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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【雑感】2013年を振り返って,2014年にむけて

■今年は(よっぽど面白い文献が残り数日ででてこない限り)この記事が最後のアップになります.

■今年もいろんな論文が発表されました.腹臥位療法の有用性を示したPROSEVA study[1],低体温療法の有用性が否定されたTTM study[2],集中治療医有無でのICU治療成績の差を示したWilcoxらのシステマティックレビュー[3],敗血症性ショックに対するエスモロールのPhase II study[4],抗菌薬投与患者へのルーチンのprobiotics投与に疑問を投げかけたPLACIDE study[5],重症疾患患者におけるグルタミンと抗酸化物質が無効であることを示したREDOXS Study[6],救急隊による病院到着前のアドレナリン投与に疑問を投げかけた日本からのNakaharaらの報告[7]が特に印象的でした.ニュースとしては,中国で発生した鳥インフルエンザウイルスA/H7N9,新型インフルエンザ等感染症特別措置法施行,イレッサ訴訟,ディオバン論文不正問題などでしょうか.

■このブログについて主旨等を書いたことがなかったので,2013年を振り返りながら.本ブログは,最初は倉原先生の人気ブログ「呼吸器内科医」のように文献要約をアップしていこうかと思っていましたが,いろいろな意図もあって,レビュー形式で,私の院内の取り組みとパラレルに記事を書いています.イメージとしては,敗血症のUp-to-Dateのつもりで,新しい記事を書くと同時に古い記事は適宜新しいエビデンスがでたら更新していくスタイルをとっています.それも日本語で,医師のみならず他の医療スタッフにも知っていただきたいエビデンスをできる限り文献引用をつけてこのブログから情報発信し,知識共有できればと考えています.敗血症レビューが蘇生バンドルに始まり,最近ようやく疼痛不穏せん妄のレビューにまできましたが,これは私自身の勉強・取り組みをリアルタイムに表しています.

■私は卒後臨床研修医から今の病院に勤務しておりますが,最初は循環器内科希望でした.それがHIV感染症の患者(ニューモシスチス肺炎)を担当してから感染症に興味を持ち呼吸器内科希望に方針を転換しました(当院呼吸器内科は肺癌をあまり担当することはなく,肺炎がほとんどという急性期に特化した特殊な呼吸器内科でした).その後2011年になって名古屋大学救急集中治療医学分野教授の松田直之先生の講演を聴講して敗血症に興味を持ち始め,院内の敗血症診療の改善に取り組み始めました.院内ガイドラインを作成した後,最初は研修医やスタッフがいつでもどこでもインターネット上で見れるようにと本ブログで敗血症診療のレビュー記事を2011年秋からスタートしました.現在では1日1200人程度の閲覧数があり,おかげさまで研究会やメールで「ブログ見てますよ」とお声をいただいたり,ブログ経由で講演会依頼もいただいたり,書籍の分担執筆依頼もいただくようになりました.今後もより多くの敗血症・肺炎関連のレビューを発信していきたいと思います.

■さて,2013年はSurviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[8]と日本版敗血症診療ガイドライン[9]が発表された,敗血症診療において大きなイベントの年でした.SSCGにより敗血症診療がここまで進歩したこと,日本語でガイドラインが発表されたことは非常に有意義なことであると同時に,なぜこのようなガイドラインになったのかと疑問に思うことも事実です.World Sepsis Alliance(世界敗血症同盟)が2012年9月13日に世界敗血症宣言[10]をだし,偶然にも東京オリンピックと同じ2020年までに達成すべき項目を提示しました.残念ながら現在のガイドラインはSSCGも日本版も世界敗血症宣言で提示された目標をカバーできていません.公衆衛生による感染症予防に始まり,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)[11,12]などの長期的ケアに至るまで,敗血症診療でカバーすべき範囲は広いにもかかわらず,ガイドラインが示すのはICUの中の診療だけです.敗血症診療を三次救急施設ICUのみで作られたエビデンスだけで語る時代はもう終わりにすべきでしょう.同時に救急集中治療医がいない病院でも通用する敗血症診療のエビデンスを救急集中治療医でない医師が作っていく必要があると思います.おそらく2020年までにSSCGも日本版もあと2回の改訂が行われるのではないかと予想されます(できれば日本版改訂の際の委員会メンバーに入ってみたいと思ってはいますが,まあ私のキャリアでは無理でしょう).

■私は敗血症診療と同時に超高齢者肺炎もメインに診療しています.肺炎については日本呼吸器学会のガイドラインがでていますが,臨床現場とガイドライン作成者の間の認識のズレを感じずにはいられません.ガイドラインが示したのは細菌学的理論と抗菌薬の推奨のみにとどまっていて,その抗菌薬の推奨ですら臨床現場の感覚と異なるものでした.2013年10月に行われた第13回呼吸器感染症フォーラムで,ようやくガイドラインの方針にメスが入りましたが,このフォーラムで議論された内容を現場の医師はとっくに気がついていたと思います.おそらくパブリックコメントでも指摘があったはずです.ガイドライン作成をした大学教授陣と臨床現場の医師の距離が縮まるのに何年かかったのでしょうか.

■抗菌薬の選択は超高齢者肺炎患者の予後に影響を与えません[13-15].しかしながら,ガイドラインが示す耐性菌リスクによる分類は過大評価になってしまい,広域抗菌薬使用増加につながっています.慢性心不全,嚥下機能障害,認知症,骨格筋の廃用,といった様々な背景が超高齢者肺炎のベースにあり,高齢者肺炎は感染症のみで語れる疾患ではなく,様々な疾患を合併した症候群であり,実際に難渋するのは肺炎治療ではなくfrailtyあるいはpost-frailty(後者は私の造語です)という状態です.

■加えて,病院への入院そのものが基礎疾患の悪化を招き,QOLを著しく低下させている要因になっており[16],海外にはDNARならぬDNH(Do Not Hospitalization:入院しない意思表明)という意思表示が法的に定められているくらいです.院外心肺停止患者へのアドレナリン投与は心拍再開率を上げるが神経学的予後は変わらず,意識障害患者をいたずらにつくりだしているのではないかという論文[7]が最近でましたが,実は高齢者肺炎診療ですでにそのようなことが起きていて(肺炎治療で寝たきり老人をつくってしまう),入院自体が大きな侵襲となってしまっているという事実が急性期病院につきまとうジレンマとなっています.肺炎患者をリハビリで機能維持し,できる限り早く退院させる必要がありますが,現実的にはかなり難しい問題となっています.敗血症をはじめとするICU重症患者におけるPICSと同じく,高齢者肺炎ではPost-Hospitalization Syndromeとも呼ぶべき問題があり,日本呼吸器学会,日本感染症学会もそろそろここに強く焦点をあてるべきではないでしょうか.

■ここから私事になりますが,2013年度は私はレジデント最後の年というひとつの区切りとなる医師年数を迎えました(なので医師5年以上というキャリア年数の制限があるため実はまだICDの資格が取れていません).他病院の先生からのお誘いもあって,卒後臨床研修医から御世話になっている当院を今年度で退職して新たな病院で・・・,と考えていたのですが,あとから次々と新しい取り組みを始めてしまい,当院で可能な臨床研究ネタも尽きたと思っていたらまだまだ探せばでてくる,感染対策加算もようやく加算1を取得する,ということでとりあえずもう1年残ることにしました(ちなみに私はどこの大学医局にも属していません).

■完全主治医制の当院において,敗血症診療について私1人が実践するだけではダメで,院内全体の治療成績を挙げる上でガイドラインをつくり,システム自体を変える必要がありますが,他の医師との様々な信念対立にぶつかり,改革がいかに難しいかを思い知りました.それでもなんとか改革は前に進んでおり,一定の成果をだすに至った,2013年はそんな年でした.次なるステップとして,ガイドライン/プロトコルのみならず,本格的に治療介入に入るシステム作りに移行しています.

■当院ではICT,NST,RST,その他ICU管理を網羅した多職種集学的な週3回の回診チームであるICST(Intensive Care Support Team:集中治療サポートチーム)を導入し,低侵襲かつ有効な急性期治療介入を推進するとともに,TAPERing projectと名づけた回復期のサポートプロトコル/クリニカルパスも導入し,入院から退院後ケアまでの円滑な流れができるよう取り組みを開始しました.2014年はこれらの取り組みをより推進し,評価を行い,エビデンスを作っていくことが大きな目標となっています.詳しい内容は決定していませんが,2014年7月の日本呼吸療法医学会学術総会の多職種連携をテーマとしたシンポジウムで講演の機会をいただいたので,これらの取り組みを発表しようと考えています.また,来年4月に刊行予定のINTENSIVIST誌に当院ICSTについてちょっと書かせていただきました.

■長々となってしまいましたが最後に,このブログを続けていくにあたり,面識の有無に関係なく様々な先生方から御指導,御鞭撻を賜り,また,当院における敗血症診療,肺炎診療の実践においても多職種スタッフの後押しと御協力のもとここまでくることができ,非常に充実したレジデント生活を送ることができました.2014年も宜しく御願い申し上げます.

[1] Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al; PROSEVA Study Group. Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2013; 368: 2159-68
[2] Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al; TTM Trial Investigators. Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest. N Engl J Med 2013; 369: 2197-206
[3] Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al. Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med 2013; 41: 2253-74
[4] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
[5] Allen SJ, Wareham K, Wang D, et al. Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet 2013; 382: 1249-57
[6] Heyland D, Muscedere J, Wischmeyer PE, et al; Canadian Critical Care Trials Group. A randomized trial of glutamine and antioxidants in critically ill patients. N Engl J Med 2013; 368:1489-97
[7] Nakahara S, Tomio J, Takahashi H, et al. Evaluation of pre-hospital administration of adrenaline (epinephrine) by emergency medical services for patients with out of hospital cardiac arrest in Japan: controlled propensity matched retrospective cohort study. BMJ 2013; 347: f6829
[8] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637
[9] 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本版敗血症診療ガイドライン.日集中医誌 2013; 20: 124-73
[10] DrMagicianEARL. 敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言. EARLの医学ノート 2013 Sep.9 http://drmagician.exblog.jp/18901899/
[11] Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med 2012; 40: 502-9
[12] DrMagicianEARL. 敗血症と長期予後,PICS(Post Intensive Care Syndrome). EARLの医学ノート 2013 Apr.16 http://drmagician.exblog.jp/20272480/
[13] Attridge RT, Frei CR. Health care-associated pneumonia: an evidence-based review. Am J Med 2011; 124: 689-97
[14] Komiya K, Ishii H, Umeki K, et al. Impact of aspiration pneumonia in patients with community-acquired pneumonia and healthcare-associated pneumonia: a multicenter retrospective cohort study. Respirology 2013; 18: 514-21
[15] Lisboa T, Diaz E, Sa-Borges M, et al. The ventilator-associated pneumonia PIRO score: a tool for predicting ICU mortality and health-care resources use in ventilator-associated pneumonia. Chest 2008; 134: 1208-16
[16] Givens JL, Jones RN, Shaffer ML, et al. Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia. Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7
by DrMagicianEARL | 2013-12-25 16:54

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