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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

ICU看護師対象DIC勉強会概要(2)

2012年2月24日ICU看護師対象DIC勉強会概要(2)

2.DICの診断
 DICの診断基準は一般的なものから産科・新生児などまで様々であるが,特に重要なのは急性期DIC死んだ基準,厚生省DIC診断基準,ISTH DIC診断基準の3つである.急性期DIC診断基準は感度が高く,早期からのDIC診断・治療に直結する.敗血症性DICでは特に有用であるが,血液疾患由来のDICには不向きである.また,特異度は低いので,DIC以外の疾患の鑑別は必ず必要である.厚生省DIC診断基準は特異度は高く正確であるが,項目が煩雑であり,早期診断にはむいていない.ISTHのDIC診断基準は海外が厚生省DIC診断基準をほぼ真似て作成したものである.

 敗血症性DICでは近年SIRS-Associated Coagulopathy,略してSACと呼ばれる概念が取り入れられている.これは,SIRSという病態においてDICに進展していく前病態の概念であり,DICが臓器障害を発症しているのに対し,SACはまだ臓器障害を発症していない状態である.病態進行に伴ってSAC,DIC,MODSと進展していくが,厚生省DIC診断基準はDICの時点を診断しているため,MODSへの進行を許してしまいかねない.一方,急性期DIC診断基準はDICに至る前のSACの状態を診断することが可能であり,これにより臓器障害を併発する前に治療することで病態からの改善が見込めるものである.

 DICにおいてよく指標とされるのは血小板である.しかしながら,血小板の低下は本当にDICか?急性期であってもDIC以外に血小板が減少する病態は多数ある.血小板好中球複合体形成による肺と肝臓に集積・消費,ADAMTS13不足(もしくは好中球エラスターゼ増加),骨髄抑制,CHDF,薬剤性(ヘパリン製剤,ザイボックス®など),凝集による偽性低値,血液疾患(血球貪食症候群,再生不良性貧血,白血病,特発性血小板減少性紫斑病など),ウイルス感染症,膠原病,低栄養などである.よってこれらの鑑別を行わず,DICでないのにDIC治療を開始すると,無駄な医療費が増大し,出血のリスクも増加,生体防御レベルの凝固が阻害され,病原体やhistone,HMGB1などが全身に播種し,血小板減少の真の原因が解決されないなど多数の問題が出てくる.DICはDIC診断基準,TATを用いて正確に評価することが必要である.

3.DICの治療の意義
 DICの治療薬の話に移る前に,DIC治療の背景について触れておかねばならない.海外ではDICは治療せず,原疾患治療が全てとされる.このため,海外ではDICを知らない医師がほとんどである.また,海外ではDICの研究はほとんどなされておらず,日本はDIC先進国といえる.しかしながら,DIC治療薬が生存率を改善したという大規模試験によるエビデンスは存在しない.このため,日本でもDICを治療する施設と治療しない施設に分かれている.

 DICの生存率は本当に改善しないか?これについては,DIC治療薬のRCT(ランダム化比較試験)のプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性がある.DIC治療薬はDIC離脱率でよい成績を残しているが,原疾患治療がまともになされず,結局死亡率改善に結びついていないことも考えられる.また,28日ではなく90日で死亡率を評価すると有意差がでる可能性もある.敗血症・DIC由来の臓器不全は28日くらいなら生存していることはしばしば経験されるが,90日という長い期間で見ると差は歴然である.これらのことから,原疾患治療までしっかりとプロトコルに組み入れた臨床試験を行わなければ意味がないと思われる.一般的に臨床試験は多施設で行う方がより質が高い研究となるとされてはいるが,プロトコルが曖昧になる要素が含まれる以上,このような集中治療領域の試験を本当に多施設で行うべきかどうかについてはおおいに疑問が持たれるところではある.そういう意味では単施設の研究報告も吟味する必要がある.

 加えて,これは噂ではあるが,海外のエビデンスをくつがえすような日本発の薬剤は雑なプロトコルを組まれて臨床試験で効果が否定されることが多い.逆に,海外ではエビデンスを作るためにプロトコルを捻じ曲げた臨床試験を行うことがある.よい例は昨年10月末に販売中止となった,敗血症における活性化プロテインC(APC)製剤であろう.APC製剤の製薬メーカーはSSCGのメインスポンサーであったことは暗黙の事実である.また,1990年前後,世界的に有名な注中治療領域の複数の医学誌においては,日本人というだけで一部分野においては論文投稿が拒絶されていたこともあるとのことである.我々はついつい海外のエビデンスに目を向けがちであるが,海外のエビデンスといえどもその査読には十分注意が必要である.

 DIC治療がはたしてエビデンスがあるものか判断するのは難しい.なぜなら国内では既にDICは保険適応下で治療することが慣習化されており,比較試験を行うにもプラセボ群を設定することができないからである.しかしながら,集中治療領域における各種の治療の積み重ねにより,1つ1つの項目の有意差は少なくても,それらを組み合わせれば生存率は有意に改善するものと考える.

4.DICの治療薬
 各種のDIC治療薬を順に見ていく.ヘパリン系には未分画ヘパリン(UFH),低分子ヘパリン(LMWH),ヘパラン硫酸(HS,別名ダナパロイドナトリウム)があり,Xa因子,トロンビンを阻害する作用がある.UFHは安全域が狭く,効果についても疑問があり,あまり使用されなくなってきている.LMWHは安全性がUFHより高いが,効果はUFHと同様に弱い.HSはヘパリンに代わって新たに登場したヘパリン類似物質であり,比較的新しいためエキスパートコンセンサスではエビデンスレベルは低いものの,安全かつ効果的で,軽症DIC症例において使用されている.

 合成プロテアーゼ阻害薬にはメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)とメシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)があり,Xa因子,トロンビン,エラスターゼに作用する.ほとんどエビデンスはなく,経験的に効果があるとして頻用されている.近年では効果に疑問が持たれ始め,アンチトロンビン製剤,リコンビナント・トロンボモデュリン製剤の登場により特定の場面以外では使用されなくなってきている.GMは抗凝固作用のみであり,敗血症性DICに向いているとされている.NMは抗凝固作用に加え,プラスミンにも作用することで抗線溶作用両方を有するため,敗血症性DICには使用は推奨されない.出血を伴う線溶亢進型DICでは有用かもしれない.なお,GMはCHDFや透析でかなり吸着されてしまう.副作用としては高ナトリウム血症,低カリウム血症が比較的多く見られる.

 アンチトロンビン製剤(AT)はリコンビナント・トロンボモデュリン製剤が出る前のエキスパートコンセンサスにおいて最も推奨度が高い治療薬であり,出血があっても使用可能である.臨床適応はATⅢ活性が70%未満であるが,近年リコンビナント・トロンボモデュリンの登場で50-70%であれば投与不要とする考え方もある.大規模試験であるKyberSept trialでは,非DIC症例も含めた敗血症患者に対するAT製剤の投与において,全体の死亡率は改善しなかったが,DIC症例に限定したサブ解析で死亡率が改善しており,唯一これが質の高いエビデンスといえる.ただし,あくまでもサブ解析であるため,追試が必要である.ヘパリン製剤との併用では効果が減弱してしまうため併用はすべきでない.ATはCHDFや透析でかなり吸着されるようである.なお,投与前にアルブミン製剤を投与することで効果増強の可能性が示唆されている.ATを投与すると,トロンビンと結合してTATを形成することでDICを治療することは先述の通りであるが,DICでない症例でATを投与してしまうと,TATが上昇してしまい,TATで判断できなくなるリスクがある.

 リコンビナント・トロンボモデュリン製剤(rTM)は最も新しいDIC治療薬であり,良好なDIC離脱率を有する.トロンビンと1対1で結合し,プロテインCを活性化して活性化プロテインC(APC)に変換し,APCはVa因子やVIIIa因子に作用し,また,抗炎症反応も示す.また,HMGB1も阻害するとされている.ヘパリンと比較しても有意ではないが6%前後の死亡率改善が報告されている.その作用からARDSでも効果が期待されているが,治療効果があったとするRCTはない.トロンビン濃度に応じて作用するため,出血は起こりにくいとされているものの,半減期が長く,出血症例に対しては使用できない.また,肝障害や過去に出血の既往がある患者においても出血リスクが高いため注意が必要である.現在海外進出しており,米国でPhaseⅡが終了,PhaseⅢに移行するとのこで,大規模RCTによる生存率改善の可能性が期待されている.

 その他治療薬であるが,新鮮凍結血漿は超重症DICや血小板低下遷延のDICにおいてADAMTS13補充目的で適応となる.超重症かつAT活性が50%未満であれば最初からの投与も検討すべきかもしれない.

 トレチノイン,別名全トランスレチノイン酸(ATRA)は急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬であるが,APLによるDICに対しても著効する.これは,APLに対する原疾患治療であると同時に,TFや線溶系を亢進させるアネキシンⅡを阻害することで凝固・線溶を両方ともブロックし,短時間でDICから離脱でき,極めて有効である.

 トラネキサム酸(TA)はプラスミノゲンを阻害し,抗線溶作用がある.ただし,DICにおいては抗線溶薬は原則禁忌である.これは全身血栓症発症による死亡例が多数報告されているためで,特に敗血症性DICやAPLでのATRA投与中の患者への投与は極めて危険であり,絶対禁忌となっている.一方で,外傷性出血性ショックにおけるDICでは有効であるとの報告が相次いでいる.DICにおいて使用する際は以下の条件が全て満たされている場合に限定される.
① 線溶亢進型DICで間違いなく,重症出血コントロールができずに苦慮している症例
② 必ずヘパリン類(ヘパリン系,ダナパロイドNa)との併用下であること
③ 専門家に日々コンサルトできる状態にあること

5.DICの治療戦略
 DICの治療薬についてはエキスパートコンセンサスがあるが,実際の治療に関する明確な使用ガイドラインは存在しない.当院においても血液内科が作成した院内DIC治療ガイドラインもどの疾患にどの薬剤をどう使用し,いつやめるかの明示はされていない.

 ただ,各施設で共通した考え方がある.原疾患治療が大前提であること,軽症例では無治療でもよいこと(とりわけ感染症のように原疾患治療が可能な場合はほとんどは抗DIC治療薬を使用せずに改善する),出血例ではrTMは使用しないがATは使用できること,重症例ではrTMやATを積極的に使用すること,万が一出血してもTAは原則使用してはならないことなどである.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 院内DIC診療ガイドラインには使用のプロトコルなどの記載は一切なかったため,院内敗血症診療ガイドラインでは各薬剤の使用プロトコルを記載させていただいた.治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばGMを選択考慮としている.これは当院にHSがないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければ(DD迅速キットはあるが,ATⅢ活性は外注であるため)rTMを第一選択とし,これにATやFFPを加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 rTM製剤市販後全例調査の解析がなされ,抗DIC治療薬の併用と出血についての報告があった.rTM製剤単剤での出血率は5.7%であり,DIC治療薬2剤併用ではほとんどの組み合わせで出血率の有意な上昇はなかったが,LMWH併用群でのみ出血率が有意に上昇した(12%).3剤併用ではどの組み合わせであっても出血率が有意に増加しており(8-12%),多数の薬剤の併用はハイリスクとなるため安易に選択すべきではない.

 DIC治療をいつやめるかについては全く結論が出ておらず,医師それぞれで異なる.血小板が改善したらやめるという方法はかなり投与期間が長期化するため無駄が多くなる可能性があり推奨されない.最もよく使用されている目安は急性期DIC基準スコアが3点以下になったらやめるというものである.なお,その他の基準として,急性期DIC基準スコアが低下傾向を示し始め(3点以下でなくてよい),かつ原疾患治療が行われていて,末梢循環不全が解除されているとき(SOFA score改善傾向,高乳酸血症,代謝性アシドーシスが改善傾向)であれば中止するという基準を私は推奨している.これにより投与期間が短縮され,コスト減少,出血リスクが軽減される.現在この基準での臨床データを当院で集積中である.なお,原疾患治療がすぐに完了できないような場合にはこの方法は不向きである.

 最後にまとめになるが,DICは治療よりもまず予防である.そのために,原因となる末梢循環不全徴候を見逃してはならない.バイタルの変動,乳酸値などを念入りにチェックすべきである.集中治療とは現在目の前の病態を治療するのみならず悪化を予防することが重要であり,患者に重症感がなくとも事前に徴候を察知して食い止め,あたかも患者に何も起こっていなかったかのように経過する,これが集中治療の醍醐味であると考える.DICを見るときは,線溶系抑制型か亢進型かを判別し,その道具として原疾患,FDP,DD,PICを解釈する.出血徴候を見逃さないことは当然だが,臓器症状(臓器不全)は患者をぱっと見ただけでは分からない.推測する上でもSOFA scoreは有用であり,是非活用すべきである.
by DrMagicianEARL | 2012-03-14 12:49 | 敗血症性DIC

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