人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

■みなさんの施設では輸血製剤投与の適正使用ガイドラインを作成しているでしょうか?輸血開始基準としてのヘモグロビン濃度は7.0未満がよいとするエビデンスが多数出始めて久しいですが,今回,RCT pilot studyでの報告がでましたので,文献紹介とレビューを行いました.
【文献+レビュー】重症患者における輸血開始のヘモグロビン濃度の基準は?_e0255123_193460.png
高齢の人工呼吸器を装着した重篤患者における制限vs非制限輸血戦略:無作為化予備試験
Walsh TS, Boyd JA, Watson D, et al. Restrictive Versus Liberal Transfusion Strategies for Older Mechanically Ventilated Critically Ill Patients: A Randomized Pilot Trial. Crit Care Med 2013; 41: 2354-63

Abstract
【目 的】
ICUで4日以上人工呼吸器を装着している55歳以上でHb<9.0 g/dLの貧血を有する重篤患者赤血球輸血制限戦略と非制限戦略でのモグロビン濃度,赤血球輸血の使用,患者の予後を比較する.

【デザイン】
並行群間無作為化多施設共同予備試験

【研究の場】
2009年8月から2010年12月までの英国の6つのICU

【患 者】
100例(制限群51例,非制限群49例)

【介 入】
患者は,14日間もしくはICU在室期間のいずれか長期の方で,輸血制限戦略群(Hb<7.0 g/dLで輸血開始し,7.1-9.0 g/dLを目標)と非制限戦略群(Hb<9.0 g/dLで輸血開始し,9.1-11.0 g/dLを目標)に無作為に割り付けた.

【結 果】
ベースラインの並存疾患率と重症度は高く,特に虚血性心疾患が多かった(32%).Hb濃度は両群間で1.38g/dL(95%CI 1.15-1.60g/dL)異なっており(p<0.0001),介入中の平均Hb濃度は8.19g.dL(標準偏差5.1)vs 9.57 g/dL(標準偏差6.3)であった.登録後に輸血を受けた患者は制限群の方が21.6%少なく(p<0.001),中央値で赤血球輸血1単位(95%CI 1-2, p=0.002)少なかった.プロトコル遵守率は高かった.ICUや院内での観察中の臓器障害,人工呼吸器装着期間,感染症,心血管合併症等に差はなかった.無作為化後180日死亡率は非制限群(55%)の方が,制限群(37%)よりも高い傾向が見られた(RR 0.68, 95%CI 0.44-1.05, p=0.073).この傾向は,ベースラインの年齢,性別,虚血性心疾患,APACHEⅡスコア,SOFAスコア(神経項目除く)で調整した生存モデルにおいても維持されていた(HR 0.54, 95%CI 0.28-1.03, p=0. 0.54, 95%CI 0.28-1.03, p=0.061).

【結 論】
高齢の人工呼吸器装着患者における輸血戦略の大規模試験が行われることが望ましい.この予備試験は統計学的に有意ではないが輸血制限の死亡率が低い傾向を示した.
1.赤血球輸血基準としてHb<7.0 g/dLが推奨されるまでの経緯
■内科,周術期などのさまざまな重症疾患において,ヘモグロビンの輸血開始基準が低い方が予後がよく合併症が少ないとする報告が近年多数でてきている.「急性貧血ではHb<7.0 g/dLで輸血を開始し,7.0-9.0 g/dLを保つ」という内容は医師国家試験でも出題されており,year noteにも掲載されているにもかかわらず,医療現場では依然としてHb>7 g/dLでも赤血球輸血を施行する医師は多く,Hbが10を切った時点で輸血を行う医師も多数いる.確かに,多発外傷での出血患者におけるHb濃度は必ずしもリアルタイムの出血度を反映するとは限らないことに注意は必要であり,この場合は総合判断で輸血を行わなければならない.しかしながら,内科や周術期ではルーティンでHbが比較的高い段階から輸血を開始するのは避けるべきであろう.今回の予備試験のデータから,より大規模のRCTを組めば統計学的有意差がつくであろうことは容易に想像できる.

■ICUで治療される重症患者は,輸液による血液希釈,出血,赤血球寿命や産生能低下,溶血,エリスロポエチン産生低下・作用阻害[1],活性化マクロファージによる赤血球貪食,TNF-αによる赤芽球アポトーシス[2],鉄代謝異常,栄養障害などの理由,頻回採血[3-7]により貧血となる頻度が高く,輸血が必要となりやすい[8].Fickの原理から,全身の酸素消費量(VO2)は一回心拍出量(CO),ヘモグロビン濃度(Hb),動脈血酸素飽和度(SaO2),静脈血酸素飽和度(SvO2)で規定され,その関係は以下の式で表される.
 VO2 = CO × 1.34 × Hb × (SaO2-SvO2)
よって,酸素需給バランスの破綻に伴う臓器障害を防ぐならば赤血球輸血を行ってHb濃度を高めて酸素供給量を増加させるとする考えは理論的には正しい.しかし,実際には輸血を行っても酸素消費量は増大しないことが敗血症患者における複数の研究[9-11]で示されており,酸素供給を上げる目的での輸血には意味がないことが分かっている.

■1990年代までICU患者においては赤血球輸血の開始基準はHb<10 g/dLまたはHt<30%とされてきた.実際に,心筋梗塞患者を中心として,貧血の重症度と死亡率に相関関係があることは多数報告されている.Wuらは,65歳以上の心筋梗塞患者78794例の後ろ向き研究で,入院時のヘマトクリット値(Ht)が低いほど30日死亡率が高く,入院時のHt<30%では輸血施行群で30日死亡率が低下したと報告している[12].ところが,その後のRaoらの24112例の研究では,輸血患者群で死亡率が高く,最低Ht値が25%以上では輸血患者群で30日死亡率が高いと報告された[13].他にも,輸血を行っても必ずしも予後が改善しないとの報告がでていた[14,15]

■Hébertらは輸血制限群(開始基準Hb<7 g/dL,7-9 g/dLを目標)と非制限群(開始基準Hb<10 g/dL,10-12 g/dLを目標)を比較した多施設共同838例RCT(TRICC study[16]を行い,院内死亡率が制限群で有意に低い(22.2% vs 28.1%, p<0.05)しており,55歳以下の患者とAPACHEⅡスコア20点以下の患者では30日後の死亡率も有意に低いという結果であった(p=0.02).この1999年に発表された研究を皮切りに,輸血開始基準のHb濃度をより低くすることで予後が改善するのではないかという推測のもと,様々な研究が開始され,内科,外科,術後等で同様の結果が多数報告され,輸血開始基準となるHb濃度はぐっと下げられることになる.

■これまでの知見から,現在の推奨としては,急性経過での貧血では赤血球輸血開始基準はHb<7.0 g/dLとすべきで,Hb>7.0 g/dLでの投与は控えるべきであり,また,赤血球輸血でHb>9.0まで回復過剰な補正は避けるべきである.各病院には輸血管理委員会が存在するが,このようなHb値に基づいた開始基準を設定して輸血適正使用を行っている病院はまだ少ない.今後はこれらの適正使用の基準も推奨していく必要があるだろう.Gutscheらは,心臓手術における輸血ガイドラインの作成,教育,コンプライアンスの監査/フィードバックを利用した臨床ガイドラインの実施により,不必要な輸血が14.7%から8.1%まで有意に減少したと報告している(p=0.016)[17].また,米国17施設において冠動脈バイパス手術を行った14259例について,赤血球輸血を減らすガイドライン導入前後で比較を行い,術中,術後の輸血が減少し,肺炎,長期の人工呼吸,腎傷害,医療コストが有意に減少し,死亡リスクも43%減少したと報告している[18]

2.赤血球輸血の有害事象とその機序
■輸血製剤の副作用を聞くと,アレルギー反応,TRALI(輸血関連急性肺傷害),TACO(輸血関連循環過剰負荷),製剤汚染による感染症を想定する医師は多いが,重症患者においてはその他の機序による予後悪化や合併症も非常に多いことは知っておかなければならない.

■動脈血酸素分圧が低い組織においては赤血球に蓄えられたNOが放出されることで血管拡張を起こす.ところが,保存赤血球ではNOが枯渇しているため,輸血の結果,体内のNOが希釈されてしまい,血管攣縮を引き起こす.くも膜下出血では術後輸血が脳動脈攣縮を引き起こすことが知られており[19],このNO希釈が原因の1つと考えられている[20,21].くも膜下出血以外でもこの機序が臓器血管拡張障害による虚血を引き起こす可能性が想定される.

■赤血球内の2,3-DPG(diphosphoglycerate)が採血から48時間で減少し始め,酸素飽和曲線の左方移動により組織への酸素供給が障害されてしまう[22].また,貯蔵鉄中の炎症性サイトカインが炎症反応を惹起する[22]

■外傷,虚血による赤血球の損傷で遊離したヘムが細胞膜蛋白のSlo1 BK(large conductance calcium-dependent)チャネル機能を障害して血管壁の弛緩を阻害する[23]

■貯蔵赤血球は形態変化を引き起こし,微小循環を通過しにくくなり,多臓器障害の原因となりうる[24]

■貯蔵された赤血球はFe2+を含有するため,酸化ストレスによる細胞障害を引き起こす[25]

■貯蔵赤血球は血管内皮に粘着し,血流や酸素供給に影響を及ぼす[26].輸血によって受血患者の免疫能がdown-regulationをきたすTRIM(transfusion-related immunomodulation)が起こり,これが周術期や重症患者における感染症を増加させる可能性がある[27](機序は不明[28]).

■人工呼吸器患者124例のコホート研究二次解析では,人工呼吸器患者での赤血球輸血は,疾患重症度と臓器機能不全で調整後,筋力低下と有意に関連していたと報告されており(ICUAWとは関連性はなかった)[29],輸血がPICS(Post-Intensive Care Syndrome)の原因となりうることも示唆されている.

3.近年の赤血球輸血開始基準と予後に関する報告
■赤血球輸血開始基準としてのHb濃度高値群と低値群を比較したRCT19報6264例のコクランレビューによるメタ解析[30]では,低値群の方が輸血必要度が39%減少し,院内死亡リスクも有意に減少するが(RR 0.77, 95% CI 0.62-0.95),30日死亡リスクは有意差がなかった(RR 0.85, 95% CI 0.70 to 1.03).

■Chatterjeeらは,心筋梗塞に対する赤血球輸血の影響を検討した観察研究10報のメタ解析[31]を行い,赤血球輸血により全死亡リスクは2.91倍,その後の心筋梗塞再発リスクは2.04倍と報告している.

■Villanuevaらは,重症急性上部消化管出血患者921例において,赤血球輸血開始基準をHb<7.0 g/dLとする制限群とHb<9.0 g/dLとする非制限群で比較したRCTを行っている[32].輸血非投与率は51% vs 15%(p<0.001)で,制限群が有意に輸血を受けた患者が少なく,6週後生存率は制限群が有意に高かった(95% vs 91%, HR 0.55, 95%CI 0.33-0.92, p=0.02).再出血率は制限群で有意に少なく(40% vs 48%, p=0.02),サブ解析でも,肝硬変Child-Pugh class A,Bでは制限群で生存率が有意に高く(HR 0.30, 95%CI 0.11-0.85),消化性潰瘍出血でも統計学的に有意ではないが,生存率は高い傾向がみられた(HR 0.70, 95%CI 0.26-1.25).

■Leal-Novalらは428例の後ろ向きペアマッチングコホート研究[33]を行い,非出血性の中等度貧血(Hb 7.0-9.5 g/dL)がある重症患者で赤血球輸血群は非輸血群より院内死亡率(21% vs 13%),ICU再入室率(7.4% vs 1.9%),院内感染症(12.9% vs 6.7%)が有意に高く,中等度貧血に対する赤血球輸血は予後を改善しないと報告している.

■Liuらは,肝細胞癌の周術期の輸血が予後に与える影響を検討した22報5635例のメタ解析[34]を行い,輸血により3年死亡リスクは1.92倍,5年死亡リスクは1.60倍であり,癌再発リスク,術後合併症リスクも有意に増加すると報告している.

■Blumらは,一般外科手術患者50367例のコホート研究[35]を行い,術中の赤血球輸血が術後ARDS発症リスクを5.36倍有意に増加させたと報告している.

■Horvathらは,心臓外科手術患者5158例での術後の輸血と60日以内の感染症の発生との関連の調査を行い[36],赤血球輸血は1単位あたり感染の発生リスクが29%増加し,多変量解析でも,赤血球輸血が感染の増加と関連していたと報告している.Turanらの非心臓手術5143例の後ろ向きコホート研究[37]でも,大量輸血が呼吸器系や感染性合併症および死亡の相当なリスクと関連していることが報告されている.

■Kumarらは,クモ膜下出血205例の後ろ向き解析[38]を行い,赤血球輸血は血栓リスクを2.4倍,深部静脈血栓症リスクを5.0倍有意に増加させており,血栓形成リスクは輸血1単位につき55%増加したと報告している.

[1] Nguyen BV, Bota DP, Mélot C, et al. Time course of hemoglobin concentrations in nonbleeding intensive care unit patients. Crit Care Med 2003; 31: 406-10
[2] Claessens YE, Fontenay M, Pene F, et al. Erythropoiesis abnormalities contribute to early-onset anemia in patients with septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2006; 174: 51-7
[3] Salisbury AC, Reid KJ, Alexander KP, et al. Diagnostic blood loss from phlebotomy and hospital-acquired anemia during acute myocardial infarction. Arch Intern Med 2011; 171: 1646-53
[4] Wong P, Intragumtornchai T. Hospital-acquired anemia. J Med Assoc Thai 2006; 89: 63-7
[5] Thavendiranathan P, Bagai A, Ebidia A, et al. Do blood tests cause anemia in hospitalized patients? The effect of diagnostic phlebotomy on hemoglobin and hematocrit levels. J Gen Intern Med 2005; 20: 520-4
[6] Pabla L, Watkins E, Doughty HA. A study of blood loss from phlebotomy in renal medical inpatients. Transfus Med 2009; 19: 309-14
[7] Chant C, Wilson G, Friedrich JO. Anemia, transfusion, and phlebotomy practices in critically ill patients with prolonged ICU length of stay: a cohort study. Crit Care 2006; 10: R140
[8] Walsh TS, Saleh EE. Anaemia during critical illness. Br J Anaesth 2006; 97: 278-91
[9] Marik PE, Sibbald WJ. Effect of stored-blood transfusion on oxygen delivery in patients with sepsis. JAMA 1993; 269: 3024-9
[10] Lorente JA, Landín L, De Pablo R, et al. Effects of blood transfusion on oxygen transport variables in severe sepsis. Crit Care Med 1993; 21: 1312-8
[11] Fernandes CJ Jr, Akamine N, De Marco FV, et al. Red blood cell transfusion does not increase oxygen consumption in critically ill septic patients. Crit Care 2001; 5: 362-7
[12] Wu WC, Rathore SS, Wang Y, et al. Blood transfusion in elderly patients with acute myocardial infarction. N Engl J Med 2001; 345: 1230-6
[13] Rao SV, Jollis JG, Harrington RA, et al. Relationship of blood transfusion and clinical outcomes in patients with acute coronary syndromes. JAMA 2004; 292: 1555-62
[14] Sattur S, Harjai KJ, Narula A, et al. The influence of anemia after percutaneous coronary intervention on clinical outcomes. Clin Cardiol 2009; 32: 373-9
[15] Kim P, Dixon S, Eisenbrey AB, et al. Impact of acute blood loss anemia and red blood cell transfusion on mortality after percutaneous coronary intervention. Clin Cardiol 2007; 30(10 Suppl 2): II35-43
[16] Hébert PC, Wells G, Blajchman MA, et al. A multicenter, randomized, controlled clinical trial of transfusion requirements in critical care. Transfusion Requirements in Critical Care Investigators, Canadian Critical Care Trials Group. N Engl J Med 1999; 340: 409-17
[17] Gutsche JT, Kornfield ZN, Speck RM, et al. Impact of Guideline Implementation on Transfusion Practices in a Surgical Intensive Care Unit. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2013 Sep 21
[18] LaPar DJ, Crosby IK, Ailawadi G, et al; Investigators for the Virginia Cardiac Surgery Quality Initiative. Blood product conservation is associated with improved outcomes and reduced costs after cardiac surgery. J Thorac Cardiovasc Surg 2013; 145: 796-803
[19] Smith MJ, Le Roux PD, Elliott JP, et al. Blood transfusion and increased risk for vasospasm and poor outcome after subarachnoid hemorrhage. J Neurosurg 2004; 101: 1-7
[20] Lane P, Gross S. Hemoglobin as a chariot for NO bioactivity. Nat Med 2002; 8: 657-8
[21] Pawloski JR, Hess DT, Stamler JS. Export by red blood cells of nitric oxide bioactivity. Nature 2001; 409: 622-6
[22] Tinmouth A, Fergusson D, Yee IC, et al; ABLE Investigators; Canadian Critical Care Trials Group. Clinical consequences of red cell storage in the critically ill. Transfusion 2006; 46: 2014-27
[23] Tang XD, Xu R, Reynolds MF, et al. Haem can bind to and inhibit mammalian calcium-dependent Slo1 BK channels. Nature 2003; 425: 531-5
[24] Berezina TL, Zaets SB, Morgan C, et al. Influence of storage on red blood cell rheological properties. J Surg Res 2002; 102: 6-12
[25] Forceville X, Plouvier E, Claise C. The deleterious effect of heminic iron in transfused intensive care unit patients. Crit Care Med 2002; 30: 1182-3
[26] Anniss AM, Sparrow RL. Storage duration and white blood cell content of red blood cell (RBC) products increases adhesion of stored RBCs to endothelium under flow conditions. Transfusion 2006; 46: 1561-7
[27] Vamvakas EC, Blajchman MA. Transfusion-related immunomodulation (TRIM): an update. Blood Rev 2007; 21: 327-48
[28] Sparrow RL. Red blood cell storage and transfusion-related immunomodulation. Blood Transfus. 2010 Jun;8 Suppl 3:s26-30
[29] Parsons EC, Kross EK, Ali NA, et al. Red blood cell transfusion is associated with decreased in-hospital muscle strength among critically ill patients requiring mechanical ventilation. J Crit Care 2013 Aug 9
[30] Carson JL, Carless PA, Hebert PC. Transfusion thresholds and other strategies for guiding allogeneic red blood cell transfusion. Cochrane Database Syst Rev 2012; 4: CD002042
[31] Chatterjee S, Wetterslev J, Sharma A, et al. Association of blood transfusion with increased mortality in myocardial infarction: a meta-analysis and diversity-adjusted study sequential analysis. JAMA Intern Med 2013; 173: 132-9
[32] Villanueva C, Colomo A, Bosch A, et al. Transfusion strategies for acute upper gastrointestinal bleeding. N Engl J Med 2013; 368: 11-21
[33] Leal-Noval SR, Muñoz-Gómez M, Jiménez-Sánchez M, et al. Red blood cell transfusion in non-bleeding critically ill patients with moderate anemia: is there a benefit? Intensive Care Med 2013; 39: 445-53
[34] Liu L, Wang Z, Jiang S, et al. Perioperative allogenenic blood transfusion is associated with worse clinical outcomes for hepatocellular carcinoma: a meta-analysis. PLoS One 2013; 8: e64261
[35] Blum JM, Stentz MJ, Dechert R, et al. Preoperative and intraoperative predictors of postoperative acute respiratory distress syndrome in a general surgical population. Anesthesiology 2013; 118: 19-29
[36] Horvath KA, Acker MA, Chang H, et al. Blood transfusion and infection after cardiac surgery. Ann Thorac Surg 2013; 95: 2194-201
[37] Turan A, Yang D, Bonilla A, et al. Morbidity and mortality after massive transfusion in patients undergoing non-cardiac surgery. Can J Anaesth 2013; 60: 761-70
[38] Kumar MA, Boland TA, Baiou M, et al. Red Blood Cell Transfusion Increases the Risk of Thrombotic Events in Patients with Subarachnoid Hemorrhage. Neurocrit Care 2013 Feb 20
# by DrMagicianEARL | 2013-10-09 18:56 | 文献
■ARDSにおいて,エビデンスによる推奨レベルが高い有効な治療薬はいまだに存在しない中,腹臥位療法がPROSEVA studyによってNNT 6という驚異的治療成績を残したことは記憶に新しいですが,今回,ECMOにも反応しない難治例においてPROSEVA studyを上回るNNT 1.69という治療法が報告されました.症例数の少ない後ろ向き観察研究のためエビデンスレベルは非常に低いですが,今後前向きRCTで研究されるべき治療法と思われます.

多臓器不全を呈したARDSにおけるステロイド胸腔内投与
Huang PM, Lin TH, Tsai PR, et al. Intrapleural Steroid Instillation for Multiple Organ Failure with Acute Respiratory Distress Syndrome. Shock. 2013 Oct 1. [Epub ahead of print]
PMID:24088995

Abstract
【目 的】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は多臓器障害(MODS)患者の死亡率を増加させる.本研究では,標準的な体外式膜型人工肺(ECMO)に反応しないARDSおよびMODSの患者に対する胸腔内ステロイド投与(IPSI)の有用性を評価した.

【方 法】
本研究では2005年から2009年にECMOを施行された患者467例のうち92例がARDSであり,これらの重症ARDSとMODSの患者92例のうち30例の成人患者を後ろ向きに解析した.治療に反応せず状態が悪化した30例のうち9例はIPSIを施行された.全患者は,高用量のカテコラミンを必要とする循環動態不安定性と人工呼吸での100%酸素投与とECMO使用の基準を満たしていた.

【結 果】
ARDS診断時の予後予測スコアは,標準治療群21例とIPSI群9例で差異はみられなかった.血液酸素化,1回換気量,胸部X線所見の変化,生存率が解析された.一次評価項目は退院までの生存とした.3日後の胸部X線所見はIPSI群で有意に改善し(p=0.008),5日後のPaO2/FiO2比もIPSI群で有意に増加した(p=0.028).さらに,28日死亡率(p=0.017),60日死亡率(p=0.003),生存率(78% vs 19%, p=0.003)は有意にIPSI群で改善していた.

【結 論】
IPSIは,MODSを合併した重症ARDS患者,特に標準治療に反応しない患者において,簡便に施行でき,高い有効性が認められた.
■計算してみるとオッズ比0.07,95%信頼区間0.01-0.45であり,死亡リスクを93%有意に減少させていることになる.ARDSに対するステロイド全身投与は2報のメタ解析結果で推奨にはなっているがエビデンスレベルが低いことや,死亡率が悪化した報告もあることから,推奨度は高くない.ステロイド胸腔内注入は関節リウマチや悪性腫瘍などにおいて臨床研究されているが,ARDSでは今回が初めてであり,今後のさらなる研究が待たれる.
# by DrMagicianEARL | 2013-10-04 19:23 | 敗血症性ARDS
5.重症敗血症の急性期治療

(1) 各種ガイドラインとバンドル
■2002年にSCCM,ESICM,国際敗血症フォーラム(ISF)の合同カンファレンスがスペインのバルセロナで開催され,5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らすという目標をかかげた国際的なキャンペーンであるSSC(Surviving Sepsis Campaign)が合意,開始された[1,2].そして,2004年には2つ目の目標である敗血症治療のためのガイドラインの作成・実行のため,世界初の敗血症管理指針を示したガイドラインの発表を行った.このガイドラインがSSCG 2004であり,SCCM,ESICM,ISFが筆頭となり,欧米豪などの全11学会による合同のステートメントという形をとっている.SSCGを発表した意図は,①より多くの臨床医や患者が重症敗血症,敗血症性ショックを正しく認知できるようにすること,②診断基準を確立することで,より早期の認知を可能にすること,③エビデンスに準拠した敗血症治療に関するガイドラインを作成すること,④ガイドラインに準拠したバンドルを作成し,すべての治療者に治療の優先順位を認識させること,⑤現場において職種を超えた敗血症治療に関する共通認識を持たせること,などとされる.

■SSCG 2004[3]はその後SSCG 2008[4],SSCG 2012[5]へと2度の改訂を経て,日本集中治療医学会(JSICM),日本救急医学会(JAAM)を含む世界の30の学会に支持されている.同時にSSCは第3の目標としてインターネットツールを利用した敗血症のデータ収集と教育をかかげた.さらに,このSSCGを受けて,世界クリティカルケア看護師連盟(World Federation of Critical Care Nurses:WFCCN)[6]は2011年に,63項目の看護ケア推奨項目からなる看護師版SSCGをCritical Care Medicine誌に発表している[7]

■その後のSSCGの評価では,敗血症患者が増加し,重症度も増しているにもかかわらず,死亡率が改善してきていることが世界各国から報告されている[8-12].日本でも2007年に日本集中治療医学会で行われた第1回Sepsis Registry調査結果[13]では院内死亡率が37.6%であったが,2010年末に行われた第2回調査では20%台後半まで改善しているとのことである.

■SSCGの内容が必ずしも本邦の実情に合ったものとは限らない.そこで,本邦独自のガイドラインとして,日本版敗血症診療ガイドライン[14]が2012年11月12日に発表された.しかしながら,このガイドラインは推奨項目に不可解な部分も多く,パブリックコメントで多数の批判があり,発表が3ヶ月遅れるといった経緯もあり,完成版においてもいまだに推奨に疑問が残る項目が数多く指摘される.また,作成までの時間がかかったこともあってか,推奨項目の羅列とマニアックな内容になってしまっており,実践的とは言いがたい.このガイドラインを本邦のスタンダードにすべきかどうかが議論されてきているが,既にこのガイドラインを作成した委員会は解散しており,今後このガイドラインがどのように改訂されるかは全く不明である.当ブログでもこのガイドラインの問題点を指摘している[15].また,日本版敗血症診療ガイドラインの推奨度はSSCGのGRADEシステムに似ているが,設定基準は全く異なる.すなわち,SSCGはアウトカムごとを評価しているのに対し,日本版は研究ごとに評価している.これが2つのガイドラインで推奨が異なる項目が多数でたことの原因と推察される.

■SSCG 2012では急性期のバンドルが以下のように定められている.
3時間以内に達成すべき項目
1) 乳酸値計測
2) 抗菌薬投与前の血液培養検体採取
3) 広域抗菌薬の投与
4) 低血圧または乳酸値≧4mmol/Lにおける30mL/kgの晶質液投与
6時間以内に達成すべき項目
5) (初期輸液蘇生に反応しない低血圧に対する)循環作動薬の適応により平均動脈圧≧65mmHgのを維持する
6) 輸液負荷を行っても遷延する低血圧(敗血症性ショック)または初期乳酸値≧4mmol/Lにおける中心静脈圧測定,中心静脈酸素飽和度測定
7) 初期乳酸値上昇があれば乳酸値の再検

(2) 今後期待される治療
■SSCGは急性期の敗血症診療のみにスポットをあてている.しかし,退院後もQOLの障害は続いており,これが長期予後に影響を与えている可能性がある.実際に,敗血症症例が重症病態から脱し,一般病棟へ,あるいはほかの医療機関に転出した後にも死亡例が多いことが注目されている[16,17].この長期予後への影響に対する対策を練る必要があるとようやく認識され,米国集中治療医学会コンセンサス会議において,PICS(Post-Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)の概念が提唱された[18].PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害やICUAW(ICU-Acquired Weakness)をはじめとする神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.PICSの原因はその原疾患のみならず治療行為も含まれる.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.よって,今後は,より効果的であることに加えて低侵襲の治療がすすめられることが望まれる.

■メディエーター治療薬はrAPCを除いてすべて失敗してきており,おおいに期待されていたTLR-4拮抗薬Eritoran(E5564;synthetic toll-like receptor 4 antagonist)もPhaseⅢ[19]で姿を消した.唯一臨床応用されていたrAPC(遺伝子組み換え活性化プロテインC)もPROWESS-SHOCK[20]の中間解析で効果がないと判定され,市場撤退している.

■現在,rTM(遺伝子組み換えトロンボモデュリン)がDIC治療薬として本邦で開発・販売されており,国内PhaseⅢでは予後改善効果はみられなかったが,各種症例対照研究等で予後改善効果が示されており[21-25],DICのみならず敗血症治療において期待されている.海外PhaseⅡb[26]では敗血症性DIC(修正ISTH診断基準によるDIC疑い症例)患者750例でのRCTが行われ,28日死亡率は17.8% vs 21.6%(p=0.273)であった.p<0.3の基準をクリアしたため,サブ解析で特に治療効果が高いとされたPT INR>1.4に限定したPhaseⅢが現在行われている.

■他にも,抗ヒトTNF-α Fab製剤(AZD9773)が既にPhaseⅡ[27]を終えている.2つ以上の臓器障害を有する敗血症性ショック患者81例に対する二重盲検プラセボ対照RCTで,有意差はないが,28日全死亡率が26% vs 37%(p=0.274)と低い傾向が見られている.

■再生医療領域では間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)が敗血症領域で期待されている.間葉系幹細胞は入手しやすく,心筋梗塞後に投与するとリモデリングが抑制される,神経障害の修復に有用,といった報告がでてきており,敗血症領域でもCLPによる重症敗血症モデルマウス実験によって,細菌クリアランス強化,抗炎症作用,多臓器不全進展抑制効果が示されている[28].また,グラム陰性桿菌菌血症モデルマウス実験においては,単核球による細菌貪食作用を増強させることで死亡率を改善させることが示されている[29].iPS細胞は他の幹細胞に比して分化能に劣るため,敗血症病態での応用は厳しいと見られているが,近年,体細胞への遺伝子の導入法を変える[30],あるいは生体内でiPS細胞を生成する手法を開発する[31]等が動物実験レベルで成功しており,ES細胞に近い性質をもつ高い万能性と,採取→培養→移植の過程を省いたリアルタイムの組織再生が可能となるかもしれない.

■高脂血症治療薬のスタチン製剤が抗炎症作用,免疫調節作用,抗酸化作用,抗血栓作用,血管内皮安定化作用,抗アポトーシス作用を有し[32,33],感染症や炎症性疾患に有用との報告がでてきている.敗血症においても,その発症抑制や重症化予防潜在的利益を有するが,まだまだ不明な点も多いとされる.41報メタ解析では,敗血症で39%の死亡率改善が報告されている一方で,感染症におけるRCTでは死亡率減少効果は認めていない[34].現在,海外でPhaseⅡの結果が2報発表されている.Patelらは,敗血症患者100例においてアトルバスタチン投与を検討した二重盲検RCT,ASEPSIS trialを行っており,敗血症進展率が有意に低下(4% vs 24%, p=0.007)したが,死亡率に有意差は示されなかった[35].重症敗血症250例でのアトルバスタチン投与を検討したANZICSによる二重盲検RCT,ANZ-STATInS trialでは,IL-6濃度に影響を与えず,発症前からのスタチン使用患者において発症後もスタチンを継続すると生存率が改善したと報告されている[36].今後大規模RCTでの検討が待たれる.

■重症敗血症治療において日本発のエンドトキシン吸着カラムPMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion)が注目され,特に腹部手術を要する敗血症性ショック患者において有用性が期待されている[37].現在観察研究であるEUPHAS 2 projectがイタリアで進行中[38]であり,また,2つの大規模RCTが進行中(フランスでABDO-MIX,アメリカがEUPHRATES trial)であり,その結果を待つことになる.

■近年,大量輸液に伴う有害性の報告がではじめており,EGDTについてその有効性を再検討するため,米国のProCESS,豪州のARISE,英国のProMISeの3つのRCTが進行中であり,これらの結果を統合して評価することも検討されている[39]

■敗血症において,β遮断作用が近年注目されている.これは,自律神経系は炎症反応の制御に深く関与しており[40],副交感神経刺激により炎症反応が軽減できる[41]という考え方に基づく.β遮断薬により,炎症性サイトカインが抑制される[42,43],細胞アポトーシスが抑制される[44],交感神経により惹起された代謝亢進と蛋白異化亢進を抑え,インスリン抵抗性獲得に伴う糖利用障害を正常化し,β糖代謝抑制に伴う脂肪酸動員を抑え,酸素需給バランスを回復する[45],敗血症における心筋保護作用[43,46,47],死亡率改善効果[46,48]などが示されている.敗血症性ショックにおいてβ1遮断薬とノルアドレナリンを併用すると,心拍数を30/分低下させるが血圧は低下せず,高い心拍出量を保つことも報告されている[47].本邦ではβ1受容体選択的遮断作用のある薬剤としてエスモロール以外にランジオロール(オノアクト®)があり,エスモロールよりも血圧が低下しにくいことが知られており,敗血症性ショック病態においての有用性が期待される.ランジオロールは現時点では周術期のみしか適応がないが,早ければ2013年12月には周術期の縛りがはずれ,SIRSに伴う心房細動に対して使用可能となる模様である.

■遺伝性血管性浮腫(HANE)の治療に用いられるC1-エラスターゼインヒビターは,カリクレイン-キニン系と白血球活性を含むさまざまな炎症,抗炎症の経路を調整する作用があり,敗血症予後を改善したとする報告がでている[48].この報告では,61例で検討したRCTであり,28日全死亡率を12%vs45%(p=0.008)と大きく改善させていた.ただし,N数が少なく,オープンラベル,ブロックランダム化など試験デザインに問題がある.また,対照群の死亡率が重症度の割には高く,対照群で有意に多い術後症例が死亡率が高いこともあってバイアスがかかっている可能性があり,再検討が必要であろう.

[1] Slade E, et al. The Surviving Sepsis Campaign : raising awareness to reduce mortality. Crit Care 2003; 7: 1-2
[2] http://ssc.sccm.org/Pages/default.aspx
[3] Dellinger RP, et al. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Crit Care Med 2004; 2: 858-73
[4] Dellinger RP, Levy MM, Carlet JM, et al. Surviving Sepsis Campaign : international guidelines for management of severe sepsis and septic shock : 2008. Crit Care Med 2008; 36: 296-327
[5] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012. Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637
[6] Williams G, Rogado I, Budz B, et al. The World Federation of Critical Care Nurses has arrived. Intensive Crit Care Nurs 2002; 18: 15-8
[7] Aitken LM, Williams G, Harvey M, et al. Nursing considerations to complement the Surviving Sepsis Campaign guidelines. Crit Care Med 2011; 39: 1800-18
[8] Levy MM, Dellinger RP, Townsend SR, et al. The Surviving Sepsis Campaign: results of an international guideline-based performance improvement program targeting severe sepsis. Intensive Care Med 2010; 36: 222-31
[9] Kumar G, Kumar N, Taneja A, et al; Milwaukee Initiative in Critical Care Outcomes Research Group of Investigators. Nationwide trends of severe sepsis in the 21st century (2000-2007). Chest 2011; 140: 1223-31
[10] Ferrer R, Artigas A, Levy MM, et al; Edusepsis Study Group. Improvement in process of care and outcome after a multicenter severe sepsis educational program in Spain. JAMA 2008; 299: 2294-303
[11] Li ZQ, Xi XM, Luo X, et al. Implementing surviving sepsis campaign bundles in China: a prospective cohort study. Chin Med J (Engl) 2013; 126: 1819-25
[12] Barochia AV, Cui X, Vitberg D, et al. Bundled care for septic shock: an analysis of clinical trials. Crit Care Med 2010; 38: 668-78
[13] 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本集中治療医学会第1回Sepsis Registry調査 —2007年の重症敗血症および敗血症性ショックの診療結果報告— .日集中医誌 2013; 20: 329-34
[14] 織田成人,相引眞幸,池田寿昭,他;日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本版敗血症診療ガイドライン.日集中医誌 2013; 20: 124-73
[15] DrMagicianEARL. 日本版敗血症診療ガイドライン完成版発表(1). EARLの医学ノート 2012 Nov.13 http://drmagician.exblog.jp/19200994/
[16] Winters BD, Eberlein M, Leung J, et al. Long-term mortality and quality of life in sepsis: a systematic review. Crit Care Med 2010; 38: 1276-83
[17] Inoue S, Suzuki-Utsunomiya K, Okada Y, et al. Reduction of immunocompetent T cells followed by prolonged lymphopenia in severe sepsis in the elderly. Crit Care Med 2013; 41: 810-9
[18] Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med 2012; 40: 502-9
[19] Opal SM, Laterre PF, Francois B, et al; ACCESS Study Group. Effect of eritoran, an antagonist of MD2-TLR4, on mortality in patients with severe sepsis: the ACCESS randomized trial. JAMA 2013; 309: 1154-62
[20] Ranieri VM, Thompson BT, Barie PS, Dhainaut JF, Douglas IS, Finfer S, Gårdlund B, Marshall JC, Rhodes A, Artigas A, et al; PROWESS-SHOCK Study Group. Drotrecogin alfa (activated) in adults with septic shock. N Engl J Med 2012; 366: 2055-64
[21] Yamakawa K, Fujimi S, Mohri T, et al. Treatment effects of recombinant human soluble thrombomodulin in patients with severe sepsis: a historical control study. Crit Care 2011; 15: R123
[22] Ogawa Y, Yamakawa K, Ogura H, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin improves mortality and respiratory dysfunction in patients with severe sepsis. J Trauma Acute Care Surg 2012; 72: 1150-7
[23] Yamakawa K, Ogura H, Fujimi S, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin in sepsis-induced disseminated intravascular coagulation: a multicenter propensity score analysis. Intensive Care Med 2013; 39: 644-52
[24] Kato T, Sakai T, Kato M, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin administration improves sepsis-induced disseminated intravascular coagulation and mortality: a retrospective cohort study. Thromb J 2013; 11: 3
[25] 澤野宏隆,重光胤明,吉永雄一,他.敗血症性DICにおけるリコンビナントトロンボモジュリンとアンチトロンビン製剤の併用療法の有用性.日救急医会誌 2013; 24: 119-31
[26] Vincent JL, Ramesh MK, Ernest D, et al. A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Phase 2b Study to Evaluate the Safety and Efficacy of Recombinant Human Soluble Thrombomodulin, ART-123, in Patients With Sepsis and Suspected Disseminated Intravascular Coagulation. Crit Care Med 2013; 41: 2069-79
[27] Rice TW, Wheeler AP, Morris PE, et al. Safety and efficacy of affinity-purified, anti-tumor necrosis factor-alpha, ovine fab for injection (CytoFab) in severe sepsis. Crit Care Med 2006; 34: 2271–81
[28] Mei SH, Haitsma JJ, Dos Santos CC, et al. Mesenchymal stem cells reduce inflammation while enhancing bacterial clearance and improving survival in sepsis. Am J Respir Crit Care Med 2010; 182: 1047-57
[29] Krasnodembskaya A, Samarani G, Song Y, et al. Human mesenchymal stem cells reduce mortality and bacteremia in gram-negative sepsis in mice in part by enhancing the phagocytic activity of blood monocytes. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2012; 302: L1003-13
[30] Honda A, Hatori M, Hirose M, et al. Naive-like Conversion Overcomes the Limited Differentiation Capacity of Induced Pluripotent Stem Cells. J Biol Chem 2013; 288: 26157-66
[31] Abad M, Mosteiro L, Pantoja C, et al. Reprogramming in vivo produces teratomas and iPS cells with totipotency features. Nature 2013 Sep 11
[32] Heart Protection Study Collaborative Group. MRC/BHF Heart Protection Study of cholesterol lowering with simvastatin in 20,536 high-risk individuals: a randomised placebo-controlled trial. Lancet 2002; 360: 7-22
[33] Kouroumichakis I, Papanas N, Proikaki S, et al. Statins in prevention and treatment of severe sepsis and septic shock. Euro J Intern Med 2011;22: 125-33
[34] Ma Y, Wen X, Peng J, et al. Systematic review and meta-analysis on the association between outpatient statins use and infectious disease-related mortality. PLoS One 2012; 7: e51548
[35] Patel JM, Snaith C, Thickett DR, et al. Randomized double-blind placebo-controlled trial of 40 mg/day of atorvastatin in reducing the severity of sepsis in ward patients (ASEPSIS Trial). Crit Care 2012; 16: R231
[36] Kruger P, Bailey M, Bellomo R, et al; ANZ-STATInS Investigators–ANZICS Clinical Trials Group. A multicenter randomized trial of atorvastatin therapy in intensive care patients with severe sepsis. Am J Respir Crit Care Med 2013; 187: 743-50
[37] DrMagicianEARL. 敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~. EARLの医学ノート 2013 Sep.4
[38] Martin EL, Cruz DN, et al. Endotoxin removal : how far from the evidence? The EUPHAS 2 project. Contrib Nephrol 2010; 167: 119-25
[39] The ProCESS/ARISE/ProMISe Methodology Writing Committee. Harmonizing international trials of early goal-directed resuscitation for severe sepsis and septic shock: methodology of ProCESS, ARISE, and ProMISe. Intensive Care Med 2013 Aug 20
[40] Lowry SF, Calvano SE. Challenges for modeling and interpreting the complex biology of severe injury and inflammation. J Leuko Bio 2008; 83: 553-7
[41] Rosas-Ballina M, Tracey KJ. Cholinergic control of inflammation. J Intern Med 2009; 265: 663-79
[42] Prabhu SD, Chandrasekar B, Murray DR, Freeman GL. beta-adrenergic blockade in developing heart failure: effects on myocardial inflammatory cytokines, nitric oxide, and remodeling. Circulation 2000; 101: 2103-9
[43] Suzuki T, Morisaki H, Serita R, et al. Infusion of the beta-adrenergic blocker esmolol attenuates myocardial dysfunction in septic rats. Crit Care Med 2005; 33: 2294-301
[44] Sabbah HN, Sharov VG, Gupta RC, et al. Chronic therapy with metoprolol attenuates cardiomyocyte apoptosis in dogs with heart failure. J Am Coll Cardiol 2000; 36: 1698-705
[45] Novotny NM, Lahm T, Markel TA, et al. beta-Blockers in sepsis: reexamining the evidence. Shock 2009; 31: 113-9
[46] Ackland GL, Yao ST, Rudiger A, et al. Cardioprotection, attenuated systemic inflammation, and survival benefit of beta1-adrenoceptor blockade in severe sepsis in rats. Crit Care Med 2010; 38: 388-94
[47] Balik M, Rulisek J, Leden P, et al. Concomitant use of beta-1 adrenoreceptor blocker and norepinephrine in patients with septic shock. Wien Klin Wochenschr 2012; 124: 552-6
[48] Igonin AA, Protsenko DN, Galstyan GM, et al. C1-esterase inhibitor infusion increases survival rates for patients with sepsis. Crit Care Med 2012; 40: 770-7
# by DrMagicianEARL | 2013-09-30 15:51 | 敗血症
4.敗血症の予防
■感染症を発症した患者における重症敗血症の予防とは,短期的に見れば,早期認知と早期診断,長期的に見れば耐性菌を予防するための抗菌薬の適正使用である.

(1) 早期診断
敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(4)重症敗血症の予防_e0255123_19484646.png
■敗血症の早期発見はSIRS(Systemic Inflammatory Rseponse Syndrome:全身性炎症反応症候群)の認知に他ならない.SIRSとなる患者の多くは軽症のまま終息することが多いが,そのうちの少数が急速な重症化をたどり,重症敗血症に至る.このため,早期のSIRS認知による敗血症の診断と経過の予測が非常に重要となる.

■SIRSの病態は,本来は有益であるはずの炎症反応が過剰となった状態であり,敗血症は感染症によって生じたSIRSとされる[1].すなわち,SIRSは感染症による侵襲に対して,局所でサイトカインが産生されて全身に播種され,炎症反応のコントロールが破綻し,炎症が局所に留まらず全身へ波及した場合,サイトカインは生体の保護因子ではなく,むしろ破壊因子として働き,多数のカスケードと網状内皮系が活性化され,循環動態が破綻するため,臓器不全が生じる.以上から,敗血症の本態は菌血症ではなく,SIRS,すなわちPAMPs,Alarminsといった炎症性メディエーター[2]である.

■敗血症は以下のSIRS基準4項目のうち2項目以上該当すれば診断される[3].この基準は1991年に米国集中医療学会(SCCM)と米国胸部医学会(ACCP)が合同で発表したものであり,その後,簡便な早期発見スクリーニング基準として広く使用されている.
(1) 体温 >38℃ or <36℃
(2) 脈拍 >90回/分
(3) 呼吸数 >20回/分 or PaCO2<32mmHg
(4) WBC >12000/mm^3 or <4000/mm^3 or 桿状好中球 > 10%
■このSIRS基準には4項目中バイタルサインが3項目を占める.覚えやすく,すぐに診断できるツールであり,早期に重症化を認知して事前に対処するためにも看護経過記録は非常に重要となる[4].常に病棟に配置されている看護師によるSIRSの早期認知は非常に重要であり[5]医師のみでなく看護師もSIRS基準と重症敗血症・敗血症性ショックの徴候を認知できるよう教育することが世界集中治療看護連盟(WFCCN)のガイドラインでもGrade 1Cで強く推奨されている[6].実際に,医師のみならず看護師も含めた敗血症教育プログラムの導入により,死亡率が改善したと報告されている[7,8].SIRS基準を使用したスクリーニングツールの導入により看護師によるスクリーニングが増加し[9],死亡率も減少しうる[10]

■2001年にはSCCM,ACCPに加え,欧州集中医療学会(ESICM),米国胸部疾患学会(ATS),外科感染症学会(SIS)で集まったInternational Sepsis Definitions Conferenceで定義の再検討が行われ,SIRSは有用な概念であるが,感度過剰かつ非特異的だとして,生体反応を細かく評価する方法が提唱され,以下の新しい診断基準[11]が発表された.敗血症の国際ガイドラインであるSuuviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)は,SSCG 2004,SSCG 2008においてはSIRS基準を推奨していたが,SSCG 2012ではSIRS基準の記載がなくなっており,2001年基準が提示されている.

■しかし,この2001年基準は,個々の項目は敗血症の臓器不全において重要なもではあるが,20個以上から構成されている上にいくつ該当すれば診断するのかが明示されておらず,実際の臨床現場では使用しづらいものとなっている.SIRS基準と精度を比較した研究が2報[12,13]あるが,ほとんど変わらない精度であり,いずれを用いても予後も差がないと報告されている.以上から,SIRS基準を用いることは精度と臨床現場を鑑みても妥当と推察される.

■現在臨床現場で使用可能なツールであるプロカルシトニンは敗血症の診断ツールとしては有用である[14]が,プロカルシトニン早期診断目的に使用するのは危険であり,推奨されない.プロカルシトニンの精度を検討したメタ解析14報を見ると,感度は0.59-0.96,特異度は0.43-0.91,AUROCは0.61-0.91とバラつきがあるが,おおむね0.7台といったところで,この数字を見ればCRPに比して特段優れているわけではない[15].診断ツールとしてはあくまでも参考指標にとどめるべきである.

■この他にも,敗血症が重症化しやすい患者集団を理解しておく必要があり,とりわけ糖尿病,肝硬変,悪性腫瘍をはじめとする免疫低下に関連する基礎疾患を有する患者が感染症を発症した場合は注意が必要であることは言うまでもない.

■事前に敗血症をきたしやすい患者,薬剤の効きやすい患者の遺伝的素因を解明する研究が進められている.現在ゲノム研究は米国を中心として急速に進んでおり,ヒトゲノムにおけるDNA多型(SNP)の一般集団におけるパターンを特定し,この情報を社会の共有財産として医学や医療の発展のために自由に利用できるようにする目的で開始された国際プロジェクトである国際ハプロタイプ地図(HapMap)計画[16]が2002年よりスタートしており,敗血症もこのHapMapプロジェクトで同定されたSNPを利用して,より大きな集団を対象にゲノムワイドでの遺伝子多型を同定していくことが望まれる.

(2) 耐性菌をださない抗菌薬適正使用

■1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となり[17],感染症治療は飛躍的に進歩し,抗菌薬のなかった時代(Pre-antibiotic era)からAntibiotic eraとも呼ばれる時代に移行した.しかし,それから20年足らずでペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が急増している.実際にはペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが報告されている[18].自然環境においてはペニシリンを産生する菌に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためにはペニシリンに対する耐性を持つ必要があった.すなわち,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったことは容易に想像できる.

■これに対し,キノロン系抗菌薬は自然界には存在しない化合物であったため[19],本剤耐性菌株が出現する可能性は低いと考えられていたが,この抗菌薬に対しても耐性菌が出現し,その頻度は上昇傾向にある[20]

■メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かない基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL),メタロβラクタマーゼ(MBL),ニューデリー・メタロβラクタマーゼ(NDM-1)といった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっている.このような多剤耐性菌は日和見感染が主体であると考えられてきたが,近年,市中感染型MRSAが増加傾向にあり[21,22],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株であり[23],2011年に京都で発見された多剤耐性淋菌[24,25]も記憶に新しい.

■カルバペネムならグラム陰性桿菌にほとんど有効という時代は既に終わっており,インドをはじめとする海外では大腸菌にカルバペネムが無効であることが当たり前という国も多い.本邦であってもカルバペネム耐性緑膿菌は珍しくなくなっている[26,27].ESBL産生によるカルバペネム以外のほとんどの抗菌薬に対する薬剤耐性は世界中に拡散しているが[28],近年,カルバペネムすら加水分解するβラクタマーゼを産生する腸内細菌科の細菌(CRE)が日本でも臨床分離されている[29].このような高度多剤耐性株に対してコリスチンやチゲサイクリンなどが開発されてきたが,隣国の台湾では,この2剤すら効かないアシネトバクターが増加している[30]

■このように菌の耐性化の新規抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割にはあまり収益が見込めない分野であり[31],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加している[32].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われているが,背景には1980年代以降,抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状がある[33]

■米国で最もポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっており,今や世界は抗菌薬のなかった時代Pre-antibiotic eraと同じ状況になりつつある,Post-antibiotic eraにいるのかもしれない.抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌が発生し,院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものである.

■東南アジアでの抗菌薬耐性化は特に深刻である[34].その原因は抗菌薬の乱用だけではない.インドでは入院していない一般人からもニューデリーの川からもNDM-1産生菌が普通に検出される.インドの抗菌薬後発品(ジェネリック)の生産工場の廃液にニューキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシンが含まれており,その廃液の解析で様々な耐性遺伝子が検出されている.すなわち,ジェネリックの抗菌薬のずさんな生産管理から環境での抗菌薬耐性遺伝子を菌が獲得し,それが一般人に拡散,インドの病院での耐性菌が蔓延し,それがヨーロッパ,さらには世界に拡大しているという構図が示されつつある.抗菌薬をジェネリックメーカーが生産していることも多剤耐性菌を生み出す懸念材料となっている.

■このような中にあって日本の耐性菌の事情は実は海外よりは悪くない.MRSA分離率は近年低下傾向にあり,市中感染型MRSAの流行もまだわずかであり,VREやNDM-1なども数えられる程度しか検出されていない.カルバペネムに耐性化した大腸菌や肺炎桿菌を見ることもまずない.アシネトバクターのカルバペネム耐性化率を見ると,米国50%,欧州15%,サウジアラビア90%,インド17%,タイ75%,シンガポール46%,韓国70%,中国80-90%であるのに対し,日本は2%である.日本は1990年代から急速に発展した感染対策と感染症診療により耐性化を抑えており,いい意味でガラパゴス化しており[35],この現状を悪化させてはならない.

医療現場で使用されている抗菌薬の半数は不必要あるいは不適切であるとされている[36].今後も耐性化を抑えていくためにも,抗菌薬適正使用は必要であり[37],ICT(感染制御チーム)や感染症専門医と協力して,有効かつ耐性菌を作らない抗菌薬適正使用が望まれる.広い視点に立てば,敗血症を発症したとしても,薬剤耐性菌でなければ治療の効果および予後の改善が期待される.したがって,敗血症の予防といは,病院全体の薬剤耐性菌感染症の頻度を減少させることもひとつの方策であるということができる[35]

[1] Bone RC, Fisher CJ Jr, Clemmer TP, et al. Sepsis syndrome: a valid clinical entity. Methylprednisolone Severe Sepsis Study Group. Crit Care Med 1989; 17: 389-93
[2] DrMagicianEARL. PAMPs, Alarmins, DAMPs. EARLの医学ノート 2011 Oct.23 http://drmagician.exblog.jp/16073684/
[3] ACCP/SCCM : Definitons for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 1992; 20: 864-74
[4] 松田直之.敗血症の今後の方向性について.世界敗血症デー関連敗血症セミナー,東京.2013 Sep.8
[5] Kleinpell R. Implementing the Surviving Sepsis Campaign guidelines: Implications for nursing care. Advances in Sepsis 2005; 4: 61-3
[6] Aitken LM, Williams G, Harvey M, et al. Nursing considerations to complement the Surviving Sepsis Campaign guidelines. Crit Care Med 2011; 39: 1800-18
[7] Ferrer R, Artigas A, Levy MM, et al; Edusepsis Study Group. Improvement in process of care and outcome after a multicenter severe sepsis educational program in Spain. JAMA 2008; 299: 2294-303
[8] Levy MM, Dellinger RP, Townsend SR, et al; Surviving Sepsis Campaign. The Surviving Sepsis Campaign: results of an international guideline-based performance improvement program targeting severe sepsis. Crit Care Med 2010; 38: 367-74
[9] Patient Safety First Campaign: The 'how to guide' for reducting harm from deterioration. 2008. http://www.patientsafetyfirst.nhs.uk/ashx/Asset.ashx?path=/How-to-guides-2008-09-19/Deterioration%201.1_17Sept08.pdf.
[10] Moore LJ, Jones SL, Kreiner LA, et al. Validation of a screening tool for the early identification of sepsis. J Trauma 2009; 66: 1539-46
[11] Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al; SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 2003; 31: 1250-6
[12] Weiss M, Huber-Lang M, Taenzer M, et al. Different patient case mix by applying
the 2003 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS sepsis definitions instead of the 1992 ACCP/SCCM sepsis definitions in surgical patients: a retrospective observational study. BMC Med Inform Decis Mak 2009; 9: 25
[13] Zhao H, Heard SO, Mullen MT, et al. An evaluation of the diagnostic accuracy of the 1991 American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine and the 2001 Society of Critical Care Medicine/European Society of Intensive Care Medicine/American College of Chest Physicians/American Thoracic Society/Surgical Infection Society sepsis definition. Crit Care Med 2012; 40: 1700-6
[14] Assicot M, Gendrel D, Carsin H, et al. High serum procalcitonin concentrations in patients with sepsis and infection. Lancet 1993; 341: 515-8
[15] DrMagicianEARL. 敗血症とプロカルシトニン(1)~概要,精度~. EARLの医学ノート 2013 Jun.19 http://drmagician.exblog.jp/20674445/
[16] International HapMap Project. http://www.hapmap.org/index.html.ja
[17] Bush K. The coming of age of antibiotics: discovery and therapeutic value. Ann N Y Acad Sci 2010; 1213: 1-4
[18] Abraham EP, Chain E. An enzyme from bacteria able to destroy penicillin. 1940. Rev Infect Dis 1988; 10: 677-8
[19] Ball P. Quinolone generations: natural history or natural selection? J Antimicrob Chemother 2000; 46: S17-24
[20] Yamaguchi K, et al. In vitro susceptibilities to levofloxacin and various antibacterial agents of 12,919 clinical isolates obtained from 72 centers in 2007. Jpn J Antibiot 2009; 62: 346-70
[21] Naimi TS, LeDell KH, Como-Sabetti K, et al. Comparison of community- and health care-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. JAMA 2003; 290: 2976-84
[22] Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med 2006; 355: 666-74
[23] Christina F, et al. Epidemic Profile of Shiga-Toxin–Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 2011; 365:1771-80
[24] Ohnishi M, Saika T, et al. Ceftriaxone-resistant Neisseria gonorrhoeae, Japan. Emerg Infect Dis 2011; 17: 148-9
[25] Ohnishi M, Golparian D, et al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55: 3538-45
[26] Kirikae T, Mizuguchi Y, Arakawa. Investigation of isolation rates of Pseudomonas aeruginosa with and without multidrug resistance in medical facilities and clinical laboratories in Japan. J Antimicrob Chemother 2008; 61: 612-5
[27] Ishii Y, Yamaguchi K. Evaluation of the susceptibility trends to meropenem in a nationwide collection of clinical analysis from 2002 to 2006. Diagn Microbiol Infect Dis 2008; 61: 346-50
[28] Paterson DL, Bonomo RA. Extended-spectrum β-lactamases: a clinical update. Clin Microbiol Rev 2005; 18: 657-86
[29] Queenan AM, Bush K. Carbapenemases: the versatile β-lactamases. Clin Microbiol Rev 2007; 20: 440-58
[30] Chang KC, Lin MF, Lin NT, et al. Clonal spread of multidrug-resistant Acinetobacter baumannii in eastern Taiwan. J Microbiol Immunol Infect 2012; 45: 37-42
[31] Livermore D. Can better prescribing turn the tide of resistance? Nat Rev Microbiol 2004; 2: 73-8
[32] French GL. What’s new and not so new on the antimicrobial horizon? Clin Microbiol Infect 2008; 14: S19-29
[33] Infectious Diseases Society of America. The 10 x ’20 Initiative: pursuing a global commitment to develop 10 new antibacterial drugs by 2020. Clin Infect Dis 2010; 50: 1081: 3
[34] Sheng WH, Badal RE, Hsueh PR; SMART Program. Distribution of extended-spectrum β-lactamases, AmpC β-lactamases, and carbapenemases among Enterobacteriaceae isolates causing intra-abdominal infections in the Asia-Pacific region: results of the study for Monitoring Antimicrobial Resistance Trends (SMART). Antimicrob Agents Chemother 2013; 57: 2981-8
[35] 朝野和典.敗血症の予防と早期発見.世界敗血症デー関連敗血症セミナー,東京.2013 Sep.8
[36] Hughes JM. Preserving the lifesaving power of antimicrobial agents. JAMA 2011; 305: 1027-8
[37] Gyssens IC. Quality measures of antimicrobial drug use. Int J Antimicrob Agents 2001; 17: 9-19
# by DrMagicianEARL | 2013-09-20 11:45 | 敗血症
3.感染症の予防

■究極の敗血症予防とはすなわち感染症予防に他ならない.手指衛生に始まる衛生面改善の啓発,ワクチン接種推奨が急務である.

(1) 手指衛生に始まる衛生環境改善
敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)感染症の予防_e0255123_119402.png
■発展途上国における公衆衛生環境の改善は急務である.日本の公衆衛生状況はかなりよい部類に入るが,それでも手指衛生は不十分である.手指衛生は市民レベルで可能な感染症の防護策に他ならない.

■Curtisらによるメタ解析では,石鹸による手洗いにより感染性の下痢の発症を42-47%減少できると報告している[1].小学校での速乾性の消毒薬利用による欠席率への影響を検討した文献のシステマティックレビュー[2]では,すべての研究で欠席率の低下がみられた.また,一般住民の手洗いによる予防効果を検討した報告のメタ解析では,呼吸器感染症の発症が16%低下したと報告されている[3]

■Larsonらは就学前小児がいる3人以上の過程において抗菌石鹸と非抗菌石鹸による手洗いを比較したRCTを行ったところ,両群間とも感染症発症率は33%前後で有意差はなかった[4].Lubyらは15歳未満の小児が2人以上の家庭で抗菌石鹸,非抗菌石鹸の使用と石鹸を使用しない対照群とのRCTを行い,石鹸使用群で下痢発症が有意に減少したと報告した[5].Sandoraらは保育所に通所する小児が1人以上の家庭においてアルコール製剤を使用する群と使用しない群でRCTを行ったところ,使用群で家庭内の消化器感染症発症率が有意に低下していた[6].また,手指衛生はインフルエンザを含む気道感染症を減少させるシステマティックレビューが報告されている[7]

■世界保健機関(WHO)は,手洗い・手指衛生(hand hygiene)を「決して付加的な行為ではなく,それ自体が不可欠な医療行為である」としている.医療従事者の手指が媒体となり,病原体の感染伝播が発生する5段階についてPittetらは警鐘をならしている[8]

①第1段階:患者の皮膚や患者周囲環境に病原体が存在する
皮膚には100-100万個/cm^2の常在菌が存在し,健常な皮膚からは1日に100万個の落屑があり,細菌と一緒に剥がれ落ちる.MRSAなどの耐性菌が皮膚に定着している患者においては患者の皮膚のみならず周囲の環境から大量に耐性菌が検出される.Kramerらが各病原体の乾燥環境下での感染性持続時間を報告しているので参考にされたい[9].この報告を見ても分かる通り,数ヶ月以上生存可能な菌は非常に多い.

②第2段階:医療従事者の手によって微生物が運搬される
医療ケアを行えば医療従事者の手指は10-20%が病原体で汚染され,菌が100-1000CFU付着する.これが衣服,パソコンのキーボードやPHS,ドアの取っ手をはじめさまざまな部位に触ることで他の医療従事者にも伝播されていく.実際,聴診器,ネクタイ,あごひげ,ネクタイなども汚染されていることが多数報告されている[10-16]

③第3段階:微生物は手の皮膚上で最低数分間は生存している
手指に付着した病原体はアシネトバクター属で60分,緑膿菌で30分程度は生存している.

④第4段階:医療従事者による手指衛生が未実施,または,不適切である
医療従事者における手指衛生の遵守率は極めて低い[17].流水石鹸手洗いの時間を大幅に短縮させ,かつ効率的に手指を殺菌できる速乾性アルコール消毒薬があるにもかかわらず,実際の使用頻度は少ないのが現実である.仕事が忙しい(=ケアの頻度が増す)につれて,通常ならば手洗いの必要回数が増えるにもかかわらず,実際には手洗い実施率が極端に低下することも報告されている[18].手指衛生は耐性菌保有患者に接触するときのみに行うものではなく,全患者のケアにおいてなされるべきものである.院内感染が生じたとき,その原因は自分の手指衛生不足の可能性もあることを医療従事者は自覚すべきである.とりわけ重症例ばかりのICU患者においては接触感染を起こすと,second attackにより患者は容易に全身状態が悪化しうる.手指衛生の欠如から生まれる感染によって入院患者は敗血症に至って死亡する.

⑤第5段階:汚染された手指が別の患者と直接接触,あるいは患者が直接触れる可能性のある環境に付着する
San Juanらの興味深い報告がある[19].心臓手術1432例における術後創部感染による縦隔炎症例の解析で,MSSA検出例では78%が術前鼻腔MSSAと菌株が一致していた.しかし,MRSA検出例では,全例とも術前鼻腔MRSAと菌株が異なっていた.そして,このMRSA検出例の患者の菌株はすべて同一であった.つまり,MSSA手術部位感染は術前の鼻腔由来であったが,MRSA手術部位感染では鼻腔由来ではなく患者間での伝播であり,医療従事者が感染を媒介していたことになる.ムピロシンによる鼻腔除菌は術後MRSA感染防止の保障にはならず,そこにはかならず院内感染防止策を伴う必要があることを認識しておくべきである.

■WHOでは“Clean care is safer care〝をスローガンに手指衛生の実施率改善に努めており,手指衛生の必要な5つの具体的場面を設定している[20]
① 患者に接する前(Before Patient Contact)
② 無菌的処置を行う前(Before Aseptic Task)
③ 体液曝露の可能性があった後(After Body Fluid Exposure Risk)
④ 患者に接した後(After Patient Contact)
⑤ 患者周囲環境に接した後(After Contact With Patient Surroundings)
敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)感染症の予防_e0255123_11571187.png
■手袋の着用は手洗いの代用ではなく,手袋の着用が手洗い不要の理由とはならない.手袋を外す際にどれだけ注意を払っても手指は汚染される.また,手袋には微小孔(ピンホール)が医療従事者が考えているよりはるかに多く存在し,着用後にもピンホールは生じうる.実際に手袋を脱いだ手から患者と同一菌が1.7-4.2%の割合で検出されている[21].実際,日本グローブ工業会によると,たとえ手術時の滅菌グローブであっても少なくとも1.5%にピンホールが空いているとされており,一般病棟で使用される安価なグローブであればどれほどのピンホールリスクがあるかは想像するにたやすい.

■手指衛生に関してはその方法が適切に行わなければ意味がない.石鹸と流水による手指衛生のエビデンスの多くが,手洗い時間が30秒~1分の検討であるのに対し,実際の臨床現場では平均15秒未満である.また流水の場合,乾燥に時間もかかるが,手洗い後の手指の乾燥はしばしば軽視されており,ペーパータオル3枚以上使わなければ十分な乾燥はできず,濡れた手は乾燥した手の100-1000倍の菌を運ぶ[22].節約と称して使用するペーパータオルの枚数を制限している病院もあるが,言語道断である.

■手指衛生以外にも,うがい,マスク,感染症患者との接触を避ける等,市民レベルで可能な感染症予防策は多数存在する.加えてこれらをより効率的に行うために,その時点で流行している感染症の周知も必要である.下の図はインフルエンザ流行時の内務省衛生局が1922年3月に描いたものである.この当時はまだインフルエンザの原因がウイルスであることすら分かっていなかった時代であるが,すでに市民レベルで可能な予防策が推奨されていたことが分かる.我々は感染症の病原体が判明するよりずっと以前からその予防法を知っていたのである.これらの予防策をより広く習慣づける啓蒙活動が必要である.
敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)感染症の予防_e0255123_20142179.png


(2) ワクチン
敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)感染症の予防_e0255123_19442589.png
■ワクチンは敗血症予防の要の1つである.日本のワクチン接種体制はこれまで,新規ワクチンの定期接種化が滞った機能不全の状態にあり,医療・保険制度が優れているにもかかわらず,世界的にはワクチン後進国であることを認識しておかなければならない.これは2012年から2013年にかけての風疹大流行を見ても分かる通りである.ワクチンは接種率が低ければ効果は発揮されない.集団免疫に必要な85%の接種率を達成する必要があるが,日本では市民,行政ともに意識が極めて希薄と言わざるを得ない.

■ワクチン接種率を上げる1つの方法は定期接種化である.しかし,日本では新たに1つのワクチンを定期接種に組み込むためには予防接種法の改正が必要であり,国会の審議と議決が必要となり,非常に時間を要する.しかし,国会運営の関係で,予防接種法改正法案は重要法案とみなされることなく先送りとなり,予定から何年も遅れることは珍しくない.このような現状では2020年までにワクチン接種率を向上させることは困難といえる.なお,「新たな定期接種を国会の審議を必要としない政令で定めることができる」とする特例措置の条文が予防接種法には存在するが,いまだに活用されたことがない.

■ワクチンが普及しない原因の1つにその評価の行い方が大きな問題点として挙げられる.ワクチンの評価は,その感染症予防率の高さと予防する感染症の重篤度で決定される.死亡率,重症化率,後遺症発生率が高い感染症を予防するワクチンは要望が高く,現在普及している大部分のワクチンが該当する.しかし,このようなワクチンの効果は,普及してその感染症が減少すると一般の目に止まらなくなるためか過小評価されるようになる.加えて,日本には感染症サーベランスシステムが貧弱であり,ワクチンの効果を正確に把握しにくい現状がある.

■HPVワクチンの1件を見ても分かる通り,ワクチンでは副反応が問題とされやすい.ワクチンはその性質上,免疫系の副反応を多少ともなうことは避けられない.また,ワクチンは健康な人間に接種されるため,病気を発症している患者に投与される薬剤とは異なり,副反応に関するハードルは高くなってしまい,過剰にたたかれる要因となっている[23].また,ワクチン接種後に発生した疾患や死亡に関して,ワクチンとの関連性を判定することは基本的には不可能であり,あくまでも前後関係に過ぎない.しかしながらこれらが因果関係ととられる誤解が生じ,結果的にワクチンの風評を生み出していることも少なくない[24]

■このような性質をもつワクチンは,いわゆる薬害団体や反医療主義者,科学的根拠のない医療推進者の餌食となりやすく,過剰なまでの反ワクチン主義をもたらし,ワクチン接種の妨げの一因となっている.厄介なことに,ワクチン反対論者は製薬メーカーのビジネスとからめた陰謀論を唱え,常に科学的研究法や科学的研究論文の査読を拒絶する特徴がある[25].これがエスカレートし,中には医師が反ワクチン団体から利権をもらうケースも存在し[26],ときに金銭と引き換えに副作用を捏造した不正論文がでたこともある.1例としてはワクチン副作用を捏造し,5600万円の賄賂を受け取っていたWakefield氏[27]が有名であり,ここ100年において最も医学にいたずらにダメージを与えた事件であったとされる.

■反ワクチン主義によって広まる情報は,誤った情報が加えられながら拡散されていく.中には「ワクチンに故意にウイルスを混ぜている」「不妊になる」といった全く根拠がない驚くべきデマも広がっている.そこに拍車をかけるのが反ワクチン論者による市民向け一般書籍である.このような書籍はその執筆者にとって都合のいい情報だけを集めて過剰なまでに危険性ばかりを訴える内容となっており,医学的に完全に間違った内容も記されていることはしばしば存在する.しかしながら,例えその内容が完全に間違っており,かつ有害な内容であっても,その書籍の出版を禁止する法律は存在せず,その執筆者に責任が及ぶこともない.一方の医療従事者はワクチンのリスク&ベネフィットをバイアスなくできる限り正確に評価し,責任をもって接種有無推奨を決定する立場にあり,どちらの意見がより妥当であるかは明らかである.しかしながら,大衆は既存のシステムに反対する刺激的な内容に興味がいきがちである.ワクチンプログラム普及のためには,医療と行政はより正確な情報を発信するだけでなく,どの情報がより正確であるかを判断する術についても市民に伝えていく必要がある.

■肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ菌の予防接種は,特に免疫不全患者,脾臓摘出患者にとって重要である.これらの感染をきたした場合,脾臓摘出後の患者では58%が敗血症に罹患するとされる.しかしながら,これらの大部分の人々は,敗血症を誘発しうる細菌に対抗しうる予防接種を受けておらず,その感染の危険性について教育されていない現状がある.

■インフルエンザワクチンも,インフルエンザそのものによる敗血症や,その後の二次性細菌感染による敗血症を予防する上で重要である.特に高齢者のインフルエンザに起因する肺炎は敗血症に進展して致命的となりやすいため,インフルエンザワクチンの社会全体での普及は急務である.しかしながらその効果と副作用を指摘する声が主にインターネット上で流れている(とりわけTHINKERというブログは間違いだらけである).WHOや厚生労働省がインフルエンザワクチンを無効と記載しているわけではないにもかかわらずなぜか誤った情報が流布されている模様である.インフルエンザワクチン接種は強制ではなく,接種するかしないかは個人が決定すべきである.その際に考慮しなければならないのはリスク(副作用)とベネフィット(利益)どちらが大きいかである.副作用を懸念するだけではなく,インフルエンザワクチンを打たず,防ぎえたかもしれない感染を許すことで,他の人にも感染し,それが生命を奪ってしまう可能性も考えるべきであり,それらをふまえずして「インフルエンザワクチンは打ってはいけない」と他人にすすめることは言語道断であり,そのような発言を,ましてや責任もとれない非医療者がすべきではない.

■インフルエンザワクチンの学童集団接種は1960年代から行われてきた.しかし,1994年に効果が乏しいことが推定されたため中止となっている.ところが,集団接種中止後に,学級閉鎖日数,欠席率が有意に上昇した[28],集団接種は幼児の死亡率を低下させていた[29]ことが報告されている.さらに,学童集団接種中止後に高齢者の死亡率が増加していた[30],学童集団接種により高齢者の肺炎と死亡率は36%減少した[31]という報告もなされている.これは,ワクチンを接種することで他の人への感染も予防し,死亡を回避するという間接的保護効果(indirect protection)として知られ,これをもって世界がインフルエンザワクチン接種推進へと舵を切るに至っている.

■ワクチン接種率が高まれば集団免疫効果が現れ,接種を受けていない者まで含め社会全体がワクチンの恩恵を受けるようになる.そのためにも,ワクチンを接種しやすい環境を整えることも重要である.米国では「予防接種が簡単に受けられるよう努める」「予防接種に関するバリアを探して,可能な限りこれをなくすよう努める」「受診者の費用をできるだけ少なくするよう努める」「できるだけ多くの適応があるワクチンを同時に接種するよう心がける」といった目標がかかげられている[32]

←敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(2)世界および日本の敗血症の現状
→敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(4)長期的に見た敗血症の予防戦略(近日UP予定)


[1] Curtis V, Cairncross S. Effect of washing hands with soap on diarrhoea risk in the community: a systematic review. Lancet Infect Dis 2003; 3: 275-81
[2] Meadows E, Le Saux N. A systematic review of the effectiveness of antimicrobial rinse-free hand sanitizers for prevention of illness-related absenteeism in elementary school children. BMC Public health 2004; 4: 50
[3] Rabie T, Curtis V. Handwashing and risk of respiratory infections: a quantitative systematic review. Trop Med Int Health 2006; 11: 258-67
[4] Larson EL, Lin SX, et al. Effect of antibacterial home cleaning and handwashing products on infectious disease symptoms: a randomized, double-blind trial. Ann Intern Med 2004; 140: 321-9
[5] Luby SP, Agboatwalla M, Painter J, et al. Effect of intensive handwashing promotion on childhood diarrhea in high-risk communities in Pakistan: a randomized controlled trial. JAMA 2004; 291: 2547-54
[6] Sandora TJ, Taveras EM, Shih MC, et al. A randomized, controlled trial of a multifaceted intervention including alcohol-based hand sanitizer and hand-hygiene education to reduce illness transmission in the home. Pediatrics 2005; 116: 587-94
[7] Warren-Gash C, Fragaszy E, Hayward AC. Hand hygiene to reduce community transmission of influenza and acute respiratory tract infection: a systematic review. InInfluenza Other Respi Viruses 2013; 7: 738-49
[8] Pittet D, Allegranzi B, Sax H, et al. Evidence-based model for hand transmission during patient care and the role of improved practices. Lancet Infect Dis 2006; 6: 641-52
[9] Kramer A, Schwebke I, Kampf G. How long do nosocomial pathogens persist on inanimate surfaces? A systematic review. BMC Infect Dis 2006; 6: 130
[10] Hota B. Contamination, disinfection, and cross-colonization: are hospital surfaces reservoirs for nosocomial infection? Clin Infect Dis 2004; 39: 1182-9
[11] Marinella MA, Pierson C, Chenoweth C. The stethoscope. A potential source of nosocomial infection? Arch Intern Med 1997; 157: 786-90
[12] Jones JS, Hoerle D, Riekse R. Stethoscopes: a potential vector of infection? Ann Emerg Med 1995; 26: 296-9
[13] Parmar RC, Valvi CC, et al. A prospective, randomised, double-blind study of comparative efficacy of immediate versus daily cleaning of stethoscope using 66% ethyl alcohol. Indian J Med Sci 2004; 58: 423-30
[14] Steven N, Urban C, Mangini ED, et al. "Is the Clinicians' Necktie a Potential Fomite for Hospital Acquired Infections?" Paper presented at the 104th General Meeting of the American Society for Microbiology May 23-27 2004. New Orleans. Louisiana, p.204
[15] McLure HA, Mannam M, Talboys CA, et al. The effect of facial hair and sex on the dispersal of bacteria below a masked subject. Anaesthesia 2000; 55: 173-6
[16] Waterman TR, Smeak DD, Kowalski J, et al. Comparison of bacterial counts in glove juice of surgeons wearing smooth band rings versus those without rings. Am J Infect Control 2006; 34: 421-5
[17] Pittet D. Improving adherence to hand hygiene practice : a multidisciplinary approach. Emerg Infect Dis 2001; 7: 234-40
[18] Hugonnet S, Perneger TV, Pittet D. Alcohol-based handrub improves compliance with hand hygiene in intensive care units. Arch Intern Med 2002; 162: 1037-43
[19] San Juan R, Chaves F, López Gude MJ, et al. Staphylococcus aureus poststernotomy mediastinitis: description of two distinct acquisition pathways with different potential preventive approaches. J Thorac Cardiovasc Surg 2007; 134: 670-6
[20] World Health Organization. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care. http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/9789241597906_eng.pdf
[21] Morgan DJ, Rogawski E, Thom KA, et al. Transfer of multidrug-resistant bacteria to healthcare workers' gloves and gowns after patient contact increases with environmental contamination. Crit Care Med 2012; 40: 1045-51
[22] Patrick DR, Findon G, Miller TE. Residual moisture determines the level of touch-contact-associated bacterial transfer following hand washing. Epidemiol Infect. 1997; 119: 319-25
[23] 渡辺博.ワクチンの安全性に関する考え方.臨床検査 2010; 54: 1272-8
[24] Campion EW. Suspicious about the Safety of Vaccines. N Engl J Med 2002; 347: 1474-5
[25] Tafuri S, Martinelli D, Prato R, et al. From the struggle for freedom to the denial of evidence: history of the anti-vaccination movements in Europe. Ann Ig 2011; 23: 93-9
[26] DeLong G. Conflicts of interest in vaccine safety research. Account Res 2012; 19: 65-88
[27] Flaherty DK. The vaccine-autism connection: a public health crisis caused by unethical medical practices and fraudulent science. Ann Pharmacother 2011; 45: 1302-4
[28] Kawai S, Nanri S, Ban E, et al. Influenza vaccination of schoolchildren and influenza outbreaks in a school. Clin Infect Dis 2011; 53: 130-6
[29] Sugaya N, Takeuchi Y. Mass vaccination of schoolchildren against influenza and its impact on the influenza-associated mortality rate among children in Japan. Clin Infect Dis 2005; 41: 939-47
[30] Reichert TA, Sugaya N, Fedson DS, et al. The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza. N Engl J Med 2001; 344: 889-96
[31] Charu V, Viboud C, Simonsen L, et al. Influenza-related mortality trends in Japanese and American seniors: evidence for the indirect mortality benefits of vaccinating schoolchildren. PLoS ONE 2011; 6: e26282
[32] National Vaccine Advisory Committee. Standards for child and adolescent immunization practices. National Vaccine Advisory Committee. Pediatrics 2003; 112: 958-63
# by DrMagicianEARL | 2013-09-13 00:00 | 敗血症

by DrMagicianEARL