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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】ワクチンやそれに含まれるチメロサール,水銀は自閉症と関連しない.メタ解析

 「ワクチンが自閉症を引き起こす」という説は今でも反ワクチン論者の間では強く信じられていますが,その根拠はあとに捏造と判明したWakefield氏の論文です.その後ワクチンと自閉症の関連性を示す証拠を世界中で誰一人として提示できていません(当然ですが).今回,MMR,ムンプス,風疹のワクチンと自閉症に関連性はないとするシステマティックレビュー&メタ解析が報告されました.一定の結論は出た,と判断すべきでしょう.
ワクチンは自閉症と関連していない:症例対照研究およびコホート研究の科学的根拠に基づいたメタ解析
Taylor LE, Swerdfeger AL, Eslick GD. Vaccines are not associated with autism: An evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies. Vaccine. 2014 May 6. [Epub ahead of print]
PMID:24814559

Abstract
【目 的】
小児のワクチン接種と自閉症発症の関係の可能性については膨大な議論がなされている.最近ではこれは,ワクチン接種と自閉症の間の“関係”に対する恐れによって,ワクチンで予防できる疾患の罹患者数が市中で増加し,主要な公衆衛生問題となってきている.我々は本トピックにおいて症例対象研究およびコホート研究による利用可能なエビデンスを総括するためのメタ解析を行った(MEDLINE, PubMed, EMBASE, Google Scholar up to April, 2014).

【方 法】
登録基準は,ワクチン接種と自閉症または自閉症スペクトラム発症の間の関係について評価した研究とした.2人のレビュアーが研究における特徴,方法,アウトカムについてデータ抽出を行った.意見の相違がある場合は,他の執筆者とのコンセンサスで解決した.

【結 果】
本解析では,125407例の小児を登録している5報のコホート研究と,9920例の小児を登録している5報の症例対照研究を登録した.コホートデータでは,ワクチンと自閉症(OR 0.99; 95%CI 0.92-1.06)または自閉症スペクトラム(OR 0.91; 95%CI 0.68-1.20)に関連性はなく,また,MMR(OR 0.84; 95%CI 0.70-1.01),チメロサール(OR 1.00; 95%CI 0.77-1.31),水銀(OR 1.00; 95%CI 0.93-1.07)においても関連性がなかった.症例対照研究データも同様に,状態(OR 0.90; 95%CI 0.83-0.98; p=0.02),曝露タイプ(OR 0.85; 95%CI 0.76-0.95; p=0. 0.85; 95%CI 0.76-0.95; p=0.01)で分類してもMMR,水銀,チメロサール曝露によって自閉症や自閉症スペクトラムのリスクが増加する根拠は見出せなかった.

【結 論】
本メタ解析の知見は,ワクチン接種が自閉症または自閉症スペクトラム発症と関連していないことを示唆するものである.さらに,ワクチンのコンポーネント(チメロサール,水銀),混合ワクチン(MMR)も自閉症や自閉症スペクトラムと関連していなかった.
1.Wakefieldの捏造論文

■捏造論文が反ワクチン論者によって今でも祭り上げられ続け,それが科学的検証を解しないマスメディアやジャーナリストを通して大衆に伝播したことは世界の公衆衛生において多大な損害を与えた.通常では考えられないことであるが,反ワクチン派の一部の主張はもはやカルトに近いレベルであり,ノバルティスファーマ社のバルサルタン論文不正をたたきながらWakefield氏の論文不正は認めずむしろ崇拝するという摩訶不思議な現象が生じている.

■1998年にthe Lancet誌にWakefieldら13人の研究者がMMR接種に起因すると思われるという自閉症の12症例を報告し,ワクチンと自閉症に関連性があると主張した.これが「ワクチンで自閉症が生じる」という主張が出始めた発端である.

■実はこのWakefield氏は1996年に,MMRが子どもの脳障害や他の問題を引き起こすと訴えるキャンペーン活動をするグループJABSの事務弁護士Richard Barrによって,MMR製造業者への思惑のある法的攻撃を支援する為に時給150ドルで雇われている.そして,1998年にLancet誌でMMR接種と自閉症の関連性を主張すると同時にMMRではなく単一ワクチン接種を主張し,その開発のための合弁会社をすぐに設立するに至っている.しかし,Wakefield氏の研究はわずか12例の検討であり,科学的根拠は希薄であるにもかかわらず,確認または反証する為の大規模な比較試験を開始しようとしなかった.Royal Free大学の新しい医学部長であるMark Pepys氏は,Wakefield氏の事業計画について異議を申し立て,研究を再現しなければならないとWakefield氏に通告したが,Wakefield氏はこれを行おうとしなかったため,2001年にRoyal Free大学を退職させられている.その後もWakefield氏の主張はマスコミの強い支援を受けてまたたく間に市民に広がり,ワクチン接種率は大きく減少した.

■2004年になって法律扶助委員会がthe Lancet誌に資金提供し,被験者である子供達の多くが訴訟に関係していた事を明らかにした.その1ヶ月後には13人の執筆者のうち10人が,MMR,腸炎,および自閉症が時間的に関係していると主張している解釈の部分を撤回した.さらに半年後,MMRワクチンによる障害の原因がMMR中の麻疹ウイルスだとするWakefield氏の主張にも関わらず,彼の研究室での分子検査でそのウイルスの痕跡は何も見つからなかったことが明らかとなった.

■2005年には日本から横浜市港北区の疫学調査[1]が報告された.これは,1988年から1996年までの間に同区で生まれた全小児31426例(1988年から1992年生まれの小児の中には,1歳でMMRの接種を受けた子どもが含まれる)を対象として,出生年ごとの自閉症発生率(7歳までに自閉症と診断された子どもの率)の年次推移を調べたもので,MMR接種率は,1989年から1993年まで順に69.8%,42.9%,33.6%,24.0%,1.8%であり,1993年から1996年生まれの子どもの中にはMMRを受けた小児はいない.もしMMRワクチンで自閉症が増加するなら,ワクチン接種中止後は自閉症は減少するはずであるが,1992年以前の出生児に比べてワクチン接種中止後の1993年以降の出生児で自閉症の発生率は,1万人当たり47.6-85.9から96.7-161.3に増加していた.

■2006年,MMRワクチンに対する訴訟を支援する為にRichard BarrからWakefieldへの40万ドル以上の資金に必要経費を加算した法律扶助基金からの私的な資金援助が明らかとなった.さらにはその他に何人かのRoyal Free病院の医師達にも支払われていたことが判明している.そして2007年にロンドンでの診療適切性審査で,Wakefield氏らの重大な職務上の違法行為を訴えている件の審問を開始された.

■2010年,ついにWakefield氏の論文は全く虚偽のものとして撤回されるに至る[2].実際には,このWakefield氏の論文では全12例でデータを改竄し,接種前から自閉症があった小児を接種後発症扱いにしたり,自閉症を発症していない小児を自閉症扱いにしたりなどの不正が指摘されており,その裏には上述の利益相反が大きくかかわっていたことがうかがえる.この不正によりWakefield氏は医師免許剥奪となっている.このWakefield氏の捏造論文は,ここ100年において最も医学にいたずらに損害を与えた事件であったとされる[3]

■Wakefield氏の論文不正の全貌はBrian Deerが2011年にBMJ誌に4回にわたって特集記事を掲載している[4-7]

2.ワクチン普及の困難さ

■ワクチンが普及しない原因の1つにその評価の行い方が大きな問題点として挙げられる.ワクチンの評価は,その感染症予防率の高さと予防する感染症の重篤度で決定される.死亡率,重症化率,後遺症発生率が高い感染症を予防するワクチンは要望が高く,現在普及している大部分のワクチンが該当する.しかし,このようなワクチンの効果は,普及してその感染症が減少すると一般の目に止まらなくなるためか過小評価されるようになる.加えて,日本には感染症サーベランスシステムが貧弱であり,ワクチンの効果を正確に把握しにくい現状がある.

■HPVワクチンの1件を見ても分かる通り,ワクチンでは副反応が問題とされやすい.ワクチンはその性質上,免疫系の副反応を多少ともなうことは避けられない.また,ワクチンは健康な人間に接種されるため,病気を発症している患者に投与される薬剤とは異なり,副反応に関するハードルは高くなってしまい,過剰にたたかれる要因となっている[8].また,ワクチン接種後に発生した疾患や死亡に関して,ワクチンとの関連性を判定することは基本的には不可能であり,あくまでも前後関係に過ぎない.しかしながらこれらが因果関係ととられる誤解が生じ,結果的にワクチンの風評を生み出していることも少なくない[9]

■このような性質をもつワクチンは,いわゆる薬害団体や反医療主義者,科学的根拠のない医療推進者の餌食となりやすく,過剰なまでの反ワクチン主義をもたらし,ワクチン接種の妨げの一因となっている.厄介なことに,ワクチン反対論者は製薬メーカーのビジネスとからめた陰謀論を唱え,常に科学的研究法や科学的研究論文の査読を拒絶する特徴がある[10].これがエスカレートし,中には医師が反ワクチン団体から利権をもらうケースも存在する[11]

■反ワクチン主義によって広まる情報は,誤った情報が加えられながら拡散されていく.中には「ワクチンに故意にウイルスを混ぜている」「不妊になる」といった全く根拠がない驚くべきデマも広がっている.そこに拍車をかけるのが反ワクチン論者による市民向け一般書籍である.このような書籍はその執筆者にとって都合のいい情報だけを集めて過剰なまでに危険性ばかりを訴える内容となっており,医学的に完全に間違った内容も記されていることはしばしば存在する.しかしながら,例えその内容が完全に間違っており,かつ有害な内容であっても,その書籍の出版を禁止する法律は存在せず,たとえその書籍を患者を信用した結果死亡しても,その執筆者に何ら責任が及ぶことはない.一方の医療従事者はワクチンのリスク&ベネフィットをバイアスなくできる限り正確に評価し,責任をもって接種有無推奨を決定する立場にあり(当然ながら強制ではない),どちらの意見がより妥当であるかは明らかである.

■しかしながら,大衆は既存のシステムに反対する刺激的な内容に興味がいきがちである.マスコミが報道し,医療ジャーナリストが科学的考察もなく誤った情報を流布し,国会議員までが誤った知識でワクチン接種を妨げる状況である.ワクチンプログラム普及のためには,医療と行政はより正確な情報を発信するだけでなく,どの情報がより正確であるかを判断する術についても市民に伝えていく必要がある.

[1] Honda H, Shimizu Y, Rutter M. No effect of MMR withdrawal on the incidence of autism: a total population study. J Child Psychol Psychiatry 2005; 46: 572-9
[2] Dyer C. Lancet retracts Wakefield's MMR paper. BMJ 2010; 340: c696
[3] Flaherty DK. The vaccine-autism connection: a public health crisis caused by unethical medical practices and fraudulent science. Ann Pharmacother 2011; 45: 1302-4
[4] Deer B. How the case against the MMR vaccine was fixed. BMJ 2011 ;342: c5347
[5] Deer B. Secrets of the MMR scare . How the vaccine crisis was meant to make money. BMJ 2011; 342: c5258
[6] Deer B. Secrets of the MMR scare. The Lancet's two days to bury bad news. BMJ 2011; 342: c7001
[7] Deer B. More secrets of the MMR scare. Who saw the "histological findings"? BMJ 2011; 343: d7892
[8] 渡辺博.ワクチンの安全性に関する考え方.臨床検査 2010; 54: 1272-8
[9] Campion EW. Suspicious about the Safety of Vaccines. N Engl J Med 2002; 347: 1474-5
[10] Tafuri S, Martinelli D, Prato R, et al. From the struggle for freedom to the denial of evidence: history of the anti-vaccination movements in Europe. Ann Ig 2011; 23: 93-9
[11] DeLong G. Conflicts of interest in vaccine safety research. Account Res 2012; 19: 65-88
by DrMagicianEARL | 2014-05-21 14:53 | 感染対策

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