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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

リコンビナント・トロンボモデュリンαの米国Phase2b study結果

■リコンビナント・トロンボモデュリンα(rTM:商品名リコモジュリン®;旭化成ファーマ)は日本で開発され,国内PhaseⅢ[1]でヘパリン群より有意なDIC離脱率を示したが,死亡率では有意な改善は示せていない(改善傾向はあり).PhaseⅢのサブ解析で,敗血症性DICにおいては28日死亡率でヘパリン群よりrTM群が10.2%死亡率を改善させている.その後,pre-post比較でのrTMによる死亡率改善の報告はあるが,二重盲検RCTでの報告はなかった.

■一方,海外ではリコンビナント活性型プロテインC製剤(rhAPC:Xigris®)がイーライリリー社から販売されており,敗血症に対する治療薬としてSurviving Sepsis Campaign Guidelinesにおいても推奨されていた.rTMはトロンビンと結合してプロテインCを活性化し,APCに変換することで効果を発揮しており,rTMの有効性を示す上で,APCの過去のデータはよく引用されていた.しかしながら,その後出血リスクと有効性の低さが指摘され,メタ解析したCochraneからの2008年のレビュー[2]では「重症敗血症や敗血症性ショックにrhAPCを使用すべきとするエビデンスはなく,出血性合併症を増やし,新たなRCTによって治療効果が証明されない限り用いてはならない」と警告が発せられた.PROWESS-SHOCK study[3]によってその効果が否定され,2011年10月に市場撤退し,姿を消すに至った.

■海外では本邦とは違い,DICが治療対象でないため,その概念は乏しく,rhAPCはDICでない敗血症症例にまで使用されていたことが有効性を示せなかった原因と推察される.DICをきたしている症例には有効と思われるが,非DIC症例においてその効果がどこまであるかは不明である.加えて,出血の問題もrhAPCにはつきまとっていた.そもそもrhAPCの有効性を示した最初のPROWESS study[4]自体に数多くの無視できない問題があったのも事実であり,このstudyから安易にrhAPCを承認してしまった米国FDAへの批判も多い.また,rhAPCを販売していたイーライリリー社がSurviving Sepsis Campaignのメインスポンサーであったことも関係していたのかもしれない.

■なお,rhAPC製剤販売中止から半年近くたってから,米国集中治療学会(SCCM)が2005-2008年に収集した15000例の解析結果で,敗血症診断の24時間以内に投与を開始した症例では予後良好という結果がCritical Care Medicine誌に掲載された[5].PROWESS-SHOCK studyとは異なる結果であるが,データ収集終了から4年たった,それもrhAPC製剤が市場撤退した後に本論文が登場した理由は謎である.

■これに対し,rTMはトロンビンと1対1に結合して効果を発揮するためrhAPC製剤より安全であることが推定され,DIC症例に適応を絞っているため,国内データも併せると,敗血症性DIC症例における死亡率改善に寄与するのではないかと期待が持たれていた.しかしながら,大規模でのプラセボ対照RCTを行うには国内では限界があった.

■そこで,旭化成ファーマは米国Artisan Pharmaに委託し,rTM(ART-123)の海外でのPhase2b trialが行われた.

ART-123(recombinant human soluble thombomodulin) Phase 2b study
【目的】敗血症性DICに対するrecombinant human soluble thombomodulin(rTM)の効果・安全性を確認する.

【方法】参加地域は米国,カナダ,欧州,オーストラリア,ニュージーランド,アルゼンチン,イスラエル,一部のアジア地域であり,登録患者は敗血症性DIC(もしくは凝固障害)患者750例,研究デザインは二重盲検プラセボ対照RCT,プライマリーエンドポイントは28日死亡率とされた.なお,本studyはArtisan Pharmaが行っていたが,途中で旭化成ファーマがArtisan Pharmaを買収し,旭化成ファーマアメリカとなっている.rTM群370例,プラセボ群371例であり,患者背景に有意差はない.DICの診断は急性期DIC診断基準ではなく,血小板数とPT INRで判定している.rTM,プラセボともに6日間の投与を行った.

【結果】28日死亡率はrTM群 17.8% vs プラセボ群 21.6%,p=0.273であった.p<0.3を達成しており,この結果をもってPhaseⅢへの移行が決定した.また,レトロスペクティブな解析では,1つ以上の臓器不全があり,かつPT INR>1.4の患者においてrTMの有効性がより高まることが確認された(死亡率:rTM群 26.3% vs プラセボ群 38.2%).重大な有害事象,中和抗体出現についてはrTM群とプラセボ群で有意差は認めなかった.TAT,D-DimerはrTM群で速やかに減少することが確認された.rTMの薬物動態は過去の研究(日本でのPhaseⅡ)と同等であり,性別,人種,年齢によって薬物動態は影響を受けないことが確認された.


■rTMのPhaseⅢ studyは旭化成ファーマアメリカが行う.目的は重症敗血症および凝固障害を対象としたrTMの安全性と効果の判定,プライマリーアウトカムは28日死亡率であり,800例の登録を予定している.登録基準として,PT INR>1.4に重きを置いている.

■気になるのはDICの診断基準である.PhaseⅡ・ⅢともにD-dimarすら用いておらず,DICというよりは凝固障害に対する治療であるため,この結果がそのまま本邦のDIC治療に結びつくのかは疑問が残る.ただし,PhaseⅡの解析におけるPT INR>1.4での有効性は興味深い.

[1] Saito H, Maruyama I, Shimazaki S, et al. Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravscular coagulation:results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 2007; 5: 31-41
[2] Marti-Carvajal A, Salanti G, Cardona AF. Human recombinant activated protein C for severe sepsis. Cochrane Datebase Syst Rev 2008; 1: CD004388
[3] Ranieri VM, Thompson BT, Barie PS, et al. Drotrecogin alfa (activated) in adults with septic shock. N Engl J Med 2012; 366: 2055-64
[4] Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recommbinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med 2001; 344: 699.
[5] Casserly B, Gerlach H, Phillips GS, et al. Evaluating the use of recombinant human activated protein C in adult severe sepsis: results of the Surviving Sepsis Campaign. Crit Care Med 2012; 40: 1417-26
by DrMagicianEARL | 2012-06-18 23:25 | 敗血症性DIC

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