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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

感染防止対策加算

■2012年度の診療報酬加算改訂により感染防止対策加算が入った.加算は一定以上の基準を満たした施設に与えられ,加算1と加算2の大きく2つの群に分類される.

■感染防止対策加算1
以下の要件を満たせば加算1の適応となり,患者1人あたり入院初日に400点が加算される.また,加算1を算定している医療機関同士が連携し,年1回以上,互いの医療機関に赴いて,相互に感染防止対策に係る評価を行っていることを満たせば,感染防止対策地域連携加算として患者1人あたり入院初日にさらに100点が追加される(計500点).
① 専任の院内感染管理者が配置されており,感染防止に係る部門を設置していること.
② 感染症対策に3年以上の経験を有する専任の常勤医師,5年以上感染管理に従事した経験を有し,感染管理に係る適切な研修を修了した専任の看護師(医師又は看護師のうち1名は専従),3年以上の病院勤務経験を持つ感染防止対策にかかわる専任の薬剤師,3年以上の病院勤務経験を持つ専任の臨床検査技師からなる感染防止対策チームを組織し,感染防止に係る日常業務を行うこと.
※専従は専任とは異なり,感染対策業務以外の日常診療は行えない(週1回の外来ならOKとの話も・・・?).
③ 年4回以上,感染防止対策加算2を算定する医療機関と合同の感染防止対策に関する取組を話し合うカンファレンスを開催していること.
④ 感染防止対策加算2を算定する医療機関から感染防止対策に関する相談を適宜受け付けること.

■感染防止対策加算2
以下の要件を満たせば加算2の適応となり,患者1人あたり入院初日に100点が加算される.
① 一般病床の病床数が300床未満の医療機関であることを標準とする.
② 専任の院内感染管理者が配置されており,感染防止に係る部門を設置していること.
③ 感染症対策に3年以上の経験を有する専任の常勤医師,5年以上感染管理に従事した経験を有する専任の看護師(医師,看護師とも専任で差し支えない),3年以上の病院勤務経験を持つ感染防止対策にかかわる専任の薬剤師,3年以上の病院勤務経験を持つ専任の臨床検査技師からなる感染防止対策チームを組織し,感染防止に係る日常業務を行うこと.
④ 年に4回以上,感染防止対策加算1を算定する医療機関が開催する感染防止対策に関するカンファレンスに参加していること.

■感染防止対策加算要件をまとめると,以下の16の項目の施行が必須となる.
1.ICT(感染制御チーム)設置
2.院内感染状況の把握
3.抗菌薬の適正使用
4.職員の感染防止等
5.1回/週のICTラウンド(回診)
6.院内感染事例の把握
7.感染防止対策の実施状況の把握・指導
8.サーベイランス⇒分析・評価⇒感染対策へ
9.アウトブレイク対応
10.それらの記録
11.抗菌薬適正使用推進
12.広域抗菌薬の届出制等
13.広域抗菌薬の投与量・期間の把握
14.職員研修
15.マニュアルの作成
16.マニュアルの遵守確認

■感染防止対策加算は,各病院の感染対策レベルの底上げにはなるが,その主旨が意図せぬ方向に動いていることも事実であり,病院利益も絡んでか現状は非常に複雑である.

■この感染防止対策加算が2012年度から施行されるにあたり,加算1の病院では500点,加算2では100点と大幅な利益純増が見込まれるため,各病院がこの加算をとるため躍起になっている.とりわけ加算1と加算2が組まなければいけないため,加算2の病院を加算1の病院が取り合うという現象が日本全国で生じた.その理由として,加算要件維持が非常に困難であろうことが予想されること(加算1の病院といえども達成が困難である項目がある),厚生労働省が想定していた数をはるかに上回る膨大な数の病院が加算2をとってきたため予算圧迫を避ける名目で厚生労働省が加算2の病院を切りかかることが容易に予想されることが挙げられる.実際,加算2の病院のうち,これまで感染対策などほとんどやってこなかった病院は半数近くを占めるのではないだろうか?これらの加算2の病院が切られてしまうと,当然ながら,生き残れない加算2の病院ばかりと組んだ加算1の病院もまた要件を満たせなくなるため共倒れになる.こうなると,感染対策の豊富な経験がある切られそうにない加算2の病院を加算1の病院が取り合うということになり,いわゆる“お見合いパーティー”なるものが各地で開催されていた.

※当院の所属する二次医療圏内に大学病院もあるため,この大学病院が基幹となって,二次医療圏内の加算1の6病院,加算2の11病院の計17病院をつなぐ巨大なネットワークが作られた.しかしながら,先日開催された合同カンファレンスに小生が参加し,その雰囲気を見ると,加算2の11病院中,おそらく生き残れるのは半数にも満たないことが予想された.それほど加算2の病院の多くは無理して加算2をとりに来ているようで,twitterでの情報交換を見ても,これは他の地域でも同様のようである.カンファレンスでの感染対策に関する話に半数以上の病院が入ってこれない状況を小生は目の当たりにした.ましてアカデミックな話になればもはやポカーンとした表情になっていた.カンファレンスでは「各病院とも振り落とされないように。なんとかして監査をクリアせよ」との言葉が発せられている.
※当院はICNがいないため加算2の病院であるが,長年の感染対策の経験と豊富なサーベイランスデータを有するため,切られることのない病院と踏んだのか,大学病院から猛烈なラブコールを受けてタッグを組むことになり,加算2でありながら加算1と同様に当院からネットワーク会議の世話人を出すに至っている.加算1をとりに行くことも検討してはいるが,このような加算2の病院群の現状を見るに,加算1をとるのもそれなりにリスキーなのかもしれない.


■今回,感染対策において,口腔ケアもかなり重要視されている.歯科・口腔外科との連携も非常に大事なものとなってくる.その中で重要な疾患は人工呼吸器関連肺炎(VAP)と誤嚥性肺炎であろう.誤嚥性肺炎における口腔ケアの重要性は言うまでもない.VAPにおいては口腔ケアの有効性を示す報告は少ないが,理論的にも経験的にも口腔ケアは重要視されている位置づけにある.ただし,その頻度や方法についていまだに未解決な部分も多く,今後の課題となるだろう.

■感染対策での連携において,集団感染発生時(アウトブレイク)の連携は非常に重要で,各連携毎に必ず対応策を考えておく必要がある.マスコミ対策もそのうちの1つである.

■感染対策で各病院のデータ集積・提供は必須である.挙げられる項目例として以下のものがある.
①血液培養検体数
②カルバペネム系などの広域抗菌薬使用数
③消毒薬消費量データ
④各種サーベイランス(SSI,CRBSI,耐性菌,尿道留置カテーテル,ポート,スコープ)
⑤各病院感染対策ガイドライン
⑥各病院のantibiogram

※今回の感染対策防止加算の要件において,重大な欠陥を指摘するとすれば,開業医に対する指導が何一つ入っていないことであろう.抗菌薬を適正に使用できている開業医がはたしてどれだけいるのかおおいに疑問であり,当院でも経口第3世代セフェムを投与したが効かないと紹介されてくる患者や,目まぐるしく抗菌薬を短期間毎に変えて効かないと紹介されてくる患者,さらには開業医でカルバペネム系を点滴されているという驚くべきケースも散見する(製薬メーカーは開業医にカルバペネム系抗菌薬を絶対に販売すべきでないと小生は考えている).MRSAの持込例が非常に多いことも考えると,開業医レベルでの抗菌薬適正使用を行わなければコミュニティーでの感染制御は限界がある.

※経口抗菌薬に対する適正使用を推進している病院はどうやらかなり少ないようである.大学病院は研究機関でもあるため,経口抗菌薬の種類を減らすという策がとれない上,膨大な数の外来に介入していくのは非常に困難であり,現実的に不可能であるからかもしれない.しかし,経口抗菌薬を野放しにして本当に感染対策がすすむのかおおいに疑問がある.当院では2012年から経口抗菌薬(経口第3世代セフェム,キノロン,マクロライド)の適正使用についての介入を開始しており,大幅な経口抗菌薬採用数の削減とともに,経口第3世代セフェムの使用量を大幅に減少させることを目標としている.

by DrMagicianEARL | 2012-05-15 14:32 | 感染対策

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