敗血症性DICの病態(2)~HMGB1とhistone,NETs~
Summary■重要Key word
・DIC発症にはトロンビン以外にHMGB-1,ヒストンも大きく関与している.
・HMGB-1は侵襲局所では止血,修復のメディエーターとして作用する.
・全身化したHMGB-1は敗血症における晩期の炎症性サイトカインであり,予後悪化に関与する重要な因子と考えられている.
・敗血症においてHMGB-1はRAGEに結合し,炎症反応増幅や細胞死を誘導し,「死のメディエーター」とも呼ばれる.
・トロンボモデュリンはHMGB-1と結合し,分解する.
・敗血症病態においては,血小板と好中球が複合体を形成し,好中球がNETsを放出し,細菌を捕捉・殺菌する.
・生体内凝固反応は白血球,血小板,血管内皮細胞の3者が相互連関した"cell-based process of hemostasis"として捉えることの重要性が提唱されている.
・histoneはNETsや細胞死により放出されうる.
・HMGB-1:High-Mobility Group Box 1
・Th:Thrombin(トロンビン)
・RAGE:Receptor for Advanced Glycation Endproducts
・NETs:Neutrophil Extracellular Trapping system,Neutrophil Extracellular Traps
■DIC発症にはTh(Thrombin)が関与していることは疑う余地もないが,ThだけでDICが生じるかについては疑問も持たれていた.実際,以前よりDIC発症にはTh以外のコアファクターの関与が推定されていおり,近年,HMGB-1(high-mobility group box 1)とhistoneが注目されている.すなわち,Th単独ではDICの病態を形成しにくいが,HMGB1やhistoneがThと共存することで著しく凝固活性が高まる.
1.HMGB-1(high-mobility group box 1)
■マウスにエンドトキシンを投与してsepsisモデルを作製すると数日で死に至るが,これはすでに血中IL-1βやTNFαがピークを過ぎた時期であることや,TNFα欠損マウスにおいてもLPS投与後数日して死亡することから,これら炎症性サイトカイン以外のメディエータの存在が考えられた.そこで1973年にWangらはsepsisの後期に働いている致死的メディエータを探索し,HMGB-1を同定し,HMGB-1の敗血症におけるlate mediatorとしての機能,重症度のマーカーや治療標的としての有用性を報告した[1,2].
■HMGB-1(high mobility group box protein1)は全ての有核細胞の核内に存在する分子量30kDの非ヒストン核蛋白質であり,核内においてDNAと結合し,DNAを折り曲げ,NF-κB,ステロイドホルモン受容体など様々な転写因子の活性を間接的に調節している.HMGB1を欠損したマウスはグルココルチコイド受容体機能不全などにより生後まもなく低血糖で死亡する[3].このように,HMGB1は細胞の核内において,必要不可欠な役割を担う.しかし,生体侵襲時,特にSIRS(全身性炎症反応症候群)病態においては,HMGB-1は壊死細胞,あるいは活性化マクロファージからは細胞外に放出されて,周辺細胞のRAGE(receptor for advanced glycation endproducts)やTLR(toll-like receptor)-2,4に作用して炎症を惹起し,炎症性サイトカイン(Alarmins)として働く[2].
■RAGEはmulti-ligand receptorとして多くのリガンドと結合し,RAGEの細胞内ドメインに情報が伝達され,さまざまな細胞内情報伝達経路が活性化される[4].このため,TLRsと同様にPRRs(Pattern Recognized Receptor;パターン認識受容体)であると考えられている.そのリガンドの1つがHMGB-1である.RAGEは肺に高頻度に発現しており,血管内皮細胞,好中球,マクロファージでは比較的発現頻度が少ない.しかし,HMGB-1が増加すると,RAGEの発現も亢進する.これは,RAGEのプロモーター領域にNF-κBやSP-1の結合領域が存在し,リガンドや炎症性サイトカインによってRAGEの発現が促進されるからである.
■このHMGB-1がエンドトキシン血症時の後期メディエータであり,エンドトキシンショックで死亡した患者にはこの物質が血中で増加することから,致死的メディエータであることが報告されており[1],これが死のメディエータと呼ばれる所以である.マウスモデルにおいては,HMGB-1はエンドトキシン血症や敗血症を発症してから8時間で検出され始め,16-32時間でプラトーレベルに達する[5,6].敗血症性ショックにおいて抗HMGB-1抗体が出現した患者の生存率が高いことも報告されている[7].HMGB-1は,単球/マクロファージのみならず,ほとんど全ての細胞で発現している.発現の誘導刺激としても,エンドトキシンだけではなく,IL-1βやTNFαなどもHMGB-1の発現を増加させる.
■このようにHMGB-1についてはかなり研究が進んできており,実際にHMGB-1とThが同時に血管内に存在すると,実験的にも臨床的にもDICが引き起こされることが示されている[8,9].実際に,敗血症生存例と死亡例の比較では,血中HMGB-1値は死亡例で有意に高値が遷延することが示されており,DICスコアとHMGB-1値の間には有意な相関が認められる[9].これらのことからも,HMGB-1はAlarminsの代表的分子として注目を集めている[10].
■HMGB-1は抗凝固系であるprotein C pathwayを抑制し,単球からのTF産生を刺激することが証明されていることからDICにおいても関与していることが証明されている.HMGB-1は局所で止血,自然免疫,修復のメディエーターとしても働きつつ凝固亢進による血栓で局所封鎖を行い,HMGB-1自らが全身に流出するのを防いでいる.ここに関与しているのがTM(Thrombomodulin)である[11].TMのN末端レクチン様ドメインにHMGB-1は結合し,このHMGB-1はEGF(epidermal growth factor)ドメインに結合したThによって分解される[12,13].このように,TMはThとHMGB-1という侵襲局所で生成される分子の血管内侵入と全身化を防いでいることが判明してきている.
■しかしながら,侵襲が強く,TMのバリアー能を上回るHMGB-1とThが生成されると,これらが循環血中に侵入し,凝固反応と炎症反応が全身化し,SIRSとDICを惹起する[8].
2.histone,NETs
■重症感染症においては,しばしば末梢血中の血小板数は低下を示す.これはDIC併発による血小板の消費が一因と考えられているが,肺や肝臓などに血小板が集積することによる循環血小板数の減少も関与していることが近年明らかになり,敗血症における凝固の役割を理解する上でも重要となってきている.
■敗血症においては,病原体の侵入に対し,まず血小板が炎症増強作用を発揮し[14].血小板自身が細菌処理機能を有することが分かっている[15].血小板上のTLR-4でPAMPs(Pathogen-Associated Molecular Patterns)を認識した血小板は好中球に結合し[16],活性化血小板がP-selectinを放出して,好中球に貪食促進のみならず,核内から放出されるクロマチンやヒストンと細胞質成分を融合(decondensation)させて構成されるNETs(neutrophil extracellular trapping system)[17]と呼ばれる網の放出を促進し,このNETsが細菌をトラップする[18,19].NETs産生の結果,好中球は死に至るが,この細胞死の過程はnecrosisでもapoptosisでもない,NETosisという新たな細胞死の過程として注目されている[20,21].
■2004年にBrinkmannらはNETsについて,"Neutrophil extracellular traps kill bacteria"として最初に報告した[22].
※右写真は2010年9月のNature Medicinの表紙に掲載されたもので,NETsが大腸菌をからめとっている像である.
■血中を流れる細菌の6割は肺や肝臓に集積した血小板好中球複合体によって捕獲される[16,23].NETsは好中球の貪食作用に比べ,より多くの微生物に対し,より長く殺菌作用を発揮できるという利点を有する.
■また,NETsに含まれるhistoneは血小板を凝集させる作用があり,NETsを足場として血小板血栓が形成される[24].さらにはNETsに含まれる好中球エラスターゼやカプテシンGは組織因子経路インヒビター(TFPI;tissue factor pathway inhibitor)を分解することによって血液凝固反応を促進し,さらなる血栓の成長を促す[25].これにより病原微生物の捕捉,血栓での局所封鎖により,病原微生物の全身播種を防ぐ.また,好中球下流に含まれるmyeloperoxidaseや好中球エラスターゼなどの殺菌物質は宿主細胞・組織に対しても有害であり,脱顆粒による細胞外への無秩序な殺菌物質の放出は宿主組織の傷害を惹起し得るが,NETsの場合は殺菌物質がDNAの網目構造に結合しており,宿主組織への傷害が起こりにくくなっている.
■白血球と血小板の活性化においては上記の通り相互作用が存在する.そして同様の相互作用は白血球-血管内皮細胞,血小板-血管内皮細胞の間にも存在する.また,血液凝固反応の亢進はこれらの間に介在する要因として重要であり,これらのことから生体内凝固反応を“cell-based process of hemostasis”として捉えることの重要性が提唱されている[26].
■すなわち,敗血症による微小血栓形成は,細菌播種を防ぐための局所封鎖だけが目的でなく,好中球NETsなどで侵入した細菌を積極的に処理することを目的ともしており[21],また,局所にて高濃度になった炎症性メディエータが全身に播種することも血栓による局所封鎖で防ぎうる.すなわち,凝固は感染に対する生体防御の一環であり,この防御機構が過剰になった病態が敗血症性DICである.
■細菌に関しては,グラム陽性球菌であるS. aureusやS. pneumoniaeが,グラム陰性桿菌であるE. coliよりNETs産生誘導能が高いと報告されている[27,28].
■A群溶連菌は一般的には咽頭炎や皮膚感染症の原因となる細菌であるが,時としてM1T1株[29,30]による壊死性筋膜炎やA群溶連菌毒素性ショック症候群といった重篤な感染症(侵襲性A群溶連菌感染症)を惹起する.このM1T1株はDNA分解酵素であるSda1を有し,DNAで構築されているNETsも分解除去できる.M1T1株は通常は蛋白分解酵素SpeBによってSda1を抑制しているが,M1T1株の中に突然変異でSpeBが消失した株が出現し,この変異株はSda1の発現量が格段に上昇し,NETsを効率的に分解・除去することができ,感染組織から全身へと侵襲することができる[31].A群溶連菌以外にも,S. aureusやS. pneumoniaeの病原性が細菌のもつDNA分解酵素活性と相関していると報告されている[32,33].
■histoneはヒトを含む真核生物のクロマチン(染色体)を構成する蛋白質の一群であり,DNAに結合する蛋白質の大部分を占める.このhistoneが細胞外に放出された場合,さまざまな生体反応を引き起こすことが近年判明しつつある.histoneはNETsの構成成分でもあり,殺菌物質の1つとして生体防御に寄与している.その一方で,敗血症における主要な増悪因子であることが近年報告された[34].この報告によると,
①histone H3, H4が内皮細胞に対して細胞毒性をもつこと
②マウスにhistoneを経静脈投与すると肺への好中球集積,細胞内出血,血栓形成が起こり,致死すること
③histone H4に対する抗体を投与することによって敗血症モデルマウスの予後が改善すること
④APC(Active protein C)はhistone H3, H4を分解することができ,APCの共投与によってhistoneによる細胞毒性や生体に対する致死性を軽減・消失することができた
と報告されている.敗血症の際,血流中に増加するhistoneは,傷害組織中のネクローシスした細胞・処理しきれなかったアポトーシス細胞のほかに,好中球により産生されたNETsより放出されると推測されるが,その寄与度は分かっていない.
■このように,HMGB1やhistoneは生体防御に貢献する一方で,その細胞傷害性のため,組織損傷を悪化させる原因となり得る二面性をもった蛋白質である.よって,感染が生じた局所のみにおいてこれらのメディエータが作用するのが理想であり,そのためにも血栓による局所封鎖でこれらのメディエータが全身に播種しない機構が働いているといえる.
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