも300例以上の大規模RCTが必要となる.
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# by DrMagicianEARL | 2011-12-06 14:27 | 敗血症 | Comments(0)

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