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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献×3】ICUにおける緊急挿管後低血圧の発生率と予測因子

■ICU患者が急変した際の緊急挿管において,挿管後に急激に血圧が低下することを経験した医師は非常に多いと思われます.今回,ICUでの挿管後低血圧に関する報告が立て続けに3つ出たので紹介します.

■以下の報告では挿管後低血圧発生率は3-5割ですが,当院では高齢者が多く,リスク因子を有する患者も多いこと,敗血症性ショック患者が多いことから挿管後低血圧発生率はもっと高いです(8割程度).このため,挿管後低血圧に備えて挿管直前にリンゲル液の急速輸液負荷を開始したり,ノルアドレナリンをスタンバイして挿管を行うなどしています.
ICUでの気管挿管後の重篤な循環動態破綻の発生と危険因子
Perbet S, De Jong A, Delmas J, et al. Incidence of and risk factors for severe cardiovascular collapse after endotracheal intubation in the ICU: a multicenter observational study. Crit Care. 2015 Jun 18;19(1):257. [Epub ahead of print]
PMID:26084896

Abstract
【背 景】
重篤な循環動態の破綻(CVC:cardiovascular collapse)はICUにおける緊急気管挿管(ETI:endotracheal intubation)後の生命を脅かす合併症である.多数の因子がETI中の循環動態と相互に作用する可能性があるが,重篤なCVC発生に関連する因子について焦点をあてたデータの研究はない.本研究はICUにおけるETI後の重篤なCVCの発生を検討し,重篤なCVCVの予測因子を解析した.

【方 法】
本研究は,42のICUでの1400の挿管症例についての前向き多施設共同研究の二次解析である.重篤なCVC発生は,挿管前に循環動態が安定(循環作動薬なしで平均動脈圧>65mmHg)している患者で評価し,重篤なCVC予測因子は患者および手順の特性に基づいた多変量解析で検討した.

【結 果】
重篤なCVCは885挿管中264例(29.8%)で生じた.2段階多変量解析では,CVCの独立した危険因子は,年齢に無関係のSAPSⅡスコア(OR 1.02, p<0.001),60-75歳(OR 1.96, p<0.002 vs <60歳),>75歳(OR 2.81, p<0.001 vs <60歳),挿管の原因が急性呼吸不全であること(OR 1.51, p=0.04),ICUにおける最初の挿管(OR 1.61, p=0.02),酸素化方法としてNIVを使用していたこと(OR 1.54, p=0.03),挿管後のFiO2>70%(OR 1.91, p=0.001)であった.気管挿管を要する昏睡患者は挿管中のCVC進展リスクは低かった(OR 0.48, p=0.004).

【結 論】
ICUにおいて,CVCは,特に高齢者や急性呼吸不全で挿管された重症患者でよく見られる合併症である.CVC予防のための特異的バンドルはこれらのハイリスクの重症患者の挿管に関連した有病率や死亡率を減少させる可能性がある.
ICU患者における挿管後低血圧:多施設共同コホート研究
Green RS, Turgeon AF, McIntyre LA, et al; the Canadian Critical Care Trials Group (CCCTG). Postintubation hypotension in intensive care unit patients: A multicenter cohort study. J Crit Care 2015, June 16[Epub ahead-of Print]

Abstract
【目 的】
気管挿管を要する重症患者における挿管後低血圧(PIH:postintubation hypotension)の発生率と予後との関連性を検討する.

【方 法】
4つの教育三次医療病院の集中治療室(ICU)で挿管を要する重症成人患者479例について医療記録をレビューした.主要評価項目はPIHの発生率とした.副次評価項目は死亡率,ICU滞在日数,腎代替療法の必要性,そして,全死亡,14日を超えるICU滞在,7日を超える人工呼吸器装着期間,腎代替療法の複合項目とした.

【結 果】
総じて,挿管を要するICU患者におけるPIHの発生率は46%(218/479例)であった.単変量解析では,PIHに進展した患者はICU死亡率(37% vs 28%, p=0.049)と全死亡率(39% vs 30%, p=0.045)が増加した.重要な危険因子で調整すると,PIH進展は主要な有病率や死亡率の複合項目と関連していた(OR 2.00; 95%CI 1.30-3.07; p=0.0017).

【結 論】
PIHへの進展は緊急既往管理を要するICU患者においてよく見られ,不良な予後と関連していた.
挿管後低血圧と他の短期アウトカムの予測における挿管前のショック指数と改訂ショック指数
Trivedi S, Demirci O, Arteaga G, et al. Evaluation of preintubation shock index and modified shock index as predictors of postintubation hypotension and other short-term outcomes. J Crit Care. 2015 Aug;30(4):861.e1-7
PMID:25959037

Abstract
【目 的】
挿管前のショック指数(SI:shock index)および改訂ショック指数(MSI:modified shock index)は救急部門における挿管後低血圧の予測能を示している.本研究の主要な目的は,集中治療環境におけるその関連性を検討することである.2つ目の目的は,集中治療室において,死亡率や滞在期間といった他の短期アウトカムとショック指数の関連性を評価することである.

【方 法】
本研究は三次医療センターの140例の成人ICU患者で行われた非並行コホート研究である.登録基準は,明らかに循環動態が安定している患者での緊急気管挿管とした.

【結 果】
挿管前のSI≧0.90は,収縮期血圧<90mmHgで定義される挿管後低血圧と,単変量(p=0.03; OR 2.13; 95%CI 1.07-4.35)および交絡因子で調整した多変量解析(p=0.01; OR 3.17; 95%CI 1.36-7.73)で有意に関連していた.これは,高いICU死亡率とも,単変量(p=0.01; OR 4.00; 95%CI 1.26-12.67)および多変量解析(p=0.01; OR 5.75; 95%CI 1.58-26.48)の両方で関連していた.挿管前のMSIと挿管後循環動態不安定およびICU死亡との間には関連性は見られなかった.挿管前SIおよびMSIは,ICU滞在期間や30日死亡率との間に関連性は見られなかった.

【結 論】
我々の知見は、ICUの緊急挿管を要する成人患者において,挿管前のSIが0.90以上であることは挿管後低血圧(収縮期血圧<90mmHg)やICU死亡の予測因子であることを示した.

by DrMagicianEARL | 2015-06-29 00:00 | 文献

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