ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■肺炎の重症度分類には以下のものがある.
PSI(=PORT study):the pneumonia severity index
CURB65:the modified British Thoracic Society severity score
A-DROP:Japan Respiratory Society community associated pneumonia severity index
I-ROAD:Japan Respiratory Society hospital community associated pneumonia severity index
rATS:the revised American Thoracic Society score

1.A-DROP
■A-DROPは日本呼吸器学会(JRS)が2005年に定めた重症度分類であり,非常に簡便である.内容は従来から使用されているCURB65(BTS Pneumonia Guidelines Committee 2004)[1]に非常によく似ており,日本人向けのよい指標である.ただし,A-DROPを定めているJRS市中肺炎ガイドラインには参考文献の記載がない.参考までにCURB-65を以下に示す.
e0255123_14271444.jpg

■CURB-65の死亡率をアウトカムとした感度は92.8%,特異度は49.2%であった.JRSが定めたA-DROPは参考文献の記載がないものの,CURB-65を日本人向けにアレンジしたものである.ただし,死亡率などの大規模研究はまだこれからであり,また,高齢化社会がすすんでいる本邦において,高齢者市中肺炎でのA-DROPは重症度判定には不十分であるとの指摘もある(CURB-65でも同様の問題をかかえている).

■A-DROPでは呼吸評価をSpO2,PaO2で規定している.しかしながら,SpO2,PaO2は呼吸回数で容易に代償されてしまう.実際にはSpO2,PaO2よりも呼吸回数が呼吸能評価・重症度評価に鋭敏であるとする報告は多く,その点を加味し,改変したA-DROP(改)を以下に示す.
e0255123_1428415.jpg

■厳密な重症度判定を行うならば後述のPSIが最適であるが,非常に項目が多く,利便性に欠ける.記憶しやすく,ERで即座に判定できるA-DROPは非常に有用であり,推奨される.胸部X線で肺炎像を見ただけで入院させようとする医師はまだ多いが,これを見るだけでも,外来治療が可能な患者が多く存在することは一目瞭然である.注意すべきは,この基準はあくまでも目安であり,最終的には診察医による総合判断が望まれることである.

2.PSI
■PSIは患者を年齢,既往歴,身体所見の異常,検査所見の以上などの20因子による総スコアで5つのクラスに分けており,最も正確に重症度を判定できる[2].しかし,当然ながらこの膨大な基準を記憶することは不可能であり,ERで施行するのは難しい.時間的余裕があれば推奨される.また,A-DROPを使用する際も外来・入院での適応判断に悩む場合などはこのPSIを参考にするとよい.たとえスコアリングせずとも,表を見るだけでおおまかな重症度を推測することはできる.
e0255123_14285835.jpg

■PSIは死亡率を予測して便利であり,各感染症学会に多大な影響を与える素晴らしいstudyである.しかし,これだけ詳細に及ぶといえども万能ではなく,実際にはPSIはあくまでも低死亡率の予測であって本来のトリアージツールではないことに注意.PSIで反映されなかった入院条件もあり(後述),また,カナダのstudyではclassⅠ,Ⅱの低リスクであっても,19.1%が実際には入院しており,そのうち48.4%は5日以上入院することになった.19%は合併症も併発しており,単純にclassⅠ,Ⅱであったからと安心できるわけではなく,患者個々人の臨床像を把握して判断しなければならないと警鐘を鳴らしている[3]

3.rATS
■肺炎患者のICU入室は実際にはなかなか判断が難しい.そこでICU入室判断のために使用が推奨されるのがrATSである.rATSは改定され,2007年にIDSA/ATSより市中肺炎(CAP:community associated pneumonia)ガイドラインが発表され,ICU入室のcriteriaが掲載された.
e0255123_1429485.jpg

■この基準を用いて判断した重症CAPは早期に認識されるべきであり,救急部での積極的マネジメントと直接ICU入室をすることで予後が改善するとされている[4]

4.その他入院基準PSIでもカバーしきれない入院基準を以下に示す.
①低酸素
 SpO2<90%(room air)
 来院時挿管
②経口不可能
 頻回嘔吐
③継続加療困難例
 アルコール/薬物中毒
 精神科疾患
 ホームレス
 介護人なし,一人暮らし
 認知症
④その他

5.I-ROAD
■JRSではHAP(院内肺炎)に対しても重症度分類を定めているが,軽症と中等症をCRPで判断しているなど,信頼性がやや乏しい.参考程度に留めておくのがよいかもしれない.
e0255123_14303088.jpg


[1] Lim WS, et al. Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: an international derivation and validation study. Thorax 2003; 58: 377-382 Free PMC Article
[2] Fine MJ, et al. A prediction rule to identify low-risk patients with community-acquired pneumonia. N Engl J Med 1997; 336: 243-50 Free Full Text
[3] Marrie TJ, Huang JQ. Low-risk patients admitted with community-acquired pneumonia. Am J Med 2005; 118: 1357-63
[4] Phua J, et al. The impact of a delay in intensive care unit admission for community-acquired pneumonia. Eur Respir J 2010; 36: 826-33
[PR]
# by DrMagicianEARL | 2011-10-25 14:32 | 肺炎 | Comments(0)
■HMGB1(high mobility group box protein1)は全ての有核細胞の核内に存在する非ヒストン核蛋白質であり,核内においてDNAと結合し,DNAを折り曲げ,NF-κB,ステロイドホルモン受容体など様々な転写因子の活性を間接的に調節している.HMGB1を欠損したマウスはグルココルチコイド受容体機能不全などにより生後まもなく低血糖で死亡する[1].このように,HMGB1は細胞の核内において,必要不可欠な役割を担う.また,HMGB1は細胞によっては細胞質や細胞膜上にも発現しており,細胞膜上のHMGB1はamphoterinとしても知られており[2],神経突起の伸長や平滑筋細胞の遊走,癌細胞の浸潤,転移などにかかわっている.HMGB1のアミノ酸配列は進化の過程においてかなり保存されており,進化の過程においてかなり保存されており,哺乳類においては約98%の相同性があるとされる.

■マウスにLPSを投与してsepsisモデルを作製すると数日で死に至るが,これはすでに血中IL-1βやTNFαがピークを過ぎた時期であることや,TNFα欠損マウスにおいてもLPS投与後数日して死亡することから,これら炎症性サイトカイン以外のメディエータの存在が考えられた.そこでWangらはsepsisの後期に働いている致死的メディエータを探索し,HMGB1を同定した[3]

■このHMGB1がエンドトキシン血症時の後期メディエータであり,エンドトキシンショックで死亡した患者にはこの物質が血中で増加することから,致死的メディエータであることが報告されており[3],これが死のメディエータと呼ばれる所以である.敗血症性ショックにおいて抗HMGB1抗体が出現した患者の生存率が高いことも報告されている[4].HMGB1は,単球/マクロファージのみならず,ほとんど全ての細胞で発現している.発現の誘導刺激としても,LPSだけではなく,IL-1βやTNFαなどもHMGB1の発現を増加させる.

■HMGB1放出の機序は受動的放出と能動的放出の2つがある.受動的放出とは,細胞がapoptosisに陥った場合にDNAと緩く結合しているHMGB1が細胞外へと放出される機序である.一方,能動的分泌とは,LPSなどで刺激を受けたマクロファージや樹状細胞などが分泌する機序であり,このLPSによるHMGB1の放出には,HMGB1のリジン残基のアセチル化が重要とされる(どのようにしてアセチル化が誘導されるかは未解明).アセチル化されたHMGB1は核移行が阻害されることで核への再移入ができなくなり,分泌小胞へ入って細胞外へと分泌される.一方,TNFα刺激によるマクロファージからのHMGB1分泌はリン酸化が関与していることが報告されている.

■最近では,HMGB1のようにメッセージ性を持って細胞から放出される物質を生体における警報の役割をもつものとしてalarminsという総称が提唱され,国際的に用いられてきている[5].生体防御機構を超えた侵襲を受けた細胞が壊死に陥った際にHMGB1は受動的に放出されるが,このHMGB1は壊死した細胞の遺言として他の細胞にメッセージを送るとされていた.しかしながら,実際には壊死ではなくapotosisに陥った細胞から放出されるという理論に変わり,さらに近年ではHMGB1はapoptosisの段階ではなく,autophagyの段階で濃度が高まる傾向があるとされている.

■このようなapoptosis細胞から受動的に放出される細胞内成分alarminsに対する受容体も発現していて,alarminsを認識することによって炎症・免疫反応を惹起する[6,7].しかしながら,一部の免疫細胞は,外来微生物・異物侵入に応答して,自らが死ぬことなくHMGB1などのalarminsを能動的に分泌することができ,炎症・免疫反応の増幅に一役かっている.

■細胞外に放出されたHMGB1は炎症反応を立ち上げる[8,9].HMGB1は血管内皮細胞に働きかけてVCAM1(vascular cell adhesion molecule 1),ICAM1(intercellular adhesion molecule 1),E-selectinなどの接着因子の発現を誘導するとともに,好中球や単球の遊走を促し,これら炎症・免疫担当細胞の傷害局所への集積を誘導している.また,HMGB1は免疫細胞に働きかけ,炎症性cytokineの産生を促し,炎症反応の増幅を誘導している.これらの細胞がHMGB1 signalを受け取る際の受容体としては,糖化蛋白受容体(advanced glycation endproducts recptor;AGER or RAGE)が知られているが,その他にも受容体は存在すると考えられていて,TLR2やTLR4などがその候補として挙げられている.

■このように傷害局所におけるHMGB1は生体防御因子として働いていると考えられるが,その一方で,敗血症のような状況において,過剰に産生された制御不能なHMGB1は致死性因子として働く.

■盲腸結紮・穿孔(CLP)モデルに対するHMGB1阻害はCLP術後24時間からの投与でも十分に治療効果が得られた[10].この報告では,重症敗血症ではHMGB1は重要であるが,敗血症性ショックではHMGB1の関与は少なく,TNFαがその主役を演じているとしている.また,HMGB1投与は,血圧・心拍数ともに正常ではショックを生じないが,上皮バリア障害により症状の増悪と突然の心停止を引き起こす[9].このことから,sepsisの病態に応じて関与するメディエーターが異なると考えられ,治療標的としてもHMGB1とTNFαを区別して考えていく必要がある

■DICおよびMODSの病態形成にHMGB1は深く関係している.DICの患者は非DIC患者と比べて血漿HMGB1濃度が有意に高く,DIC scoreとHMGB1濃度には相関が認められる[11].また,MODSを合併している患者は非合併患者と比べてHMGB1濃度が有意に高く,SOFA scoreとも相関関係が認められる.さらに,ラットでのTb(thrombin)誘発DICモデルにおいて,HMGB1はDICの進展を加速させ,不可逆的で致死的なMODSを惹起することも明らかとなった[12,13].HMGB1は単球表面のTF(組織因子)発現を増強し,Tb-TM(Thrombomoduline)複合体によるprotein C活性化を阻害する作用がある.以前よりDIC発症にはTb以外のコアファクターの関与が推定されていたが,そのコアファクターの一つはHMGB1である可能性が示唆されている.

■現在,HMGB1のもう1つの大切な作用として,組織再生利用が注目されている.以前より適度の炎症反応が組織再生,修復に重要であることは知られていた.HMGB1は炎症部位へのmesoangioblastと呼ばれる幹細胞や血管内皮細胞の遊走作用を促進し,組織再生や血管新生に寄与することが示されている[14,15].また,HMGB1はインテグリンを介した血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell:EPC)が病変部位へと遊走・集簇する,いわゆるホーミング促進作用も示す[16]

■以上より,sepsis治療標的としてのHMGB1は,後期メディエータであることから治療の時間的余裕を生み,治療標的として都合がよい.しかしながら,関与するHMGB1あるいは阻害するHMGB1の量によってその作用がまったく相反する可能性があることも示されている.したがって,臨床応用にあたっては,病態でのHMGB1阻害による至適治療域の詳細な研究が必須である.
※近年DIC治療薬であるrTM(リコモジュリン®)がHMGB1吸着作用を有することが報告されているが,これが必ずしも臨床効果を生むわけではなく,rTMの抗炎症作用はHMGB1吸着の観点においては乏しいと小生は考えている.ただし,rTMの抗炎症作用はこれ以外の機序もある.

[1] Calogero S, et al. The lack of chromosomal protein HMG1 does not disrupt cell growth but causes lethal hypoglycaemia in new born mice. Nat Genet 1999; 22: 276-80
[2] Huttunen HJ, Rauvala H. Amphoterin as an extracellular regulator of cell motility : from discovery to disease. J Intern Med 2004; 255: 351-66
[3] Wang H, et al. HMG-1 as a late mediator of endotoxin lethality in mice. Science 1999; 285: 248-51 Free Full Text
[4] Barnay-Verdier S, et al. Emergence of autoantibodies to HMGB1 is associated with survival in patients with septic shock. Intensive Care Med 2011; 37: 957-62
[5] Harris HE, Raucci A. Alarmin(g) news about danger: workshop on innate danger signals and HMGB1. EMBO Rep 2006; 7: 774-8 Free PMC Article
[6] Kono H, Rock KL. How dying cells alert the immune system to danger. Nat Rev Immunol 2008; 8: 279-89 Free PMC Article
[7] Foell D, et al. Mechanisms of disease: a 'DAMP' view of inflammatory arthritis. Nat Clin Pract Rheumatol 2007; 3: 382-90
[8] Scaffidi P, et al. Release of chromatin protein HMGB1 by necrotic cells triggers inflammation. Nature 2002; 418: 191-5
[9] Lotze MT, Tracey KJ. High-mobility group box 1 protein (HMGB1): nuclear weapon in the immune arsenal. Nat Rev Immunol 2005; 5: 331-42
[10] Yang H, et al. Reversing established sepsis with antagonists of endogenous high-mobility group box-1. Proc Natl Acad Sci U S A 2004; 101: 296-301
[11] Hatada T, et al. Plasma concentrations and importance of High Mobility Group Box protein in the prognosis of organ failure in patients with disseminated intravascular coagulation. Thromb Haemost 2005; 94: 975-79
[12] Ito T. et al. High-mobility group box 1 protein promotes development of microvascular thrombosis in rats. J Thromb Haemost 2007; 5: 109-16
[13] Rittersch D, et al. Harmful molecular mechanisms in sepsis. Nat Rev Immunol 2008; 8: 776-87 Free PMC Article
[14] Palumbo R, Bianchi ME. High mobility group box 1 protein, a cue for stem cell recruitment. Biochem Pharmacol 2004; 68: 1165-70
[15] Palumbo R, et al. Extracellular HMGB1, a signal of tissue damage, induces mesoangioblast migration and proliferation. J Cell Biol 2004; 164: 441-9 Free PMC Article
[16] Chavakis E, et al. High-mobility group box 1 activates integrin-dependent homing of endothelial progenitor cells. Circ Res 2007; 100: 204-12 Free Full Text

--------------------
【余 談】
 薬剤で炎症性メディエータを制御することは非常に難しい印象がある.実際,サイトカインをターゲットとした薬剤がこれまで数多く開発されてきたが,そのほとんどが第2相,第3相で臨床的有用性を示すことができていない.「敗血症においてはサイトカイン=悪」という単純な考えで抗サイトカイン療法は行えない.創薬においても臨床的に薬剤を使用する場合においても,あらゆるメディエータには意味があり,体に有害な場合もあれば有益な場合もあることを肝に銘じるべきである.

 上記のHMGB1でも「致死的メディエータ」というイメージをもつ人が多いが,実際には状況次第で必要なメディエータでもあることが分かる.ARDSで言われる好中球エラスターゼも然り,敗血症で動くサイトカインを「下げる」ではなく「至適濃度にする」という考えに転換する必要があるが,各メーカーのMRの薬剤説明会などを聞くと,まだまだそういった流れには至っていない.「できるだけ早期に投与」もよく言われるが,確かに急性期でなければ効果はないとはいえ,盲目的に早期使用を行うことも問題があると思われる.サイトカインを制御し,至適濃度にするという意味においては現時点ではCHDFが最も有用であると推察される.
[PR]
# by DrMagicianEARL | 2011-10-24 12:21 | 敗血症 | Comments(0)
■PAMPs(pathogen-associated molecular patterns:病原体関連分子パターン)とは,サイトカインや先天的な免疫に関連する蛋白の産生に繋がる細胞内シグナルを起こす物質のうち,エンドトキシン(LPS)をはじめとする病原微生物に関連した外因性の物質である[1].以下にPAMPsを挙げる.
 Triacyl lipopeptide
 Peptideglycan
 Lipoprotein
 dsRNA
 LPS(endotoxin)
 Flagellin
 Diacyl lipopeptide
 ssRNA
 Unmethylated CpG DNA
 Uropathogenic E.coli
 Lipoteichoic acid

■alarminは炎症反応に繋がる各種の内因性物質の総称である[1,2].以下にalarminsを挙げる.
 Necrotic tissue
 HSPs(HSP-60, HSP-70, Gp-96)
 Biglycan
 Self-messenger RNA
 Extra domain A-containing fibronectin
 Fibrinogen
 Polysaccharide fragments of heparin sulfate
 Oligosaccharides of hyaluronic acid
 Oxidized low low-density lipoprotein
 Surfactant protein A in the lung epithelium 1
 Neutrophil elastase
 Chromatin-IgG complex
 β-Defensin 2
 HMGB-1
 S100s
 HDGF
 IL-1a
 Uric acid
 Cathelicidins
 Defensins
 EDN
 Galectins
 Thymosins
 Nucleolin
 Annexins
※つい最近までalarminはDAMPs(danger-associated molecular patterns)と呼ばれていた[2].これは下記のdamage-associated molecular patternsと非常に混同されやすく,古い文献を読む際や,勘違いしてDAMPsを使用している文献も散見するため,注意が必要である.

■外因性物質であるPAMPsと内因性物質であるalarminsを総称してDAMPs(damage-associated molecular patterns:傷害関連分子パターン)と呼ぶ[1,3]

■RAGE(receptor of advanced glycation endproduct)やToll-like receptor(TLR)をはじめとするPRRs(pattern-recognition receptors)の発見は敗血症の病態生理のより正しい解明に大きな進歩をもたらした.すなわち,従来は基本的には,ある受容体はリガンドとしてある特定の病因物質(敗血症の場合には病原微生物)を認識して細胞内シグナルを誘発し,サイトカインの産生に結びつくと考えられていた.しかし,PRRsは特殊なアミノ酸配列ではなく,PAMPsやalarminなどのある種の普遍的で共通の立体構造を感知するmulti-ligand receptorである[4].すなわち,重症敗血症病態に関連した受容体はリガンドと1対1対応ではなく,ひとつの受容体で各種のPAMPs,alarminsをリガンドとして捉え,サイトカイン産生につながる細胞内シグナルを活性化し始める[5,6]

■PAMPsには実に様々なものがあり,LPS(リポポリサッカライド),すなわちエンドトキシンは勿論PAMPsではあるが,逆に言うとPAMPsのひとつに過ぎない.言い換えればエンドトキシン以外にも病原微生物由来の多種多様の物質,すなわちPAMPsがリガンドとしてPRRsに感知され,サイトカインの産生に繋がる細胞内シグナルを惹起するということである.この考えに立てば,エンドトキシン血中濃度が重症敗血症の重症度を必ずしも反映しないという結果[7]も,測定法に関する議論の余地はあるものの,納得できる.現在,エンドトキシン血症という概念からPAMPEMIAという概念に変わりつつある.
※臨床上,エンドトキシンの重要性に疑問がもたれはじめてきており,PMX-DHP(エンドトキシン吸着カラム)の有効性についても確たるエビデンスがあるわけでなく,CHDFに勝るものであるかはいまだに不明である.医療費のことも考慮すれば,次のSSCG 2012においてPMX-DHPが加えられたとしても推奨度はかなり低いものであると推察される.

■サイトカインの産生を促す細胞内シグナルを引き起こす物質はPAMPsのみと考えられてきた.しかし,そのような細胞内シグナルは内因性の物質によっても引き起こされることが判明してきて,alarminという概念が確立された.「死のメディエータ」であるHMGB-1もサイトカインであると同時にalarminの代表格でもある.そしてalarminには壊死組織も含まれている.つまり,どこかに感染巣があり,感染が重篤化してその部分の組織が壊死に陥り,壊死組織が免疫担当細胞に感知されると,PAMPsがなくてもPRRsを介してサイトカインの産生が促されることになる[1].また,autophagyに陥った細胞もまたalarminとして作用することも最近報告されている[8]

[1] Harris HE, Raucci A. Alarmin(g) news about danger: workshop on innate danger signals and HMGB1. EMBO Rep. 2006; 7: 774-8 Free PMC Article
[2] Oppenheim JJ, Yang D. Alermins: chemotactic activators of immune responses. Curr Opin Immunol 2005; 17: 359-65
[3] Rittirsch D, et al. Harmful molecular mechanisms in sepsis. Nat Rev Immunol. 2008; 8: 776-87 Free PMC Article
[4] Cinel I, Opal SM. Molecular biology of inflammation and sepsis: a primer. Crit Care Med 2009; 37: 291-304
[5] Kawai T, Akira S. TLR signaling. Cell Death Differ 2006; 13: 816-25 Free Full Text
[6] Tsujimoto H, et al. Role of Toll-like receptors in the development of sepsis. Shock 2008; 29: 315-21
[7] Lelly JL, et al. Is circulating endotoxin the trigger for the systemic inflammatory response syndrome seen after injury? Ann Surg 1997; 225: 530-41 Free PMC Article
[8] Delqado M, et al. Autophagy and pattern recognition receptors in innate immunity. Immunol Rev 2009; 227: 189-202 Free PMC Article
[PR]
# by DrMagicianEARL | 2011-10-23 11:28 | 敗血症 | Comments(0)
■重症敗血症/敗血症性ショックにおいて臓器障害が発症するのはその臓器を形成している細胞の機能障害,あるいは細胞死に起因すると捉えることができる.従来は細胞機能障害さらには細胞死はnecrosis(壊死)によるという前提に立ったものであった.その後重症例における細胞死の様式として,necrosis外にもapoptosis(アポトーシス:プログラム細胞死)という細胞死の形態があることが提唱された[1]

■apoptosisは個体をよりよい状態に保つために積極的に引き起こされる,管理・調節された細胞の自殺,すなわちプログラムされた細胞死である.正常の細胞におけるapoptosisはmitosis(細胞分裂)に多雨する細胞数の制御機構でもある.このapoptosisを活性化させる外因性経路として,現在,THN-R1やFasなどのDeath受容体シグナルが知られるようになった.

■そして重症敗血症/敗血症性ショックにおける細胞死に関する一番新しい話題はautophagyである.autophagyとは「自食作用」「自己融解」とでも訳すべき病態であり,autophagosome の出現のもと細胞質の重度の空胞化や細胞内器官の融解が起こり,細胞が死亡していく病態[2]である.
※2011年11月13日に群馬大学の佐藤健教授と佐藤美由紀助教がミトコンドリアの母性遺伝の仕組みを解明したことをScience Onlineで発表した.いわゆるミトコンドリア・イブ説であるが,父方の精子のミトコンドリアが受精卵内でどのように分解されるかこれまで分かっていないかった.本発表では,父方のミトコンドリアがautophagyにより消滅したと報告されている[3]

■autophagyは栄養環境が悪化したときなどに細胞が自らの蛋白質を分解する生理現象である.蛋白質のリサイクルを行ったり,細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体のホメオスタシス維持に関与している.細胞は飢餓状態になると蛋白合成が低下する.このような状況ではautophagyが生じ,自らのアミノ酸を他の細胞に譲り渡す.autophagyでは自己貪食空胞autophagosomeの中に細胞内小器官が取り込まれ,リソソームと融合して細胞内消化が生じる.このようなautophagyはAlart Cellをはじめ,膵臓,副腎など,sepsis病態のさまざまな細胞に認められる.sepsis病態で活性化されるFADDを抑制すると,apoptosisだけでなく,このautophagyも抑制できる.

■いかなる場合に細胞はnecrosis に陥り,あるいはapoptosisやautophagyに陥るかはまだ明確には解明されていない.ストレス,即ち侵襲が軽度ならばautophagyが,中等度ならapoptosisが,重度ならばnecrosisが発生する説が発表されている[4,5].この説に立てば,apoptosisやnecrosisが発生しない程度の弱い侵襲でも細胞はautophagyを発生して,それが臓器障害に繋がる可能性があるということである[5,6].今後重症敗血症/敗血症性ショックの病態の根幹をなす細胞障害,細胞死への対策を介しての治療を考える場合には,従来のnecrosisやapoptosisのみならず,autophagyの評価法,発生機序,その制御の方法などについても検討する必要があると考えられる[5,7,8]

[1] Clark JA, Coopersmith CM. Intestsinal crosstalk: a new paradigm for understanding the gut as the “motor” of critical illness. Shock 2007; 28: 384-93 Free PMC Article
[2] Nishida K, et al. Crosstalk between autophagy and apoptosis in heart disease. Circ Res 2008; 103: 343-51 Free Full Text
[3] Sato M, Sato K. Degradation of Paternal Mitochondria by Fertilization-Triggered Autophagy in C. elegans Embryos. Science 2011 Oct 13(Online)
[4] Delgado M, et al. Autophagy and pattern recognition receptors in innate immunity. Immunol Rev 2009; 227: 189-202 Free PMC Article
[5] Hotchkiss RS, et al. Cell death. N Engl J Med 2009; 361: 1570-83
[6] Nishida K, et al. Crosstalk between autophagy and apoptosis in heart disease. Circ Res 2008; 103: 343-51 Free Full Text
[7] Watanabe E, et al. Sepsis induces extensive autophagic vacuolization in hepatocytes: a clinical and laboratory-based study. Lab Invest 2009: 89: 549-61 Free Full Text
[8] Hsieh YC, et al. When apoptosis meets autophagy : deciding cell fate after trauma and sepsis. Trends Mol Med 2009; 15: 129-38 Free PMC Article
[PR]
# by DrMagicianEARL | 2011-10-22 12:31 | 敗血症 | Comments(0)
1.診察
(1) バイタルチェック
 バイタルチェックは当然であるが,救急外来にしても一般病棟にしても,RR(呼吸数)は計られないことがほとんどである.呼吸器疾患においてRRは極めて有用かつ鋭敏な指標であることはもはや呼吸器科医では常識であり,必ずRRをチェックをする.

(2) 診察評価項目
・咳嗽(湿性,乾性,頻度)
・喀痰(粘稠か,何色か)
・口唇(チアノーゼ有無)
・指(ばち指有無)
・胸郭(呼吸の深さ,左右差)
・聴診(coarse/fine crackles,wheezing,whooping,rhonchus,strider,左右差)
・打診(胸水量評価)

(3) 問診
①基本的問診事項:5W1H,呼吸症状,悪寒戦慄有無など
②DM等の免疫低下疾患,COPD等の慢性気道疾患の有無は必ず聴取する.
③服用歴では抗菌薬と相互作用をきたしやすい薬剤に注意する:マクロライド系は相互作用をきたしやすい薬剤が多い.
④HIV感染を疑う患者では性交歴,同性愛者か否かを聴取する.
⑤日常ADL,嚥下能力:誤嚥性肺炎の場合,治療後の摂食レベル変更を行う際の指標になる.
⑥前医にて抗菌薬の注射,処方があったか確認:投与する抗菌薬,血液培養ボトルなどが変わる.ニューキノロン(TFLXを除く)が入っていた場合は結核にやや効果があるため,結核がマスクされてしまうことがあるので注意が必要.

(4) 症状
発熱,咳嗽,喀痰,悪寒または悪寒戦慄(1回vs複数回),時に胸痛,血痰,喘鳴,呼吸困難などが含まれる.
①悪寒戦慄
悪寒戦慄を伴えば菌血症または敗血症の可能性が高く,血液培養で検出できる率は高くなる(血液培養の絶対適応とする成書もある).発症後1回のみの悪寒戦慄は肺炎球菌感染が強く疑われ,患者は発症時刻まで正確に覚えていることがある.反復する悪寒戦慄は膿胸あるいは膿瘍の合併を疑うか,その他の細菌感染の可能性が高い.なお,マラリアも悪寒戦慄を伴う.
②咳嗽
 咳には乾性と湿性があり,多くの細菌性肺炎患者は着色痰を喀出するが,高齢者の脱水状態では乾性咳にとどまり,補液後に大量の膿性痰が喀出されることがあるので注意が肝要である.
③喀痰
痰の着色は種々で,鉄錆色(肺炎球菌?),緑色(緑膿菌?),オレンジーゼリー(肺炎桿菌?),薄黄色など多様であるがそれが起炎菌の想定に直接的に役立つことはあまりない.喀痰の悪臭は嫌気性菌感染を意味するが,実際には嫌気性菌肺炎患者の40-70%しか悪臭痰を喀出しないので注意を要する.
④胸痛
 肺炎が胸膜に達している場合,呼吸性に変化する胸膜炎痛で胸痛を訴えることが多い.
⑤呼吸困難
 肺炎における呼吸困難は3パターンあり,BAやCOPDに感染を伴っての気道炎症による気管狭窄,肺炎の拡大によるガス交換領域の減少,喀痰による気道閉塞である.
⑥ニューモシスチス肺炎(PCP)
 PCPは発熱をはじめとして理学所見に乏しく見逃されやすいため,呼吸困難がかなり進行してから発見されることが多い.その際,胸部X線でのGGOを見逃さないようにする必要がある.
⑦発熱
 高齢者では発熱がない場合もあるが,基本的には感染の重要な指標となる.発熱がないならばUTIや悪性腫瘍の可能性も考慮しなければならない.特に陰影はあるが発熱がないときは陳旧性肺炎か,BACも含めた肺癌の可能性を考慮する必要がある.

(5) 鑑別疾患
・他の呼吸器疾患,インフルエンザ
・心不全
・尿路感染症:高齢者の発熱は肺炎だけではないので安易に肺炎と決め付けない

2.検査
(1) 採血
一般生化学,血算(血液像含む),さらに以下の追加を検討.
①喘息合併疑い:IgE RIST,アトピー鑑別試験
②心不全疑い:BNPを追加.
③ACS除外必要:CK-MB,Tn-Tを追加.
④間質性肺炎疑い:KL-6,抗核抗体,P-ANCA,RAPAなどを追加.
⑤非定型肺炎疑い:クラミジア抗体,マイコプラズマ抗体,寒冷凝集素
⑥真菌感染疑い:BDG(β-Dグルカン)

(2) 迅速キット
 尿中肺炎球菌抗原を計測する(迅速キットの詳細は後述).その他,状況にあわせて以下の検査項目を追加.
①流行期はインフルエンザ迅速検査追加.
②超重症肺炎や,低Na,肝障害,CPK上昇,LDH上昇,下痢症状などを併発している場合は尿中レジオネラ抗原を追加.
③感度が非常に低いため推奨しないが,非定型肺炎が強く疑われる場合は,マイコムラズマイムノIgM抗体を追加.
④AIDSが疑われる場合は,患者同意のもとHIV抗体検査を行う.

(3) 動脈血ガス分析
 低酸素血症,呼吸数増加,敗血症疑い,SpO2計測不可などの状況で施行する.コメント欄に酸素投与量と呼吸数を入力すること.数値は以下を重点的に見ること.
①pH
acidemia,acidosis,normal,alkalosis,alkalemiaの5種類を判別する.代謝性,呼吸性,代償有無を下記項目と合わせて解釈する.重炭酸Na製剤(メイロン®)の適応はpH<7.15である.
②PaCO2
高値だけが異常ではないことに注意.敗血症で代謝性アシドーシスが進行している場合は低値をとり,重症度指標となることがある.代謝性の変動があるときの呼吸代償の指標になる.
③PaO2
年齢で正常値が変化することを考慮する.
PaO2=109-0.43×age
正常値でも呼吸数で代償されている可能性があることを留意する.極端に低い場合,静脈をついた可能性があることを考慮し,データから動脈か静脈かを判断する.
④HCO3,BE
代謝性か呼吸性か,代償しているかを判別する項目.BEは見やすいが,あくまでも計算値であり,HCO3を重視すること.
⑤静脈血ガス分析
 どうしても動脈から採血できないとき,静脈血でも以下を指標にある程度は動脈血ガスの推測が可能である.
A-pH=V-pH+0.01~0.05
PaCO2=PvCO2-6
A-HCO3=V-HCO3-2

(4) 画像検査
胸部X線は入院後の経過followで比較対象となるため,CTを行う場合も必要.心陰影の裏の陰影はネガ反転することで分かりやすくなることがある.肺野の浸潤陰影を認めれば明らかであるが,胸水の影に隠れていたり,肺癌などと紛らわしいケースもあり,過去の画像との比較などで慎重に見極める必要がある.ただ陰影を見つけるだけでなく,画像を読む上で以下の項目について検討しておくこと.また,決まった陰影パターンにとらわれすぎないことが重要である.特に,進行した免疫不全患者では通常の陰影パターンをとらないことはしばしば遭遇することであり,空洞陰影があるのに結核でなかったり,空洞陰影がないのに結核があったり,といったように,教科書通りのパターンを示さないことはよくある.また,気管支結核は通常の肺炎に酷似した画像所見となる.
①気管支肺炎
 気管支の支配する区域に一致して広がる肺炎.小葉単位での浸潤陰影を見ることができる.また,細気管支の拡張を伴うびまん性汎細気管支炎様の形態をとることも誤嚥性肺炎ではよくあり,しばしば粒状陰影として結核と誤診される.
②大葉性肺炎
 肺の一葉を占める肺炎であり,肺炎球菌,Legionella,Klebsiellaに多い.なお,BACもこの形態をとることがある.なお,気管支肺炎も進行すれば大葉性肺炎に進展する.
③NTP(非定型肺炎)
 市中肺炎においてNTPを診る機会は非常に多く,画像のみでの判断は難しいが,間質性肺炎様のパターンをとりやすい.とりわけ,マイコプラズマやクラミジアは肺を直接傷害することはほとんどない.すなわち,NTPの陰影は反応性のサイトカインによる間質傷害を見ているのである.
④びまん性肺疾患の存在
 肺気腫,気管支拡張症,間質性肺炎の存在があると起炎菌も変わってくる.背景疾患の見落とし,誤診がないように.また,浸潤陰影でも両側や全肺野に広がる場合,細菌性肺炎とは考えにくく,EPやHPなどを鑑別に挙げるべきである.
⑤肺結核
 上肺野の壁のやや厚い空洞性陰影には要注意である.また粒状陰影散布像なども注意が必要.ただし,これらの所見は非常に分かり易いケースに過ぎず,実際には細菌性肺炎と区別がつかないこともしばしばある.近年,結核が増加していることをふまえると鑑別を必ず行う必要がある.
⑥NTM(非定型抗酸菌症)
 教科書的には免疫力低下患者に感染とされているが,意外に市中でも多く,嚢胞性気管支拡張を伴うことが多い.抗酸菌塗沫が陽性だからと言って,結核とは限らないことに注意.
⑦ウイルス性肺炎,真菌肺炎
 免疫力が低下した患者でよく見られるが,AIDS患者の場合,発症していることが分からず,背景に免疫力低下要素があることが知られないまま難治性肺炎で病院を転々とすることがある.患者背景と合わせて評価する.
⑧インフルエンザ関連肺炎
 インフルエンザ罹患時,気道粘膜が損傷し,細菌感染が起こりやすくなる.インフルエンザは診断してもこの肺炎を見逃されると症状が一向によくならないことがあるので,症状次第では胸部X線をとることも忘れずに.
⑨無気肺
 無気肺は比較的分かりやすいが,ときに円形無気肺などは肺炎と見間違えることがある.
⑩陳旧性肺炎
 肺炎治癒後に瘢痕化することがしばしばあり,これを急性肺炎と診断して入院させてしまうケースがある.必ず過去の画像と比較し,同じ陰影でないかの確認をする.
⑪肺癌
 肺癌と肺炎の画像鑑別が難しいケースがあり,悩んだときは過去の画像との比較は必ず必要.また,BAC(肺胞上皮癌)は気管支に沿って進展するため気管支肺炎に酷似した像を呈する.さらに進行すると今度は大葉性肺炎像をとるため,画像上は肺炎との鑑別が非常に困難であり,臨床症状と併せての評価が重要となる.また,BACと肺炎が合併するケースも珍しくないため,BACが見落とされやすい.
 基本的には反復して同一部位に感染を繰り返す場合には,局所の感染防御能の低下が疑われ,気管支内異物,良性または悪性気道内腫瘍,瘢痕性気道狭窄,食道気管支瘻が原因となりうる.
⑫胸水
 誤嚥性肺炎と心不全が合併することはよくあり,胸水の存在で肺炎像が見えづらいこともしばしばある.また,胸水が片側だけなら心不全と決めつけないこと.膿胸や結核,肺癌の可能性もあるからである.

(5) 喀痰塗沫培養検査
 喀痰検査を出さずに肺炎患者を入院させて,抗菌薬を開始する医師がいるが,当然ながら入院レベルの肺炎で喀痰検査を出さないのは論外である.明らかに誤嚥性肺炎であってもルーティンで出しておかないと,適切な抗菌薬治療ができない.抗菌薬を開始した後の喀痰検査は感度が落ちてしまう.MRSAやPA,結核が検出される可能性を考えれば喀痰検査を出さずに入院させて抗菌薬を開始するなど無責任極まりない.
 喀痰塗沫培養検査では
① 一般塗沫鏡検(グラム染色)
② 一般培養・同定
③ 一般:薬剤感受性2菌種
④ 抗酸菌塗沫(チールネルゼン)
⑤ 半定量培養(当院では一般培養に含まれる)
⑥ 定量培養(ほとんどの施設は不可)
を提出する.これに,結核が疑わしければ,抗酸菌培養(MGIT),結核TaqManPCRを追加する.PCPが極めて疑わしい症例では喀痰カリニDNAを追加する(保険適応外).喀痰検査について詳細は後述.

(6) その他塗沫培養検査
①血液塗沫培養
全例で施行する必要はない.症例を選んで行うべきであるが,現時点で明確な基準はない(髄膜炎では必須).敗血症を疑う症状(悪寒戦慄などの全身症状),SIRS状態等で判断する.行う場合は,抗菌薬が既に使用されているかの確認をしておく(抗菌薬吸着ボトル使用の有無を決定するため).
②尿塗沫培養
 呼吸器感染とならんで高齢者で多いのが尿路感染症であり,合併もしばしば認める.尿検査で疑わしければ施行しておくべきである.

(7) 初期治療
①喀痰吸引
 肺炎における低酸素血症の原因は,炎症による肺胞ガス交換領域の減少,気道炎症による気道狭窄,発熱による酸素需要量増大,そして喀痰による気道閉塞である.低酸素血症が喀痰吸引で解除されるケースはよくある.また,ERで突如急激にSpO2低下した場合も喀痰吸引で回復することはしばしば遭遇する.
②酸素投与
 低酸素血症の程度によって導入する.当然ながら動脈血ガス分析が行われていることを前提とすべきである.その際,適切にマスクを使い分けることが必要である.
a) 鼻カヌラ
低流量酸素投与時に使用可能.ただし,鼻呼吸していなければ投与した酸素が反映されない.また,鼻腔乾燥をきたすため,6L/min以上では使用できない.
b) マスク
 中等量で使用.目安としては4-6L/minで使用する.1-3L/minではマスク内に呼気がこもり,ガス効率が悪くなってしまう.
c) リザーバーマスク
 高流量酸素,すなわち6L/min以上で使用する.この量の酸素を投与する場合,慢性閉塞性呼吸器疾患が基礎疾患にある場合はCO2 narcosisに注意する必要がある.
d) NPPV
 主に,肺炎で誘発されたCOPD急性増悪,心原性肺水腫で使用する非挿管下での人工呼吸器であり,使用方法を知っておく必要がある.分からなければ呼吸器内科医にコンサルトする.普通の肺炎による呼吸不全では適応がない.また,喀痰量が多いときの使用は相対禁忌である.認知症が強すぎたり意識レベルが悪い患者でも使用はできない.
e) BVM
 Bag-Valve-Maskであり,呼吸停止時などのCPRの際にのみ使用されると思われがちだが,徒手的に二酸化炭素を排出させる方法としてもある程度有効である.注意すべきは気胸,肺気道損傷をきたしうる可能性があることであり,気胸・肺気道損傷を防ぐには胸郭容量をふまえたバッグ圧迫が必要である.また,呑気も起こしやすいため,呼吸停止時には有効にガス交換を行うために挿管することもある.

③補液
 肺炎では脱水を伴っていることが多い.また,抗菌薬を投与することも考えると,入院が必要な症例ではルート確保が必要であり,脱水がなくとも輸液製剤をつなげる.1号液か生食で開始するのが一般的.心不全が疑われる状況であるならば5%ブドウ糖液でもよい.

④抗菌薬
 外来でみれる一般市中肺炎であれば第一選択でAZM SR 2g(ジスロマックSR 2g)を処方すればよい.入院で抗菌薬点滴治療が必要であれば,病棟にあがってから開始してもよい.ただし,来院後4時間以内に抗菌薬を開始することが原則である.なお,敗血症が疑われたり,髄膜炎であったりする場合は1時間以内に投与する必要がある.

⑤解熱薬
 38.5℃以上の高熱時には使用を推奨し得る.第一選択の解熱薬が決まっているわけではないが,アセトアミノフェン(カロナール®,アンヒバ®)が望ましいかもれしれない.市中肺炎早期のNSAIDs曝露は臨床的に肺胸膜炎の合併症の頻度を上昇させ,診断の遅れにつながると報告されている[1].この報告は大規模スタディーではないが,オッズ比8.1という結果を残しており,注意すべき数値であろう.

⑥合併疾患治療
 気管支喘息,心不全,急性重症腎不全などの合併があるのであれば,速やかに治療が必要である.なお,嘔吐による誤嚥性肺炎の場合,嘔吐原因を精査するのを忘れないこと.イレウス等が原因であることがあり,胸部CTのみだと写らず見逃してしまう.また,頭蓋内疾患の可能性も考慮しておく.

⑦胸水ドレナージ
肺炎における胸水では膿胸と肺炎随伴性胸水の2種類があり,胸水穿刺で容易に判定可能である.肺炎随伴性胸水は,呼吸状態を著しく悪化させていない限りドレナージせずに抗菌薬のみで改善することが多い.一方,膿胸ではドレナージが著効するとされる.なお,人工呼吸器装着患者においては,漏出性胸水の場合でも,胸腔ドレーンによりドレナージをはかる方が,呼吸仕事量が減少し[2],人工呼吸器装着期間は2.7日短縮できると報告されている[3].

●メモ 疼痛
肺炎の鑑別診断で最も見逃してはならないのはPE(肺塞栓)である.実はPEでも15%に発熱がおこりうるため,発熱を理由にPEを除外してはならない[4].また,肺炎像において,疼痛を訴えており,浸潤陰影が胸膜に達していないときはPEを考えるべきである.PEは外来のみならず入院中にも起こりうる.


[1] Voiriot G, et al. Nonsteroidal antiinflammatory drugs may affect the presentation and course of community-acquired pneumonia. Chest 2011; 139: 387-94
[2] Doelken P, at al. Effect of thoracentesis on respiratory mechanics and gas exchange in the patient receiving mechanical ventilation. Chest 2006; 130: 1354-61
[3] Kupfer Y, at al. Chest tube drainage of transudative pleural effusions hastens liberation from mechanical ventilation. Chest 2011; 139: 519-23
[4] Stein PD, et al. Clinical, laboratory, roentgenographic, and electrocardiographic findings in patients with acute pulmonary embolism and no pre-existing cardiac or pulmonary disease. Chest 1991; 100: 598-603
[PR]
# by DrMagicianEARL | 2011-10-22 11:31 | 肺炎 | Comments(0)

by DrMagicianEARL