【雑記】STAP騒ぎが再び
■まず,該当論文は11月27日に発表された以下のものです.Nature誌に掲載されたという誤情報が流れてますが,NatureではなくScientific Reports誌です.再現性の課題はこれからですが,論文内容自体は興味深いものですので,全文フリーなので是非御一読を.
傷害誘導性骨格筋由来幹細胞様細胞集団の特性■簡単に内容を述べると,「マウスの骨格筋傷害モデル(ひっかいた)を作成したところ,その骨格筋から新しい幹細胞の集団を発見し,この幹細胞(筋細胞由来幹細胞iMuSCs)は部分的に初期化され,多分化能を示した.」というものです.これまで炎症による臓器傷害では傷害部位からのシグナルにより骨髄等から間葉系幹細胞様の細胞が誘導され組織修復されているのではないかという仮説が検討されており(これがMuse細胞ではないかという説もある),このiMuSCsは筋由来なんだろうか?という疑問もあります.傷害された細胞が幹細胞化したわけでもないということでちょっとまだ不明瞭な研究です.これから再現性の実験がなされていくのでしょう(骨格筋をどうやって傷つけたのかが争点になりそうな予感も).もっとも掲載誌がScientific Reportsという点があれなんですが・・・(御存知の方も多いと思いますが,査読が緩く,かつお金を払ってオープンアクセスで掲載する雑誌です).
Vojnits K, Pan H, Mu X, et al. Characterization of an Injury Induced Population of Muscle-Derived Stem Cell-Like Cells. Sci Rep. 2015 Nov 27;5:17355
PMID: 26611864
http://www.nature.com/articles/srep17355
■今回の騒動は,このiMuSCsの研究内容を見た「小保方晴子さんへの不正な報道を追及する有志の会」のブログがこの研究をバイアスをかけて紹介したのがきっかけです.そしてこの紹介をアフィリエイト系のブログが「STAP細胞は存在した」という内容を流布したことでSNS上で「小保方氏の発見は真実だった」と拡散されていったわけです.小保方らの研究で用いたプロトコルで再現したわけでもないのにSTAP細胞が存在しただの小保方氏が正しかっただのと結びつけるのは無理があります.
■まず,論文を見れば一目瞭然ですが,iMuSCsはSTAP細胞とは全く別物です.刺激による万能細胞化は,確かにSTAP現象が指し示すものではありますが,STAPよりも以前から知られているもので,植物ではよく観察され,一部の動物でも生じています.これが哺乳類でも起こるのだろうかという検討はずっとなされてきたことです.その上で,ガラスの細管と弱酸性溶液を使うという処理によってできるのがSTAP細胞ということになります.小保方氏をはじめとするSTAP研究グループが行ったのは仮説に基づいた捏造だったことで既に決着がついています.iMuSCsは全く異なる手法,異なる細胞から作られたものです.これを「STAP細胞は存在した」とするのは的外れですし,iMuSCsの研究者にも失礼です.最初に刺激による体細胞の万能化を示した研究グループの功績になるのであって,不正捏造によって作られ再現性も得られなかったSTAP細胞が認められるものではありません.よって,このiMuSCsの論文は,以前から検討されていた「哺乳類の細胞において刺激により多分化能を獲得しうる」という仮説が示されたということであり(ただし繰り返しますが再現性の検証はこれからです),STAP細胞が存在することを示したものではありません.
■なお,iMuSCsの論文の中では小保方氏の過去の論文の引用がありますが,その引用された論文はNature誌に掲載されたあのSTAP論文ではなく,2011年にTissue Eng Part A誌に掲載された論文であり,この小保方氏の論文を含めた7つの研究論文(ようするに小保方氏以外のグループも研究していたわけです)を考察で提示した上で「しかし,どの研究も多能性幹細胞が分化した身体組織から発生する可能性を証明していない」と記述しています.なのでこの研究者もSTAP細胞は認めていません.
■今後も体細胞に刺激を加えて初期化・多能性幹細胞を作成した研究が発表されるたびに「STAPは存在した」なんて言うのはやめましょう.科学研究への冒涜ですし日本の恥を発信してるようなもんです.