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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献+レビュー】聴診器の菌汚染は手に匹敵する/聴診器の汚染と消毒レビュー

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■聴診器が汚いことは誰もが認識してると思いますが,じゃあどのくらい汚いのかというところまでは認識されておらず,そこまで院内感染の原因にまではなるまいという認識の医師は多いのではないでしょうか?首にかける,ポケットに入れる等の先生は多いですが,これも汚染されるもとです.私はICUでは原則聴診器は持ち歩かず極力個々の患者専用のものを使用し,一般病棟ではアル綿消毒を使用しています(もちろん手指衛生とセットです).聴診を指導する際には是非聴診器の消毒についても指導してください.

■今回手と聴診器の汚染レベルを比較した報告がでたので以下に紹介するとともに,聴診器と菌汚染に関するレビューを行いました.聴診器と菌汚染については「臨床に直結する感染症診療のエビデンス(文光堂)」にエビデンスレビューがあるのですが,論文が3報しかなかったので,そんなに多くないだろうと思って探してみたらたくさん見つかってまとめるのが大変でした.案外研究されてるんですね.
診察後の聴診器と医師の手の汚染
Longtin Y, Schneider A, Tschopp C, et al. Contamination of stethoscopes and physicians' hands after a physical examination. Mayo Clin Proc 2014; 89: 291-9
PMID:24582188

Abstract
【目 的】
医師の手と聴診器の汚染レベルを比較し,聴診器の使用による微生物の交叉伝播リスクを検討する.

【方 法】
スイスの大学病院で2009年1月1日から2009年5月31日まで83例の入院患者を登録した前向き研究を行った.標準的な診察後に,医師の手袋をしたあるいはしていないきき手の4箇所と,聴診器の2箇所を選択的あるいは非選択的培地にプレスし,489表面の検体を得た.全好気性コロニー数と全メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)CFU数を評価した.

【結 果】
指先,母指球,小指球,手背,聴診器膜部,聴診器チューブの全好気性コロニー数中央値はそれぞれ467,37,34,8,89,18であった.聴診器膜部の汚染レベルは指先の汚染レベルより低かったが(p<0.001),母指球の汚染レベルよりは高かった(p=0.004).聴診器膜部のMRSA汚染レベルは母指球のMRSA汚染レベルより高かった(7CFUs/25cm^2 vs 4CFUs/25cm^2; p=0.004).全好気性コロニー数およびMRSA CFU数の相関解析では,聴診器膜部の汚染レベルは指先の汚染レベルと関連していた(スペアマン順位相関係数 ρ=0.80; p<0.001,ρ=0.76; p<0.001).同様に,聴診器チューブの汚染レベルは,全好気性コロニー数およびMRSA CFU数の指先の汚染レベルの増加に伴い増加した(ρ=0.56; p<0.001, ρ=0.59; p<0.001).

【結 論】
これらの結果から,1回の診察後の聴診器の汚染レベルは相当なものであり,医師のきき手の各部位の汚染に匹敵することが示された.
1.感染対策上の聴診器の心得

■聴診器は医療スタッフが手で触り,かつ患者の体にあてる医療器具であり,消毒もあまりなされないことから菌汚染リスクは高く,手の汚染度に匹敵するとした今回の研究結果は納得がいくものである.患者の体表にあてる膜部は特に菌汚染が生じやすい.一般的に微生物は凹凸面よりも平滑面上の方が長く生存しうることが知られており,実際に,MRSAが聴診器に付着すると,60日後(消毒なし)でも15%の聴診器でMRSAを検出したと報告されている[1]

■聴診器表面に付着した細菌は,菌数を増やしながら細胞外多糖(EPS;extracellular polysaccharide)を産生し,接着がより強固になるとともに新たな菌付着の要因となる.さらにEPSはバリアーや各種物質の運搬経路の役目も果たし,いわゆるバイオフィルムを形成する.バイオフィルムが形成されると,環境変化,化学物質からの抵抗性が増す.このような菌としてブドウ球菌や緑膿菌は特に注意が必要である.

■感染症患者と診療で接触する以上,本来は聴診器は持ち歩くべきではなく,原則として聴診器は個々の患者専用とするのが望ましい(血圧計,体温計も)が,現実的には難しい面もある.このため聴診器を持ち歩くことが回避できないのが実際であり,聴診器の消毒と手指衛生を怠れば院内感染は容易に成立してしまうことを認識しなければならない.なお,ICU,血液内科病棟においては聴診器を個々の患者専用とすることは絶対条件とすべきであろう.

■首に聴診器をかける医師は非常に多いが,これは感染対策上行うべきではない(病院機能評価の際に見つかると評価員に注意されることがある).首は腋窩同様にグラム陽性菌のリザーバーの1つであり,聴診器汚染の原因となる.白衣のポケットに入れる方が無難ではあるが,白衣のポケットも手を入れる場所でもあり埃もたまるため,汚染しているリスクは高いと考えるべきである.

■聴診器を対象とした研究は,RCTはほとんどないものの観察研究等は数多く行われており,そのアウトカムは非常に参考となる.以下に文献のレビューを行った.

2.聴診器はどれだけ汚染されているか?

■聴診器の汚染率を調査した文献はPubMed検索で17報ヒットした[2-18].各研究ごとに培養の行い方が異なるため注意は必要であるが,abstractの記載データ(Free Full Textの場合は原文記載データまで収集)から(なんちゃって)メタ解析(n=2182)も以下に行った.

■聴診器の汚染率は27.5%から100%まで報告によって幅があり,中央値は78.5%であった.データを統合すると,汚染率は72.6%(95%CI 70.2-74.7%; 11研究1119例)であった.

■コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)検出率は27.5%から55%の幅であり,中央値は42.8%,データを統合すると45.5%(95%CI 41.6-49.4%; 4研究616例)であった.

■黄色ブドウ球菌(MRSA含む)検出率は1%から58.7%の幅であり,中央値は22.9%,データを統合すると30.1%(95%CI 27.9-32.4%; 12研究1530例)であった.

■MRSA検出率は0%から32%までの幅であり,中央値は7.3%,データを統合すると7.4%(95%CI 5.8-9.4%; 7研究799例)であった.

■以上から,聴診器が10本あれば,7本に菌汚染があり,5本にCNSが,3本に黄色ブドウ球菌が,1本にMRSAが付着しているというのがだいたいの頻度である.

■職種別では,聴診器汚染率は看護師より医師の方が高いという報告が複数ある[2,3,8,16].また,医学生,研修医,レジデントの聴診器汚染率は9割前後と高く,一方で麻酔科医は42.9%であったと報告されている[5].ここには医師,医学生の手指衛生遵守率の低さも関連していると思われる.

■病棟別では,Shiferawら[5]の報告では,聴診器汚染率はICUで100%,内科病棟で96%,病原菌でみるとICUで68.8%,産科病棟で35.3%であった.Unekeら[12]の報告では,聴診器汚染率は,ICU(66.7%),VIP病棟(50%),産科病棟(37.5%)であった.

■Zachary[19]らは,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の保菌または感染者49例の観察研究を行ったところ,33例(67%)の診察・ケアに用いた手袋・ガウン・聴診器の少なくとも1つからVREを検出した.手袋の汚染率は63%,ガウンは37%,聴診器は31%であった.3つすべてからVREを検出したのは24%であった(多くは人工肛門形成術後または回腸造瘻術後の患者).手袋の汚染がなく,聴診器とガウンが汚染されていたのは1例のみ,また,アルコール消毒後の聴診器ではVRE検出例は1例のみであった.この研究から,手が汚染されなければ聴診器も汚染されることは稀であることが分かり,手指衛生の重要さが分かる.Unekeら[16]の報告でも,手洗いを行ったスタッフの聴診器の汚染率は9%であったのに対し,手洗いを行っていないスタッフでは86%であった.

3.聴診器の消毒は?

■聴診器の消毒はしばしば忘れられる.それゆえ,聴診器の汚染率に関連した論文の中には「あなたの聴診器で何を育てているの?」[20],「聴診器は味方なのか敵なのか?」[13],「Stethoscope or 'Staphoscope'?」[21]というタイトルのものもある.

■Jonesら[3]は,米国市中病院救急部の医療従事者150人の聴診器の消毒とブドウ球菌汚染について調査した前向き横断研究を行い,毎日あるいは毎週聴診器を消毒している医療従事者は48%,毎月は37%,年1回は7%,全く消毒しないのは7%であったと報告している.

■Tangら[6]は,ERスタッフ100名の聴診器を調べた前向き観察コホート研究(EXSSCITED pilot study)を行い,患者の聴診前後で消毒をしていた看護師は全体の8%しかおらず,聴診器を消毒しない理由としては,時間がない,多忙,忘れてしまう,といった理由が最も多かった.

■Merlinら[7]は,ERのスタッフの聴診器50本での前向き観察コホート研究を行い,32%のスタッフは最後にいつ聴診器の消毒をしたのか覚えておらず,最後に消毒した日からの日数とMRSA汚染には関連性が認められた.

■Gennéら[10]は62本の聴診器を調査し,医師の聴診器の消毒頻度は,頻回が32%,稀が46%,全く行わないが22%であったと報告している.この報告では,1日聴診器の消毒を行わないだけで汚染率は0%から69%まで上昇することから,少なくとも1日1回は消毒を行うべきであるとしている.

■Bukharieら[17]は,100本の聴診器を調査し,消毒頻度は毎日が21%,週に1回が47%,年に1回が32%であった.

■Núñezら[18]はERスタッフの聴診器122本の調査では42%が聴診器の消毒が年1回かまったくしない状態であった.

■聴診器の消毒によって菌汚染を減らすことができるとする報告は多く[2-5,7,9,10,16,19,20,22],約9割の汚染率減少効果がある.

■Parmarら[23]は,100本の聴診器において,消毒前群,ただちに66%エチルアルコール消毒する群,消毒しないまま4日経過した群,1日1回の消毒4日後群を比較した二重盲検RCTを行い,ただちに消毒すること,1日1回消毒することは菌汚染の減少に有意に関連しており(それぞれ28%,25%減少),コロニー数が10個未満だった聴診器はそれぞれ75%,84.7%であった(平均減少率5.2%,3.65%)であったことから消毒は有用であると結論づけている.Unekeら[12]は,各ケアごとに70%イソプロピルアルコールによる聴診器の消毒を行う訓練と教育を行うキャンペーンを施行し,前後で聴診器の汚染率を比較した前後比較研究を行ったところ,菌汚染率が78.5%から20.2%に有意に減少したと報告している.

■消毒に何を使うかについて比較検討した研究は3報あり,アルコール製剤が最も菌汚染を減らすとの報告が2報[2,3]であった.もう1報[24]はアルコール製剤どうし(エタノールベースのクレンザーとイソプロピルアルコール綿)を比較したコホート研究であり,2つの消毒法に有意差はなかった.

■なお,聴診器膜部の抗菌カバーは有用でないことが報告されている[25]

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by DrMagicianEARL | 2014-03-12 15:25 | 感染対策

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