敗血症性DICの病態(1)~凝固系カスケードと組織因子・Thrombin~
Summary■重要Key Wards
・生体侵襲では組織因子(TF)による凝固活性化をtriggerとし,カスケード反応が進行していく.
・敗血症におけるDICでは,炎症性サイトカイン(Alarmins)やエンドトキシン(LPS)などのPAMPsが要因となり,組織因子が放出される.
・凝固カスケードの最終産物としてトロンビン(Th)が産生され,血栓形成を促進する.
・トロンビンは複数の経路によるpositive feedbackによりさらに産生量が増幅される.
・トロンボモデュリン(TM)はトロンビンと結合することにより血管内皮細胞の保護作用を発揮する.
・凝固と炎症はプロテアーゼ活性化受容体(PAR)を介してCross-talk(相互連関)しており,このPARの選択的リガンドとしてトロンビンは極めて重要な活性化プロテアーゼであり,凝固のみならず炎症反応も促進する.
TF:Tissue factor,組織因子
Th:Thrombin,トロンビン
MP:microparticle,マイクロパーティクル
PS:P-selectin,セレクチン(接着因子)
VEC:Vessel Endothelial Cell,血管内皮細胞
Fbg:fibrinogen,フィブリノゲン
TM:Thrombomoduline,トロンボモデュリン
PAR:protease activated receptor,プロテアーゼ活性化受容体
■止血系はカスケード型の反応である[1].すなわち,活性型凝固因子が,基質である1つ下流の非活性型凝固因子を活性化する,という基本モジュールの重層によって成立している.そして特にビタミンK依存性凝固因子が活性化された血小板膜のホスファチジルセリン上にミセルを形成して立体配置され,反応は爆発的に増幅される.
1.凝固因子(Tissue Factor;TF)
■凝固活性化はTF(tissue factor;組織因子)依存性に始まる.TFは血液に接する細胞(白血球,血小板,血管内皮細胞)には通常発現しておらず,血管外膜の線維芽細胞,中膜の平滑筋細胞に恒常的に発現している.また,TFはこれら以外の種々の細胞にも発現しており,凝固反応の開始に加え,血管新生や癌の進行・転移などにも重要な役割を果たしている.
■血中には凝固活性を有する微量のTF(blood-borne TF)が循環しており,この血中TFによる凝固系の活性化と増幅機序が注目されている[2].血中TFは,単球などから放出されるMP(microparticle)に結合しており,TF含有MPに存在するPS(P-selectin)のリガンド(P-selectin glycoprotein ligand-1;PSGL-1)などの接着因子を介して血管傷害部位に集積する[3].MP結合型TFの由来には,活性化単球やVEC(Vessel Endothelial Cell;血管内皮細胞)の膜断片,血小板や好酸球からの放出顆粒などが示唆されている.
■MPは0.1-1μmの膜断片で,活性化やアポトーシスなどを起こしたVEC,単球,血小板の細胞膜から生じる[4].MPの特徴は元の細胞がもつ膜蛋白質を保有している点である.血小板由来のMPはglycoproteinⅠbを膜上に提示している.エンドトキシンなどで刺激を受けた単球から生成するMPは膜上にTFを有する.MPのもうひとつの特徴は,凝固促進能をもつホスファチジルセリンがリン脂質二重層の外側に露出している点である.これは,MPが細胞の活性化やアポトーシスにより生じることからも支持される.TF含有MPの潜在的な凝固能の特性から,血栓性疾患の発症においてMPが果たす役割が注目されている.MPについては2011年にArterioscler Thromb Vasc Biol誌に5つの総説を特集している[5].
■正常時の血中TFは微量であり,生理的止血血栓形成への関与は明らかでない一方,種々の病態で血中TFは増加する.endotoxin血症で増加する血中TFは,単球や内皮細胞を含む種々の細胞から由来する.炎症局所に浸潤した好中球はTFを発現し,細胞死によりMP含有TFを放出するため,炎症初期の血中TFは好中球由来と考えられている.こうした病態時に増加する血中TFは,病的血栓の原因になるのか,病変の結果であるのか臨床的評価は定まっていない.
■敗血症などの感染症に合併したDICの発症にはサイトカインが大きな役割を果たす.単球はendotoxin(リポポリサッカライド;LPS),炎症性サイトカイン(TNFα,IL-1β),免疫複合体,P-selectin,血小板で活性化され,TFを発現する[6].VECはLPSやある種の炎症性サイトカインによりTFを発現する.TF遺伝子のプロモーター領域には転写因子であるNF-κBやAP-1が結合する塩基配列があり,これらの配列がTF mRNAの転写誘導に重要な役割を果たしている.このRNA遊離により血液凝固内因系が活性化される[7].
■凝固カスケードのtriggerは,VECが傷害され,剥離脱落して,血管壁のTFが血流にむき出しになることで生じ,これにF.VIIaが結合して外因系凝固が活性化される.この血管損傷部位ではコラーゲン線維もむき出しになり,これを血小板板上のGPVIが認識して,あるいはコラーゲン上に結合したvWF(von Willebrand Factor)を血小板上のGP1b/IX/Vが認識して,血小板は血管損傷部位に粘着し,次いで活性化・凝集が生じる.また,宿主細胞が障害されて細胞内からRNAが遊離してくると,血液凝固内因系が活性化される.
2.トロンビン(Thrombin;Th)
■凝固カスケードが進むと,最終的に大量のXa因子が産生され,Va因子を補酵素としてprothrombinに作用し,凝固カスケードの最終産物として凝固因子ⅡaであるTh(Thrombin)が産生される.Thは血栓形成に極めて重要なセリンプロテアーゼである.ThはFbg(fibrinogen)を切断してフィブリン網を形成する.さらにThは第XIII因子を活性化させる.第XIIIa因子はCa2+の存在下でフィブリン網から不溶性フィブリン架橋構造を形成して安定化フィブリンが完成する.さらにThは血小板活性化因子(PAF;platelet activated factor)の放出を促進して血小板を強力に活性化し,血小板はADP放出を行い,血小板インテグリンの活性化が起こり,血小板凝集を引き起こし,この血小板を安定化フィブリンが巻き込んで血栓を形成する.
■またThは,凝固カスケードの上流に位置する凝固第V,VIII因子の活性化を促進することで,Th自らの産生速度を10万~30万倍に亢進させるブースター効果を発揮する(凝固増幅反応)[8].同時に,Thによって活性化された血小板もMP(microparticle)を放出することで,凝固反応の場となるリン脂質を広範囲に供給し,Xa-Va-Ca2+-リン脂質からなる複合体であるprothrombinaseを形成し,Thの産生が亢進する.
■このようにThは極めて多彩な機能,それも凝固の進展や血小板の活性化といった血栓形成につながる機能をもつ.こういった機能をもつThの形成は十分に制御される必要がある.血管損傷の局所にThの形成を限定するため,血管の内側を覆うVECは,VIIとTFの結合を遮断するバリアとして働き,損傷部位以外での凝固の開始を阻止している.
■このようなThの過剰状態を制御する上で,血管内皮細胞上に発現しているTM(Thrombomodulin)が重要となる.TMはThと結合し,Th-TM複合体を形成してprotein CをAPC(activated protein C)に変換し,APCはPS(protein S)を補酵素としてVa,VIIIa因子を分解し,凝固反応を制御する.しかしながら,TMが遊離し,TM発現量が低下するとThを制御できなくなってしまう.
■一方,Thにはこれらの凝固系の活性化からまったく独立して血小板や白血球,あるいはVECや平滑筋などの細胞に対して直接的に作用し,様々な生理活性を惹起することが知られており,これら組織にはThに対する特異的レセプターの存在が推察されていた.1991年にCoughlinら[9]によりThに対する受容体のcDNAがクローニングされ,この受容体がTh以外にも種々の活性化プロテアーゼとも反応することが判明し,PAR(protease activated receptor;プロテアーゼ活性化受容体)と名づけられた.最初に発見されたレセプターはPAR-1と呼ばれ,その後1994年にPAR-2[10],1997年にPAR-3[11],1998年にPAR-4[12,13]が発見され,現在までに4つのPARファミリーメンバーがクローニングされている.ヒトにおいてこれらの4つのPARのアミノ酸配列は約30%の類似性を有していることも判明している.
■通常のリガンド-受容体反応は,可溶性のリガンドが受容体に結合することで活性化シグナルが発動し,細胞内にsignal transductionが生じる.これに対して,PARのsignal transductionはユニークである.まず,Thなどの活性化プロテアーゼがPARの細胞外N末端ペプチド鎖に存在するビルジン様結合部位を限定分解する.これに伴い新たに露出したアミノ酸N末端ペプチド鎖がいわゆるtethered ligandとなり,この新たなリガンドがPAR自身の細胞外第2グループに結合することで,細胞内へのsignal transductionが成立する.細胞内シグナルはG蛋白を介して,最終的にphospholipase CやNF-κBなどの経路により伝達される.
■凝固反応と炎症反応はThをはじめとした凝固因子とPARによってうまくバランスをとり,生体の恒常性を維持している.PAR活性化に伴って生じる血小板,免疫細胞,VECなどの炎症反応と密接に関係している細胞や組織の生理作用としては,①形態変化,②炎症性サイトカインやケモカインの放出,③接着分子の発現,④細胞内物質の放出,⑤脱顆粒,⑥凝固・線溶因子の発現,⑦透過性亢進など炎症,免疫,疼痛,浮腫,組織修復など多岐にわたる[14].以上より凝固と炎症はPARを介してCross-talk(相互連関)しており,このPARの選択的リガンドとしてThは極めて重要な活性化プロテアーゼであり,凝固のみならず炎症反応も促進する.
[1] Mann KG, et al. Models of blood coagulation. Blood Cells Mol Dis 2006; 36: 108-17
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