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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

敗血症性DICの概要

Summary
・海外ではDICそのものは治療せず,原疾患治療のみであるのに対し,本邦では多数のDIC治療薬が存在する.
・DICは消費性凝固障害,虚血性臓器障害,炎症性臓器障害の3つの障害を有する.
・近年,炎症と凝固のCross-talkの概念が提唱され,コンセンサスを得ており,炎症性疾患とDICの増悪の機序として理解されている.
・DICは多臓器不全の原因となりうる.
・敗血症性DICは治療のみならず,敗血症の早期治療によるDIC予防も重視されるべきである.

■播種性血管内凝固(DIC:Disseminated Intravascular Coagulation)の原因疾患として敗血症は主たる病態の1つであり,敗血症に続発する重篤疾患と捉えられてきた.それゆえ,DICを“Death is Coming.”と揶揄されたこともあった.しかしながら,近年,敗血症病態は炎症と凝固のcross-talkにより相互に作用して過剰状態に至るものであることが分かっており,DICを敗血症に続発する一疾患として捉える時代は終焉を迎えた.

■DICの二大症状は、出血症状と臓器症状であるが,臨床症状が出現すると予後不良となるため(厚労省研究班の疫学調査では死亡率56%),臨床症状の出現がない時点で治療開始できるのが理想である.DICは従来の①②に新たに③を加えた,3つの障害が本体であると現在は考えられている.

①消費性凝固障害(PLTや凝固因子の減少)
②虚血性臓器障害(血栓による虚血性微小循環障害)
③炎症性臓器障害(細胞傷害性因子放出や血管内皮細胞傷害による炎症性微小循環障害)

すなわち,DICを単純な凝固線溶の異常としてだけ捉えるのは間違いであり,凝固線溶反応と免疫炎症反応の異常がcross talk(密接な相互連関)して生じるcytokine stormと理解するのが正しい.そうしたcross talkの分子機序には既に詳細な検討がなされている.臨床的にも,SIRSが重症化して敗血症から重症敗血症へ,さらには敗血症性ショックへ進むにつれてDICの合併率が高まり,MODSによる死亡率も上昇することが知られている.このように炎症の程度とDICの発症率が相関することからも,凝固と炎症のcross talk(相互連関)が強く示唆される.さらに,最近では,凝固炎症cross talkからMODSに至る過程,すなわち“sustained SIRS+DIC=MODS”の構図についても全体像が明らかにされている.DICを発症した際には,過剰に産生されたthrombinによりfibrin形成が生じ,播種性fibrin沈着を起こすことで虚血性臓器障害に至る.これにPARs(Protease Activative Receptors)が関与することで,炎症凝固が病的生体反応として振舞い,MODSを起こすと考えられている.

■加えて,DICにおける微小循環が障害されると,治療薬が該当部位にdeliverできない状態に陥り,治療効果が得られなくなる.これを防ぐ上でもDIC治療は必要であり,DICを治療することで他の治療が奏功しやすくなる相乗効果も期待される.

■PARsは4種類あり,その発現は血小板,単球,好中球,リンパ球,ならびに血管内皮細胞をはじめとする全身の細胞に認められ,多彩な生理作用を発揮すると同時に,CICTで中心的役割を担って病的生体反応を助長している.臨床的にはARDSなどにおいて,PARsとDIC/MODSの関係が調べられている.ARDSでは肺や血管内にフィブリン血栓が生じ,およそ2/3の症例でDICを合併するが,その全てにおいてPARsの発現が認められる.そして,PARsをブロックすることで凝固と炎症の両面が抑制でき,臓器障害もある程度まで軽減可能なことが示されている.

■このように,炎症と凝固の関係はこれまで重症化に向かう車の両輪と考えられてきており[1],炎症,凝固それぞれに対する治療が互いに相乗効果をもたらす.最近はさらにすすんで,2つは不可分と考えられるようになってきている.すなわち,炎症と凝固を一纏めにした治療戦略が最新の考え方である.よって,DICを単なる敗血症続発性疾患と捉えてはならない.敗血症初期から凝固系は亢進してきており,DIC発見の契機となる血小板低下は凝固亢進の成れの果てを見ているに過ぎず,より速い治療介入が必要となる可能性を有する.DICは敗血症病態の進行レベルの指標という考え方も必要である.

■海外と本邦の敗血症治療法の大きな違いとして,DIC治療の有無がある.すなわち,欧米ではDICは原疾患治療により改善すると考えられており,DIC治療はほとんど行われない上,行ってもヘパリン投与に留まる.DICに効果を示すであろうrhAPC製剤が海外にはあったが,これはDICではなく敗血症に対する治療薬として承認を受けた薬剤である(2011年11月に販売中止).一方,本邦ではプロテアーゼ阻害薬,アンチトロンビン製剤などの抗DIC治療薬が開発,使用されており,DICに対しての治療が積極的に行われている.そして近年,リコンビナント・トロンボモデュリン(rTM)製剤が本邦で開発,使用開始となり,DIC治療は大きな転機を迎えている.現在,rTM製剤は米国でPhaseⅢに移行しており,海外での大規模比較試験の結果が待たれるところである.

■何よりも重要なのはDICの治療ではなくDICの予防であるが,その警鐘がDIC先進国である本邦でもまだ浸透していない.重症敗血症においてEGDT,ELGTをはじめとする適切な初期蘇生バンドルの施行を行うことで血管内皮細胞傷害を主体とする敗血症性DICの発症を抑える,もしくは発症しても軽度ですませることができる.つまり,重症敗血症の初期治療は凝固系過剰状態に対する治療でもあり,DIC発症の予防に直結する.逆にDICが生じるということは血管内皮細胞がかなり傷害されていることを意味し,それだけ敗血症が重症であるか治療に遅れが生じているという可能性を認識しなければならない.

[1] Matthay MA. Severe sepsis--a new treatment with both anticoagulant and antiinflammatory properties. N Engl J Med 2001; 344: 759-62
by DrMagicianEARL | 2011-11-25 11:48 | 敗血症性DIC

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