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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】ARDSに対する腹臥位療法のメタ解析2報

ARDSに対する腹臥位療法の有用性を大幅な死亡率の改善をもって示したPROSEVA trialが昨年発表されました.そして,先月Critical Care Medicineに,今月Intensive Care Medicineにメタ解析が1つずつ報告されました.それぞれ異なる角度からアプローチしていますので,両方を紹介します.
急性呼吸窮迫症候群における腹臥位換気の有効性と安全性:11報無作為化対照比較試験のメタ解析
Lee JM, Bae W, Lee YJ, et al. The Efficacy and Safety of Prone Positional Ventilation in Acute Respiratory Distress Syndrome: Updated Study-Level Meta-Analysis of 11 Randomized Controlled Trials. Crit Care Med 2013 Dec 23
PMID:24368348

Abstract
【目 的】
急性呼吸窮迫症候群での人工呼吸中の腹臥位の生存有益性が議論されている.最近の多施設共同無作為化比較試験では急性呼吸窮迫症候群の人工呼吸中の腹臥位療法が28日死亡,90日死亡の減少に有意に関連していることが示された.我々はこのトピックにおいてメタ解析の更新を行い,腹臥位の全死亡への有効性と関連合併症を評価した.

【方 法】
2013年5月までのPubMed,EMBASE,BioMed Central,Cochrane Central Register of Controlled Trials,ClinicalTrials.govをデータソースとした.対象は,急性呼吸窮迫症候群の患者における腹臥位と仰臥位の全死亡率を比較した無作為化対照比較試験とした.データは,患者集団,介入,アウトカム,バイアスリスクを抽出した.事前決定した一次評価項目は,各研究で観察可能な最も長い期間を用いた全死亡率とした.95%信頼区間(CI)を用いたオッズ比を効果指標とした.

【結 果】
本解析では11報の無作為化対照比較試験,1142例の腹臥位による換気を行った患者を含む計2246例の成人患者が対象となった.人工呼吸中の腹臥位はランダムエフェクトモデルにおいて全死亡リスクを有意に減少させ(OR 0.77; 95%CI 0.59-0.99; p=0.039; I=33.7%),その効果は腹臥位が短時間のサブグループと比較して10時間/回以上の時間のサブグループにおいて特に顕著であった(OR 0.62; 95%CI 0.48-0.79; p=0.039; p=0.015).腹臥位は圧迫潰瘍(OR 1.49; 95%CI 1.18-1.89; p=0.001; I=0.0%),主要な気道合併症(OR 1.55; 95%CI 1.10-2.17; p=0.012; I=32.7%)と有意に関連していた.

【結 論】
重症急性呼吸窮迫症候群の患者において,腹臥位による人工呼吸換気は全死亡を有意に減少させた.十分な腹臥位の時間は全死亡の減少に有意に関連していた.腹臥位はまた,圧迫潰瘍と主要な気道合併症と有意に関連していた.
低1回換気時代において腹臥位療法は急性呼吸窮迫症候群の死亡率を減少させる:メタ解析
Beitler JR, Shaefi S, Montesi SB, et al. Prone positioning reduces mortality from acute respiratory distress syndrome in the low tidal volume era: a meta-analysis. Intensive Care Med 2014 Jan 17
PMID:24435203

Abstract
【目 的】
ARDSでの腹臥位は臨床的有益性の確たる根拠がないまま数十年行われてきた.最近報告された多施設試験では初めて腹臥位による死亡率の有意な減少が示された.本メタ解析は既存の文献や試験によるこれらの知見を統合し,1回換気量の違いがこれまでの無作為化試験の異なる結果を説明しうるかについて検討した.

【方 法】
研究はMEDLINE,EMBASE,Cochrane Register of Controlled Trials,LILACS,文献レビューを用いて検索した.ARDSにおける標準的人工呼吸換気中の腹臥位と仰臥位の死亡率への影響を比較検討した無作為化試験を登録した.一次評価項目はランダムエフェクトモデルを用いたメタ解析による60日死亡の危険率とした.ベースラインでの1回換気量が高い(>8mL/kg理想体重)か低い(≦8mL/kg理想体重)かでの層別解析を事前に設定した.

【結 果】
2119例の患者(うち1088例が腹臥位療法を受けた)を含む7報の試験が抽出された.全体では,腹臥位療法は死亡の危険率と有意に関連しなかった(RR 0.83; 95%CI 0.68-1.02; p=0.073; I^2=64%).1回換気量が高いか低いかで層別化すると,ベースラインの1回換気量が低い研究においてのみ腹臥位は有意に死亡の危険率を減少させた(RR 0.66; 95%CI 0.50-0.86; p=0.002; I^2=25%).1回換気量による層別化は,非層別化解析において観察された半分以上の研究の間の異質性を説明しえた.

【結 論】
腹臥位は低1回換気時代でのARDSへの死亡の減少に有意に関連していた.研究間での相当な異質性は1回換気量の違いによって説明しえた.
■P/F比<150のARDS患者において腹臥位が死亡リスクを半分以下に減少させたRCTであるPROSEVA study[1]が2012年にNew England Journal of Medicine誌に報告され大きな話題となった.「にわかには信じがたい」「おフランススタディだ」と揶揄する声もあったが,この規模でここまでの結果をだしたことはエビデンスとしては大きな前進といえる.このPROSEVA studyを含めたメタ解析が今回の2つの報告である.

■2つとも死亡率を一次評価項目としており,加えて,LEEらは腹臥位の施行時間によるサブ解析と合併症のメタ解析を,Beitlerらは1回換気量が研究の異質性であるとして,1回換気量によるサブ解析を行っている.全体として言えることは,
①腹臥位療法は重症度の高いARDSで死亡率を改善しうる.
②1回あたりの腹臥位時間が長いほど(10時間以上)死亡率改善効果が得られやすい.
③低1回換気療法を行っていなければ腹臥位療法の有益性は得られにくい.
④合併症としては特に圧迫潰瘍,気道トラブルに注意が必要である.

なお,腹臥位療法は決して簡単な手技ではなく,慣れが必要である.安易に行うのは避けた方がよい.PROSEVA studyおよび腹臥位療法のレビューについては以下を参照されたい.
【文献】腹臥位療法は重症ARDSの予後を改善する(PROSEVA study)
http://drmagician.exblog.jp/20609207/


[1] Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al; the PROSEVA Study Group. Prone Positioning in Severe Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med 2013; 368: 2159-68
by drmagicianearl | 2014-01-21 17:03 | 敗血症性ARDS

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