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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

 平成24年2月28日~3月1日の3日間,千葉にある幕張メッセで第39回日本集中治療医学会学術集会が開催され,小生も2日目と3日目に参加してきた.
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医療機器の展示場.奥にはドクターヘリもあり,一番奥にポスター展示あり.某E社のカテーテルモニターは相変わらずすごい.当院にも是非とも欲しいが,おそらくは総務の壁にぶちあたる.
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ケベック生まれの最新ドクターヘリBell477
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今回参加した最大の目的は日本版敗血症ガイドラインの概要発表.これについては後日アップする.

今日は敗血症関連の一般演題ポスターの中から気になったものをピックアップ.

デクスメデトミジン投与により血圧上昇をきたした糖尿病の1症例
浜松医科大学医学部附属病院集中治療部 小林充先生,他 
 重症敗血症治療で鎮静の重要性は既にSSCGで提示されており,呼吸抑制の少ないデクスメデトミジンもよい適応となり得る.

 副作用としては低血圧が生じるが,この演題症例では逆に血圧上昇という現象が起きている.中枢性交感神経抑制作用のα2A受容体と末梢血管収縮作用のα2B受容体があり,臨床使用量ではα2A作用が働くため,低血圧が生じる.しかしながら,血中濃度が高まるとα2B作用が働きやすく,また,他の鎮静剤併用や糖尿病による末梢神経障害の関与などによりα2B作用がでたと考察されている.α2B作用が働く場合,α2Aより速く作用が出現すると言われている.

エンドトキシン吸着療法を用いない腹腔内感染症による敗血症性ショック患者の治療成績
岡山赤十字病院麻酔科 川上直哉先生,他
 敗血症性ショックでは輸液療法が初期蘇生の中核となるため,心機能評価が重要であることはSSCGに記載がなくとも近年集中治療領域では既に多くの医師が感じていることであり,敗血症そのものによる心筋障害が生じることも加味すると心臓超音波検査が必要となることは容易に理解可能といえる.小生の病院の敗血症診療ガイドラインでも既に心臓超音波検査を組み込んでいるし,今回発表となった日本版敗血症性ガイドライン概要でも心臓超音波検査が組み込まれている.なお,PMX-DHPについてのまとめはこちら

 このポスター演題では岡山赤十字病院独自の重症敗血症治療の蘇生バンドルが提示されていた.SSCGとの違いは,頻回の心臓超音波検査で前負荷と左心機能評価を行い,平均血圧を80以上にコントロール,カテコラミンはドパミンかノルアドレナリンかバソプレシンを用い,尿量は1mL/kg/Hを目標に,フロセミド静注or 10mg/hの持続静注,もしくはカルペリチド≦0.017μg/kg/minで投与するとしている.これによりPMX-DHPを使用せずに腹腔内感染症による敗血症性ショックの治療成績は死亡率16.7%となっている(予測死亡率は61.4%).心機能評価下での循環動態の厳重把握管理の重要性が予後に直結することがよく分かる演題である.

当院におけるプロカルシトニン半定量法の有効性についての検討
岐阜大学医学部附属病院高度救命救急センター 谷崎隆太郎先生,他
 小生の病院はプロカルシトニンを採用しておらず,使用経験がないためあまりプロカルシトニン関連の文献は読みきれていないが,このポスター演題が示すのはプロカルシトニンの過信はよくないということであろう.なお,本演題とは別の演題『プロカルシトニン異常高値を示した症例の検討(横浜労災病院中央集中治療部 青木真理子先生,他)』では感染症以外でもSIRSやショックでもプロカルシトニンが異常高値をとったと報告されている.

 プロカルシトニン半定量では尿路感染症,腹部感染症ではそれぞれ91.7%,100%と陽性率が高く,肺炎80%,BSI 73.8%,CRBSI 81.1%とまずまずであるものの,皮膚軟部組織感染症は59.4%と非常に低い.また,血液培養陽性例でも24%はプロカルシトニン陰性であった.グラム陰性菌では陽性率91.7%だが,グラム陽性菌では陽性率53.0%であった.グラム陽性球菌感染症や皮膚軟部組織感染症でプロカルシトニンを過信すると感染症を見落とす可能性がある.

敗血症に関する認知度
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座麻酔科学部門 篠原貴子先生,他
 敗血症の定義や死亡率について,卒後5年以内の医師,看護師,医学生,看護学生,一般市民でどれだけの認知度があるかを調べた演題である.敗血症という名前については医師・看護師は100%であるのに対し,一般市民は50%弱.敗血症の定義については医師70%,看護師60%弱であった.重症敗血症の死亡率については医師の認知度は60%弱であった.

 この演題を見た印象は,「医師の認知度がよすぎる」である.実際,小生の病院では院内敗血症診療ガイドラインを発表するまで敗血症の定義を言える医師はほとんどいなかったし,SIRSやSSCGの名前すら知らない医師がほとんどであり,知っている医師は卒後間もない研修医だった.一方,年配の医師ほど知らない.これは他の医師も感じていたことで,とある先生が演題発表の際に「医師を卒後5年以内としているが,もっと上の医師でアンケートをとるべき」と指摘していた.

 なお,今後,sepsisの定義が変わる可能性がある.実際に初期蘇生を必要とするのはsevere sepsis,septic shockであり,そうでないsepsisに関してはsepsisから切り離すべきとする意見が海外でも出始めている.ヨーロッパ集中治療医学会でもARDSの診断基準や重症度が変わり,ALIの名称が消えたという流れから,今後sepsisについても名称や定義の変更が進んでいくのかもしれない.

■■トロンボモデュリンアルファ投与による活性型プロテインCの変化
日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野 千葉宣孝先生,他
 APCを測定してrTMの効果を見たもので,rTM投与群が有意にAPC濃度が増加していた.ただ,小生としてはむしろ別のところが気になった.rTM投与群に比して非投与群はAPACHE-Ⅱスコアが高く,重症例が多い.rTM投与前のAPC濃度を見ると,非投与群の方が明らかに高いのである.研究目的が違うため当然ではあるが考察でこのことには触れられていなかった.重症例ほどAPCは通常減少するものと思っていたが,この結果は何を意味するのかまだ不明である.単に少数解析であったからというだけかもしれないが,検証にはより多くのデータが必要であろう.

Circulating Endothelial Cell解析の確立と発展
名古屋大学大学院医学研究科救急・集中治療医学分野 杤久保順平先生,他
 健常人においてCirculating Endothelial Cell(CEC)を計測した演題.CECはAMI,心不全などの様々な心血管疾患,2型糖尿病,血管炎疾患群,リケッチア感染症,サイトメガロウイルス感染症,敗血症性ショック,癌,リンパ腫,腎移植,TTPなど多くの疾患で増加が報告されている.本研究ではCECがSIRS-associated Coagulopathy(SAC)における重症度評価や治療効果のマーカーになる可能性を示唆していると報告している.さらに,敗血症によるSACモデル動物および敗血症患者におけるCECの解析を開始する予定とのことである.

Septic Shockに対する新しい重症度クライテリアと初期輸液療法の検討
藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 原嘉孝先生,他
 SIRSや血小板低下の両方が含まれている急性期DICスコアを「持続する炎症」の程度の指標として注目したとする興味深い内容.昨今の凝固と炎症のCross-talkの概念に非常にマッチした内容であり,さらに症例を増やした今後の報告におおいに期待したい.なお,凝固と炎症のCross-talkについてはこちら

 本演題では血中乳酸値とDICスコアからSeptic Shockの病態を4象限に分類することでSeptic Shockに特異的な重症度を容易に予測できる可能性が示唆されたとしている(後ろ向き研究).APACHEⅡスコア,SOFAスコアとの比較では,28日死亡率でこの分類方法が有意差がでており,APACHEⅡやSOFAよりもより正確にsevere sepsis,septic shockの病態を表す分類であることを示唆していると考えられた.また,この分類により軽症なクラスではEGDT達成率が最低であるにもかかわらず28日生存率が100%であり,EGDTによる管理が不要の可能性がある.輸液過剰による弊害も報告されていることから,単純に乳酸値に頼った輸液療法,EGDTのみに頼った輸液療法を行うのでなく,ICU入室時にどの象限に属するかを判断し,病態に応じた輸液療法を心がける必要があるとしている.

テイコプラニンの先発品と後発品の比較検討
関西医科大学附属枚方病院 山崎悦子先生,他
 これは小生にとって衝撃的結果である.2011年の今日の治療薬®ではTEICの後発品は10社が発売しており,小生の病院でも後発品を採用している.

 TEICの先発品と後発品では6種類の主成分の含有量が異なるとされ,これが薬物動態,臨床効果に大きな影響を与えている可能性がある.本研究では,MICに有意差はなかった.しかし,トラフ値が後発品の方が有意に高いにもかかわらず,臨床効果は先発品が有意に高かった.MRSAにおける臨床効果では先発品100%に対し後発品は60%である.TEICのTDMキットは後発品の血中濃度を正確に反映していない可能性がある.

Septic Shockの初期蘇生に中心静脈カテーテルは必須か
信州大学医学部附属病院高度救命救急センター 望月勝徳先生,他
 SSCGでは中心静脈カテーテル(CVC)が必要であるとしており,小生の病院でも必要としている.ただ,小生もCVCなしで敗血症性ショックを治療した経験はある.CVCを使用していない場合の弊害はScvO2やCVPが計測できないこと,薬剤投与経路が少なくなることであろう.CVPに関しては心臓超音波検査での代用できる可能性もあり,あとは乳酸値を重要視すればCVCなしでも治療できる可能性はある.また,CDCによると,カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の合併は治療中の原疾患に対する死亡率を35%程度上昇させる可能性があるとする報告もある.信州大学救命救急センターでは敗血症性ショックでのCVCはルーチン化せず,他の手段で循環動態を評価している.なお,敗血症におけるCVCを用いたScvO2,CVPのモニタリングについてのまとめはこちら

 本演題の報告では,CVCを使用せずに治療した敗血症性ショック患者の死亡率は5.9%であった.原因疾患や重症度の違いから,他の文献報告での敗血症性ショック死亡率と単純比較はできないが,治療成績としては遜色がない.ただし,考察でも述べられていたが,これは優秀な集中治療医の他手段による観察評価があってこその管理治療であり,集中治療部がない病院などではCVCなしでの敗血症性ショック治療は推奨されないものと小生は考える.

敗血症急性期における心収縮能低下時の拡張末期心臓血液容量による前負荷の評価には注意が必要である
東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野 久志本成樹先生
 十分なfluid resuscitationを施行した敗血症症例において,左室EF,左室拡張末期容量の増加が臨床的に証明されている.敗血症性ショックにおいてはEFは可逆的に低下するが,stroke volumeは維持され,心係数は低下しない.一方,左室拡張末期容積をみると,左室収縮不全合併症例において,可逆的な左室拡張が生じる.また,拡張障害合併例で有意に予後不良であること,拡張障害の存在は重症敗血症・敗血症性ショックにおける独立した予後不良の予測因子と報告されている.敗血症急性期には20%以上の症例において可逆的心収縮能低下が生じ,左室拡張末期容量の増加を合併しうるため,至適前負荷が症例,経過により異なる可能性がある.なお,敗血症による心筋障害に関するまとめはこちら

 本演題では敗血症急性期においてPiCCOによる拡張末期心臓血液容量(GEDI)による前負荷評価の妥当性を検討することを目的としている.敗血症によるALI/ARDSと判断された74例を対象として,EF<50%と>50%の2群に分けて比較.敗血症急性期の左室収縮能低下状態においては,左室拡張末期容量増加を合併しうることから,前負荷の指標としての至適GEDIが変動する可能性を報告している.
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# by DrMagicianEARL | 2012-03-01 21:45 | 敗血症 | Comments(0)
 敗血症性ショックにおけるノルアドレナリンとドパミンの論争が続いていた.SSCGではいずれでもよいとしているが,病態生理学的にはノルアドレナリンの方が有用とする意見が多く,臨床的にもノルアドレナリンが死亡率が低いとする報告がでてきていた.メタ解析ではJ Intensive Care Med online March 24, 2011が既に出ており,ノルアドレナリンの方が有意に死亡率が低いとの報告であった(6研究,N=2043).

 本ブログにおいては敗血症性ショック(Warm Shock)の急性期治療におけるEGDTと昇圧剤についてまとめている.⇒くわしくはこちら

 今回Critical Care Medicineからのメタ解析.11研究,N=2768.結論は,ドパミンの方が死亡率,不整脈発生率がノルアドレナリンより高いという報告で,ノルアドレナリンを支持する内容.これが今後のEBMになっていくと思われ,敗血症性ショックではノルアドレナリンが第一選択に推奨され,ドパミンは推奨されない.

De Backer, Daniel MD, PhD; Aldecoa, Cesar MD; Njimi, Hassane MSc, PhD; Vincent, Jean-Louis MD, PhD, FCCM
Dopamine versus norepinephrine in the treatment of septic shock: A meta-analysis
Critical Care Medicine:
March 2012 - Volume 40 - Issue 3 - p 725–730

Objectives: There has long-been controversy about the possible superiority of norepinephrine compared to dopamine in the treatment of shock. The objective was to evaluate the effects of norepinephrine and dopamine on outcome and adverse events in patients with septic shock.

Data Sources: A systematic search of the MEDLINE, Embase, Scopus, and CENTRAL databases, and of Google Scholar, up to June 30, 2011.

Study Selection and Data Extraction: All studies providing information on the outcome of patients with septic shock treated with dopamine compared to norepinephrine were included. Observational and randomized trials were analyzed separately. Because time of outcome assessment varied among trials, we evaluated 28-day mortality or closest estimate. Heterogeneity among trials was assessed using the Cochrane Q homogeneity test. A Forest plot was constructed and the aggregate relative risk of death was computed. Potential publication bias was evaluated using funnel plots.

Methods and Main Results: We retrieved five observational (1,360 patients) and six randomized (1,408 patients) trials, totaling 2,768 patients (1,474 who received norepinephrine and 1,294 who received dopamine). In observational studies, among which there was significant heterogeneity (p < .001), there was no difference in mortality (relative risk, 1.09; confidence interval, 0.84–1.41; p = .72). A sensitivity analysis identified one trial as being responsible for the heterogeneity; after exclusion of that trial, no heterogeneity was observed and dopamine administration was associated with an increased risk of death (relative risk, 1.23; confidence interval, 1.05–1.43; p < .01). In randomized trials, for which no heterogeneity or publication bias was detected (p = .77), dopamine was associated with an increased risk of death (relative risk, 1.12; confidence interval, 1.01–1.20; p = .035). In the two trials that reported arrhythmias, these were more frequent with dopamine than with norepinephrine (relative risk, 2.34; confidence interval, 1.46–3.77; p = .001).

Conclusions: In patients with septic shock, dopamine administration is associated with greater mortality and a higher incidence of arrhythmic events compared to norepinephrine administration.
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-21 19:01 | 敗血症 | Comments(0)
肝肺症候群
Hepatopulmonary syndrome
~A Liver Induced Lung Vascular Disorder~

1.肝肺症候群の概要
 末期肝疾患患者には何らかの肺ガス交換機能異常がみられることが多い.大量の腹水による胸郭容積の減少,胸水貯留とその結果起こる無気肺などによって酸素化は悪化する.これら非特異的な要因以外に,肝疾患に特有の肺血管系の異常が起こってくることがある.それが肝肺症候群と門脈肺高血圧症である.以下ではHPSについて説明する.

HPSは1977年に初めて報告された症候群であり,①肝疾患,②肺内血管拡張(基礎に心肺疾患を伴わない),③動脈血低酸素血症,を3徴とし,あらゆる年代の肝疾患患者が罹患しうる.諸報告によれば,慢性肝疾患を有する患者においては,4-47%が本疾患を有するとされている.

2.臨床症状
症状は主として労作時呼吸困難であるが,特に立位で低酸素症状が増悪するのが特徴とされている(platypnea;扁平呼吸or起座位呼吸困難).また,座位より立位で動脈血中酸素飽和度の5%以上の低下,もしくは動脈血酸素分圧の4 Torr以上の低下がみられるとされている(orthodeoxia).他には,しばしばばち指やチアノーゼを呈する.慢性肝疾患患者で動脈血酸素分圧が空気呼吸下で70mmHgを下回れば本症を疑い,精査を行う必要がある.

なお,進行した肝疾患患者では貧血,腹水,水分貯留,筋萎縮などの肝疾患に関連する様々な合併症によって呼吸困難が認められる頻度が高く,呼吸困難があるからといって肝肺症候群と診断するのは早計である.

3.病態
低酸素血症の機序は肺内血管の拡張による右左シャントの増大であるが,肺内血管拡張の様式によって2つに分類されている.著しい肺毛細管の拡張がびまん性に起こり,換気血流不均衡が増大するタイプ1 と,肺動脈と肺静脈あるいは左房を直接つなぐ血管が新生されるタイプ2があるが,両者が混在することも多い。確定診断をするためにはこの肺内の血管拡張を証明する必要がある.正常肺の毛細血管径は5-8μm程度であるが,肝肺症候群では血管径は500μmに達する.この口径差を利用し,血管拡張を検出する方法として,後述する経胸壁のコントラストエコーと凝集アルブミンを用いた肺血流シンチグラフィがある.

肺血管が拡張すると,混合静脈血が直接的にまたは肺内シャントを経由して肺静脈へ流入しやすくなる.肺胞換気は増加しないのに,肺血流が増えるため換気血流不均衡が起こり酸素化不良となる.肝硬変患者の30%では低酸素性肺血管収縮が抑制または消失するため,さらに肺血流が増大する.肺内シャント増大や換気血流不均衡の程度は低酸素血症の程度に反映される.それに対して,門脈肺血管交通の低酸素血症との関与は僅かである.換気血流不均衡とシャントの増悪が肝肺症候群におけるorthodeoxia発生メカニズムの本態である.下側肺肺胞の肺血管トーンが変化に乏しいため換気に呼応した重力性の血流変化が起こりにくいことがorthodeoxiaの原因と考えられる.

HPSの重症度が進むに従って酸素拡散障害は悪化する.病期が進行し拡散障害が生ずると,心拍出量が増大するほど赤血球が通過する時間が短くなるのでかえって酸素化が悪化する.この現象は肝疾患一般と一部の肝肺症候群において認められる.拡散能低下のもう一つの原因は,肺胞毛細血管間隙が広すぎてヘモグロビンと一酸化炭素が完全な平衡に達することができないことであると考えられている.

このような肺血管拡張という病理学的変化が生じる原因としては血行力学的な要素や血管拡張作用をもつ物質(酸化窒素,グルカゴン,プロスタサイクリンなど)の関与が示唆されているが,詳細は不明である.

4.検査
 胸部X線撮影,胸部単純CTでは異常所見はみられないことがほとんどである.多くは非特異的な所見を示し,び漫性の肺血管拡張の存在によるものと考えられる軽度の間質性陰影が下肺野に認められることがある.毛細血管レベルでの動静脈瘻なので,造影CTでも特に異常はみられないことがほとんどである.

 動脈血ガス分析では拡散障害を主体とし,二酸化炭素蓄積を伴わないPaO2の低下と肺胞動脈血酸素分圧較差の増大を特徴とする.A-aDO2の算出は,純酸素100%を安静臥位にて20分吸入した後に施行したABGデータで行う.算出式は以下の通りである.
A-aDO2=716-PaO2-PaCO2/0.8
本算出式にてA-aDO2>15 Torrであれば,拡散障害があるとみなされる.この基準を満たした上で,室内気でのPaO2を指標として以下のような重症度分類が用いられている.
 軽 症:PaO2≧80
 中等症:80>PaO2≧60
 重 症:60>PaO2≧50
 超重症:50>PaO2 or PaO2<300mmHg(100% O2)
また,100%酸素下でのシャント率(QT/QS)も指標となる.

 肺肝症候群は,心肺疾患が基礎にないことが前提であるが,肝肺症候群から心機能に影響を与えることはある.肺内シャントの存在のため,肺低血圧症,左心系容量負荷増大による左房・左室の拡大を心臓超音波検査で認めることがある.

 確定診断としては,コントラスト心臓超音波検査と肺血流シンチグラフィの2種類がある.いずれもHPSに対しては同等の精度を有するため,侵襲性の少ない前者を第一選択とするのが望ましい.ただし,前者は定量的評価はできないので,追跡フォローするのであれば肺血流シンチグラフィの方が望ましい.

経胸壁コントラストエコーは微小な気泡を造影剤として用いる検査法で,定量性はやや劣るものの簡便で感度の高い検査である.激しく撹拌した少量の生理食塩水(約20mL)を静脈内に投与するとまず右心が造影される.その後、気泡は肺血管床へと移動するが,撹拌した生理食塩水に含まれる気泡の直径は15μm以上のため,直径2-8μmの正常肺毛細血管を通過することができず捕捉される.従って右心造影後7心拍以内に左心に気泡が現れれば肺血管の拡張があると判断される.なお,心臓超音波検査では微小気泡であるレボビストという造影剤を用いた検査もあるが,この造影剤は径1.3μmの気泡であり,正常人でも肺毛細血管を通過して左心に出現してしまうのでHPSの診断としては意味がない.

肺血流シンチグラフィでは造影剤としてテクネチウムでラベルした凝集アルブミン(99mTcMAA)を用いる.凝集アルブミンの径は20μm以上であるため,気泡と同様,静脈内に投与しても通常は肺の毛細血管を通過せず大循環に現れてこない.従って肺以外にアイソトープの取り込みがみられた場合には肺内に血管拡張が存在することが証明される.この検査では肺と肺以外(脳・甲状腺など)に集積したアイソトープの量からシャント率を定量することができる.

5.治療・予後
HPSは進行性で,ガス交換能はしだいに悪化していく事が多く,自然緩解はほとんどない.HPSを合併した肝硬変症例は,合併しないものに比べて予後が極めて悪く,多くが肝細胞機能低下,門脈圧亢進といった合併症で死亡すると報告されている.このことから,HPSの存在自体が肝疾患の進行を早め,門脈圧亢進による合併症のリスクを増すという報告がなされている.

HPSに対しては,在宅酸素療法やインドメタシン,ソマトスタチンの投与が有効という報告もあるが,長期予後を改善した報告はなく,その効果は対症療法程度に留まっている.実際には有効な内科的治療法は現在のところ存在しない.1997年頃から肝移植によって肝肺症候群が治癒したとの報告が相次ぎ,現在では肝移植が肝肺症候群に対する唯一の根本的治療法であると認識されている.しかし,肝移植後,酸素化能が正常化するには年単位の時間を要することが多い.

術後死亡率および移植後から低酸素血症の改善までの期間は,HPSの重症度が高く,術前低酸素血症が重篤であるほど延長することが明らかにされている.今までに行われたうちで最も大規模な単一施設研究では,HPS患者の肝移植後5年生存率は76%であるという結果が得られており,HPSがなく肝移植を受けた患者の5生率とのあいだに有意差はなかった.HPS合併例で肝移植を受けない場合の死亡率がHPS非合併例に比して有意に高い事実を加味すれば,肝移植がHPS患者にとっていかに有効かが分かる.この研究で死亡の予測因子として最も強い影響が認められたのは術前PaO2が50 Torr以下であることと,肺血流シンチにおける脳の取込みが20%以上であることであった.

移植以外の治療ではHPSの予後は悪いので,PaO2が60 Torr以下の肝肺症候群の患者はほかの疾患で肝移植の候補になっている患者より優先度を高く考えねばならない.上述のようにHPSは進行性であること,HPS自体が肝障害を悪化させること,低酸素血症が高度になれば肝移植の手術成績が悪くなることといったことから,HPSを示す症例では,肝機能が維持されている段階でも肝移植の適応となりうるため,今後我が国でも肝肺症候群に対する肝移植手術の症例数は増加していくと思われる.

6.周術期合併症
HPSの合併症は低酸素に起因するもの以外に血管拡張そのものが関与するものがある.肺血管床は凝血塊などの微小な血液内浮遊物を取り除くフィルターの役割も果たしている.肺血管が拡張するHPSではこのフィルターとしての機能が損なわれるため,大循環系の塞栓症を発症する危険性がある.HPSの患者に脳の出血梗塞や脳膿瘍が発生したとする症例報告がすでになされている.周術期には血栓や空気などが静脈内に混入する可能性が高いため,肝肺症候群の患者では中枢神経系や心筋の虚血症状に十分注意する必要があると思われる.

7.最後に
 HPSは医師の間ではまだあまり知られている病態ではなく,消化器内科医の間でもマイナーである.それだけに肝硬変などに合併したHPSは見逃されやすく,早期の移植の機会を逃してしまいかねない.肝硬変は適応は受けにくいが,HPSの診断があることで移植の機会を得る可能性は大きく増すであろう.確定診断法であるコントラスト心臓超音波検査は手技が簡便であり,短時間ですむ外来でも可能な検査であり,慢性肝疾患患者の4-47%がHPSを有することをふまえれば,HPSの3徴を満たす患者には積極的に行うべきであろう.
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-20 18:30 | Comments(0)
■MRSAはMethicillin Resistant Streptococcus Aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の略であり,黄色ブドウ球菌の中でもmecA(methicillin耐性)遺伝子を持ち,βラクタム系抗菌薬に耐性化したものと定義されている.このため,耐性化していない黄色ブドウ球菌はMRSAに対してMSSA(Methicillin Sensitive Streptococcus Aureus)と称する.以下,黄色ブドウ球菌はSAと略す.

■1928年のフレミングのpenicillinの発見と1940年代のチェインらによるpenicillinの実用化により,SAによる化膿性感染は克服された.しかし,1940年代末には一部の国でpenicillin耐性SAの割合が50%を越え,1950年代には80%に達した.これらの耐性菌は菌体内にプラスミド性のペニシリナーゼ遺伝子を持ち,その酵素活性によって,penicillinのβラクタム環が加水分解されて活性を失うことによる耐性化機構をもっていた.このペニシリナーゼ遺伝子保有菌は世界中に広がり,現在もなお臨床の場で分離されるSA,特にMRSAの大部分が保有している.ペニシリナーゼはその後開発されたABPCなどの広域ペニシリンも加水分解でき,耐性化をSAに与えている.それに対し,ペニシリナーゼに加水分解されないペニシリン系抗生物質であるメチシリン,オキサシリンなどが1960年に開発された.

■1960年に英国で5440株のSAが集められ,同一病院由来のSAの3株がメチシリン耐性を示していたのがMRSAの最初の報告である[1].1961-1962年に集められた22000株には99株(0.45%)のMRSAが検出された[2]

■本邦では1980年代になってMRSAの分離が次第に見られるようになった.MRSA病院感染が急激に増加するに至った背景には1981年の第3世代セファロスポリン系抗菌薬の発売とその後の多用が引き金になっていると推察されている.MRSA分離頻度は50%に達するも,MRSA感染症発症率は概ね0.8%前後のほぼ定常状態にあり,増加傾向はみられないことから,本邦でのMRSA病院対策は効果的に遂行されている.しかしながら,2006年の診療報酬改正では感染対策費が姿を消しており,これがどう影響するかは未知数である.

■近年話題となっている市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増加しており,一般的なMRSAをHA-MRSAと表記することが増えてきた.

■高病原性のPanton-Valentine leukocidin(PVL:白血球破壊毒素.遺伝子コードlukS-lukF)遺伝子を有するMRSA市井感染症(PVL+CA-MRSA)が欧米で話題となっている[3].1990年代初頭,西オーストラリアのアボリジニの間で初めて報告されて以来,欧米において刑務所,スポーツチーム,学童などで集団発生が報告されている.PVL+CA-MRSAは遺伝子的にHA-MRSAとは異なっており,重篤な軟部組織感染ないし壊死性肺炎(致死率75%)を伴うため,公衆衛生上の脅威となっている.本邦では1979-80年代初期にはかなり認められたPVL+MRSAであるが,1999-2002年にはほとんど認められなくなった.しかしながら,本邦でもいつまた再度アウトブレイクするかは不明であり注意が必要である.

[1] British Med J 1961; 1: 124-5
[2] Lancet 1963; 1: 904-7
[3] Emerge Infect Dis 2003; 9: 978-84
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# by DrMagicianEARL | 2012-02-03 12:19 | MRSA | Comments(0)
『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(4)

質疑応答


Q1「DICの治療開始ラインはどこからなのか?についてのスライドですが,急性期DIC診断基準をまだ満たしていなくてもその徴候があれば抗DIC治療薬を開始するということでしょうか?」

A「急性期DIC診断基準を満たしていなくても早期から抗DIC治療薬を投与していく,という意味ではありません.抗DIC治療薬はあくまでも凝固過剰状態の際に使用すべきもので,局所封鎖という生態防御反応の一面も有する以上,凝固に対する安易な抗DIC治療薬投与はすべきでないと考えています.凝固の過剰となるのを防止,あるいは緩めるという意味で,急性期DIC診断基準を満たしていない段階では,末梢循環不全の解除,すなわち蘇生バンドルの100%達成が重要であるということです.」


Q2「ARDSに対してrTMを使用する呼吸器内科医の医師もおられますが,このあたりはどうお考えですか?」

A「難しいところではあります.機序的にはrTMはARDSに対しても有効と考えていますが,臨床的にはまだ有効と言えるような大規模studyがないのが現状です.症例集積による報告はありますが,実際,ARDSにおいてはrTMをどの段階で開始するか,どれぐらいの投与量が必要なのかが全く分かっていませんし,やはり出血という副作用も考慮しなければなりません.一度出血するとrTMの場合は半減期が長いため非常に難渋することもあって,私自身一度痛い目にあっています.現時点では適切な使用法が不明な以上,私はrTMをARDSに使用したことはありません.ただ,機序的にはいいと思いますので,使用法によって臨床現場での経験・データの蓄積で有用であると,改善率が上昇したというのであればその施設においては選択肢にいれるのもありかもしれません.」


Q3「抗DIC治療薬を終了する目安はありますか?」

A「抗DIC治療薬を終了する基準は特にコンセンサスが得られておらず,施設ごとに,医師ごとに異なると思います.DICが改善したらやめるのか,PLTが正常化したらやめるのか,DICが改善傾向を示した時点でやめるのか,TATが正常化したらやめるのか,など様々で,目安については当院ガイドラインでも触れてはいません.一般的には急性期DIC診断基準が3点以下になったらやめる施設が多いようです.私の場合は,急性期DIC診断基準の点数そのものよりも点数の動きを指標にします.すなわち,①急性期DIC診断基準の点数が減少傾向に転じた,②APACHEⅡ,SOFA scoreが減少傾向,③末梢循環不全が解除された(バイタルサイン,ScvO2,乳酸など),の3つを総合的に判断して投与を終了しています.これにより早期終了が可能ですし,再発もほとんどなく,投与終了時の急性期DIC診断基準がまだ4点以上であっても軽快しています.原疾患治療が奏功していれば,抗DIC治療薬の投与日数は非常に少なくて済むはずです.」


Q4「重症敗血症は28日死亡率ではなく90日死亡率で評価すべきとおっしゃっておられましたが,それは先生の御経験からでしょうか?」

A「ひとつは,他の主治医が蘇生バンドルを遵守しなかった場合において,なんとか急性期は生き抜いたけど,臓器不全が残ったり二次感染が起こったりというケースの場合,たいていは28日くらいは生きています.ですが,状況は二転三転と繰り返されつつ悪化していき,より長期で見れば亡くなってしまう,これが90日というスパンで見ると明確になります.このようなケースを当院ICUに入室した重症敗血症患者で見てきた経験があります.もうひとつは,某大学の教授からデータを見せてもらったことです.5つの大学病院における重症敗血症の死亡率比較で,28日死亡率はほとんど差がない.ところが90日死亡率では明らかに死亡率がばらついており,大学病院によってはほとんど助かっていません.これらのことから,重症敗血症,特に敗血症性ショックの死亡率は90日で見るべきだという考えに至りました.」


Q5「DIC治療を行わない施設においてDIC治療を推奨する場合はどのようにした方がいいでしょうか?」

A「これは非常に難しいと思います.原疾患治療をしっかりやればDICを併発しても治るケースもあるし,大規模RCTで死亡率を有意に改善した抗DIC治療薬がないのも現実である以上,強く推奨する根拠が乏しいのも現実であり,そのこともあって,抗DIC治療薬投与日数を極力短期間に済まそうと私も先述の投与終了の目安を決めています.ただ,抗DIC治療薬のメリットもあり,死亡率以外のアウトカム,たとえばDIC離脱までの早さが早いほど,血小板が回復して後期での出血リスクを軽減できますし,ICU入室日数短縮によって医療コスト軽減がrTMのコストを上回る可能性もあります.また,抗生剤治療が必要な敗血症において,DICによる微小血栓が病巣への抗生剤到達を阻害しているケースもあり,抗DIC治療薬によって抗生剤との相乗効果が得られるというメリットもあります.また,先ほどの,各試験のプロトコルの甘さなども考慮して推奨するとよいかもしれません.」
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# by DrMagicianEARL | 2012-01-31 09:46 | 敗血症 | Comments(0)

by DrMagicianEARL