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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

院内抗菌薬適正使用ガイドライン「抗菌薬の継続・変更・中止」

当院の抗菌薬適正使用ガイドライン(2012年5月発表)
各項目についてのガイドラインに記載した解説文はこのブログでは省略(抗菌薬の基本原則にだいたいの内容は記載している).ここではなぜこの項目にしたのかについてのみ下に記載した.

第4章.抗菌薬の継続・変更・中止
1.抗菌薬有効性の判断
1-1.抗菌薬有効性の判断はその感染症の一般的回復過程を考慮した上で,抗菌薬投与開始後しかるべき時期に行う.

1-2.白血球数やCRP,発熱などのパラメータだけでなく,臓器特異的パラメータや感染症毎の病態,感染部位の状態,患者の免疫状態,細菌学的検査追跡なども十分考慮して抗菌薬の有効性評価を臨床的総合判断で行う.
 抗菌薬療法の開始時や最初の有効性評価のときには,抗菌薬の有効性評価のための指標(熱型,酸素飽和度,尿検査所見など)をあらかじめいくつか設定しておく.その際,体温や白血球数,CRPは特異度が低く,参考にはなるものの直接病勢を表さないことは感染症診療では常識である.

 体温は血中ホルモン動態や放散熱の影響なども受けるため,その上昇と増悪が1対1対応になるとは限らないし,状態が悪いときは発熱がなくなることもある.白血球も好中球の消費が生じればたとえ高値でなくとも重症であることはしばしば経験され,その正常化は重症敗血症に進展している可能性もある.CRPはリアルタイムの病勢を表さず,24時間遅れた病勢を表し,肝機能障害があればCRP産生能そのものが低下する.

 解説では各臓器ごとの特異的指標となる項目の表も提示している.
2.抗菌薬無効時の判断
2-1.感染症であるかどうかを判断する.

2-2.抗菌薬のスペクトラム,移行性の認識,用法・用量,投与ルート,投与間隔などに誤りがないか確認する.

2-3.抗菌薬無効の感染症(ウイルス感染症など)でないか判断する.

2-4.複数菌感染症でないか確認する.

2-5.細胞内増殖菌による感染症でないか確認する.

2-6.真菌感染症,結核の合併がないか確認する.

2-7.起因菌が耐性化していないか確認する.

2-8.菌交代現象に伴う耐性菌感染でないか確認する.

2-9.排膿ドレナージ,異物除去の必要性を確認する.

2-10.宿主防御能が低下していないか確認する.
 ICTが介入となることが多いのはこの項目といえる.感染症の評価が甘く,状態がよくなっていないのに同一抗菌薬を投与し続けるという無意味なことを行ったり,原因菌や感染巣の再検索を行わずに広域抗菌薬に変更したりなどして迷宮入りしてしまう医師は多い.とりわけよく忘れられがちなのがウイルス,真菌,結核,Clostridium difficile,薬剤熱,腫瘍熱,末梢点滴刺入部の蜂窩織炎などである.

 感染が持続すると,感染部位の膿瘍化やバイオフィルム形成など,十分な濃度の抗菌薬が菌に到達できず抗菌作用が得られない状況になる場合がある.このような状況では,排膿ドレナージなどの外科的処置や,感染源となっているカテーテルの抜去などメディカルデバイスの除去を行うことが状態の改善につながることが少なくない.
3.抗菌薬のde-escalation
3-1.原因菌が同定され,初期治療の反応が良好であれば,臨床効果が期待できる狭域の薬剤を用いた標的治療へ可及的に変更する(de-escalation).
 de-escalation療法が通常の広域抗菌薬のまま治療し続けるよりも耐性菌発生率が少ないというのはあくまでも理論上の話であり,実際にエビデンスが構築されているわけではなく,直接の有効性を評価したRCTは存在しない.しかしながら,de-escalationが安全に行え,耐性菌発生率・再発率・死亡率を高めないとするコホート研究は存在する.

 de-escalationで注意すべきは,とりあえず狭域にすればいいというわけではないということである.よって,de-escalationを行う場合は以下のことに注意する.
 ① 経験的治療開始前に細菌検査(培養)が行われている.
 ② 臨床的に改善傾向を認めている.
 ③ 他の感染巣が否定できる.
 ④ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.

 起因菌と抗菌薬感受性判明後は可及的早期に,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,標的臓器に到達しうる狭域/単剤の薬剤へと変更した標的治療を施行する.この際,感受性に関しては各施設のantibiogramを参照とすることを忘れてはならない.
4.抗菌薬の投与期間・終了・中止
4-1.経過が良好で,抗菌薬を投与しなくても感染症が治癒すると判断した時,抗菌薬を終了する.その際,バイタルサインの安定化や感染を起こした臓器機能の改善などを考慮し,臨床的な総合判断で行う.

4-2.代表的な感染症では標準的治療期間を参考に治療期間を決定する.

4-3.感染症でないと判断した時,抗菌薬を終了する.

4-4.微生物学的検査や免疫学的検査などで起因菌が決定されず,臨床的に細菌感染症と診断できないとき,抗菌薬を終了する.

4-5.予防的抗菌薬の適応でなくなった時,抗菌薬を終了する.

4-6.薬剤性の発熱,アレルギーなどの副作用が出現したとき,抗菌薬を中止する.
 抗菌薬の効果判定と同じく,臓器特異的指標を主に参考として,抗菌薬の終了を決定することが望ましい.その上で代表的な標準的治療期間はよい目安となる.抗菌薬の投与を終了するタイミングや推奨される抗菌薬投与期間で代表的なものを解説では表として提示している.

 抗菌薬の長期投与により耐性菌リスクが生じやすくなることが多くの研究で報告されているが,どれほどの期間でどれだけ耐性菌リスクが増加するかについての報告は少ない.人工呼吸器関連肺炎における抗菌薬の8日間投与と15日間投与の比較では,死亡率,肺炎再燃率に有意差はないが,耐性菌出現率は15日間投与群が有意に高かったという報告がある.また,2012年8月現在はまだ論文化されていないが,日本感染症学会をはじめとする3学会合同調査では,抗菌薬の14日間を超える投与は耐性菌が増加することが示されているとのことである.

■本章で引用した文献数14

←院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第3章.初期抗菌薬の選択(2)」
→院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第5章.抗菌薬の副作用・薬物相互作用」

by DrMagicianEARL | 2012-08-13 20:17

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