【文献】市中肺炎入院患者へのステロイド投与の有用性(メタ解析)
■このメタ解析では絶対死亡率を3%低下させるというこの数字ですが,これがどこまで臨床的に有意なのか,捉え方は様々でしょう.しかも統計学的にも有意ではなく,あくまでもtrendにとどまる結果です.臨床的安定化の指標も発熱有無など,改善というよりはステロイドでマスクされているだけでは?という項目が入っていたりしてどこまで参考にしていいものか判断しかねます.
■ただし,注意しなければならないのは,このメタ解析でも触れられていますが,ステロイド投与により有害事象が出やすいハイリスク患者が除外されている研究が多いことです.また,市中肺炎を対象とするなら千人単位での大規模RCTを組むことは決して難しくないと思われますが,実際に行われたRCTは1000例に満たないものばかりです(研究主旨は異なりますが,現在ANZICSが行っている,敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法の大規模RCTであるADRENAL studyは3800例を登録予定です).加えて,RCTのプロトコルや治療経過を見てみると,入院市中肺炎全体での評価にもかかわらず死亡率が比較的高い,抗菌薬投与期間が非常に長い,など,日常診療の感覚とは異なる治療がRCTでは行われていたのかと疑わざるを得ません.このため,現時点では私自身は外的妥当性が乏しいと考え,市中肺炎患者に対してステロイドを投与することを選択肢に入れる予定はありません.
市中肺炎による入院患者に対するコルチコステロイド療法:システマティックレビューとメタ解析
Siemieniuk RA, Meade MO, Alonso-Coello P, et al. Corticosteroid Therapy for Patients Hospitalized With Community-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med 2015 Aug 11
PMID:26258555
Abstract
【背 景】
市中肺炎(CAP)はしばしば見られ,重症化しやすい.
【目 的】
市中肺炎患者の死亡率,有病率,入院期間におけるコルチコステロイド療法併用の効果を検討する.
【方 法】
MEDLINE,EMBASE,Cochrane Central Register of Controlled Trialsを用いて2015年5月24日までの報告を検索した.検索対象は,市中肺炎による入院患者におけるコルチコステロイド全身投与の無作為化比較試験とした.2人のレビュアーが独立して研究データを抽出し,バイアスリスクを評価した.エビデンスの質は執筆者らのコンセンサスによるGRADE(the Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムで評価した.
【結 果】
年齢中央値は60歳代で,患者の約60%が男性であった.コルチコステロイド併用は全死亡率(12試験;1974例;RR 0.67[95%CI 0.45-1.01];リスク差 2.8%; 中等度の確からしさ),人工呼吸器の必要性(5試験;1060例;RR 0.45[0.26-0.79];リスク差5.0%;中等度の確からしさ),急性呼吸窮迫症候群(4試験;945例;RR 0.24[0.10-0.56],リスク差6.2%;中等度の確からしさ)の減少に関連していた.また,臨床的安定化までの期間(5試験;1180例;平均差-1.22日[-2.08 to -0.35日];高い確からしさ),入院期間(6試験;1499例;平均差-1.00日[-1.79 to -0.21日];高い確からしさ)が短縮していた.コルチコステロイド併用は治療を要する高血糖の頻度を増加させたが(6試験;1534例;RR 1.49[1.01-2.19];リスク差3.5%;高い確からしさ),消化管出血の頻度は増加させなかった.
【問題点】
多くのアウトカムにおいて,少ない事象数と試験数であった.試験はしばしば重篤な有害事象のリスクが高い患者が除外されていた.
【結 論】
市中肺炎による成人入院患者において,コルチコステロイドの全身投与は死亡率を約3%,人工呼吸器装着を約5%,入院期間を約1日減少させる可能性がある.