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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

入院時EAAで評価したLPSへの反応の最大化学発光濃度は敗血症患者の死亡を予測する

■大阪府総合医療センターの木口先生からの報告を紹介します.
入院時EAAで評価したLPSへの反応の最大化学発光値は敗血症患者の死亡を予測する
Kiguchi T, Nakamori Y, Yamakawa K, et al. Maximal chemiluminescent intensity in response to lipopolysaccharide assessed by endotoxin activity assay on admission day predicts mortality in patients with sepsis. Crit Care Med 2013; 41: 1443-9
PMID:23474675

Abstract

【目 的】
敗血症は重篤疾患患者の死因となっている.しかしながら,敗血症患者の死亡を予測する適当なバイオマーカーがいくつか存在する.我々はEAA(Endotoxin Activity Assay)により評価したLPSへの反応の最大化学発光値に焦点をあて,敗血症患者の死亡予測マーカーとして入院時最大化学発光値を評価した.(注:原文ではpreliminary studyと述べています)

【方 法】デザインは前向き観察研究,研究の場はICUとした.患者は敗血症患者132例を対象とした.特に介入は行っていない.入院から12時間以内に全血検体を採取し,EAAによる数値を各患者ごとに計測した.疾患の重症度はAPACHEⅡスコアとSOFAスコアで同時に評価した.一次評価項目は28日死亡率とした.

【結 果】
115例が生存し,17例が死亡した.最大化学発光値は生存患者よりも非生存患者の方が有意に低かった(p<0.05).我々は,28日死亡予測マーカーとしての最大化学発光値,APACHEⅡスコア,SOFAスコアを検討した.受信者動作特性曲線(ROC)解析では,最大化学発光値での曲線下面積(AUC)は0.902であり,APACHEⅡスコアのAUC 0.836,SOFAスコアのAUC 0.807よりも優れていた.化学発光値の最適なカットオフ値として21000RLU/sと設定すると,28日死亡予測感度は82.4%,特異度は92.2%であった.Kaplan-Meier解析では,低い化学発光値(<21000RLU/s)の患者は高い患者(>21000RLU/s)と比較して全生存率が低かった(p<0.001, log-rank検定).Cox回帰解析でAPACHEⅡスコアで調整後でも,最大化学発光値は28日死亡率の独立した予測因子であった.

【結 論】
入院日の最大化学発光値計測は敗血症患者の死亡率の高い予測能を有していた.

■私はこの報告を2013年7月26日に開催された第3回関西Sepsis研究会一般演題(大阪府総合医療センター木口先生)で聴講した.実は,このちょうど1週間後の8月2日に開催されたDIC UPDATE in OSAKAの特別講演で遠藤格先生(横浜市立大学消化器・腫瘍外科学教授)も自施設データで最大化学発光値の解析結果を報告されたが,上記報告のようなきれいな結果は得られていなかった.

■まずエンドトキシン測定法について知っておく必要がある.本邦のエンドトキシン測定法は,現在は比濁時間分析法[1]がまだ主流を占めている状態にある.この分析法は,検体溶液のゲル化反応(リムルス反応)を透過する光量値を計測し,エンドトキシン濃度を測定するものである.3.5-5pg/mLをカットオフ値とすると,グラム陰性菌が血液から検出された菌血症の患者を診断において感度50%未満である[2].そこで,感度を改良するため,60分だった測定時間を200分にまで延長させると感度が改善し,カットオフ値を1.1pg/mLまで下げることが可能であった.このときのグラム陰性菌感染症診断での感度は81.3%,特異度は86.1%となったとしている[2].ただし,この検査法は,あくまでもエンドトキシン濃度を直接計測しているのではなく,リムルス活性をみたものであるため,リムルス活性が血中に見られなかったからといってエンドトキシン濃度が高くないと断定することはできないことに注意が必要である.

■その後登場したのがEAA(Endotoxin Activity Assay)である.血中のエンドトキシンと試薬中のマウス抗エンドトキシンモノクロナル抗体(IgM)が免疫複合体を形成し,ここに補体が結合してオプソニン化され,好中球の補体レセプター(CR1,CR3)を介して好中球に貪食されることで好中球はプライミングを受ける[3].このプライミングにより好中球が活性酸素を産生が生じる.この活性酸素がルミノール試薬を発光させるため,この化学発光濃度をルミノメーターで計測するという原理である.なお,試薬に含まれるザイモザンも好中球に取り込まれ,活性酸素の産生を増強する.

■EAAでのエンドトキシンレベル算出は3種類の検体から得られたデータにより算出される.
(1) Tube 1:コントロール
検体中の好中球のみで抗エンドトキシン抗体なし.
ベースライン.

(2) Tube 2:検体
検体中の好中球+抗エンドトキシン抗体.
検体中のエンドトキシン活性を計測する.

(3) Tube 3:マックスキャリブレーター
検体中の好中球+抗エンドトキシン抗体+過剰のエンドトキシン(大腸菌O-55:B5)
被験者の好中球が示す最大活性酸素産生反応を測定する.

EA値=(T2-T1)/(T3-T1) (0-1.0)
low EAAレベル:0.00-0.39
mid EAAレベル:0.40-0.59
high EAAレベル:0.60-1.00

1検体をn=2で測定し,その平均値を採用.n=2の測定に対する変動係数(CV値)はEA値が0.0-0.2では30%以下,0.21-1.0では15%以下である必要がある.
 ■Marchallらは重症患者74例でEAAと比濁時間分析法を施行し,EAAが優れていることを報告している[4].さらにMarchallらは,857例のICU入室患者を対象にEAAの測定を行った(MEDIC study)[5]ところ,ICU入室患者の57.2%がmid-high EAAレベルであり,グラム陰性菌感染はlow EAAレベル患者の1.4%,mid EAAレベル患者の4.9%,high EAAレベル患者の6.9%であり,グラム陰性菌感染の感度85.3%,特異度44.0%と報告された.また,重症敗血症への危険性について検討した結果では,low EAAレベル患者で4.9%,mid EAA患者で9.2%,high EAA患者で13.4%であった.このように,EAAは重症度や死亡率予測には有用であるが,エンドトキシンに対する特異度は低いといわざるを得ない.本邦ではMaruyamaらがICU患者40例においてコントロール群,SIRS群,sepsis群,severe sepsis群,septic shock群に分けてEAAを施行しており,EAAレベルが増加すると重症度も高まる傾向がみられた[6]

※もっとも,この手法ではマックスキャリブレーションとコントロールの化学発光度の差を使用するのは妥当かという疑問がある.T2のベースラインはT1でよいが,過剰エンドトキシンを加えたT3のベースラインは本当にT1でよいのだろうか?

■ここで紹介した木口先生の報告では,生存群(115例)と非生存群(17例)の背景因子として,年齢,男性率,感染巣,起因菌,CRP値,EA値には有意差がみられなかった.一方,敗血症カテゴリーでは,非生存群は敗血症性ショックが94.1%を占め,有意に多い結果となった.また,APACHEⅡスコア,SOFAスコアは非生存群で有意に高く,白血球数は非生存群で有意に低かった

■この報告では,最大化学発光(maximal chemiluminescent intensity)をCI maxと名づけている.CI maxは生存群で112769(47948-204937),非生存群で7094(3471-11731)であり,有意に非生存群で低い結果となった(p<0.001).

■ROC解析では,AbstractではCI max,APACHEⅡスコア,SOFAスコアのAUROCが提示されていたが,原文では白血球数,EA値についても解析が行われていた.その結果を以下に示す(一部順序を変えている).
入院時EAAで評価したLPSへの反応の最大化学発光濃度は敗血症患者の死亡を予測する_e0255123_15133281.png
これを見て分かる通り,死亡予測としてのCI maxの精度は確かに高いが,気になるのは白血球数であろう.CI maxほどではないがかなり精度がよい.これは,背景因子比較で生存群と非生存群で白血球数に大きく開きがあり(標準偏差域すら重なっていない),非生存群ではむしろ好中球減少傾向があったことを考えれば納得がいく.問題はCI maxへの白血球数の影響である.

■CI maxは検体内の白血球全体の活性化能を見ている.すなわち,「1個あたりの白血球の活性化能×白血球数」を見ていることになり,白血球数の影響は理論上は無視できず,白血球数が少ないことによるlimitationは本報告の考察でも触れられている(非生存者17例中10例は白血球数が4000未満).これを考えれば,横浜市立大学の遠藤先生の検討ではCI maxの精度が低くなってしまった理由も納得がいく.

■多変量Cox回帰解析では年齢,性別,APACHE-Ⅱスコア,SOFAスコア,WBC,EA値,敗血症カテゴリー,CI maxの8変数から変数選択のアプローチによりCI max,APACHEⅡスコア,敗血症カテゴリの3変数まで絞りこんでいる(n=155であり,変数選択を行うため,n数の1/40以下の変数の数にする必要があるため,3変数が限界).すなわち,この変数選択アプローチの間にWBCが脱落したことになるが,サンプルサイズが小さいことによる限界と推察される.

■また,本報告の考察では,好中球の酸化バースト能の抑制についても言及している.

■以上から,2つの疑問が生まれる.
(1) 白血球数が上昇(少なくともSIRS基準の12000以上)している敗血症性ショック例における生存群と非生存群でのCI maxを比較した場合,どれだけの差があるのか?
(2) 好中球数で補正したEAAによるCI maxは検討できないか?

■ではもし仮に,(1)の条件下でもCI maxが死亡を予測する優れたマーカーであることが示されたならば,白血球の活性をどのようにとらえるべきか?一般的に白血球活性化は敗血症の増悪因子と考えられているが[7],CI maxが低いことが死亡に関連するのであれば,白血球の活性化能が低くても予後は悪化するということになる.この場合,活性化好中球を吸着しうるPMX-DHPはどう評価すべきであろうか?

■似たような報告に記憶があった.Madoiwaら[8]は,好中球エラスターゼによりフィブリンが切断され,分子表面上に露呈する部位をE-XDPとして好中球エラスターゼ濃度のサロゲートマーカーとして計測したところ,E-XDPが正常より高いと予後は悪化するが,正常より低い場合ではさらに予後が悪化していた.好中球活性は予後に関連しうるが,高くても低くてもだめということだが,どの程度までが閾値となるのかはまだ不明である(だからSTRIVE studyではエラスポール®で180日死亡率が悪化した?).より精度の高い好中球活性能評価法が必要であると思われる.

[1] Oishi H, Takaoka A, Hatayama Y, et al. Automated limulus amebocyte lysate (LAL) test for endotoxin analysis using a new Toxinometer ET-201. J Parenter Sci Technol 1985; 39: 194-9
[2] 八重樫泰法,稲田捷也,佐藤信博,他.血漿高感度エンドトキシン測定法について.エンドトキシン救命治療研究会誌 2003; 7:25-8
[3] Romaschin AD, Harris DM, Ribeiro MB, et al. A rapid assay of endotoxin in whole blood using autologous neutrophil dependent chemiluminescence. J Immunol Method 1998; 212: 169-85
[4] Marshall JC, Walker PM, Foster DM, et al. Measurement of endotoxin activity in critically ill patients using whole blood neutrophil dependent chemiluminescence.
Crit Care 2002; 6: 342-8
[5] Marshall JC, Foster D, Vincent JL, et al. Diagnostic and prognostic implications of endotoxemia in critical illness: results of the MEDIC study. J Infect Dis 2004; 190: 527-34
[6] maruyama H, Kakihana Y, Oryoji T, et al. Newly developed endotoxin measurement method (endotoxin activity assay) may reflect the severity of sepsis. Crit Care 2009; 13(suppl1): S155
[7] Tennenberg SD, Solomkin JS. Neutrophil activation in sepsis. The relationship between fmet-leu-phe receptor mobilization and oxidative activity. Arch Surg 1988; 123: 171-5
[8] Madoiwa S, Tanaka H, Nagahama Y, et al. Degradation of cross-linked fibrin by leukocyte elastase as alternative pathway for plasmin-mediated fibrinolysis in sepsis-induced disseminated intravascular coagulation. Thromb Res 2011; 127: 349-355
by DrMagicianEARL | 2013-08-12 00:00 | 敗血症

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