【症例】芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例
■漢方薬の間質性肺炎といえば小柴胡湯が有名であり,1989年の築山らの報告を皮切りによく報告されている.漢方薬で薬剤性間質性肺炎を起こした報告があるものは30種類あり,特によく処方される葛根湯,半夏瀉心湯,小青竜湯,麦門冬湯,補中益気湯,六君子湯,十全大補湯,芍薬甘草湯,牛車腎気丸,柴苓湯なども例外ではない.
症例.芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例
【症例】70歳代女性
【主訴】呼吸困難
【現病歴】1年前に一過性の咳嗽発作があり,β刺激吸入薬を処方されてから下肢の筋クランプが出現し,芍薬甘草湯3包/日を定期処方された.その後から近医での血液検査で肝酵素,CPK,LDH上昇,カリウムの低下が出現している.3ヶ月前から夜間呼吸困難,咳嗽を何度か自覚していた.1週間前より同様の症状が出現し,胸部X線で異常陰影を認め,肺炎疑いで当院紹介となった.
【来院時所見】体温36.5℃.脈拍69/分,整.血圧150/71 mmHg.呼吸数21回/分.意識清明.SpO2 96%(経鼻酸素1L/分).両側肺に軽度のfine cracklesを聴取.
芍薬甘草湯を中止し,カリウム製剤を投与開始したが,低K血症の改善が得られないため,カリウム製剤を中止し,第4病日よりK保持性利尿薬(スピロノラクトン®)を投与開始したところ速やかに是正された.その他,肝酵素,CPK,LDHも速やかに改善した.間質性肺炎像も消退傾向となり,軽快につき第17病日に退院となった.
本症例はβ刺激薬吸入により低K血症から筋クランプが出現し,それに対する芍薬甘草湯の長期投与で偽性アルドステロン症を発症して低K血症増悪したものと推察された.
横紋筋融解症(ミオパシー),肝機能障害も添付文書に記載されている重大な副作用に合致する.本薬剤中止により間質性肺炎も速やかに改善していることから本薬剤が原因と考えられた.
糖質コルチコイド系においてcortisolからcortisoneへの変換酵素である11-β-hydroxysteroid dehydrogenase type2を甘草が阻害することによりcortisolが蓄積し,aldosterone receptorに結合することでアルドステロン作用を発現する.negative feedbackによりレニン,アルドステロンは抑制される.これが甘草による偽性アルドステロン症の機序である.漢方による副作用では甘草2.5g/日以上の常用で偽性アルドステロン症が出現しやすく,芍薬甘草湯はとりわけ甘草の含有量が多いため,定期内服ではなく,短期間投与もしくは頓服での処方が推奨されている.偽性アルドステロン症による低K血症に対してはカリウム製剤が有効であるが,尿細管でのK再吸収抑制が遷延している場合は難治性であり,K保持性利尿薬が推奨される.
漢方による薬剤性肺障害は30種類で報告がある.芍薬甘草湯では本症例を併せて4例の報告があり,添付文書改訂の際に副作用に記載される予定である.抗菌薬やNSAIDs,総合感冒薬などによる薬剤性肺障害は投与後平均10日前後で発症するのに対し,漢方は平均43日と有意に長いことが報告されている.
【結 語】
芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例を経験した.漢方投与開始から日数が経過していても,低K血症や間質性肺炎などと認めたときは薬剤服用を見直す必要がある.