【文献】SIRS基準は8人に1人の重症敗血症を見逃す
ANZICSの敗血症コホートデータの解析で,SIRS基準の妥当性について検討した研究がNEJM誌に報告されたので紹介します(個人的にはなぜこの論文がNEJM誌でアクセプトされたのかちょっと疑問).SIRS基準では8人に1人の重症敗血症を見逃してしまうという結果ですが,感度87.9%というのがそれほど悪いのかというと疑問です.敗血症診療に不慣れな医療スタッフにとっては重要かつ簡便なスクリーニングツールであることには変わりないと思いますし,実際に臓器不全等あればそれなりに重症感染症として初期対応するでしょうから,今後の診療に影響を与えるようなエビデンス,というわけではない気がします.もっともSIRS基準該当項目が増すごとに死亡率が高まることはこれまでも報告がありましたので,それほど目新しいことではない?
重症敗血症を定義する上での全身性炎症反応症候群(SIRS)基準
Kaukonen KM, Bailey M, Pilcher D, et al. Systemic Inflammatory Response Syndrome Criteria in Defining Severe Sepsis. N Engl J Med 2015 March 17 online first
Abstract
【背 景】
重症敗血症のコンセンサスが得られた定義では,感染が疑われるもしくは確定していて,臓器障害を有し,全身性炎症反応症候群(SIRS)の基準を2つ以上満たしていることが必要である.我々はこのアプローチの感度,表面的妥当性,構成概念妥当性を検討することである.
【方 法】
2000年から2013年までのオーストラリアおよびニュージーランドにおける172の集中治療室の患者データで検討した.感染症および臓器障害を有する患者を検出し,SIRS基準を2つ以上満たした群(SIRS陽性重症敗血症)とSIRS基準が2つ未満の群(SIRS陰性重症敗血症)に分類した.我々はこれらの特性とアウトカムを比較し,2つのSIRS基準という閾値での死亡リスクの段階的増加があるかについて評価した.
【結 果】
1171797例の患者のうち,109663例が感染症と臓器障害を有していた.そのうち,96385例(87.9%)がSIRS基準陽性重症敗血症であり,13278例(12.1%)がSIRS陰性重症敗血症であった.14年の期間において,両群とも背景は同等で,死亡率も変化していた(SIRS陽性群:36.1%[829/2296例]から18.3%[2037/11119例],p<0.001 / SIRS陰性群:27.7%[100/361例]から9.3%[122/1315例],p<0.001).加えて,この傾向はベースラインの背景因子で調整後も維持されていた(SIRS陽性群OR 0.96; 95%CI 0.96-0.97,SIRS陰性群OR 0.96; 95%CI 0.94-0.98; 両群間比較p=0.12).調整解析において,SIRS基準2つの閾値においていかなる過渡的に増加することなく,各SIRS基準が増すごとに死亡リスクは線形に増加していた(OR 1.13; 95%CI 1.11-1.15; p<0.001).
【結 論】
重症敗血症を定義する上でSIRS基準2つ以上を必要とすることは,感染,臓器不全,死亡率が同等である患者であるにもかかわらず8人に1人を除外してしまうことになり,死亡リスクにおける転移点を定義することはできない.