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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【Alert文献×3】薬剤耐性マラリア/プラスミド伝達型バンコマイシン耐性MRSA/エボラ出血熱

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■MDRPのアウトブレイクから始まり,フィリピン輸入株の麻疹流行,大阪でのNDM-1産生腸内細菌の制御困難なアウトブレイク(おそらく大阪全域に既に拡散されているものと予想されてもいます)など2014年の日本の感染症業界は暗いニュースばかりですが,海外でもいろいろと大変なことが起こっています.今年NEJM誌に報告された3つの感染症の文献を紹介します.
Plasmodium. falciparumマラリアにおけるアルテミシン耐性
Ashley EA, Dhorda M, Fairhurst RM, et al; for the Tracking Resistance to Artemisinin Collaboration (TRAC). Artemisinin Resistance in Plasmodium. falciparum Malaria. N Engl J Med 2014; 371: 411-23
 東南アジアおよびアフリカのマラリア患者1241例の血液サンプルの解析を行ったもので,マラリア治療薬であるアルテミシンに耐性をもつマラリア原虫Plasmodium. falciparumがカンボジア,ミャンマー,ラオス,タイ,ベトナムで検出された.アルテミシンの単独治療はより強く回避すべきであろう.既に飛行機等を経由してマラリア媒介蚊が本邦に侵入してきている懸念もあり,高度耐性を有するマラリアが上陸すればかなり厄介なものとなるだろう.
市中感染型MRSAにおける伝達可能なバンコマイシン耐性
Rossi F, Diaz L, Wollam A, et al. Transferable vancomycin resistance in a community-associated MRSA lineage. N Engl J Med 2014; 370: 1524-31
PMID:24738669
 ブラジルで発見された,プラスミド伝達されるバンコマイシン耐性遺伝子van Aを有する市中感染型MRSA(米国で猛威をふるった強毒性PVLを産生するUSA300株の系統に関連)の世界初の報告.菌と菌が接触するだけでバンコマイシン感性株が耐性化してしまうプラスミド伝達があるため,菌の細胞分裂増殖をはるかに上回る爆発的な耐性菌数増加が生じうる.加えて菌種を越えて伝達しうるため,腸球菌等にまで耐性が伝達される可能性もある.

 一般的に感染症はオリンピックやメッカの巡礼などで世界中に拡散されるとされている.たとえば中東で流行しているMERSコロナウイルスも今年のメッカの巡礼を経て島国のインドネシアで十数人の感染者がでている.今回NEJM誌に報告されたすぐ後にブラジルでワールドカップが開催,さらには2年後にオリンピックも開催予定であり,プラスミド伝達型バンコマイシン耐性MRSAの世界中への拡散が懸念される.
ギアナにおけるエボラウイルス疾患の緊急事態(予備レポート)
Baize S, Pannetier D, Oestereich L, et al. Emergence of Zaire Ebola Virus Disease in Guinea - Preliminary Report. N Engl J Med 2014 Apr 16 [Epub ahead of print]
PMID:24738640
 2014年2月から西アフリカ地域でアウトブレイクしたエボラ出血熱は,過去の同疾患の中でも最悪の感染拡大となっており,既に感染者は1000人以上,死亡者は600人以上にのぼり,死亡率は約6割で,現地で治療にあたっている医師も感染・死亡している.同地域ではさらに感染が拡大,制御困難な状態に陥っており,7月31日に米国CDCは3カ国(ギニア,リベリア,シエラレオネ)について警戒レベルを最も高い「不要な渡航を控える勧告」に引き上げた.

 エボラウイルス自体は感染力は強くなく,主たる感染経路は接触感染である(ただし感染患者が嘔吐した場合等は,飛散により感染範囲が飛沫感染距離以上となりうる)ため,隔離と標準予防策・接触/飛沫感染予防を徹底すれば終息させることは難しくない.西アフリカでの感染拡大はアウトブレイク認知が遅れたことにより隔離が遅れたためと推察されている.地域丸ごと封鎖するか国境封鎖を行わなければ現在の流行地域での感染拡大は防げないだろう.

 一方,すでに世界中に認知された現在,おそらく世界レベルでのパンデミックは起こりにくく,海を越えて本邦に侵入してきたとしても感染対策で制圧は難しくないだろう.ただし,各国でのワクチンによる予防対策の準備は必要である.現時点でワクチンや治療薬は開発段階であり,使用できるものはなく,早急な開発が急がれる.
by DrMagicianEARL | 2014-08-01 00:00 | 感染症

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