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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■新薬等の開発や研究から敗血症の治療の進歩は著しいものである.以下にその治療法と変遷を示す.
(1) 抗菌療法
 抗菌薬,免疫グロブリン製剤(IVIG)
(2) 抗炎症療法(抗サイトカイン療法を含む)
 大量輸液,rhAPC製剤,β遮断薬,鎮静,sivelestat,腎補助療法(CHDF)
(3) 抗凝固療法
 ヘパリン製剤,ダナパロイド製剤,ATⅢ製剤,rTM製剤,rhAPC製剤,プロテアーゼ阻害薬
(4) 血管内皮細胞保護
 プロテアーゼ阻害薬,ATⅢ製剤,rTM製剤,rhAPC製剤,抗HMGB1抗体製剤,スタチン製剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬),血糖コントロール,経腸栄養
(5) 正常免疫化
 鎮静,血糖コントロール,経腸栄養

現在は血管内皮細胞保護が盛んであるが,将来的には免疫系の正常化(正常の炎症反応によって病原体が除去されていく過程)を目標とする治療が提言されている[1].このような薬剤は現在は存在しないが,鎮静,血糖コントロール,経腸栄養などはこの治療法にあたるものと推察される.

■脳梗塞に対するtPAの適応が3時間以内というGolden Timeが設けられているが,敗血症にもGolden Timeに類似するものがある.
(1) 1時間以内に抗菌薬投与開始
(2) 6時間以内に循環動態回復
(3) 24時間以内に早期経腸栄養開始
敗血症性ショックでは①Warm Shockのうちに治療を完了するのみでなく,②SIRSによってダメージを受けた臓器を回復させ,さらに③CARS状態での二次感染を防ぐ必要がある.この①~③を達成できなければ,たとえ急性期を乗り切っても予後やQOLが著しく損なわれる.敗血症治療でこれらを速やかに遂行し,最終的に急性期は3日で終わらせ,早期からのICU離脱,リハビリテーション開始,経口摂取開始に動くべきである.

■敗血症という観点でみれば,感染症は主たる原因であっても敗血症病態のほんの一部を形成しているに過ぎない.よって抗菌薬は敗血症の一部である感染症に対して用いているのであり,敗血症に用いているわけではない.敗血症治療は全身管理の一言につき,循環,呼吸,感染,代謝,栄養を常に把握する必要があり,どれ1つとして欠けてはならない.

■重症敗血症/敗血症性ショックはICU管理が望ましく,集中治療医が常勤していない病院では,一般常勤医が本治療を行わなければならない.その際,SSCGの理解は必須である.

■敗血症蘇生管理は以下の流れで行っていく.
(1) 蘇生期
 ①敗血症の診断,重症度評価
 ②各種細菌検査施行
 ③抗菌薬投与開始
 ④感染巣コントロール
 ⑤呼吸管理開始
 ⑥CVC,AC等のモニタリング開始
 ⑦Early Goal-Directed Therapy
(2) 管理期
 ①ステロイドカバー療法
 ②血糖コントロール
 ③経腸栄養
 ④輸血
 ⑤合併症(AKI,ALI/ARDS,DIC)治療
 ⑥DVT予防
 ⑦SRMS予防

■敗血症診療を行う上での必読と思われる文献を以下に示す.あくまでも小生のチョイスであり,挙げていくとキリがないので,とりあえずは以下の30個を挙げた.「これも必読では?」というものがあれば是非コメントを御願いします.

(1) 過去40年間の敗血症治療に関する新知見
Suffredini AF, Munford RS. Novel therapies for septic shock over the past 4 decades. Jama 2011; 306: 194-9
Grand roundsの記事で,NIHに所属する研究者が執筆している.過去40年間に試みられた敗血症の治療手段として,抗エンドトキシン療法,ステロイドを含む抗炎症療法,rhAPCを含む抗凝固療法を取り上げている.future directionとして,これまで用いられてきたSIRSの概念から脱却して正常の炎症反応によって病原体が除去されていく過程を検証することが重要であると述べている.

(2) Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG) 2008
Dellinger RP, et al. Surviving Sepsis Campaign : international guidelines for management of severe sepsis and septic shock : 2008. Crit Care Med 2008; 36: 296-327
敗血症の国際ガイドラインSSCG 2008が掲載されている文献.推奨項目数35,参照文献数341であり,GRADE systemにより推奨レベルを規定.2012年に改訂予定でもある.

(3) SIRS,sepsis,severe sepsis,septic shockの定義
American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 1992; 20: 864-74
1989年にBoneらが提唱した“sepsis syndrome”をもとに米国集中医療学会(SCCM)と米国胸部医学会(ACCP)が合同で発表したSIRS,敗血症の定義.

(4) Alert Cell strategy
松田直之. 敗血症における遺伝子発現変化―主要臓器の警笛細胞を標的とした遺伝子治療―. 麻酔 2008; 57: 327-40
名古屋大学の松田直之教授が提唱した,炎症におけるAlert Cell(警笛細胞)の考えが述べられている.

(5) PAMPs,Alermins,DAMPs
Harris HE, Raucci A. Alarmin(g) news about danger: workshop on innate danger signals and HMGB1. EMBO Rep. 2006; 7: 774-8
敗血症の病態生理の基本となる考え方であるPAMPs.Alermins,DAMPsについて掲載.

(6) PMX-DHP(エンドトキシン吸着カラム)に関するRCT:EUPHAS study
Cruz DN, et al. Early use of polymyxin B hemoperfusion in abdominal septic shock : The EUPHAS randomized controlled trial. JAMA 2009; 301: 2445-52
イタリアの10施設で行われた前向き多施設RCTであり,腹腔内感染由来の重症敗血症,敗血症性ショックの64例を対象とし,緊急手術後6時間以内にPMX-DHP施行群と標準治療群に無作為に割付し,割付から24時間以内にPMX-DHPを2時間施行し,さらに24時間以内に2回目のPMX-DHPを施行している.このstudyではPMX-DHPの施行が28日死亡率,院内死亡,平均血圧,昇圧薬使用量,臓器不全の改善に対して有意に効果的であるという結果であった.ただし,本論文は数々の問題点の指摘を受けており,後に本論文著者は“This is a preliminary study”と述べている.現在EUPHAS 2が進行中.

(7) CARS(Compensentry Anti-inflammatory Response Syndrome)
Bone RC. Sir Isaac Newton, sepsis, SIRS, and CARS. Crit Care Med 1996; 24: 1125-8
意外と知られていないCARSの概念.炎症を考える際はSIRSとCARSのセット,すなわちImmunoparalysisの考えが必要である.

(8) MARS(Mixed Antagonistic Response Syndrome)
Ostanin AA, et al. Inflammatory Syndromes (SIRS, MARS, CARS) in Patients with Surgical Infection. J Immunol 2000; 5: 289-300
SIRSとCARSが合わさったMARSという概念の提唱.

(9) 敗血症性ショック病態における心機能評価2篇
Etchecopar-Chevreuil C, et al. Cardiac morphological and functional changes during early septic shock : a transesophageal echocardiographic study. Intensive Care Med 2008; 34: 250-6
Vieillard-Baron, et al. Actual incidence of global left ventricular hypokinesia in adult septic shock. Crit Care Med 2008; 36: 1701-6
治療開始から72時間以内にびまん性壁運動低下を認めている.死亡例の検討でも生存例より有意に心係数が高く,心拍出量が高いほど重症であると考えられた.敗血症性ショックにおけるびまん性の壁運動低下(収縮力低下)は可逆性であり,予後を悪化させる要因ではないが,左室収縮能が低下していない患者はむしろ死亡率が高い.死亡症例ではLVEFが有意に高く,LVEDVが有意に小さい上に輸液負荷によって是正されにくい.壁運動低下を認めないことは予後不良因子であることを留意する必要がある.

(10) SSCG導入後のアウトカム検討
Levy MM, et al. The Surviving Sepsis Campaign: results of an international guideline-based performance improvement program targeting severe sepsis. Intensive Care Med 2010; 36: 222-31
SSCG 2004が発表されてからの各施設での敗血症治療の奏功度,遵守率などを評価した論文.

(11) Early Goal-Directed Therapy(EGDT)
Rivers E, et al. Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
重症敗血症に対して初期大量輸液とScvO2のモニタリングを使用したEarly Goal-Directed Therapyにより16%という劇的死亡率低下を示した論文.SSCGにおいて蘇生期の中枢となる治療法であり,敗血症のみならず,その後の重症患者管理における根幹となった.

(12) Early Lactate-Guided Therapy(ELGT)
Jansen TC, et al. Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients: a multicenter, open-label, randomized controlled trial. Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61
重症患者に対する乳酸を指標とした治療管理で,ELGT群では輸液量,血管拡張薬の使用頻度が有意に増加したが,最終的にICU入室期間を減少させ,SOFA score,生存率を9.6%有意に改善させている.サブ解析では敗血症において特に死亡率の改善がみられた.

(13) SOFA score
Vincent JL, et al. The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure. On behalf of the Working Group on Sepsis-Related Problems of the European Society of Intensive Care Medicine. Intensive Care Med 1996; 22: 707-10
敗血症に起因する臓器不全評価法として非常に有用で,現在では敗血症に限らずMODSの評価法としても広く使用されている.毎日のSOFA scoreと生存,非生存の差別化はよく相関した.その後の研究では,敗血症の診断後48時間以内にSOFA scoreが増加する例の死亡率は50%と報告されており,早期対応の重要性が指摘されている.

(14) 敗血症性ショックにおけるノルアドレナリンとドパミンの比較:RCT systematic review
Vasu TS, et al. Norephinephrine or Dopamine for Septic Shock: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials. J Intensive Care Med March 24, 2011
主に敗血症に続発するショックを伴う非常に重篤な患者群からなる研究の統合分析では,院内あるいは28日後の死亡率は,ドーパミンよりもノルエピネフリンが優れていることを示した.

(15) バソプレッシンの有効性をみた比較試験:VASST study
Russell JA, et al. Vassopressin versus norepinephrine infusion in patients with septic shock. N Engl J Med 2008; 358: 877-87
ノルアドレナリン+バソプレッシン併用群とノルアドレナリン単独群の2群を比較した27施設800名がRした前向き二重盲検RCT.28日・90日死亡率に有意差はないが,バソプレッシン併用群に死亡率減少傾向を認めた.

(16) 急性腎傷害に対する低用量ドパミン療法の是非:ANZICS trial
Bellomo R, et al. Low-dose dopamine in patients with early renal dysfunction: a placebo-controlled randomised trial. Australian and New Zealand Intensive Care Society (ANZICS) Clinical Trials Group. Lancet 2000; 356: 2139-43
SIRS患者におけるAKIでは低用量ドパミン群とプラセボ群では同等の効果しか示さず,有意な腎保護作用・利尿作用はないと結論づけられている.この論文後も数多くのstudyやmeta-analysisで低用量ドパミンの効果は否定されている.

(17) 敗血症における血液浄化法の理論peak concentration hypothsis
Ronco C, et al. Interpreting the mechanisms of continuous renal replacement therapy in sepsis: the peak concentration hypothesis. Artif Organs 2003; 27: 792-801
血液浄化法によるhumoral mediator除去に関連した3つの理論のうち,最も受け入れられているもので,“peak concentration hypothesis”である.これには,SIRSとCARSの時相が異なるsequential theoryと同時期に混合してみられるparallel theoryがあり,CRRTにより各種mediatorが除去され,それぞれのピークを抑えることで破綻した免疫機構が改善するとしている.

(18) 敗血症性ショックにおけるヒドロコルチゾンの是非:CORTICUS study
Hydrocortisone therapy for patients with septic shock.
症例数が500例.hydrocortisone 50mg×4/dayの5日間投与の有無による二重盲検化多施設RCT.28日死亡率は全体でもsub-set analysis(ACTH非反応群のみでの解析,ACTH反応群のみでの解析)でもステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc analysisでは,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.

(19) 低用量ステロイド療法のsystematic review
Marik PE, et al. Recommendations for the diagnosis and management of corticosteroid insufficiency in critically ill adult patients: consensus statements from an international task force by the American College of Critical Care Medicine. Crit Care Med 2008; 36: 1937-49
重症患者の中に副腎不全患者が存在し,敗血症性ショックやARDSの患者ではACTH刺激試験を行わず,グルココルチコイドを投与する.敗血症性ショック,特に輸液や昇圧薬に反応しない敗血症患者では,低用量のグルココルチコイドの使用を考慮すべきであるとしている.

(20) 重症患者における血糖コントロール:NICE-SUGAR study
Finfer S, et al. Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients. N Engl J Med 2009; 360: 1283-97
ICU患者を対象にIITに有効性を検討した最大のRCTで,IITの90日死亡に対する効果を通常血糖管理群(目標血糖値144-180mg/dL)と比較した研究であり,IITの検討に関して最も信頼に足るRCTであると評価を得ている.これによると,IITは28日死亡を有意でないが1.5%上昇させ,90日死亡を2.6%有意に上昇させた(IIT vs 従来型:27.5% vs 24.9%).また,血液培養陽性率は両群間で有意差はなかった.重症敗血症患者を対象としたsub-set analysisでも,IITは90日死亡を有意でないが2.5%上昇させていた.これにより,敗血症患者に対するIITの有害性が報告された.なお,本trialはIIT群で高度低血糖がみられたために早期に中止されている.これをもとに,SSCG 2012改訂では血糖コントロール値は144-180に設定される見込みである.

(21) 米国集中治療学会(SCCM)/米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)による栄養療法ガイドライン
Martindale RG, McClave AS, et al. Guidelines for the provision and assessment of nutrition support therapy in the adult critically ill patient: Society of Critical Care Medicine and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: Executive Summary. Crit Care Med 2009; 37: 1757-61
米国の栄養療法ガイドライン.

(22) 欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)による栄養療法ガイドライン
Singer P, Berger MM, et al. ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: intensive care. Clin Nutr 2009; 28: 387-400
欧州の栄養療法ガイドライン

(23) 重症患者の栄養管理:earlyEN+earlyPN(欧州) vs earlyEN+latePN(米国)比較:EPaNIC trial
Michael P, et al. Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults. N Engl J Med 2011; 365: 506-17
経腸栄養だけでは栄養状態の改善が見込めない重症患者への経静脈栄養(PN)を集中治療室(ICU)入室後早期・後期,どちらに開始するのが好ましいのかで欧州のガイドラインでは前者が,米・カナダのガイドラインでは後者が推奨されていた.この未解決の問題について,ベルギーの研究グループが両者の比較試験(EPaNIC試験)を実施した.5000例近くの患者で行われた同検討では,死亡率こそ有意差がなかったが,各種エンドポイントは後期開始群で有意に優れる結果となり,米国ガイドラインに軍配が上がった.この報告では早期からのカロリー補充目的でのPNは一利なしとされた.

(24) 敗血症に対するリコンビナント・ヒト活性化プロテインC(rhAPC)PhaseⅢ:PROWESS study
Bernard GR, et al. Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med 2001; 344: 699
SSCGが唯一認めた敗血症治療薬がこのrhAPCである.発症24時間以内の1690例のsevere sepsisとseptic shock患者を対象とした多施設二重盲検RCTで,28日死亡率が有意に低下した(24.7% vs 30.8%).rhAPC投与群で重篤な出血性合併症が多かったが有意差はなかった.しかし,このstudy自体は様々な問題点が指摘されており,FDAがこのstudyをもとに承認してしまったがために大批判をくらうことになった.

(25) 敗血症に対するリコンビナント・ヒト活性化プロテインC(rhAPC)の系統的レビュー
Marti-Carvajal AJ, et al. Human recombinant activated protein C for severe sepsis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011; 4: CD004388
PROWESS後にrhAPCが販売され,その後のstudy等をまとめたシステマティックレビュー.敗血症に対するrhAPCは効果なしと結論づけられた.なお,2011年10月25日にはPROWESS-SHOCK trialの結果が公表され,rhAPCに臨床効果が得られなかったため,販売元のイーライ・リリー社はrhAPC製剤を製造中止としている.

(26) ALI/ARDSに対する好中球エラスターゼ阻害薬sivelestat:STRIVE study
Zeiher BG, et al. Neutrophil elastase inhibition in acute lung injury : results of the STRIVE study. Crit Care Med 2004; 32: 1695-702
ALI/ARDSに対する好中球エラスターゼ阻害薬sivelestat(エラスポール®)の有効性を105施設487例についてRCTで検討したもの.中間解析にて180日死亡率がsivelestat群で有意に増加したため(40.2% vs 31.3%)本試験は途中で中止されている.

(27) SOD/SDDが耐性菌を増やすかの是非
de Smet AM, et al. Selective digestive tract decontamination and selective oropharyngeal decontamination and antibiotic resistance in patients in intensive-care units: an open-label, clustered group-randomised, crossover study. Lancet Infect Dis 2011;11:372-380
2009年1月に紹介したNEJMの報告のpost hoc解析で、気管内での耐性菌コロナイゼーション,耐性菌による血流感染症の頻度に関してSDD,SODおよび通常の管理を比較.結果としてSDDおよびSODによって耐性菌による気管内での耐性菌コロナイゼーション,耐性菌による血流感染症の頻度の頻度が減少することが示されている.研究が行われたオランダはMRSAを含む耐性菌コロナイゼーションの頻度が少ないことが知られており,このような環境ではSDDあるいはSODが有用であると結論されている.

(28) 敗血症性ショック患者における輸液負荷,CVP上昇と予後の関係
Boyd JH, et al. Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med 2011;39:259-65
カナダからの報告で,2008年にNEJMに発表されたVASST studyの結果を用いて治療開始後12時間および4日後の水分バランス,CVP値と予後の関係をretrospectiveに解析.水分バランスが大きくプラスの群,CVPが12mmHgを越えた群で予後が不良であることが示されている.また,治療開始後12時間の時点での水分バランスが3L程度が最も予後が良好であると予測している.

(29) 敗血症管理と敗血症に関するRCTについて
Russell JA. Management of sepsis. N Engl J Med 2006; 355: 1699-1713
RCTのまとめが掲載されており,どの治療に効果があり,どの治療に効果がないのかがよく分かる.非常に辛口な論文.

(30) ICUにおける急性腎傷害の管理:集中治療における国際コンセンサスカンファレンス
An Official ATS/ERS/ESICM/SCCM/SRLF Statement. Preventation and management of acute renal failure in the ICU patient. An International Consensus Conference in Intensive Care Medicine. Am J Respir Crit Care Med 2010; 181: 1128-55
急性腎傷害における知見の総括.集中治療における国際コンセンサスカンファレンスの2日間のシンポジウムにおいて,学術医院が作成した質問に対する専門家の権威によるエビデンスをもとにした回答集.

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[1] Suffredini AF, Munford RS. Novel therapies for septic shock over the past 4 decades. Jama 2011; 306: 194-9
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# by DrMagicianEARL | 2011-11-02 16:30 | 敗血症 | Comments(0)
■抗菌薬の登場により,耐性を獲得した菌が増加し,それに伴い,現在世界で敗血症は年次約9%の割合で増加の一途を辿っている.様々な新薬が開発されてもなお敗血症はICUでの死因の第一位を占めており,予後不良疾患である.以下に死亡率を示す[1-3]
敗血症全体での死亡率   14.3~20.0%
重症敗血症の死亡率    25~30%
敗血症性ショックの死亡率 40~70%
 米国の疫学調査によれば,敗血症患者のうち重症敗血症・敗血症性ショック患者の占める割合は34%である.

■LevyらのSSCGガイドライン導入のアウトカム検証[4]によると,敗血症の感染focusは肺38%,腹部18%,尿路18%,皮膚軟部組織5%,カテーテル3%,創傷3%,髄膜炎1%,骨髄1%,心臓1%,デバイス1%,その他11%となっている.当然ながら各感染部位によって起炎菌は異なるが,敗血症性ショックでの研究では,起炎菌や感染部位は死亡率とは関連しないと報告されている[5]

■日本のICUにおける敗血症およびCRBSI(カテーテル関連血流感染症)の発症頻度は,JANISのICUの部門で継続的に調査されている.2000~2006年のデータがホームぺージ上に公開されており(http://www.nih-janis.jp/report/icu_index.html),敗血症の発症率は0.5-1.4%,CRBSIの発症率は0.4-0.7%で,諸外国の報告に比較して極端に低い.その原因としては,諸外国の報告がICUに入室した患者全員が対象となっているのに対し,JANISのデータはICUに48時間以上入室している患者が対象で,さらに熱傷患者が対象から外れていることが挙げられる.すなわち,JANISのデータはICU内で発症した敗血症とCRBSIの率を表し,敗血症とCRBSIの診断でICUに入室した患者が含まれていない.さらにサーベイランスに酸化しているICUの入室患者のほとんどが予定手術の術後患者であることも影響している.よって,JANISのデータは日本のデータを表してはいるものの,そのサーベイランスの精度は低いことを留意する必要がある.

■敗血症の発症が市中か院内かについてICUに入室した重症敗血症を対象に調べた研究[6]では,57%が市中感染,43%が院内感染と報告されている.

■JANIS検査部門の血液検体から分離された病源菌の報告によると,本邦では,グラム陽性菌が約60%,グラム陰性菌が約30%,真菌が約5%を占めている.グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌が最も多く,次いで表皮ブドウ球菌,その他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が多い.グラム陰性菌では大腸菌が最も多く,次いで肺炎桿菌,緑膿菌となっている.真菌ではCandida albicansがほぼ半数を占めている.ただし,この病原菌のデータはコンタミネーションも含めての統計であることに注意が必要であり,実際にはグラム陰性桿菌の占める割合はもっと多いものと推察される.

■予後に最も影響を与える因子は臓器障害の程度で,臓器障害の頻度は呼吸器系(18%),腎臓(15%),心血管系(7%),血液(6%),臓器障害を伴わない群と比較して3臓器異常の障害がある群では有意に死亡率が高い[7,8].また,予後に最も影響を与える臓器障害は呼吸器系で,次いで心血管系,腎臓である[9]

■また,他に予後に影響を与えうる因子として耐性菌の増加があり,抗菌薬の選択は熟慮しなければならない.メチシリン耐性ブドウ球菌群(MRSA,MRSE,MRCNS)には抗MRSA薬を使わねばならないことは今や常識であるが,近年本邦でも急激に増加傾向にある基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌やメタロβラクタマーゼ(MBL)産生緑膿菌はその増殖スピードから,MRSAよりはるかに危険度が高いにもかかわらず医師の間では認知度が低く,周知徹底が必要である.また,まだ本邦では報告の少ないバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)も,抗MRSA薬使用に伴い増加してくることが懸念されており,カルバペネム系が効かないカルバペネマーゼ産生菌も散見し始めている.

■バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やMRSAによる血流感染症は感受性菌による血流感染症と比較してメタ解析の結果,死亡率が高いことが報告されている[10,11].グラム陰性菌感染においてはESBL産生菌において治療失敗や死亡率の増加があると報告[12,13]しているものがある一方で,差はなかったとする報告[14]もある.

■背景疾患の存在は敗血症の予後に影響を与えることがよく知られている.特に糖尿病や慢性アルコール中毒は予後不良因子とされており[15,16],基礎疾患を有すると敗血症の発症頻度は高くなる.しかしながら,糖尿病と非糖尿病の比較で敗血症の死亡率・原因菌に有意差がなかったとの報告もある[17]

[1] Scheckler WE. Septicemia in a Community Hospital 1970 through 1973. JAMA 1977; 237: 1938-41
[2] Bryan CS, et al. Analysis of 1,186 episodes of gram-negative bacteremia in non-university hospitals: the effects of antimicrobial therapy. Rev Infect Dis 1983; 5: 629-38
[3] Uzun O, et al. Factors influencing prognosis in bacteremia due to gram-negative organisms: evaluation of 448 episodes in a Turkish university hospital. Clin Infect Dis 1992; 15: 866-73
[4] Levy MM, et al. The Surviving Sepsis Campaign: results of an international guideline-based performance improvement program targeting severe sepsis. Intensive Care Med 2010; 36: 222-31
[5] Zahar JR, et al. Outcomes in severe sepsis and patients with septic shock: pathogen species and infection sites are not associated with mortality. Crit Care Med 2011; 39: 1886-95
[6] Alberti C, et al. Epidemiology of sepsis and infection in ICU patients from an international multicentre cohort study. Intensive Care Med 2002; 28: 108-21
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[9] Padkin A, et al. Epidemiology of severe sepsis occurring in the first 24 hrs in intensive care units in England, Wales, and Northern Ireland. Crit Care Med 2003; 31: 2332-8
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[11] DiazGranados CA, et al. Comparison of mortality associated with vancomycin-resistant and vancomycin-susceptible enterococcal bloodstream infections: a meta-analysis. Clin Infect Dis 2005; 41: 327-33
[12] Kang CI, et al. Risk factors for and clinical outcomes of bloodstream infections caused by extended-spectrum beta-lactamase-producing Klebsiella pneumoniae. Infect Control Hosp Epidemiol 2004; 25: 860-7
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[17] Stegenga ME, et al. Diabetes does not alter mortality or hemostatic and inflammatory responses in patients with severe sepsis. Crit Care Med 2010; 38: 539-45
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# by DrMagicianEARL | 2011-10-31 13:59 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックはWarm ShockとCold Shockという,相反した2つの病態をもち,治療においてはその病態の理解が必須である.

■感染が起こると,PAMPsがTLRに結合し,様々な経路を経て炎症性サイトカインが生じ,生体防御に働く.これが過剰状態になると敗血症に至る.これらのサイトカインが血管内皮細胞に働き,NOやプロスタノイドなどの各種血管拡張物質が産生されて血管が過剰に拡張することで血圧が低下し,敗血症性ショックとなる[1].同時にアドレナリンβ1受容体を介した陽性変力作用が阻害され,心収縮力低下が生じるが,末梢血管拡張により後負荷が減少するため見かけ上の心拍出量は保たれる.このとき,四肢末梢は温暖であるため,Warm Shockと称される.

■L型Ca2+チャネルについては消化管平滑筋において炎症によりマクロファージや好中球から過剰産生されたNOがペルオキシナイトライト(ONOO-)を形成し,C末端のチロシン残基とC-Srcの結合を阻害し,チャネル機能を抑制するという報告があり[2],心筋においても同様の機序によるCa2+チャネル機能が抑制され,β受容体はrun-downにより効果を発揮できなくなってしまう状態に陥り,カテコラミンにも反応しなくなる.

■注意すべきは血圧が低下していなくてもWarm Shockに陥っている可能性があることである.ショックの定義を血圧低下とするのは古い考え方であり,この固定観念は捨てるべきである.現在は第2,第3世代のショックの定義がある.すなわち,「血圧に関係なく,末梢組織,細胞での酸素利用障害などを含む酸素代謝異常,もしくは灌流障害が存在する状態」が現在のショックの考え方である.となれば,血圧低下はショックの原因の1つに過ぎないことは一目瞭然であり,血圧至上主義に対して警鐘を鳴らすべきである.

■敗血症において血圧が下がるか否かは血管拡張性物質の産生量次第であり,血管拡張性物質の産生が少量であっても,炎症性メディエータによる血管内皮細胞傷害による酸素利用障害,灌流障害が生じていればこれもまたWarm Shockの状態である.血圧が低下していないからという理由でショックに対する治療を行わなければわずか数時間でCold Shockへの進展を許し,予後不良に至ることになる.それを防ぐためにも,重症敗血症の時点で乳酸,中心静脈酸素飽和度を把握し,末梢循環障害,酸素代謝異常を早期に診断する必要がある.

■Warm Shockの状態において血管内皮細胞傷害が進行していくと,血管内皮細胞の弾性板からの脱落やアポトーシスが観察できる[3].また,敗血症が持続した病態では,血中に遊離する血管内皮細胞としてCEC(circulatory endothelial cell)を確認できる.白血球減少時においても敗血症が進行する一因として,このCECがマクロファージ様に作用することが考えられる.このような状態で,血管内皮細胞が脱落すると,細動脈,細静脈,毛細血管などの血管内皮依存性の拡張性が障害される.動脈系では,エンドセリン,プロスタグランディン,ヒスタミンなどの血管内皮細胞のNO放出に依存した血管拡張性物質は,血管内皮細胞の脱落した血管平滑筋への直接作用を高め,血管拡張作用から血管収縮作用に転じ始める[4-6].このため後負荷が増大し,心収縮力低下が具現化する.このとき四肢末梢は冷たくなり,Cold Shockと呼ばれる病態となる.

■敗血症性ショックに至ってWarm ShockからCold shockに移行するのは約6~10時間後と言われている.この移行過程において血管内皮細胞障害に起因する播種性血管内凝固(DIC),急性肺傷害/急性呼吸捉迫症候群(ALI/ARDS)さらには多臓器機能障害症候群(MODS)を発症する.さらに,進行すると,腸管のBacterial Translocation(BT),抗炎症反応による免疫力低下から2nd attackをきたし,日和見感染を含む二次感染とも戦わなくてはならない.Warm Shockにはある程度エビデンスが確立された治療法があるが,Cold Shockにはエビデンスがある治療法は存在しない.よって,血管内皮細胞障害が進行してしまうまでに,すなわち6時間以内に速やかに適切な治療を行って全身状態安定化を終了することが必要であり,それによりDICやARDSなどを防ぐことに繋がる.逆に,DICなどを発症しはじめるということは血管内皮細胞がかなり進行していることを表し,病態がCold Shockに転じ始めていることを認識しておく必要がある.

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# by DrMagicianEARL | 2011-10-30 12:01 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックにおいては心筋障害が観察され,ときには心原性ショックと見紛うほどの重度の心筋障害が生じることもある.

■この敗血症性心筋障害が最初に報告されたのは1984年であり,敗血症患者が発症早期より心機能が障害されていることが指摘された[1].この報告では,敗血症性ショック発症24時間以内の患者を対象に評価したもので,心係数は正常値以上に増加しているにもかかわらず,心駆出率は平均で40%と低値であり,この駆出率低下は生存者で顕著であった.特に生存者では代償性心室拡張により心拍出量増加を維持していることを明らかにしている.

■心血管作動薬投与から24時間以上経過した敗血症性ショック患者への経胸壁心臓超音波検査により心機能を評価した研究[2]では,心駆出率は,生存者で43.9%,非生存者で52.0%に低下している.

■2008年には敗血症性ショック患者を対象に経食道心臓超音波検査を用いて心機能を評価した研究が2つ報告されている[3,4].これらの報告によると,治療開始から72時間以内にびまん性壁運動低下を認めている.死亡例の検討でも生存例より有意に心係数が高く,心拍出量が高いほど重症であると考えられた.

■以上を総合すると,敗血症性ショックにおけるびまん性の壁運動低下(収縮力低下)は可逆性であり,予後を悪化させる要因ではないが,左室収縮能が低下していない患者はむしろ死亡率が高い.死亡症例ではLVEFが有意に高く,LVEDVが有意に小さい上に輸液負荷によって是正されにくい.壁運動低下を認めないことは予後不良因子であることを留意する必要がある.

■これらの考察から,急速な輸液負荷や心血管作動薬投与は敗血症早期であっても心筋障害の進行程度によっては過負荷ともなり,潜在する心機能障害を進行させる危険性がある.ただし,Early Goal-Directed Therapy[5]での発症6時間以内の大量輸液療法は,全身性組織低酸素からの一刻も早い回復が予後を改善することを示しており,超急性期の治療は最優先されるべきものであろう.しかし,6時間以降の病期における循環管理の具体的方向性は現時点では明確ではない.敗血症早期より機能障害に陥り始める心筋を保護しながら,重要臓器の細胞レベルでの酸素供給量および酸素利用能を維持する治療法を考えるには,敗血症における心筋障害のメカニズムを理解しておく必要がある.

■敗血症では早期から心筋への組織血流量が増加する一方で,ミトコンドリアなどの超微細構造は崩壊し,心筋細胞や毛細血管壁の浮腫とそれに伴う毛細血管内腔の狭小化により,微小循環障害が顕在化していることが基礎研究で既に示されている[6].盲腸穿孔術を施行した高心拍出量敗血症ラットモデルで24時間後に順行性摘出灌流心標本(working heart model)により心機能を評価したex vivoモデルの報告[7]では,心収縮能の指標dP/dt max,心仕事量や心筋酸素利用効率は全て敗血症ラットで低下していた.これは前負荷および後負荷が一定の条件下では,敗血症心機能は明らかに障害されていることを意味している.

■敗血症患者から採取した血清を健常動物に投与すると,その心筋収縮力が低下することが1985年に報告された[8].当初はこの原因はグラム陰性桿菌由来の内毒素が有力であったが,その後の研究で,炎症性サイトカインであることが判明している.なかでも,敗血症早期より放出されるTNF-αやIL-1βは主にマクロファージから分泌されるが,心筋細胞からも分泌される[9].TNFαは,心拍出量増加と全身血管抵抗低下という敗血症ショック病態を惹起し[10],直接的に心収縮力を低下させる作用をもつ[11-13].同様に,IL-1βも敗血症性ショックの循環動態に関与する[14].これら炎症性サイトカインは相乗的に心機能を抑制することも見出されてきた[11]

■TNF-α,IL-1βの血中濃度は比較的早い段階で収束するため,敗血症で遷延する心機能障害はこれらの炎症性サイトカインの効果だけでは説明がつかない.心機能障害に関与する他の物質として,NOやROSが挙げられている[15].敗血症初期では,iNOSにより過剰に分泌されるNOがペルオキシナイトライトを形成し,L型Ca2+チャネル機能を抑制する[16-18].また,NOは,心筋ミトコンドリア内の電子運搬鎖複合体の活性を低下させ,ミトコンドリア機能障害を惹起する[19].さらに,β受容体情報伝達系において,抑制性G蛋白の増加や間接的なprotein kinase A活性の抑制によって,心筋のカテコラミン反応性を阻害することが示されている[19,20]

■さらに,敗血症が進行すると,Na-Ca交換系および筋小胞体の細胞内Ca2+緩衝作用が障害され,Ca2+の過負荷が生じるため,心筋障害を助長し,心機能障害を遷延させる[21].また,アポトーシスが敗血症心機能障害に関与していることも指摘されている[22,23].その経路には主に,ミトコンドリアからチトクロムCが放出されることで誘発される内因性経路と,TNFα受容体が関与する外因性経路の2つがあり[24],いずれの経路もcaspase活性が関与している[25].しかし,アポトーシスを含む細胞死は必ずしも敗血症心筋障害を説明できないとする見解も多い[19]

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# by DrMagicianEARL | 2011-10-29 12:08 | 敗血症 | Comments(0)
■一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)は血管内皮由来弛緩因子(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)の本体であり,生理的に血管内皮から分泌されて血管拡張を引き起こす.しかし,NOの生理的作用は血管拡張作用に加えて,神経伝達物質,免疫系における生体防御因子,陰茎海綿体の膨張に関与する生殖系での役割,新生児肺高血圧の治療における吸入療法の有用性など,さまざまな生理作用をもち,生体内シグナル伝達分子であることが分かっている.

■生理的に血管壁では,アセチルコロン,ブラジキニン,あるいはずり応力などの血管拡張性刺激によって,内皮細胞のCa濃度が上昇し,それによりNOS(NO合成酵素;NO synthase)が刺激され,NOが産生される.NOは内皮に隣接する血管平滑筋細胞内に到達し,次にその細胞質内のguanylate cyclase(GC)を活性化する.GCはGTPからcGMPを産生し,続いてcGMPはある一群のリン酸化酵素G kinease(PKG)を活性化し,いくつかの蛋白質をリン酸化し,最終的にミオシン軽鎖の脱リン酸化を促進して平滑筋の弛緩が生じる.

■血管平滑筋の弛緩に限らず,NO作動性神経を介する腸管平滑筋の拡張や,血小板の凝集抑制,脳内でグルタミン酸の放出を増強するNOの作用においてもこのcGMP経路が関与している.このNOによるGCの活性化は,現在においてもNOシグナルの代表的経路と考えられている.

■NOの生体内での由来に関しては,NOSによりアルギニンからde novoに合成される場合と,NOの誘導体からsalvage経路で産生される場合がある.最近,後者のsalvage経路も生理的に重要な役割を果たすことが示されているが[1],やはりNOS依存性の経路が主要と考えられている.NOSに関しては,常に発現している構成型(constitutive)cNOSと,炎症などの刺激によって一時的に誘導される誘導型(inducible)のiNOSとにまず2分される.iNOSはマクロファージなどの炎症性細胞やその他さまざまな細胞で誘導発現され,炎症の病態発現に寄与する.一方,恒常的に発現しているcNOSはさらに2つに別れ,初めに存在が確認された組織の名前をとって,それぞれ神経型(neural)のnNOSおよび血管内皮型(endothelial)のeNOSに分類される.

■NOSの活性化ではカルモジュリン(CaM)というCa結合性蛋白が酵素にしっかりと結合することが必要で,そのためにcNOSでは細胞内Caの上昇というイベントに応じてNOが産生される.一方,iNOSでは,実はこのCaMがすでに結合しているので,カルシウムシグナルを必要とせず,iNOSがあれば持続的かつ大量にNOを産生しうる.しかし,制御の機構が何もないわけではなく,この場合も,初めの炎症刺激によりiNOSが誘導産生されることがNO産生のシグナルといえる.

■炎症反応においては,サイトカインをはじめとする炎症性メディエータ群の作用によりさまざまな細胞で,iNOSが生じ,NOが産生される.NOはエネルギー生産系であるクレブス回路や電子伝達系,さらにはDNA合成を阻害することにより,炎症の場に存在する感染微生物(あるいは腫瘍細胞)を攻撃し,個体保護に働く.しかし,NOの産生が過剰になると血管拡張作用により個体はショックに陥る.またさらに,NOは感染微生物を細胞死に導くのと同じ機構で周辺の自己正常細胞をも傷害する可能性がある.
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# by DrMagicianEARL | 2011-10-28 12:09 | 敗血症 | Comments(0)

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