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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■敗血症領域において,あるいは呼吸器集中治療領域においてARDSはいまだに死亡率の高い疾患であり,有効な治療薬がない本疾患攻略は永遠の課題である.その治療にあたり,ARDSの診断基準などには問題点が多い.ARDS診療を的確に行っていくためにも,ARDSを診断基準からとらえるのでなく病態生理の観点から正確に見極める必要がある.ARDS診断基準の問題点を含め,以下にARDSの変遷を記す.

■急性呼吸窮迫症候群(ARDS:Acute Respiratory Distress Syndrome)が認識されはじめたのは,気道確保や人工呼吸が行われるようになった1950年代以降である.それまでは数時間で死亡していた急性呼吸不全の症例が,人工呼吸器を装着することで数日から数週間生存できるようになり,さらには回復するものもでてきた.急性発症でびまん性の両側性肺浸潤影を呈するこの疾患が見られるのは人工呼吸器装着患者に限られていたため,当初は人工呼吸器が原因と考えられ,“respirator lung syndrome”と呼ばれたこともある[1].ベトナム戦争従軍医師は,胸部以外の外傷で出血性ショックになった負傷兵の中に,ショックから蘇生した後に急性呼吸不全を起こし,死亡する者がいることに気づき,“wet lung”や“shock lung”,ベトナムの地名から“Da Nang lung”と呼んだ[2]

■1967年にAshbaughとPettyらによって,ARDSの疾患概念が初めて報告された[3].この文献では,外傷,脂肪塞栓,急性膵炎,肺炎,誤嚥など様々な原因により急性呼吸不全をきたした12人の症例を報告しており,酸素投与に不応性の低酸素血症,肺コンプライアンス低下などの臨床的特徴や,肺胞内ヒアリン膜形成や炎症細胞残屑などの病理学的特徴も記述している.このときすでに,「PEEPを使えば,肺虚脱を防いで酸素化が改善するので時間稼ぎにはなるが,原因疾患を治療しなければ予後は不良である」ことが指摘されていた.この報告により,初めてARDSの疾患概念が広く知られるようになった.その当時はまだARDSとも呼ばれておらず,文献タイトルも“acute respiratory distress in adults”となっていた.

■そして,AsgbaughとPettyによる1971年の発表[4]で“adult respiratory distress syndrome”と名づけられ,ARDSという略語が使われるようになる.これは当時既に知られていた“infant respiratory distress syndrome(IRDS)”に対比してつけられたが,その後,ARDSは成人・小児いずれにも起こることが分かり,アメリカ・ヨーロッパ・コンセンサス会議(AECC:American-European consensus conference on ARDS)により“acute respiratory distress syndrome”と統一され,2000年には急性肺傷害(ALI:Acute Lung Injury)が追加された.これが現在のALI/ARDSである.

■AECCによる診断基準が作られた頃,臨床研究では大規模な無作為比較試験(RCT:randomized controlled trials)の信頼性は高いと評価され,多くの検討が開始されだした.そこで,依然として治療成績が改善しないALI/ARDSに対しても大規模RCTを行うことにより,効果的な治療方法が見つけだされると期待された.しかし,そのためには多数の患者を登録する必要があった.そのため,単純で簡便な診断基準がAECCにより作り上げられた.これによりALI/ARDSに対して新しい人工呼吸様式や新しい薬剤による多くの大規模RCTを行われるようになった.しかし,その結果のほとんどはnegative dataであり,未だに有効な新しい治療薬は何一つ提示されていない.ひとたびRCTで否定的な結果が出た場合に,現状ではその治療方法についてのRCTが再び行われることは有り得ず,多くの治療方法が消えていった.

■このように,多くの医療関係者がARDSに対する様々な研究を行っているにもかかわらず,新たな治療法が見出されてこない原因の1つとして,AECCによるALI/ARDS診断基準[5]に問題がある.AECCの診断基準はあくまでもentry criteriaであり,あまりにも幅が広いため,逆に診断において確実性,正確性が問題とされる.その原因は炎症と病理学的診断が含まれていないことに集約される.AECCの定義は簡潔で使い易いが,その基準となる4つの項目は全て問題がある.これらの基準はすべて曖昧であり,わずか2つの陽性基準(両側肺の浸潤影,低酸素血症)と1つの陰性基準(心不全の否定)から作られており,診断基準とするには信頼性に乏しい[6]

■胸部X線所見やPaO2/FiO2比(P/F比)はprone positionによる体位変換や人工呼吸時のPEEPレベルなどの初期治療により容易にその値が変わる.胸部X線所見や酸素化能などはARDSの臨床経過を調べるには有用かもしれないが,予後に関するARDSの重症度の評価にはならない.このようなことから,AECCの定義はARDS患者の異なる背景を考慮に入れるにはあまりにも幅広い概念であり,不十分である[7].また,AECCの定義は肺での生理学的異常にのみ焦点を絞っているため病因の違いは無視されている.AECCの定義に合致する程度の肺の異常所見は,臨床においてはARDSに特有のものではない.

■AECCの定義は肺以外の臓器不全の存在をまったく評価していないことも問題である.ARDSは様々な原因疾患に由来する症候群であり,その背景は多岐にわたる.また同様に原因疾患が異なることからARDSという症候群へと発展する過程もそれぞれ異なることを考慮していないため,原因となる背景の臓器不全の程度や病態生理が反映されていない.診断時における肺以外の臓器不全の存在がARDSの予後を決定するのに重要な因子であると報告されている[8,9].ARDS患者で純粋に呼吸不全が原因で死に至る割合は9-16%に過ぎず,多くは他の臓器不全の進展により死亡するとされている[10-12]

■ARDSに対する多くの治療法が効果を示せない中,サブグループ解析を行うと多くのRCTでその治療効果が認められることがある.すなわち,AECCによるARDSの定義はARDS患者における治療効果を判定するには患者背景はあまりにもheterogeneousになりすぎている.その中で現在確認されていることは,pulmonary ARDSとextrapulmonary ARDSとは異なった病態であるということである.感染,ショック,外傷などによりARDSが生じる生化学的および炎症性メカニズムの解明により新しい定義が作り出されれば,新しい治療方法により反応する患者を特定することが出来るかもしれない.AECCの定義はARDSが臨床上確認された時点での生化学的,免疫学的,病態生理学的な過程に基づいたものではない.つまり,ARDSに至る過程のhomogeneityが欠如していることは異なった病態の患者を混同することになる.ARDSを導くinflammatory cascadeは複雑であり,多くの過程が関与して炎症反応が活性化されており,そのメカニズムは各々の初期の病態生理学的変化により異なっている.したがって,異なった過程がARDSを発生しているため,AECCで定義されたARDS患者が同じ治療に反応するとは限らないわけである.

■2011年10月5日にヨーロッパ集中治療学会(ESICM)で,ARDSの新しい診断基準が発表された.この診断基準ではPEEPがある状態でのP/F比を用いており,軽症,中等症,重症に分類して治療法を定め,ALIという名前は消えた.しかしながら,この診断基準も原疾患を考慮したものとは言えず,今後のさらなる改訂が待たれる.

■まずは,多彩な原因からARDSへと発展する過程を解明すれば,それによりARDSの重症度を決めることができる.また症状が変化していく臨床経過において,より早期に新しい治療方法の研究に登録することができ,さらに同一の過程を持つ適切な患者を登録することができる.そうすることにより特殊な治療に反応するであろう患者を標的にすることができる.また,予後を左右する臓器不全の存在は,登録基準とされるよりもend pointとして用いることができるようになる.ARDSの発症メカニズムを考慮した定義にはAECCのような簡便性は失われるかもしれないが,同一の免疫学的,生化学的状態から生じる病態を判別することができれば,より早期に同一のグループを選び出すことができる.このように厳密な定義を用いればRCTへの登録患者数は制限されるが,ARDSの治療成績を向上に繋がる可能性がある.実際にサブ解析やhomogeneousな症例集積報告がでてきている.

[1] Minn Med 1967; 50: 1693-705
[2] Circulation 1973; 47: 921-3
[3] Lancet 1967; 2: 319-23
[4] Chest 1971; 60: 233-9
[5] Am J Respir Crit Care Med 1994; 149: 818-24
[6] Crit Care Med 2003; 31: S276-84
[7] Crit Care Med 2000; 29: 232-5
[8] J Clin Invest 1990; 86: 474-80
[9] Am J Respir Crit Care Med 1995; 152: 1818-24
[10] Am J Respir Crit Care Med 2002; 165: 443-8
[11] Am Rev Respir Dis 1985; 132: 485-91
[12] Eur Respir J 1997; 10: 1297-300
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# by DrMagicianEARL | 2012-04-09 13:40 | 敗血症性ARDS | Comments(0)
■HIV感染によるニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)は有名であるが,実際のHIV患者の診療経験がなければ見逃してしまうことがほとんどである.地域にある当院においてもHIV感染によるニューモシスチス肺炎は年に1-2例あり,多くが多数の開業医や当院外来医師の診察・治療を経ても改善が得られず,呼吸器内科に紹介されてAIDSと診断されるパターンとなる.本邦は先進国の中でも唯一のHIV/AIDS患者が増加している国であり,日和見感染症を発症してはじめて発見されるAIDS患者「いきなりエイズ」が増加していることから,HIVにみられる真菌症を診療する機会も増加している.日常診療において遭遇する可能性は年々高まってきており,見逃しによる重症化はなるべく避けたいものである.

■以下の症例は小生が研修医1年目のときに経験し,院内学会で報告した非常に懐かしい肺炎症例である.考察内容は当時のままにしてあるため,若干内容が古いので注意されたい.小生が夜間当直の際に救急搬送され,そのまま担当医となり,診断・治療に至った.AIDS/ニューモシスチス肺炎の典型的パターンであり,珍しくもなんともないが,このケースがHIV感染者で発見される最も多いパターンであるにもかかわらず,多くの医師にいまだに見逃され,診断が遅れてしまう現状がある.

■HIV感染間もない時期に急性症状を発症することがあるが,多くは感冒とみなされ,自然寛解してしまうため,HIV感染が見逃されている.この時点での診断は困難かもしれないが,せめてAIDS発症によるPCPはきっちりと疑い診断すべきであろう.

46歳男性

【主 訴】呼吸困難

【現病歴】2009年8月から徐々に羸痩を自覚していた.同年9月15日より発熱あり,近医Aでの胸部レントゲン写真にてインフルエンザと肺炎の合併と診断され(インフルエンザチェック未施行),毎日点滴加療を受けていた.9月20日よりクラリスロマイシン内服にて経過を診ていたが,呼吸困難感は増悪.9月23日・24日に当院総合内科外来を受診され,セフォチアム塩酸塩の点滴を受け,クラリスロマイシン400mgを処方される.しかし,近医BでSpO2 87%と著明な低酸素血症を認めたため,当院に救急搬送され,呼吸不全で緊急入院となった.

【既往歴】1999年 A型肝炎

【生活社会歴】喫煙歴,飲酒歴はない.職業は寿司屋職人であり,アスベスト等粉塵曝露歴はない.ペットも飼っていない.妻,息子3人と同居している.アレルギー歴なし.

【家族歴】特記なし

【主な入院時現症】身長 169cm,体重 68kg.体温 38.3℃呼吸数 22/分脈拍 117/分,整.血圧 105/62 mmHg.SpO2(自発呼吸,room air)87%.眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄染もない.口唇チアノーゼ認めず.表在リンパ節を触知せず,皮疹も認めない.頚静脈の怒張を認めない.頚部血管性雑音聴取せず.甲状腺腫大を認めない.呼吸音は清明でラ音を聴取しない.心音に異常はない.腹部は平坦,軟で圧痛はない.腸蠕動音は正常.肝・脾を触知しない.神経学的異常は認めない.

【主要な検査所見】
尿所見:比重 1.020,蛋白(+),糖(-),潜血(-).
血液所見:赤血球 376万/μl,Hb 11.1 g/dl,白血球 6900/μl(好中球83.0%,好酸球0%,好塩基球0%,単球5.0%,リンパ球12.0%),血小板 17.8万/μl,PT INR 1.51,APTT 33.0秒,血漿フィブリノゲン 553.1mg/dl.
血液生化学所見:空腹時血糖 109 mg/dl,総蛋白 8.6 g/dl,アルブミン 3.1 g/dl,尿素窒素 23.7 mg/dl,クレアチニン 0.8 mg/dl,総ビリルビン 0.5 mg/dl,AST 40 IU/l,ALT 8 IU/l,LDH 330 IU/l,ALP 145 IU/l,γ-GTP 22 IU/l,CK 56 IU/l,Na 138 mEq/l,K 4.4 mEq/l,Cl 101 mEq/l,Ca 8.3 mg/d.
免疫学所見:CRP 17.1 mg/dl,CEA 0.71 ng/ml,CA19-9 1.00 U/ml,尿中肺炎球菌抗原(-).
動脈血ガス分析:pH 7.457,PaCO2 40.9,PaO2 57.3,HCO3 28.2,BE 4.0.
心電図:正常洞調律.
胸部X線写真:下肺野優位にびまん性浸潤陰影を認める.両側胸郭横隔膜角は鋭角.心拡大認めず.
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胸部CT:全肺野にびまん性の間質性浸潤陰影を認める.右下肺野に胸郭に平行な索状陰影を認める.胸水貯留なし.
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喀痰好酸球試験:陰性.

【経過】
CT画像から間質性肺炎と診断.比較的若年の間質性肺炎であることから,好酸球性肺炎,過敏性肺臓炎,特発性間質性肺炎,真菌性肺炎,膠原病等を鑑別にあげた.A型肝炎の既往があるため,性行為感染症のリスクと考え,過去の性交歴を聴取したところ,同性愛者ではないが,不特定多数の女性との性交歴があった.このことから,HIV感染によるニューモシスチス肺炎(以下PCP)を疑い,HIVスクリーニングを施行したところ,陽性であったため,引き続きWestern-Brot法による検査を施行した.
※当時,小生は既に関西HIV臨床カンファレンスに参加しており,A型肝炎既往を見てHIV感染を疑うこと知っていたため,救急搬送時の段階で性交歴を聴取した.逆に,もし当時同カンファレンスに参加していなければ,HIVを疑うのは第3病日以降になっただろう.

入院後は新たに抗生物質は投与せず,入院前に処方されたクラリスロマイシンは中止とし,酸素療法,プレドニゾロン40mg/日投与にてまずは経過観察とした.酸素は6Lマスクで95%以上をキープし,労作時呼吸困難は改善傾向となったが,38-39℃の発熱が持続していた.

第3病日にKL-6 1251 U/ml,β-D-グルカン 272.3 pg/mlと判明し,ニューモシスチス肺炎の可能性が高いと判断し,体重を考慮し,ST合剤12錠/日(スルファメトキサゾール4800mg,トリメトプリム960mg)投与を開始した.後日判明した喀痰中PCRにてPneumocystis jiroveci陽性,サイトメガロウイルスC7-HRP陰性であり,ニューモシスチス肺炎と確定診断した.
HIVに関しては,Western-Blot法にて再検し,陽性であったため,HIV感染による後天性免疫不全症候群と診断した.第5病日の採血にてCD4 9.3%,CD8 45.6%,CD4/CD8 0.20(転院先の検査ではCD4 47/μl)であった.

なお,抗核抗体,マイコプラズマ抗体,p-ANCA,c-ANCA,CH-50,免疫複合体Clq,クラミジア抗体,IgE RIST,SP-D,SP-Aは全て正常範囲であり,他の鑑別疾患は否定的であった.

ST合剤とプレドニゾロン投与により第3病日より36℃台に解熱し,呼吸困難感も改善し,SpO2は経鼻酸素2Lで95%前後で安定した.今後は専門施設による治療の必要があると考え,第7病日に他院に転院の運びとなった.転院先で肺炎治療が終了し,現在は外来通院で抗HIV療法を施行されている.

【考察】
ヒト免疫不全ウイルス感染後,無症候キャリア期を経て,CD4リンパ球の減少によって後天性免疫不全症候群を発症し,ニューモシスチス肺炎に至った症例である.

PCPの原因はPneumocystis jiroveciによって引き起こされ,AIDS,悪性腫瘍,白血病,膠原病,臓器移植などの基礎疾患を有し,抗癌剤,免疫抑制薬,副腎皮質ステロイドなどを投与された免疫不全宿主や未熟児(新生児間質性肺炎)に発生する,日和見感染症である.AIDSに伴うPCPは,しばしば前兆として,感冒症状を数週間にわたって示し,その後感染が顕在化することが多い.呼吸困難,空咳などが比較的頻度の高い臨床症状であるが,理学所見に乏しく,酸素療法に抵抗性のある低酸素血症があったことも本症例は矛盾しない.治療には第一選択薬としてST合剤(トリメトプリムを5mg/kg×3/day)があり,代替薬としてペンタミジンが治療に用いられるが,自然寛解はほとんどなく,1ヶ月生存率85%の予後不良疾患である.

HIVに感染するとCD4リンパ球が減少し,200/μL以下に減少すると高率にAIDSを発症するとされている.本症例では47/μLであり,AIDS発症には十分であった.

PCPの治療は,ST合剤(S:スルファメトキザゾール,T:トリメトプリム)を用い,トリメトプリム投与量5mg/kg×3/day×14-21daysとする.代替薬はペンタミジンを用いる.AIDSを合併し,かつPaO2 70mmHg以下の症例についてはステロイド(プレドニゾロン40mg/day)の投与が推奨されている.

HIV感染症に見られる真菌症として最も重要な疾患はPCPである.AIDS動向委員会報告では35.7%と最も高頻度であり,びまん性スリガラス陰影,β-D-glucan高値を見た場合はPCPを考慮し,HIV感染症の可能性を想起する必要があり,過去の性交歴,覚醒剤等注射歴など詳細な問診が重要となる.

AIDS動向委員会の報告を見ると,新規HIV,AIDS感染者は年々増加傾向にあり,本邦では1日あたり4人が,大阪では2日に1-2人がHIV/AIDSと診断されている計算となる.累積HIV感染者数は1万人を越えており,男女比は圧倒的に男性が多い.これは男性の同性愛者による感染が多いことが関係している.

【結語】
後天性免疫不全症候群の発症によりニューモシスチス肺炎をきたした1例を経験した.

HIVと診断された患者の多くがほぼ同時に日和見感染症を発症している.以前のHIVによる日和見感染症は同一患者で繰り返し発症するものであり,多くの場合はHIV感染が明らかになっており,治療を行うのはHIV診療に慣れている医療施設が多かった.ところが近年,AIDS患者はあらゆる医療施設で診療されることになり,またHIV感染が判明しないままに診断・治療が開始される場合が多く,必ずしも最善の治療とはならない可能性がある.

これまでは厚生労働省のHIV予防啓発が主体であったが,HIV/AIDS患者増加に伴い,これからは診断・治療も一般医師は知識として有する必要がある.専門施設に関係なく,あらゆる医療従事者がAIDS発症者の診断・治療に携わり得る時期に来ている.発症の背景が明らかでない日和見感染症をみた場合,詳しい患者の社会的背景の問診は勿論のこと,HIV抗体検査をルーティンにとり入れるべきである.
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# by DrMagicianEARL | 2012-04-01 12:42 | 肺炎 | Comments(0)
■MRSA感染症においては最も古いVCM(バンコマイシン®)を対照群として,新規抗MRSA薬でRCTが行われてきた.LZD(ザイボックス®)はその高い移行性によりMRSA肺炎において理論上はVCMより有効ではないかと言われており,RCTは複数存在する.しかし,臨床現場ではLZDはその薬価の高さから敬遠される薬剤でもある.LZDであればVCMより治療期間が短くなるため,結果的に医療費は安くなり早期退院に持ち込めるという意見もあるが,経済面まで考慮した報告はまだない.

■2件のprospective double-blind RCT[1,2]があり,院内肺炎の治療においてLZDはVCMの固定用量(1g1日2回)に比べて統計的に非劣性であることが報告されており,両試験を統合した事後解析においてMRSA患者のサブグループ解析を調べたとき,その生存率(LZD 80.0% vs VCM 63.5%, p=0.03)および治癒率(59.0% vs 35.5%, p<0.01)はVCM群に比してLZD群で有意に改善されていたと報告された[3,4]

■しかしながら,VCM群で低い有効率と高い死亡率となった原因は,これらのstudyではVCMの用量が最適化されていなかったためとの指摘もあり,問題があった.現行のガイドラインでは,初回のVCM投与量は体重に基づき,その後はトラフ濃度に応じて順次調整することが推奨されており[5,6],最適化された用量のVCMとLZDの比較を行うため,今回ZEPHyR(ゼファー)trialが施行され,報告に至った.

■なお,メタ解析も2010年,2011年に報告されており[7,8],2つともLZDとグリコペプチド系(VCM,TEIC)の臨床効果,死亡率に有意差なし,1つでLZDで副作用(血小板減少,消化管出血)が有意に高かったと報告されている.

■下にZEPHyR studyのAbstractを掲載しておく.本studyではMRSA院内肺炎の治療に関して,per-protocolにおける試験終了時の臨床効果(主要評価項目)はVCMよりLZDが有意に高かったと結論づけている.その他結果は
・治療終了時のMRSA陰性化率はLZD群がVCM群より30%高い
・全体的な有害事象および重篤な有害事象はLZD群とVCM群で同様であったが,腎毒性はVCM群でほぼ2倍多く認められた.
・投与開始3日目時点で15μg/mLを越えるVCMトラフ濃度は,いかなら臨床反応の改善とも関連性がなかった.
・LZD群の死亡率は以前の事後解析と同程度であったが,VCM群では低値であった.
・60日死亡率には有意差なしであった.

■本studyにおける問題点は以下の通りであろう.
・メインスポンサーはLZDの製薬メーカーであるPhizer製薬である.
・ITT解析ではなくper-protocol解析を用いているため,無作為化が担保されていない可能性がある.
・per-protocol集団のベースラインで人工呼吸管理,菌血症,糖尿病,腎疾患,心疾患がVCM群で多いにもかかわらず,ベースラインの有意差検定がなされていない.
・血小板減少がLZD群とVCM群とでさほど差がなかったのは,VCM群に菌血症が多かったことから,敗血症性DICを合併していた可能性がある.
・非劣性試験であるにもかかわらず,LZDがVCMより臨床効果が高いという,優越性を強調してしまっている.
・Kaplan-Meier曲線が本文に掲示されていない.

■本studyを片手にPhizer製薬のMRが医師にLZD(ザイボックス®)を推奨してくることは容易に想像されるが,上記の問題点の通り,そう簡単にLZDがVCMよりよいと結論づけられるものではない.実際,臨床効果が得られるにもかかわらず60日死亡率に有意差がなかったのはインパクトファクターに欠ける.これに関しては,本文考察やメーカー側が「VCM用量を最適化したこと,院内肺炎患者のケアの質が全体的に改善されていること,VCM無効に対するサルベージ療法にLZDがしよう可能であったことを反映している可能性がある」と主張している.その一方で,60日死亡率は掲示しているのにKaplan-Meier曲線を掲示していないことはおおいに疑問が残る.そこで,Kaplan-Meier曲線を入手したところ,LZD群とVCM群の曲線はほぼ重なっており,差はまずないに等しいことが分かる.
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この曲線が本文に掲載されていないのは,メインスポンサーのPhizer社の要望により意図的に隠されたのではないかという疑いが残る.

Wunderink RG, Niederman MS, Kollef MH, Shorr AF, Kunkel MJ, Baruch A, McGee WT, Reisman A, Chastre J.
Linezolid in methicillin-resistant Staphylococcus aureus nosocomial pneumonia: a randomized, controlled study. (ZEPHyR study)
Clin Infect Dis. 2012 Mar 1;54(5):621-9. Epub 2012 Jan 12.

Abstract

BACKGROUND: Post hoc analyses of clinical trial data suggested that linezolid may be more effective than vancomycin for treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) nosocomial pneumonia. This study prospectively assessed efficacy and safety of linezolid, compared with a dose-optimized vancomycin regimen, for treatment of MRSA nosocomial pneumonia.

METHODS: This was a prospective, double-blind, controlled, multicenter trial involving hospitalized adult patients with hospital-acquired or healthcare-associated MRSA pneumonia. Patients were randomized to receive intravenous linezolid (600 mg every 12 hours) or vancomycin (15 mg/kg every 12 hours) for 7-14 days. Vancomycin dose was adjusted on the basis of trough levels. The primary end point was clinical outcome at end of study (EOS) in evaluable per-protocol (PP) patients. Prespecified secondary end points included response in the modified intent-to-treat (mITT) population at end of treatment (EOT) and EOS and microbiologic response in the PP and mITT populations at EOT and EOS. Survival and safety were also evaluated.

RESULTS: Of 1184 patients treated, 448 (linezolid, n = 224; vancomycin, n = 224) were included in the mITT and 348 (linezolid, n = 172; vancomycin, n = 176) in the PP population. In the PP population, 95 (57.6%) of 165 linezolid-treated patients and 81 (46.6%) of 174 vancomycin-treated patients achieved clinical success at EOS (95% confidence interval for difference, 0.5%-21.6%; P = .042). All-cause 60-day mortality was similar (linezolid, 15.7%; vancomycin, 17.0%), as was incidence of adverse events. Nephrotoxicity occurred more frequently with vancomycin (18.2%; linezolid, 8.4%).

CONCLUSIONS: For the treatment of MRSA nosocomial pneumonia, clinical response at EOS in the PP population was significantly higher with linezolid than with vancomycin, although 60-day mortality was similar.

[1] Clin Infect Dis 2001; 32: 402-12
[2] Clin Ther 2003; 25: 980-92
[3] Chest 2003; 124: 1789-97
[4] Intensive Care Med 2004; 30: 388-94
[5] Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 388-416
[6] Clin Infect Dis 2011; 52: 285-92
[7] Crit Care Med. 2010; 38: 1802-8
[8] Chest 2011; 139: 1148-55
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# by DrMagicianEARL | 2012-03-30 17:01 | MRSA | Comments(0)
2012年2月24日ICU看護師対象DIC勉強会概要(2)

2.DICの診断
 DICの診断基準は一般的なものから産科・新生児などまで様々であるが,特に重要なのは急性期DIC死んだ基準,厚生省DIC診断基準,ISTH DIC診断基準の3つである.急性期DIC診断基準は感度が高く,早期からのDIC診断・治療に直結する.敗血症性DICでは特に有用であるが,血液疾患由来のDICには不向きである.また,特異度は低いので,DIC以外の疾患の鑑別は必ず必要である.厚生省DIC診断基準は特異度は高く正確であるが,項目が煩雑であり,早期診断にはむいていない.ISTHのDIC診断基準は海外が厚生省DIC診断基準をほぼ真似て作成したものである.

 敗血症性DICでは近年SIRS-Associated Coagulopathy,略してSACと呼ばれる概念が取り入れられている.これは,SIRSという病態においてDICに進展していく前病態の概念であり,DICが臓器障害を発症しているのに対し,SACはまだ臓器障害を発症していない状態である.病態進行に伴ってSAC,DIC,MODSと進展していくが,厚生省DIC診断基準はDICの時点を診断しているため,MODSへの進行を許してしまいかねない.一方,急性期DIC診断基準はDICに至る前のSACの状態を診断することが可能であり,これにより臓器障害を併発する前に治療することで病態からの改善が見込めるものである.

 DICにおいてよく指標とされるのは血小板である.しかしながら,血小板の低下は本当にDICか?急性期であってもDIC以外に血小板が減少する病態は多数ある.血小板好中球複合体形成による肺と肝臓に集積・消費,ADAMTS13不足(もしくは好中球エラスターゼ増加),骨髄抑制,CHDF,薬剤性(ヘパリン製剤,ザイボックス®など),凝集による偽性低値,血液疾患(血球貪食症候群,再生不良性貧血,白血病,特発性血小板減少性紫斑病など),ウイルス感染症,膠原病,低栄養などである.よってこれらの鑑別を行わず,DICでないのにDIC治療を開始すると,無駄な医療費が増大し,出血のリスクも増加,生体防御レベルの凝固が阻害され,病原体やhistone,HMGB1などが全身に播種し,血小板減少の真の原因が解決されないなど多数の問題が出てくる.DICはDIC診断基準,TATを用いて正確に評価することが必要である.

3.DICの治療の意義
 DICの治療薬の話に移る前に,DIC治療の背景について触れておかねばならない.海外ではDICは治療せず,原疾患治療が全てとされる.このため,海外ではDICを知らない医師がほとんどである.また,海外ではDICの研究はほとんどなされておらず,日本はDIC先進国といえる.しかしながら,DIC治療薬が生存率を改善したという大規模試験によるエビデンスは存在しない.このため,日本でもDICを治療する施設と治療しない施設に分かれている.

 DICの生存率は本当に改善しないか?これについては,DIC治療薬のRCT(ランダム化比較試験)のプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性がある.DIC治療薬はDIC離脱率でよい成績を残しているが,原疾患治療がまともになされず,結局死亡率改善に結びついていないことも考えられる.また,28日ではなく90日で死亡率を評価すると有意差がでる可能性もある.敗血症・DIC由来の臓器不全は28日くらいなら生存していることはしばしば経験されるが,90日という長い期間で見ると差は歴然である.これらのことから,原疾患治療までしっかりとプロトコルに組み入れた臨床試験を行わなければ意味がないと思われる.一般的に臨床試験は多施設で行う方がより質が高い研究となるとされてはいるが,プロトコルが曖昧になる要素が含まれる以上,このような集中治療領域の試験を本当に多施設で行うべきかどうかについてはおおいに疑問が持たれるところではある.そういう意味では単施設の研究報告も吟味する必要がある.

 加えて,これは噂ではあるが,海外のエビデンスをくつがえすような日本発の薬剤は雑なプロトコルを組まれて臨床試験で効果が否定されることが多い.逆に,海外ではエビデンスを作るためにプロトコルを捻じ曲げた臨床試験を行うことがある.よい例は昨年10月末に販売中止となった,敗血症における活性化プロテインC(APC)製剤であろう.APC製剤の製薬メーカーはSSCGのメインスポンサーであったことは暗黙の事実である.また,1990年前後,世界的に有名な注中治療領域の複数の医学誌においては,日本人というだけで一部分野においては論文投稿が拒絶されていたこともあるとのことである.我々はついつい海外のエビデンスに目を向けがちであるが,海外のエビデンスといえどもその査読には十分注意が必要である.

 DIC治療がはたしてエビデンスがあるものか判断するのは難しい.なぜなら国内では既にDICは保険適応下で治療することが慣習化されており,比較試験を行うにもプラセボ群を設定することができないからである.しかしながら,集中治療領域における各種の治療の積み重ねにより,1つ1つの項目の有意差は少なくても,それらを組み合わせれば生存率は有意に改善するものと考える.

4.DICの治療薬
 各種のDIC治療薬を順に見ていく.ヘパリン系には未分画ヘパリン(UFH),低分子ヘパリン(LMWH),ヘパラン硫酸(HS,別名ダナパロイドナトリウム)があり,Xa因子,トロンビンを阻害する作用がある.UFHは安全域が狭く,効果についても疑問があり,あまり使用されなくなってきている.LMWHは安全性がUFHより高いが,効果はUFHと同様に弱い.HSはヘパリンに代わって新たに登場したヘパリン類似物質であり,比較的新しいためエキスパートコンセンサスではエビデンスレベルは低いものの,安全かつ効果的で,軽症DIC症例において使用されている.

 合成プロテアーゼ阻害薬にはメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)とメシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)があり,Xa因子,トロンビン,エラスターゼに作用する.ほとんどエビデンスはなく,経験的に効果があるとして頻用されている.近年では効果に疑問が持たれ始め,アンチトロンビン製剤,リコンビナント・トロンボモデュリン製剤の登場により特定の場面以外では使用されなくなってきている.GMは抗凝固作用のみであり,敗血症性DICに向いているとされている.NMは抗凝固作用に加え,プラスミンにも作用することで抗線溶作用両方を有するため,敗血症性DICには使用は推奨されない.出血を伴う線溶亢進型DICでは有用かもしれない.なお,GMはCHDFや透析でかなり吸着されてしまう.副作用としては高ナトリウム血症,低カリウム血症が比較的多く見られる.

 アンチトロンビン製剤(AT)はリコンビナント・トロンボモデュリン製剤が出る前のエキスパートコンセンサスにおいて最も推奨度が高い治療薬であり,出血があっても使用可能である.臨床適応はATⅢ活性が70%未満であるが,近年リコンビナント・トロンボモデュリンの登場で50-70%であれば投与不要とする考え方もある.大規模試験であるKyberSept trialでは,非DIC症例も含めた敗血症患者に対するAT製剤の投与において,全体の死亡率は改善しなかったが,DIC症例に限定したサブ解析で死亡率が改善しており,唯一これが質の高いエビデンスといえる.ただし,あくまでもサブ解析であるため,追試が必要である.ヘパリン製剤との併用では効果が減弱してしまうため併用はすべきでない.ATはCHDFや透析でかなり吸着されるようである.なお,投与前にアルブミン製剤を投与することで効果増強の可能性が示唆されている.ATを投与すると,トロンビンと結合してTATを形成することでDICを治療することは先述の通りであるが,DICでない症例でATを投与してしまうと,TATが上昇してしまい,TATで判断できなくなるリスクがある.

 リコンビナント・トロンボモデュリン製剤(rTM)は最も新しいDIC治療薬であり,良好なDIC離脱率を有する.トロンビンと1対1で結合し,プロテインCを活性化して活性化プロテインC(APC)に変換し,APCはVa因子やVIIIa因子に作用し,また,抗炎症反応も示す.また,HMGB1も阻害するとされている.ヘパリンと比較しても有意ではないが6%前後の死亡率改善が報告されている.その作用からARDSでも効果が期待されているが,治療効果があったとするRCTはない.トロンビン濃度に応じて作用するため,出血は起こりにくいとされているものの,半減期が長く,出血症例に対しては使用できない.また,肝障害や過去に出血の既往がある患者においても出血リスクが高いため注意が必要である.現在海外進出しており,米国でPhaseⅡが終了,PhaseⅢに移行するとのこで,大規模RCTによる生存率改善の可能性が期待されている.

 その他治療薬であるが,新鮮凍結血漿は超重症DICや血小板低下遷延のDICにおいてADAMTS13補充目的で適応となる.超重症かつAT活性が50%未満であれば最初からの投与も検討すべきかもしれない.

 トレチノイン,別名全トランスレチノイン酸(ATRA)は急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬であるが,APLによるDICに対しても著効する.これは,APLに対する原疾患治療であると同時に,TFや線溶系を亢進させるアネキシンⅡを阻害することで凝固・線溶を両方ともブロックし,短時間でDICから離脱でき,極めて有効である.

 トラネキサム酸(TA)はプラスミノゲンを阻害し,抗線溶作用がある.ただし,DICにおいては抗線溶薬は原則禁忌である.これは全身血栓症発症による死亡例が多数報告されているためで,特に敗血症性DICやAPLでのATRA投与中の患者への投与は極めて危険であり,絶対禁忌となっている.一方で,外傷性出血性ショックにおけるDICでは有効であるとの報告が相次いでいる.DICにおいて使用する際は以下の条件が全て満たされている場合に限定される.
① 線溶亢進型DICで間違いなく,重症出血コントロールができずに苦慮している症例
② 必ずヘパリン類(ヘパリン系,ダナパロイドNa)との併用下であること
③ 専門家に日々コンサルトできる状態にあること

5.DICの治療戦略
 DICの治療薬についてはエキスパートコンセンサスがあるが,実際の治療に関する明確な使用ガイドラインは存在しない.当院においても血液内科が作成した院内DIC治療ガイドラインもどの疾患にどの薬剤をどう使用し,いつやめるかの明示はされていない.

 ただ,各施設で共通した考え方がある.原疾患治療が大前提であること,軽症例では無治療でもよいこと(とりわけ感染症のように原疾患治療が可能な場合はほとんどは抗DIC治療薬を使用せずに改善する),出血例ではrTMは使用しないがATは使用できること,重症例ではrTMやATを積極的に使用すること,万が一出血してもTAは原則使用してはならないことなどである.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 院内DIC診療ガイドラインには使用のプロトコルなどの記載は一切なかったため,院内敗血症診療ガイドラインでは各薬剤の使用プロトコルを記載させていただいた.治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばGMを選択考慮としている.これは当院にHSがないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければ(DD迅速キットはあるが,ATⅢ活性は外注であるため)rTMを第一選択とし,これにATやFFPを加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 rTM製剤市販後全例調査の解析がなされ,抗DIC治療薬の併用と出血についての報告があった.rTM製剤単剤での出血率は5.7%であり,DIC治療薬2剤併用ではほとんどの組み合わせで出血率の有意な上昇はなかったが,LMWH併用群でのみ出血率が有意に上昇した(12%).3剤併用ではどの組み合わせであっても出血率が有意に増加しており(8-12%),多数の薬剤の併用はハイリスクとなるため安易に選択すべきではない.

 DIC治療をいつやめるかについては全く結論が出ておらず,医師それぞれで異なる.血小板が改善したらやめるという方法はかなり投与期間が長期化するため無駄が多くなる可能性があり推奨されない.最もよく使用されている目安は急性期DIC基準スコアが3点以下になったらやめるというものである.なお,その他の基準として,急性期DIC基準スコアが低下傾向を示し始め(3点以下でなくてよい),かつ原疾患治療が行われていて,末梢循環不全が解除されているとき(SOFA score改善傾向,高乳酸血症,代謝性アシドーシスが改善傾向)であれば中止するという基準を私は推奨している.これにより投与期間が短縮され,コスト減少,出血リスクが軽減される.現在この基準での臨床データを当院で集積中である.なお,原疾患治療がすぐに完了できないような場合にはこの方法は不向きである.

 最後にまとめになるが,DICは治療よりもまず予防である.そのために,原因となる末梢循環不全徴候を見逃してはならない.バイタルの変動,乳酸値などを念入りにチェックすべきである.集中治療とは現在目の前の病態を治療するのみならず悪化を予防することが重要であり,患者に重症感がなくとも事前に徴候を察知して食い止め,あたかも患者に何も起こっていなかったかのように経過する,これが集中治療の醍醐味であると考える.DICを見るときは,線溶系抑制型か亢進型かを判別し,その道具として原疾患,FDP,DD,PICを解釈する.出血徴候を見逃さないことは当然だが,臓器症状(臓器不全)は患者をぱっと見ただけでは分からない.推測する上でもSOFA scoreは有用であり,是非活用すべきである.
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# by DrMagicianEARL | 2012-03-14 12:49 | 敗血症性DIC | Comments(0)
2012年2月24日に当院でICU看護師対象のDIC勉強会を開催し,講義をさせていただいた.その概要を掲載

1.DICの病態生理

 DICは播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation)の略であり,血液凝固反応,血小板が活性化され,全身の細小血管内に微小血栓が多発し,多臓器の微小循環障害,機能不全を生じる.また,消費性凝固障害や線溶活性化に伴う出血傾向をきたす.「Death Is Coming(死がやってきた!)とも揶揄されていたこともある.

 平成10年度の厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会研究業績報告書によると,DICの原因は絶対数でみると敗血症が最も多く,ショック,非ホジキンリンパ腫,呼吸器感染症があとに続く.発症率でみると急性前骨髄性白血病をはじめとして白血病がDICを高率に発症することが分かる.敗血症での発症率は31.3%である.また,ARDSでもDICは比較的多いことが特徴である.しかし,これらの疾患だけがDICを起こすわけではない.実際にはあらゆる生体侵襲はDICを引き起こしうる.ときにインフルエンザ,心不全,間質性肺炎などでもDICを発症することがある.

 DICでは血が固まって血栓を形成する凝固系と血栓が溶け易くなる線溶系が共存している.凝固系亢進により臓器に血栓が詰まれば臓器不全が,また,線溶系亢進により血が固まりにくくなって出血傾向が生じる.このように,凝固と出血という相反する病態が混在していることがDICの病態の難しさを表している.

 ではDICは何が引き金で起こっているのか?これは活性化されたマクロファージや細胞傷害により細胞から放出される組織因子(TF:Tissue Factor)である.すなわち,大量の細胞が傷害されればTFも大量に放出され,DICの原因となる.

 DICはTFから始まる凝固カスケード反応によってトロンビンが発生し,フィブリン血栓が形成されて進行する.その過程で,アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)はトロンビンと結合し,トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)を形成し,フィブリン血栓形成を阻害する.これがアンチトロンビン製剤(ノイアート®など)をDIC治療に用いる理由である.なお,DIC診断基準スコアがどうであろうとも,TATが正常値であればその1点のみでDICは否定される.
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 この凝固カスケード反応からのトロンビンを介した凝固反応だけでDICは本当に生じるのか?という疑問が以前から言われていた.そこで発見されたのがヒストン,HMGB1(high mobility group box1)の発見である.ヒストンは染色体を構成する蛋白質で,特に敗血症性DICで関与し,敗血症における主要な増悪因子であり,強い細胞傷害性と血小板を強力に凝集させる作用がある.HMGB1は通称「死のメディエーター」と呼ばれ,臓器障害晩期に死んだ細胞から放出され,次々と周囲の細胞をアポトーシス(プログラム細胞死)に陥らせるメディエーターで,HMGB1とトロンビンが共存すると著しく凝固活性が高まるとされている.また,HMGB1がプロテインC経路を抑制し,単球から組織因子(TF)産生を刺激することでさらに凝固反応が進行する.ただし,この2物質は生体にとって必要なものでもあり,作用の仕方しだいで体に有害なものとなる.

 DICでは凝固反応に対抗する線溶反応が生じている.この線溶系は血栓だらけにならないための生体の防御反応である.フィブリン血栓ができると,組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)によりプラスミノゲン(PG)が活性化されてプラスミン(PM)が生成され,このPMがフィブリン血栓を溶解する.一方,このtPAを阻害するのがプラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI-1)である.敗血症病態ではPAI-1が異常高値をとり,tPAを強く阻害する,すなわち,敗血症では線溶系が亢進しない.また,α2-プラスミンインヒビター(α2-PI)はPMと結合することでPM-α2PI複合体(PIC)を形成し,これが線溶系亢進のマーカーとなる.敗血症病態ではこのPICは2μg/mL前後しか上昇しない.
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 DICにおいて日常診療でよく見る検査項目はFDPとD-ダイマー(DD)である.血栓が形成される過程ではフィブリノゲンからフィブリン,不安定フィブリン,さらにD分画2つとE分画1つが架橋形成された安定化フィブリンとなっていく.これらをPMが分解することになる,すなわちFDPはフィブリン/フィブリノゲン分解産物の総称である.この分解産物はどの段階でのフィブリンを分解するかによってできるものが異なる.フィブリノゲン,フィブリンモノマー,不安定フィブリンが分解されるとD分画,E分画の1つ1つに分解される.一方,安定化フィブリンは架橋構造により安定化しているため,分解されてもD分画2つとE分画1つの組み合わさった単位は残る,すなわち分解されたものがD分画を2つ必ず有するため「D-ダイマー」と名づけられている.よって,DDはFDPの一部ということになる.
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 FDP,DDを線溶系亢進型と抑制型(敗血症)の観点から見るとどうなるか.線溶亢進型DICではPM生成が亢進しており,フィブリノゲンが安定化フィブリンに至るまでにPMに分解される,すなわち安定化していない状態で分解されるためD分画やE分画の1つ1つの単位は多量に形成されるが,架橋形成された安定化フィブリンは少なく,DDはあまり上昇しない.よってFDPは増加し,DDの増加量は軽度にとどまるため,FDP/DD比が3を越えることが多い.

 敗血症のような線溶系DICではPM生成が抑制されているため,フィブリノゲンから安定化フィブリンに至るまであまり分解されず,安定化フィブリンが蓄積される.そのためフィブリノゲン~不安定フィブリンよりも安定化フィブリンの方が分解される量が相対的に多くなるため,FDP全体に占めるDDの割合は大きくなり,FDP/DD比は3以下となることが多い.ただし,PMそのものが抑制されているため,FDP,DDともそれほど高値はとらない.

 敗血症病態では別の機序でも血小板減少をきたすことがある.血小板を凝集させる因子にvon Willebrand Factor(vWF)がある.このvWFを制御しているのがADAMTS13(a disintegrin-like and metalloprotease
with thrombospondin type 1 motif13)である.DICの経過で血小板減少が遷延しているケースにおいてはADAMTS13が不足している可能性がある.これは血栓性血小板減少症(TTP)と同様の病態が生じていることになり,安易な血小板輸血は血栓形成を助長させるため危険である.DICに対する血小板輸血が慎重投与とされるのはこれが理由である.このような病態の場合は新鮮凍結血漿輸注によりADAMTS13を補充することが優先される.なお,ADAMTS13減少の理由として好中球エラスターゼ(NE)による分解が大きな役割を果たしている.

 NEは一般的にはATⅢやPG,ADAMTS13を分解することによりDICでは凝固作用として働くとされる.しかし,一方でフィブリン/フィブリノゲン分解も一部関与しており,ときにこの作用が強く出ることにより線溶作用が大きくなることがある.敗血症病態でNEが関与した線溶系亢進パターンでは通常は上昇しにくいFDPが上昇,すなわちE分画(E-XDP)が多量産生され,このE-XDPとNEが正の相関を示すことが報告されている.

 このE-XDP濃度で死亡率を見たところ,E-XDPが正常値である場合と比較して,E-XDPが高値(=NEが高値)の場合は死亡率が2.0-2.5倍と上昇する.しかし,E-XDPが低値(=NEが低値)をとる場合は死亡率が4倍以上となった.すなわち,NEは必ずしも抑制すればいいというわけではなく,あくまでも至適濃度にコントロールする必要があり,過度の抑制は逆効果となる可能性を考慮する必要がある.このことから,NEを抑制するウリナスタチン(ミラクリッド®)やシベレスタット(エラスポール®)を安易に投与すべきではない.実際,DICではないが,ARDSに対するNE阻害薬のシベレスタット(エラスポール®)投与により逆に死亡率が上昇したというSTRIVE studyもある.

 DICという病態があるため,重症感染症において凝固は非常に悪いイメージを持たれがちであるが,凝固にも利点となる役割がある.重症感染症においては血小板が菌体成分を認識し,好中球に結合して複合体を形成する.好中球は血小板により活性化され,好中球が自らを犠牲にして直ちにNETsという染色体の粘稠な網を放出し,病原体を捕捉,殺菌する.このNETsに含まれるヒストンが血小板を凝集,微小血栓を形成する.すなわち,凝固はもともとは生体防御反応であり,NETsなどによる効率的な病原体除去と,微小血栓での局所封鎖による病原体やHMGB1,ヒストンなどが全身に拡散するのを防止する.これが過剰になるとDICに至る.

 近年では敗血症,DICにおいて凝固と炎症のCross-talkという概念が定着してきている.すなわち,凝固,炎症は生体防御反応として微生物から身を守るための防衛手段であるが,この2つが相互作用,Cross-talkによって増強されてSIRS(全身性炎症反応症候群)とDICとなる.さらに,CARS(代償性抗炎症反応症候群)と凝固消耗による免疫力低下もきたし,多臓器不全へと病態が悪化していくことが知られる.

 DICでは臓器不全や出血が生じることは今や常識であるが,それ以外に何がまずいのか.
① 血小板が消費され,免疫力が低下する(血小板は重症感染症においては重要な病原体認識細胞).
② 抗菌薬などの薬剤が血栓形成により病変部位に到達しにくくなる.
③ 局所で発生した有害物質(HMGB1やhistone,活性酸素種など)が全身に播種されてしまう.
④ 炎症とのCross-talkによりさらに炎症・凝固が増強されてしまう.
などが挙げられる.
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# by DrMagicianEARL | 2012-03-13 17:03 | 敗血症性DIC | Comments(0)

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