【文献】無呼吸の際,ショック状態の方が非ショック状態よりも低酸素に陥るまでの時間が延長する
■動物モデルの研究ではありますが,興味深い論文なので紹介します.気管挿管時は低酸素に陥るリスクが高まりますが,血管内用量減少によるショック状態においては低酸素に陥るまでの時間が非ショック時よりも長くかかるという結果が得られています.ある意味これはショック時の生体の防御反応システムなのかなという印象を受けました.これらの知見から,ショック患者に挿管する際に,先に血圧安定化をはかると低酸素に陥るまでの時間が短縮する可能性があるため,安定化を待たずにさっさと挿管してしまった方がいいかもしれません.
豚モデルにおける酸素化後の無呼吸酸素飽和度の低下における出血性ショック時の血管内用量減少と輸液蘇生の影響
Kurita T, Morita K, Sato S. The Influence of Hypovolemia and Fluid Resuscitation During Hemorrhagic Shock on Apneic Oxygen Desaturation After Preoxygenation in a Swine Model. Anesth Analg. 2015 Sep 24. [Epub ahead of print]
PMID:26414602
Abstract
【背 景】
重大な出血患者においては積極的な輸液蘇生と速やかな気管挿管の両方がしばしば必要となる.致命的な酸素飽和度に低下するまでの時間における出血による血管内用量減少,かつ/または輸液蘇生の影響はよく知られていない.我々は,出血性ショックの豚モデルにおける酸素飽和度低下の時間と膠質液蘇生を検討した.
【方 法】
イスフルレンによる麻酔導入後,9頭の豚(平均±標準偏差=25.3±0.6kg)で,600mLの出血,600mLのヒドロキシエチルスターチ(HES)投与,さらに600mL出血,2回目の600mLヒドロキシエチルスターチ投与の連続した4ステージによる段階的な出血と輸液蘇生モデルを用いて研究を行った.各ステージにおいて,100%酸素による人工呼吸を5分間行った後,無呼吸を誘発させ,酸素飽和度低下(酸素飽和度[SpO2]<70%)までの時間を計測した.血行動態と血液ガスの数値を記録し,脳および末梢組織の酸素化指数は近赤外線分光法で記録した.
【結 果】
各ステージにおいて,SpO2<70%になるまでの時間±標準偏差は,136±41秒(ベースライン), 147±41秒(出血時),131±38秒(蘇生時),147±38(再出血),134±36秒(再蘇生)であった.出血前後の時間の平均差はそれぞれ11.2秒(6.5-16.0,p=0.0052)と16.0(11.0-21.0,p<0.0001)であった.無呼吸による酸素飽和度低下(SpO2<70%)前後のPaO2はステージ間で差はみられなかった.組織酸素指数の所見において,血管内用量減少は酸素消費量を減少させ,輸液蘇生はこのパラメータを回復させた.
【結 論】
急性出血性ショックの患者において,血管内用量低下状態は致命的な酸素飽和度低下に至るまでの時間が延長する.臨床家は,このような患者に気管挿管を行う際は,輸液蘇生と酸素飽和度低下に要する時間の関連性を考慮すべきである.