第3回感染防止対策会議+α
■とある地区において加算1の感染対策専従看護師が夜勤を行っていることが発覚し,加算1が剥奪され,その下についていた加算2の病院もすべて感染防止対策加算が剥奪されるという事例が発生したとのこと.1つの病院がルール違反を行えば他の病院も巻き添えをくらうことが実例として明らかになった.厚生労働省が想定した以上にはるかに多くの病院が感染防止対策加算を取りに来ていることから,予算の関係もあり,わずかなルール違反であっても加算剥奪を躊躇なく行ってくると考えられる.
■ICTラウンドは以下の5種類
(1) 血液培養陽性例,耐性菌検出時
(2) 抗菌薬適正使用
(3) 感染症診療(コンサルテーション)
(4) 環境感染ラウンド
(5) リンクナース,リンクドクター等の現場責任者によるチェックラウンド
■環境感染ラウンドは多くの病院では看護師主体であり,医師がかかわることが少ないが,何度かは参加しておくべきである.概して医師の環境感染に関する知識は少ない.環境感染ラウンドで重要なのは写真撮影であり,必須とすべきである.また,環境感染ラウンドでは清掃委託業者と一緒にラウンドすることが望ましい.
■環境調査(環境培養)は以下の場合で行われる.
(1) アウトブレイク時
(2) アウトブレイク疑い時
① 特定の菌の検出
② 普段遭遇しない菌の検出
③ 耐性菌が継続的に検出
(3) ベースライン把握時
CDC環境感染対策ガイドライン[1]ではベースライン把握のための環境調査は推奨されていないが,ケースバイケースで行うべきかもしれない.
■本邦では,MDRAB(多剤耐性アシネトバクター),MDRP(多剤耐性緑膿菌)などの多剤耐性菌のほとんどは抗菌薬暴露による適応耐性であり,メタロβラクタマーゼ産生菌は極めて稀であり[2,3],MDRAB・MDRPのうちせいぜい0.3%程度である.
■病院建て替えの時はICTが必ず設計チェックを行うべきである.環境感染対策を無視したとんでもない設計が行われいたりすることはよくある.また,新病院建設時はアスペルギルスに注意が必要である.
■各病院でのスポンジの使用状況について,感染防止対策会議やICDアカデミーのパネルディスカッションで話題に上がった.「スポンジは緑膿菌の塊と思え」が最近の警鐘である.スポンジは内部の洗浄・乾燥が難しく,緑膿菌,アシネトバクターなどのグラム陰性菌が増殖しやすい環境である.また一度増殖した緑膿菌はバイオフィルムを形成するため,乾燥に対しても抵抗性を示す.実際に,このようなスポンジの微生物汚染について調べたところ,高頻度に緑膿菌で汚染されていたとの報告[4]があるため注意が必要である.この報告では,85%のスポンジに細菌の定着を認め,また,そのうち31.4%は緑膿菌であった.また,緑膿菌汚染を受けていたスポンジを2日間室温放置して乾燥させ,その後スポンジに付着した緑膿菌の生菌数を調べたところ,2日間室温放置して乾燥させたスポンジではすべて緑膿菌が生存していた.また,いくつかは2ヶ月間にわたって緑膿菌が生存していた.
■スポンジの使用後は70-80℃10分間などの熱水消毒,または洗浄後,0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ヤクラックスD液1%など)に30分以上浸漬し消毒し,十分乾燥させる必要がある.ただし,一度汚染されると乾燥させても清潔にはならないので,長期間の使用は避け,できるだけ早く廃棄することが望ましい.スポンジ交換頻度は数日から2週間と病院によって様々である.東京女子医大では業者と交渉し,1個15円のスポンジを仕入れ,1回きりの使い捨てとしているとのことであった.スポンジはなくしていく方向に向かうべきものなのかもしれない.使い回しするスポンジの使用は避け,クロスなどディスポーザブルの清拭用具を用いることが望ましい.
■感染対策上,自動蓄尿器を使ってはならない.過去に東京大学で自動蓄尿器によって緑膿菌のアウトブレイクがあった.
■消化器内視鏡は非常に感染対策がよくなった.その一方,どの病院でも問題になっているのが部署持ちの内視鏡である.特に耳鼻咽喉科の内視鏡の感染対策は不透明なケースが多い.
■自動蓄尿器は使用すべきではない.すでに自動蓄尿器による緑膿菌のアウトブレイクが国内で報告されている.極力ディスポーザブルなものをマニュアルで使用すべきである.
■水道の配管内に滞留している水にレジオネラが増殖することがある.このため,出し始めの水は使用せず,ある程度流してから使用すべきである.
[1] Sehulster L, Chinn RY; CDC; HICPAC. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). MMWR recomm rep 2003; 52: 1-42
[2] Niki Y, Hanaki H, Matsumoto T, et al. Nationwide surveillance of bacterial respiratory pathogens conducted by the Japanese Society of Chemotherapy in 2008: general view of the pathogens' antibacterial susceptibility. J Infect Chemother 2011; 17: 510-23
[3] Ishikawa K, Matsumoto T, Yasuda M, et al.The nationwide study of bacterial pathogens associated with urinary tract infections conducted by the Japanese Society of Chemotherapy. J Infect Chemother 2011; 17: 126
[4] Oie S, Kamiya A. Contamination and survival of Pseudomonas aeruginosa in hospital used sponges.Microbios 2001; 105: 175-81