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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■重症の純インフルエンザ肺炎(あるいはそれによるARDS)では肺炎球菌や黄色ブドウ球菌による細菌感染合併で死亡率が高まることはよく知られていますが,侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)も合併しやすいことが経験的に知られており,これまでも小規模データながら報告が散見されていました.私自身,重症インフルエンザ肺炎でICUで治療中にIPAを合併して痛い目にあったことがあります(当時はステロイドを使用していました).

■IPAは敗血症や呼吸不全を呈しうるだけでなく,仮性動脈瘤破裂による大喀血も致死的要因となります.アスペルギルスはエラスターゼを産生し,血管壁の防御機構破綻させて血管炎を惹起し,その血管炎は血管の全層において広範囲に及ぶため,血管内腔が拡張して紡錘形の瘤となり,動脈瘤を形成することが知られています.

■今回紹介する論文は,ICUに入室した重症インフルエンザでのIPA合併率,死亡率を検討した多施設での大規模な貴重な疫学データです.IPA合併率は19%(免疫不全なしで14%,免疫不全ありで32%)であり,免疫不全なしかつ非インフルエンザの重症市中肺炎で5%であることから,インフルエンザ患者でかなり多いことが分かります.90日死亡率もIPA合併例51% vs 非合併例28%でかなりの差があります.多変量解析でもインフルエンザがIPA合併の独立危険因子であることが示されています.

■結論にある通り,いかに予防・早期診断治療するかが鍵になってきます.IPAによる仮性動脈瘤はわずか2日で形成されるという報告もあるくらいで,思った以上に進行は早いです.

■本研究の多変量解析にある通り,ステロイドもリスク因子になります.ARDSでのステロイドは意見が分かれていますが,ことインフルエンザ肺炎でのARDSではステロイドは死亡リスクを高める可能性があり(Moreno G, et al. Intensive Care Med 2018 Aug 3)投与すべきではないと考えます.

■診断については,重症インフルエンザのICU患者ですので,人工呼吸器やECMOがついていてはそう簡単にCTは撮れないでしょうし,CTでIPAの特徴的とされるhalo signも初期にしか見られず,時間がたてば非特異的になり(J Clin Oncol 2001; 19: 253-9),多発結節影があればある程度判断しやすくはなるものの,鑑別は難しくなります.β-Dグルカン,アスペルギルスGM抗原なども用いて総合的に判断する必要があります.

■IPAを疑ったら第一選択薬ボリコナゾールを1回4mg/kg(初日のみローディングで6mg/kg)で1日2回投与し,TDMモニタリングも行います(5-7日で定常状態となるため,トラフ値はそれ以降に計測し,≧1~2µg/mLを目標).ただし,GFR<30mL/minの腎機能低下患者では禁忌ですので,アンホテリシンBかキャンディン系を使用します.

重症インフルエンザでICUに入室した患者における侵襲性肺アスペルギルス:後ろ向きコホート研究
Schauwvlieghe AFAD, Rijnders BJA, Philips N, et al; Dutch-Belgian Mycosis study group. Invasive aspergillosis in patients admitted to the intensive care unit with severe influenza: a retrospective cohort study. Lancet Respir Med 2018 Jul 31[Epub ahead of print]
PMID: 30076119

Abstract
【背 景】
侵襲性肺アスペルギルス症は典型的には免疫不全宿主に生じる.ほぼ一世紀の間,インフルエンザは細菌の重複感染を発生させることが知られていたが,最近では,重症インフルエンザ患者にも侵襲性肺アスペルギルス症が発生することが報告されている.

【目 的】
本研究の目的は,集中治療室(ICU)におけるインフルエンザ肺炎患者の数シーズンにわたる侵襲性肺アスペルギルス症の発生率を計測し,インフルエンザが侵襲性肺アスペルギルス症の独立した危険因子であるかどうかを評価することである.

【方 法】
我々は多施設共同後ろ向きコホート研究を行った.データは,7つのインフルエンザシーズンの間にベルギーとオランダの7つのICUに入室した重症インフルエンザの成人患者から収集した.患者は18歳以上で,画像検査で肺の浸潤陰影を有する急性呼吸不全でICUに24時間以上入室し,気道検体のPCR検査が陽性のインフルエンザ感染が確認された者とした(インフルエンザコホート).非免疫不全(欧州癌研究機関/真菌症研究グループ[EORTC/MSG]の宿主因子がない)のインフルエンザ陽性患者(インフルエンザ群)と気道インフルエンザPCR試験陰性の重症市中肺炎を呈した非免疫不全の患者(対照群)の比較において,インフルエンザが侵襲性アスペルギルス症に独立して関連しているかを調べるためにロジスティック回帰解析を用いた.

【結 果】
データは2009年1月1日から2016年6月30日までにICUに入室した患者から収集した.インフルエンザでICUに入室した患者432例(インフルエンザコホート)のうち,83例(19%)がICU入室後中央値3日目で侵襲性肺アスペルギルス症と診断された.インフルエンザA型とB型で発生率は同等であった.侵襲性肺アスペルギルス症の発生率は,非免疫不全のインフルエンザ症例群が14%(315例中45例)に対して,免疫不全を有するインフルエンザ患者では32%(117例中38例)と高かった.一方で,対照群では侵襲性肺アスペルギルス症発生は315例中16例(5%)のみであった.90日死亡率は侵襲性肺アスペルギルス症を合併したインフルエンザコホートで51%,侵襲性肺アスペルギルス症非合併のインフルエンザコホートで28%であった(p=0.0001).本研究において,インフルエンザは,高いAPACHEⅡスコア,男性,ステロイド使用と同様に,侵襲性肺アスペルギルス症に独立して関連していた(調整OR 5.19; 95%CI 2.63-10.26; p<0.0001).

【結 論】
インフルエンザは侵襲性肺アスペルギルス症の独立した危険因子であり,高い死亡率を伴うことを示した.さらなる研究で,より早い診断または真菌感染予防がインフルエンザ関連アスペルギルス症の予後を改善するかについて評価すべきである.

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# by DrMagicianEARL | 2018-08-13 14:35 | 文献 | Comments(0)
更新履歴
2018年8月9日「第3回東京感染症サミット(9/16東京)」追加
2018年8月9日「日本集中治療医学会第2回北海道支部学術集会(9/8札幌)」追加
2018年8月9日「第10回日本Acute Care Surgery学会学術集会(9/14・15仙台)」追加
2018年6月9日「第7回沖縄クリティカルケア研究会(8/18沖縄)」更新
2018年7月24日「敗血症セミナーin東京2018(9/1東京)」


研究会,講演会,学会日程
※学会総会に加え,主に敗血症,救急集中治療,感染症の研究会,講演会を適宜掲載していきます(本記事を更新していきます).あくまでも私の知る範囲でのものだけです.

※ここに掲載されていない研究会・講演会で掲載希望等あればコメント欄に記入するか,以下までメールで御連絡下さい.開催場所に制限はありませんが,内容は本ブログの内容の関係上,敗血症,感染症,救急/集中治療に関連するものに限ります.日時,演題名,会の主な対象や主旨等を記載して下さい.
⇒メールはこちらcum_earl@yahoo.co.jp
第7回沖縄クリティカルケア研究会
【日時】2018年8月18日(土)13:50-
【会場】アルカディア6階「コスモホール」
沖縄県浦添市伊祖4-16-1

12:35-12:45
製品紹介:リコモジュリン点滴静注用12800旭化成ファーマ株式会社

12:45-14:15
一般演題テーマ:「体外循環」
一般演題座長:那須 道高先生(浦添総合病院救急集中治療部医長)

一般演題1:「当院におけるECMO管理について」
仲間 康敏先生(豊見城中央病院呼吸療法士)

一般演題2:演題タイトル未定
神里 興太先生(琉球大学医学部附属病院麻酔科)

一般演題3:「当院におけるECPRの現状(仮)」
髙橋 公子先生(浦添総合病院救急集中治療部)

一般演題4:「当院におけるECPRの現状」
高江洲 怜先生(南部医療センター・こども医療センター救急・集中治療科)

14:15-15:15座長:久木田 一朗先生(琉球大学大学院医学研究科救急医学講座教授)
特別講演:「敗血症のエビデンスの可能性の狭間~narrative literature review 2018~」
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

後援:旭化成ファーマ株式会社
 沖縄で講演させていただくことになりました.敗血症のレビュー講演になりますが,特に循環蘇生とDIC治療に絞ってのお話をさせていただこうと思っています.ちなみにただでさえ暑いのが苦手な上に涼しい仙台に体が慣れてしまってるんですが,8月の沖縄,私は大丈夫だろうか・・・
敗血症セミナーin東京2018(日本集中治療医学会/日本救急医学会共催)
【日時】2018年9月1日(土)13:00-17:00
【会場】東京医科歯科大学鈴木章夫記念講堂
【定員】400名
【参加費】5000円
【申込】事前申し込み制となります.以下のURLからお申込みください.
http://www.jsicm.org/seminar/sepsis/
申込期間は2018年7月9日(月)~2018年8月16日(木)で,受講料の事前振り込みが確認できれば受付完了となります.先着順に受け付けますので,申込期間中であっても定員に達し次第締め切りますのでご容赦ください.

テーマ:「敗血症診療の流れと現場で直面する壁」
総合司会:井上 茂亮先生(日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance 委員会 副委員長/神戸大学医学部医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野)」

13:00~13:05
開会の辞:松嶋 麻子先生(日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance委員会委員長)

前半:Ⅰ.敗血症初期対応の流れと治療に難渋するケースへの対応
座長:大野 博司先生(日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance委員会 委員/洛和会音羽病院 ICU/CCU)

13:05~13:35
講演1:「敗血症初期対応の流れ」薬師寺 泰匡先生(日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance委員会委員/ 岸和田徳洲会病院 救急科)

13:35~14:05
講演2:「血圧が上がらない時の次の一手」
松嶋 麻子先生(日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance委員会 委員長/ 名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学)
14:05~14:35
講演3:「感染巣不明,原因菌不明の敗血症にどう対応するか?」
林 淑朗先生(亀田総合病院集中治療科)

14:35~14:55 休憩

後半:Ⅱ.敗血症をとりまくケア座長:剱持 雄二先生(日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance委員会 委員/東海大学医学部付属八王子病院 ICU・CCU)

14:55~15:25
講演4:「敗血症における看護師の観察ポイントと多職種との情報共有」
櫻本 秀明先生(茨城キリスト教大学看護学部看護学科)

15:25~15:55
講演5:「敗血症における早期リハビリテーション」
對東 俊介先生(広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門)

15:55~16:25
講演6:「End-of-Lifeケア(医師の立場から)」
則末 泰博先生(東京ベイ浦安市川医療センター救急集中治療科)

16:25~16:55
講演7:「End-of-Lifeケア(看護師の立場から)」
北村 愛子先生(大阪府立大学地域保健学域看護学類)

16:55~17:00
閉会の辞:小倉 裕司(日本救急医学会 敗血症合同活動委員会 委員長)
 世界敗血症デー/世界敗血症啓発月間に合わせて今年も日本集中治療医学会Global Sepsis Alliance委員会(GSA委員会)が敗血症セミナーを開催いたします.今年度から日本救急医学会の方でも敗血症合同活動委員会が立ち上がり,GSA委員会と協力して啓発活動を行っていくこととなりました.今回の敗血症セミナーは私が企画担当となり,テーマ,演題,演者をすべて決めさせていただきました.敗血症診療において,ガイドラインではカバーしきれない現場で直面する壁となる内容を演題に選び,名だたる講師陣を指名させていただきました.ぜひご参加ください.
日本集中治療医学会第2回北海道支部学術集会
【日時】2018年9月8日(土)
【会場】札幌コンベンションセンター
【会長】佐藤 朝之先生(札幌市立病院救命救急センター)

テーマ:「扉を開けよう!」

12:00-13:00
座長:佐藤 朝之先生(札幌市立病院救命救急センター)
ランチョンセミナー:「敗血症性DICのClinical Question」
演者:DrMagicainEARL(EARLの医学ノート)
 日本集中治療医学会の北海道地方会で,光栄なことに学会長が座長のランチョンセミナーで講演をさせていただくことになりました.敗血症性DICに関する4つのClinical Questionをもとにした内容にしております.
第10回日本 Acute Care Surgery 学会学術集会
【日時】2018年9月14日(金)~9月15日(土)
【会場】仙台国際センター
【会長】久志本 成樹先生(東北大学大学院医学系研究科 外科病態学講座救急医学分野教授)
【ホームページ】http://www2.convention.co.jp/10jsacs/

テーマ:「窮み、究め、極める Acute Care Surgery」
 まだプログラムがまだのため日時は未決定ですが,ICUAWと嚥下障害の教育講演,PMX-DHPのPro/Conセッションで講演させていただきます.
第3回東京感染症サミット
【日時】2018年9月16日(日)13:30-16:40
【会場】フクラシア八重洲会議室A
【対象】医師のみ(定員100名)
事前申し込み制です.お申込みは下のURLから
http://www.bdj.co.jp/seminar/2018/0728.html

テーマ:「AMR対策は医療をどう変えるか ~臨床現場の最前線を意識して~」座長
大曲 貴夫先生(国立国際医療研究センター病院国際感染症センター)
井上 茂亮先生 東海大学医学部付属八王子病院救命救急医学)

13:35-13:55
講演1「AMR対策は医療をどう変えるか」
大曲 貴夫先生(国立国際医療研究センター病院国際感染症センター)

13:55-14:35
講演2「集中治療室における抗菌薬適正使用」
志馬 伸朗先生(広島大学大学院救急集中治療医学)

14:45-15:15
講演3「外科領域における薬剤耐性を考慮した敗血症診療」近藤 豊先生(順天堂大学大学院医学研究科救急災害医学講座)

15:15-15:45
講演4「癌終末期での抗菌薬適正使用」DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

15:55-16:35
Pro/Conセッション「経口第3世代セフェムは採用薬から外すべきか」
Pro:「経口第3世代セフェムに使い所はない。外すべき」伊藤 雄介先生(兵庫県立こども病院小児感染科)
Con:「経口第3世代セフェムに不適正使用の罪をなすりつけるのは誤り。外すべきではない」
日馬 由貴先生(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)

主催:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
 今年で3回目となる感染症サミット,今年は耐性菌対策がテーマです.当初は7月28日開催でしたが,台風12号の影響により9月16日に延期開催することとなりました.大曲先生による総論から始まり,集中治療領域,外科領域,癌領域の抗菌薬適正使用,さらに最終セッションは薬剤メーカー主催ではまず講演できない経口第3世代セフェムに斬りこんだPro/Conセッションがあります.毎回ながら私も講演させていただきます.医師のみ対象の事前申し込み制ですがぜひご参加ください.
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# by DrMagicianEARL | 2018-08-13 10:36 | 研究会・講演会・学会 | Comments(8)
■ICUにおける早期リハビリテーションの重要性はかなり浸透してきており,本邦では診療報酬改定により早期離床加算も登場しています.ではエビデンスの方はどうか?というと,必ずしも確たる有益性を示しきれているわけではありません.もちろん益があるからこそ推奨はされているのですが,そのeffect sizeはそこまで大きくなく,有意差がついているアウトカムも限られているのが現状です(BMJ Open 2018; 8: e019998)

■今回紹介する論文は,標準的な早期リハビリテーションにベッド上サイクリングと四肢の電気筋刺激を追加すると筋力が改善するかどうかについて検討したRCTです.結果はネガティブで,筋力(MRC score)も有意差がついていません.ICUAWは評価されていませんが,MRC scoreを見るにおそらくはICUAWの予防にはなっていないと思われます.同様に6ヶ月後の健康関連QOLであるSF-36も有意差なしです.

■気になるのはICU死亡率です.統計学的有意差はついていませんが,介入群20.9% vs 標準ケア群15.6%で,絶対差にして5.4%の差がついていて,臨床的には無視できない差だと思います(考察では一切触れられていません).SAPSⅡやSOFAスコアは介入群の方がほんのわずかながら高いですが,こんなわずかな重症度の差で死亡率にここまでの開きが出るとは考えにくいです.そしてこの差は退院時,28日,6ヶ月時点でも維持されています(つまりICUで差がついている).

■私自身,ICU早期リハのシステマティックレビューを行った時に気が付いたことがあります.これまでのICU早期リハのRCTで介入群で死亡リスクが増加傾向を示した研究は複数あり,また,今回の研究を含むICU死亡率を評価した3つのRCTはすべて死亡リスクが増加傾向です.いずれも統計学的有意差はついていないものの,今回のRCTを含めて共通点がみられます.その共通点は,リハビリテーションの強度がかなり強めということです.非ICU患者のRCTでも,超早期から強度の強いリハビリテーションを行うと死亡率や神経学的予後が悪化した研究が2つあります.現時点でこれらの原因は明らかになってはいませんが,高度侵襲期にある患者への強度の強いリハビリテーションが何らかの悪影響を及ぼしている可能性があるのかもしれません.Too much is not always better,ということでしょうか.「ICUではリハビリは早期から,でも強度は強すぎず」が一番いいのかもしれません.
重症成人患者におけるベッド上サイクリングと四肢の電気筋刺激の筋力への影響
Fossat G, Baudin F, Courtes L, et al. Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2018; 320: 368-78
PMID: 30043066

Abstract
【背 景】
早期のベッド上サイクリングと電気筋刺激はICU患者におけるリハビリテーションの有益性を改善させる可能性がある.

【目 的】
標準的な早期リハビリテーションに早期のベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加えることでICU退室時の筋力がより強化されるかどうかを検討する.

【方 法】
本研究はフランスの1100床の病院のICUにおける重症成人患者を登録した単施設無作為化臨床試験である.2014年7月から2016年6月まで登録を行い,2016年11月24日まで6ヶ月の追跡を行った.患者は標準的早期リハビリテーションに早期のベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加える群(n=159)または標準的早期リハビリテーションのみの群(n=155)に無作為に割り付けられた.主要評価項目は盲検化された理学療法士のMedical Research Councilグレードシステム(点数幅0-60点;高い点数ほど良好な筋力を反映;最小の臨床的に重要な差は4点)を用いた評価によるICU退室時の筋力とした.副次評価項目はICU退室時の人工呼吸器非装着日数とICU Mobility Scaleスコア(点数幅0-10点;高い点数ほど良好な歩行能を反映)とした.機能的自立と健康関連QOLは6ヶ月時点で評価した.

【結 果】
無作為化された患者314例のうち,312例(平均年齢66歳,女性36%;研究登録時の人工呼吸器装着78%)が研究を完遂し,解析に組み込まれた.ICU退室時の国際的なMedical Research Councilスコア中央値は介入群で48点(四分位範囲 29 to 58),標準ケア群で51点(四分位範囲37 to 58)であった(中央値差-3.0[95%CI -7.0 to 2.8]; p=0.28).ICU退室時のICU Mobility Scaleスコアは両群とも6点(四分位範囲3 to 9)であった(平均差0[95%CI -1 to 2]; p=0.52).28日時点での人工呼吸器非装着日数は介入群で21日(四分位範囲6 to 25),標準ケア群で22日(四分位範囲10 to 25)であった(中央値差1[95%CI -2 to 3]; p=0.24).運動セッションの間の臨床的に意義のある有害事象は,介入群で7例(4.4%),標準ケア群で9例(5.8%)であった.6ヶ月時点で評価されたアウトカムについては両群間で有意差はみられなかった.

【結 論】
ICUに入室した患者を登録した本単施設無作為化臨床試験において,標準的早期リハビリテーションプログラムにベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加えることは,ICU退室時の筋力を改善させなかった.

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# by DrMagicianEARL | 2018-08-07 12:01 | 文献 | Comments(0)
■今回紹介する論文は,いわゆる「明日から臨床現場で使える小技」的なRCTです.局所麻酔でリドカイン注射をする際,その注射自体の疼痛はどうしても発生してしまうため,患者さんに我慢してもらうしかないのですが,リドカイン注射をする前にリドカイン1-2mLほどを皮膚の上に滴下することで注射の際の疼痛を有意に減じることができたとのことです.

■キシロカインゼリーを皮膚に塗った場合,5分程度で鎮痛効果が出るとされてますが,この研究の場合は注射前にどれくらいの時間をおけばいいんだろう?と見てみると,「immediately prior to subcutaneous injection of the 1% lidocaine」と書いてありますので,ほんと直前でいいということなんでしょう.ですので,1%リドカイン注射器から皮膚上に滴下してそのまま刺せばいい,という非常にお手軽な手技になります.
ベッドサイド手技で生じる疼痛における2つのリドカイン投与方法の比較:無作為化臨床試験
Patel BK, Wendlandt BN, Wolfe KS, et al. Comparison of Two Lidocaine Administration Techniques on Perceived Pain From Bedside Procedures: A Randomized Clinical Trial. Chest. 2018 Apr 24[Epub ahead of print]
PMID: 29698720

Abstract
【背 景】
リドカインは手技を行う上での疼痛を減じるために使用されるが,リドカイン注射中は逆に疼痛が増してしまう.疼痛の知覚は疼痛ゲート制御理論に基づいて,温度や接触のような非有害な刺激によって制御することができる.我々は,注射前に皮膚に滴下したリドカインが皮膚表面を冷やすあるいは皮膚表面に触れることで,注射による疼痛を軽減すると仮説を立てた.

【方 法】
手技を受けた患者の無作為化臨床試験を2011年2月から2015年3月まで行った.全患者が1%リドカインの皮下注射を受けた.介入群に無作為割り付けされた患者は,リドカイン皮下注射の前に1-2mLのリドカインを皮膚表面に滴下した.患者は介入の詳細については盲検化されており,視覚的アナログスケールを用いて主要な結果(手技による疼痛の程度)を記録するため,盲検化された研究者によって調査された.

【結 果】
481例の患者で同意が得られ,治療を無作為化された.視覚的アナログスケールを用いた結果,介入群で手技による疼痛の主要評価項目は有意に改善した(対照群16.6±24.8mm vs 介入群12.2±19.4mm; p=0.03).サブ解析では,末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)において疼痛スコアが改善していた(対照群18.8±25.6mm vs 介入群12.2±18.2mm; p=0.02).

【結 論】
ベッドサイド手技は非常に一般的に行われている.手技による疼痛の程度に関するデータとそれを軽減するための方法はインフォームドコンセントのプロセスや患者満足度において重要である.全体として,一般的なベッドサイド処置から報告される痛みは弱いが,リドカインを皮膚表面に滴下して疼痛知覚を制御することにより疼痛をさらに減じることができる.

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# by DrMagicianEARL | 2018-08-06 11:21 | 文献 | Comments(0)
■海外で行われていたDIC治療薬のヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン(リコモジュリン®)のPhaseⅢであるSCARLET trialの結果が8月2日に旭化成ファーマ株式会社からプレスリリースされた.結果はネガティブ.軽症例を多数登録してしまうとハードアウトカムに有意差はつきそうにもないので,ある意味予想通りではあったが,日本発の薬剤がこういう研究デザインの問題でネガティブな結果になってしまうのはなんとも複雑な気分ではある.内容を見るにプロトコル違反もあって,どうもPer-Protocol解析なら有意差つきそうな印象はあるが,そこはpublishデータを見ないとなんとも分からない.

■以下ではこの研究のデザインとプレスリリースデータを見ていく.
研究名:SCARLET trial
試験登録:ClinivalTrialGov. NCT01598831(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01598831?term=ART-123&rank=5

デザイン:国際多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験(PhaseⅢ)
参加国・地域:北米、南米、欧州、アジア・オセアニア(日本を除く)

P(対象):18歳以上の重症敗血症(Sepsis-3ではない)かつ凝固障害(DICとは異なる)
・ICUまたは急性期ケア(ERなど)で治療を受ける
・細菌感染と感染巣の根拠が臨床的に観察されている
・敗血症による心血管障害または呼吸不全を有する
・他に要因がないPT-INR>1.4かつ,血小板数が30,000/mm3より多く150,000/mm3より少ない,若しくは24時間以内に30%を超える減少の凝固障害

I(介入):ART-123(ヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン)0.06 mg/kg/day(=380単位/kg/day)で最大用量6 mg/dayまでを6日間

C(対照):プラセボ

O(アウトカム):主要評価項目:28日全死亡率,28日以内の有害事象,28日以内の重篤な有害事象として収集された主要な出血)副次評価項目:頭蓋内出血,生命を脅かす出血,研究者によって重篤に分類された出血事象,連続する2日間にわたって1440mL(6単位)の赤血球輸血を要する出血
■まず,本RCTの対象は敗血症性DICではなく,PT-INR>1.40と血小板減少のみで規定された敗血症性凝固障害である.基本的に欧米ではDICはあまり浸透しておらず,PhaseⅡb[1]のpost hoc解析でPT-INR>1.40において特に有益性が認められたため,このようなデザインになっている.

■この時点で「あ,これは有意差つかないんじゃないか?コケるんじゃない?」と予想はしていた.研究デザイン的にかなり軽症例を含むことになるため,おそらく対照群の死亡率は30%は切るだろうし,死亡率に有意差はかなりつきにくい(これでなぜ対照群の予測死亡率を35%という高いものに見積もったのかは不明).私自身,敗血症性DICに関して遺伝子組換えトロンボモデュリンは使用するが,軽症例に対しては使用していない.

■またDICではない敗血症患者に対するDIC治療薬投与が予後を改善しないことは以前から指摘されていて,これはJSEPTIC-DIC studyでも示されている[2].PT-INR>1.40の延長がimmunothrombosis[3]の範疇に入る生体に保護的な生理的範囲の凝固(coagulation)なのか生体に有害な凝固障害(coagulopathy)なのかは分からないため,前者に対して遺伝子組換えトロンボモデュリンを投与している(=理論的には逆効果の)可能性も十分にある.実際,マウスモデル研究ではDIC非合併状態だとトロンボモデュリンのレクチン様ドメインの存在がむしろ有害な可能性を示しているものもある[4].血小板減少もあわせて見ているものの,やはり登録基準に凝固線溶系マーカーは入っていてほしかったところである.さらに,PhaseⅡb[1]のサブ解析をもとにRCTを組み直してるわけだが,集中治療領域でサブ解析で有意差がついたことを根拠にRCTをやってポジティブになるケースは極めて稀である.このあたりは旭化成ファーマが海外承認を得ることを目的としているためFDA等の監視のもと進めるので,PhaseⅢからいきなりDIC基準に切り替える,なんてことも難しかったのであろう.

■なお,PT-INR>1.4かつ血小板数<15万の患者ならば急性期DIC診断基準も満たすのではないか?との疑問もあるかもしれない.参考までに日本救急医学会Sepsis Registry解析データ[5]を見ると,急性期DIC診断基準を満たさない重症敗血症患者でもPT-INRの平均値は1.4±0.56,血小板数21.5万±11.1万であり,非DIC症例も相当な数が混ざってくる可能性が分かる.

■次にプレスリリースで公表された結果である.
旭化成ファーマプレスリリース内容:http://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2018/me180802.html
主要評価項目:28日死亡率 遺伝子組換えトロンボモデュリン群26.8%(106/395例),対照群29.4%(119/405症例),絶対差2.6%
検定(本ブログ管理人算出):p=0.433(Fisher検定),RR 0.913, 95%CI 0.73-1.14

1.血液凝固マーカーであるD-ダイマー,トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT),プロトロンビンフラグメントF1+2濃度,並びに血小板数の推移は,PhaseⅡbと同様に対照群と比較して改善が見られた.

2.本剤投与直前までPT-INR並びに血小板数のクライテリアを満たしていた患者(約600例)では,本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は4.5%以上であった.なおこの中で,治験薬を4回以上投与できた患者(約450例)に限ると,本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は約7%であった.

新たに懸念すべき有害事象は見られなかった
■予想通り対照群の死亡率は30%を下回っており,絶対差も2.6%と小さい.相対死亡リスク減少は8.7%.原疾患治療がうまくいって,試験薬を投与する頃には凝固障害が解除されていた症例が1/4以上あったようで,治験薬を4階以上投与した患者も半数しかいないことを考えれば,本RCT全体での重症度はやはり高くなかったのであろう.遺伝子組換えトロンボモデュリン(や他のDIC治療薬)は重症度が高いほど死亡リスク減少効果がでることが知られており,代表的なものとして,Yamakawaらのメタ解析[6]やJSEPTIC-DIC studyの解析[2]が挙げられる.

■非DIC,非重症例が多い集団でのRCT結果であるので,本研究結果を本邦の臨床現場に適用させるのは難しいが(少なくとも軽症例ではやはりDIC治療は不要とは言えるかもしれない),はたしてこの結果を米国FDAがどう判断するかである.まだpublishはされていないものの,既に欧州集中治療医学会で結果が公表されたPMX-DHPの大規模RCTであるEUPHRATES trialについては,ITT解析としては予後の改善はみられなかったが,PP解析やサブ解析により予後改善がみられていることもあってのせいか,FDAは追加試験を承認している.そして,ClinicalTrialGov.で検索してみると,既にSCARLET2 trialが登録されていた.登録予定患者数は800例で,登録基準を見ると,SCARLET trialとかなり似てはいるが,臓器障害が敗血症性ショックまたはPaO2/FiO2<250と具体的表記がある.ただ,凝固障害についてはDICではなく引き続きPT-INRと血小板のみで規定している.詳しくはこちらのリンクを参照していただきたい.
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03517501?cond=ART-123&rank=3

■最後に,これまでの遺伝子組換えトロンボモデュリンのRCTについて私の方でRを用いてメタ解析を行ってみた.対象は各RCTごとに異なるため,網羅的表現としては敗血症性DICではなく感染性凝固障害となるが,死亡率のメタ解析結果は以下の通りである.OR 0.84, 95%CI 0.67-1.05で,統計学的有意差はついていない.ただし効果量は0.84,95%信頼区間上限も1.05であり,出血リスクと勘案しても益が害を上回るとはいえる.また不精確性はあるもののI2=0であり,一貫した有益性が示唆される.あとはコストやその施設における敗血症患者集団の重症度,治療成績との兼ね合いであろう.
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[1] Vincent JL, Ramesh MK, Ernest D, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled, Phase 2b study to evaluate the safety and efficacy of recombinant human soluble thrombomodulin, ART-123, in patients with sepsis and suspected disseminated intravascular coagulation. Crit Care Med 2013; 41: 2069-79, PMID: 23979365
[2] Yamakawa K, Umemura Y, Hayakawa M, et al; Japan Septic Disseminated Intravascular Coagulation (J-Septic DIC) study group. Benefit profile of anticoagulant therapy in sepsis: a nationwide multicentre registry in Japan. Crit Care 2016; 20: 229, PMID: 27472991
[3] Engelmann B, Massberg S. Thrombosis as an intravascular effector of innate immunity. Nat Rev Immunol 2013; 13: 34-45, PMID: 23222502
[4] Schouten M, de Boer JD, van 't Veer C, et al. The lectin-like domain of thrombomodulin hampers host defence in pneumococcal pneumonia. Eur Respir J 2013; 41: 935-42, PMID: 22936703
[5] Gando S, Saitoh D, Ogura H, et al; Japanese Association for Acute Medicine Sepsis Registry Study Group. A multicenter, prospective validation study of the Japanese Association for Acute Medicine disseminated intravascular coagulation scoring system in patients with severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R111, PMID: 23787004
[6] Yamakawa K, Aihara M, Ogura H, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin in severe sepsis: a systematic review and meta-analysis. J Thromb Haemost 2015; 13: 508-19, PMID: 25581687

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# by DrMagicianEARL | 2018-08-03 14:19 | 敗血症性DIC | Comments(0)

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