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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

11/16~22世界抗菌薬啓発週間(World Antibiotic Awareness Week)

■世界保健機関WHOにより2015年から11月16日~22日を世界抗菌薬啓発週間と定められました.
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1.薬剤耐性菌の脅威

■これまで多数の抗菌薬が開発されてきましたが,なかでも1970年代以降は強力な抗菌薬が多数登場し,一時は「これで感染症は撲滅できる」という楽観的な予測をしていた専門家もいたくらいでした.しかし,近年状況は大きく変わりました.米国でポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっています.抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない菌)が発生し,病院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものでした.感染症に対する武器である抗菌薬を手にしたにもかかわらず,我々は今抗菌薬を失い始めています.

■1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となりましたが[1],それから20年足らずでペニシリンが効かない黄色ブドウ球菌が急増しました.しかし,実際にはペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが報告されています[2].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られていて,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要がありました.つまり,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったということです.

■これまでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かないESBL,NDM-1,KPC,MBLといった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっています.このような多剤耐性菌は免疫が弱った患者が感染するものと考えられてきましたが,近年,一般市民に感染するMRSAが増加傾向にあり[3,4],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株という耐性菌であることも分かっており[5],2011年には京都でほとんどの抗菌薬が無効の淋菌が報告されています[6,7]

■このように菌の耐性化と新たな抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割にはあまり収益が見込めない分野であり[8],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加しています[9].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われていますが,その背景には,1980年代以降,新規開発の抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状があります[10]
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■2015年6月にドイツはシュロス・エルマウで開催されたG7首脳会議(サミット)において,抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の拡大を防ぐため,先進7カ国(G7)が協調して新薬を開発し,家畜への抗菌薬の不適切な使用を減らすなどの対策強化を盛り込んだ共同声明が出されました.今や耐性菌対策は国家レベルの問題となっており,放置すれば2050年には癌よりも多い年間1千万人が耐性菌によって死亡するとの予測もあります.新規の抗菌薬開発を促進させること,抗菌薬を適切に使用すること,感染症を予防することで抗菌薬使用を減少させることが必要であり,今ある抗菌薬を未来に残す必要があります.

2.一般市民の方へ

■一般市民レベルでは,抗菌薬の不適切使用をなくし,感染症を防ぐことが必要です.
(1)風邪などのウイルス感染症に抗菌薬は効きません.
病院で「風邪をひいたので抗菌薬がほしい」と希望される患者さんは多いですが,基本的に風邪に抗菌薬は無効です.例外的に,百日咳,A群溶連菌による咽頭炎や扁桃炎,肺炎では抗菌薬が有効ですが,それ以外で使用することは無効であるばかりか副作用(アレルギー,下痢など)のリスクにさらされます.
(2)抗菌薬は医師から処方されたときのみ服用しましょう.(たとえ家族であっても)他人に抗菌薬をあげない・もらわないようにしましょう.
家に昔病院でもらった抗菌薬が残っていたり,友人・知人・家族から抗菌薬をもらったりすることがあるかもしれません.あるいは最近は抗菌薬をインターネットで海外から購入することもできます.しかし,医師の診察による感染症の診断なしに勝手に抗菌薬を内服するのは効果も安全性もまったく保障できないばかりか診断を遅らせてしまう要因になりかねません.必ず病院を受診して感染症の診断を受け,抗菌薬の必要性有無を判断してもらい,その上で処方をされたときだけ内服しましょう.
(3)処方された抗菌薬は途中でやめず,必ず処方内容通りきっちり内服しましょう.
抗菌薬は効果を考えて投与間隔や投与期間を設定して処方されます.勝手にやめてしまったり服用を忘れたりすると効果が不十分になったり,菌が抗菌薬に耐性を獲得してしまう可能性があります.
(4)手洗いは感染症の予防となり,抗菌薬の使用を減少させます.
手洗いが感染症を予防することは既に数多くの報告がなされており,日常生活で最も簡単な予防手段です.当然ながら抗菌薬が必要となる感染症の予防にもつながりますし,耐性菌が体内に入ることも防いでくれます.

■以下はyoutubeの動画になりますが,抗菌薬啓発週間に向けての啓発動画です.
SAVE antibiotics, SAVE children 〜抗菌薬啓発週間2015〜
https://www.youtube.com/watch?v=rS83Psfcsc4&feature=youtu.be
■また,11月17日にはNHKのクローズアップ現代で特集「抗生物質がなくなる!? ~医療を揺るがす“スーパー耐性菌”~」が放送されますので是非ご覧ください.
http://www.nhk.or.jp/gendai/yotei/index_yotei_3734.html

[1] Bush K. The coming of age of antibiotics: discovery and therapeutic value. Ann N Y Acad Sci 2010; 1213: 1-4
[2] Abraham EP, Chain E. An enzyme from bacteria able to destroy penicillin. 1940. Rev Infect Dis 1988; 10: 677-8
[3] Naimi TS, LeDell KH, Como-Sabetti K, et al. Comparison of community- and health care-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. JAMA 2003; 290: 2976-84
[4] Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med 2006; 355: 666-74
[5] Christina F, et al. Epidemic Profile of Shiga-Toxin–Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 2011; 365:1771-80
[6] Ohnishi M, Saika T, et al. Ceftriaxone-resistant Neisseria gonorrhoeae, Japan. Emerg Infect Dis 2011; 17: 148-9
[7] Ohnishi M, Golparian D, et al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55: 3538-45
[8] Livermore D. Can better prescribing turn the tide of resistance? Nat Rev Microbiol 2004; 2: 73-8
[9] French GL. What’s new and not so new on the antimicrobial horizon? Clin Microbiol Infect 2008; 14: S19-29
[10] Infectious Diseases Society of America. The 10 x ’20 Initiative: pursuing a global commitment to develop 10 new antibacterial drugs by 2020. Clin Infect Dis 2010; 50: 1081: 3
[11] Hughes JM. Preserving the lifesaving power of antimicrobial agents. JAMA 2011; 305: 1027-8
by DrMagicianEARL | 2015-11-16 00:00 | 抗菌薬

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