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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

メトロニダゾール注射製剤アネメトロ販売開始へ

■日本の感染症領域で長きにわたり待望されていたメトロニダゾール(MNZ)の注射製剤が2014年7月4日に製造販売承認を取得,9月2日に薬価収載となった.商品名はアネメトロ®(製造販売:ファイザー株式会社).国内PhaseⅠ,PhaseⅢから効能・効果は以下の通り.
1.嫌気性菌感染症
<適応菌種>
本剤に感性のペプトストレプトコッカス属,バクテロイデス属,プレボテラ属,ポルフィロモナス属,フソバクテリウム属,クロストリジウム属,ユーバクテリウム属
<適応症>
敗血症,深在性皮膚感染症,外傷・熱傷および手術創等の二次感染,骨髄炎,肺炎,肺膿瘍,膿胸,骨盤内炎症性疾患,腹膜炎,腹腔内膿瘍,胆嚢炎,肝膿瘍,化膿性髄膜炎,脳膿瘍

2.感染性腸炎
<適応菌種>
本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシル
<適応症>
感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)

3.アメーバ赤痢
1.MNZの特徴とどのような場面で推奨するか?

■MNZは菌のDNA二重鎖を切断することで作用する殺菌性抗菌薬であり,偏性嫌気性菌に対して良好な抗菌活性を有するが[1],偏性嫌気性菌以外の菌にはほぼ無効と考えてよい(大腸菌には感受性あり).また,アクチノマイコシスとP. acnesには無効である.MNZはbioavailabilityが良好なため,静注と経口で血中濃度がそれほど変わらず,経口スイッチも行いやすい抗菌薬である.

■MNZ静注製剤の適正使用にあたっては,なぜ本剤が日本で待望されていたかについての背景を知っておかなければならない.例えば横隔膜より上の感染症である肺炎や膿胸においては,一般的な奏功率や嫌気性菌の種類から,基本的にはMNZがSBT/ABPC,CMZ,AZMIV,CLDM,TAZ/PIPCより優先されるものではないと推察され,出番がそう簡単に増えるわけではないと思われる.使用してもよいが,多くの嫌気性菌に感受性が保たれている新規抗菌薬を他の抗菌薬より優先して使用すべきかを慎重に検討する必要がある.アンチバイオグラムでの確認がベストであるが,肺炎での嫌気性菌の培養と感受性率の検査ができている施設は非常に少ないことから,現実的には嫌気性菌関与が疑われる誤嚥性肺炎や膿胸などにおける奏功率を施設ごとに算出して検討すべきである.使用場面としては,比較的耐性度の高い通性嫌気性菌(大腸菌,肺炎桿菌など)の検出既往がある誤嚥性肺炎における第3世代または第4世代セファロスポリン+MNZなどであろうか.

■日本においてMNZ静注製剤がとりわけ他剤より有用となる場面が多く想定されるのは腹腔内感染症である.外科感染症分離菌感受性調査研究会による本邦の細菌性腹膜炎検出菌調査においては約6割で偏性嫌気性菌を検出しており,そのうちの1/3はBacteroides fragilis groupである.B. fragilisでは,以前は嫌気性菌に対する治療薬として頻用されるCLDMが良好な活性を示していたが,近年では30-50%近くが耐性化しているため,腹腔内感染症では使用できなくなってきている.欧米では嫌気性菌に活性を有する第4世代ニューキノロン系抗菌薬のMFLXが注射製剤として利用されているが,それらのB. fragilis groupへの耐性化も顕著なものとなっている.CMZやFMOXなどの抗嫌気性菌活性を有するセフェム系薬の耐性化も問題となっている中,現時点で有効性を保っているのはカルバペネム系,TAZ/PIPCなどのβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系,MNZのみとなっている[2]

■以上のような背景から,MNZを特に優先して使用するのは,嫌気性菌の中でもB. fragilis groupを意識して抗菌薬を投与するケースで推奨されるべきあり,呼吸器感染症や皮膚軟部組織感染症では嫌気性菌関与が疑われてもMNZを第一選択とする必要性は低いと推察される.

■2003年のIDSAガイドラインでは嫌気性菌による腹腔内感染症に対する治療薬として推奨されている[3].もちろんカルバペネム系やTAZ/PIPCも腹腔内感染症においては非常に有用な抗菌薬である.これについてはMatthaiouら[4]の腹腔内感染症に対するCPFX+MNZとβラクタム系抗菌薬を比較したRCT4報およびコホート研究1報の計1431例メタ解析を参照されたい.このメタ解析では,死亡率(OR=1.42, 95%CI 0.66-3.06)や毒性(OR=1.25, 95%CI 0.66-2.35)に有意差はなかったが,CPFX+MNZ群の方が発熱を有意に改善させたと報告している(OR=1.69, 95%CI 1.20-2.39).

2.MNZの有害事象

■MNZは胎盤を容易に通過しうる.催奇形性については明らかではないが,第一半期の妊婦には避けるべきである.

■ワーファリン投与患者でのPT INR延長が既に知られている.

■MNZはアルコールの代謝過程におけるアルデヒド脱水素酵素を阻害し,血中アセトアルデヒド濃度を上昇させるため,二日酔いのような症状をひきおこすジスルフィラム作用を有する.

■末梢神経障害も生じうる.多くの報告では15mg/kg/日以上を2週間以上にわたり投与した後に発症している[5].MNZの神経障害はMNZの中止のみで軽快しやすい[6].症状が強ければプレガバリン(リリカ®)を考慮してもよい[7]

■MNZは中枢神経移行性もよく,非ブドウ球菌性細菌性髄膜炎においては併用薬として推奨されているが,同時に中枢神経に対する有害事象であるメトロニダゾール脳症[8]も知っておく必要がある.MNZ長期使用,栄養状態不良,内科的慢性疾患などがリスクともされている.脳MRIではT2とFRAIRで高信号となる.症状は,発症機序で代謝経路に共通点を有することも示唆されている[9]Wernicke脳症に似ており,ときに鑑別が困難なこともある.可逆性の病態であり,本症を疑ったときはMNZを中止することで軽快する.

■MNZによって膵炎が生じることも報告されている[10].MNZによって膵炎が生じる機序は不明であるが,Nigwekarら[11]の報告では,同剤開始後12時間-38日で発症し,画像検査上で膵炎の所見を呈したのは7例中2例のみ,全症例とも中等度程度で自然軽快であった.急性膵炎においてMNZの推奨はなく,膵炎誘発の可能性もある以上は,急性膵炎患者での使用は避けるべきかもしれない.

■MNZよる発癌性の可能性が以前から指摘されているものの,明らかではない.発癌性は動物実験において,肺癌,リンパ腫,乳腺腫瘍および肝臓癌の発生頻度の上昇が報告されているが,動物種によって発癌頻度,発癌臓器に違いがみられる[12].とりわけ肺癌での報告がみられるが,有意な増加を認めるとする報告[13]もあれば,有意な増加は認めないという報告[14]もあり,非小細胞肺癌に対して放射線治療にMNZを併用すると有効性が増した(2年生存率は有意差なし)とする報告[15]もあり,結論はでていない.

[1] Koeth LM, Good CE, Appelbaum PC, et al. Surveillance of susceptibility patterns in 1297 European and US anaerobic and capnophilic isolates to co-amoxiclav and five other antimicrobial agents. J Antimicrob Chemother 2004; 53: 1039-44
[2] Snydman DR, Jacobus NV, McDermott LA, et al. National survey on the susceptibility of Bacteroides Fragilis Group: report and analysis of trends for 1997-2000. Clin Infect Dis 2002; 35(Suppl 1): S126-34
[3] Solomkin JS, Mazuski JE, Baron EJ, et al; Infectious Diseases Society of America. Guidelines for the selection of anti-infective agents for complicated intra-abdominal infections. Clin Infect Dis 2003; 37: 997-1005
[4] Matthaiou DK, Peppas G, Bliziotis IA, et al. Ciprofloxacin/metronidazole versus beta-lactam-based treatment of intra-abdominal infections: a meta-analysis of comparative trials. Int J Antimicrob Agents 2006; 28: 159-65
[5] Hobson-Webb LD, Roach ES, Donofrio PD. Metronidazole: newly recognized cause of autonomic neuropathy. J Child Neurol 2006; 21: 429-31
[6] Tan CH, Chen YF, Chen CC, et al. Painful neuropathy due to skin denervation after metronidazole-induced neurotoxicity. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011; 82: 462-5
[7] Dworkin RH, O'Connor AB, Backonja M, et al. Pharmacologic management of neuropathic pain: evidence-based recommendations. Pain 2007; 132: 237-51
[8] Huang YT, Chen LA, Cheng SJ. Metronidazole-induced Encephalopathy: Case Report and Review Literature. Acta Neurol Taiwan 2012; 21: 74-8
[9] Zuccoli G, Pipitone N, Santa Cruz D. Metronidazole-induced and Wernicke encephalopathy: two different entities sharing the same metabolic pathway? AJNR Am J Neuroradiol 2008; 29: E84
[10] Loulergue P, Mir O. Metronidazole-induced pancreatitis during HIV infection. AIDS 2008; 22: 545-6
[11] Nigwekar SU, Casey KJ. Metronidazole-induced pancreatitis. A case report and review of literature. JOP 2004; 5: 516-9
[12] Dobiás L, Cerná M, Rössner P, et al. Genotoxicity and carcinogenicity of metronidazole. Mutat Res 1994; 317: 177-94
[13] Beard CM, Noller KL, O'Fallon WM, et al. Cancer after exposure to metronidazole. Mayo Clin Proc 1988; 63: 147-53
[14] Friedman GD, Selby JV. Metronidazole and cancer. JAMA 1989; 261: 866
[15] Ren W, Li Z, Mi D, et al. A meta analysis of radiosensitivity on non-small cell lung cancer by metronidazole amino acidum natrium. Zhongguo Fei Ai Za Zhi 2012; 15: 340-7
by DrMagicianEARL | 2014-09-02 00:00 | 抗菌薬

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