【文献】ARDSでのオープンラングアプローチ(pilot RCT)
■ただし,肺胞虚脱を圧だけで解決しようとしないことです.高いPEEPにはそれなりのリスクも伴うことがあります.虚脱にはARDSだけが原因ではなく,医原性の要素もかなりあることを認識しておかなければなりません.特に不必要な気管吸引や高いSpO2(特に97%以上)を維持するようなFiO2設定は肺胞虚脱の原因になりますので,このあたりを回避するようスタッフ教育が必要です.ちなみに当院ではSpO2は88-92%と低めのレベルを維持するようにしています.
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)におけるオープンラングアプローチ:無作為化比較予備試験
Kacmarek RM, Villar J, Sulemanji D, et al; Open Lung Approach Network. Open Lung Approach for the Acute Respiratory Distress Syndrome: A Pilot, Randomized Controlled Trial. Crit Care Med. 2016 Jan;44(1):32-42
PMID:26672923
Abstract
【背 景】
オープンラングアプローチは肺リクルートメントと呼気終末陽圧(PEEP)の漸減による人工呼吸管理戦略である.我々は中等症および重症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の管理において,低レベルのPEEPを用いたARDS networkのプロトコルと中等度から高レベルのPEEPによるオープンラングアプローチの比較を行った.
【方 法】
本研究は,20の学際的ICUのネットワークにおいてARDSの米国欧州コンセンサス会議による定義に合致した患者を登録した前向き多施設共同無作為化予備試験である.ARDS発症から12-36時間後に標準的な人工呼吸管理設定(FiO2≧0.5,PEEP≧10cmH2O)の下で患者を評価した.PaO2/FiO2比が200mmHg以下のままならば,その患者はオープンラングアプローチ群かARDS networkプロトコル群に無作為に割り付けられた.全患者は4-8mL/kg理想体重の1回換気量による換気を受けた.
【結 果】
ARDS患者1874例がスクリーニングされ,200例が無作為化され,99例がオープンラングアプローチ群に,101例がARDS networkプロトコル群に割り付けられた.主要評価項目は60日およびICU死亡率,人工呼吸器非装着日数とした.60日死亡率(オープンラングアプローチ群29% vs 33%ARDS Networkプロトコル群,p=0.18,log rank検定),ICU死亡率(オープンラングアプローチ群25% vs 30%ARDS Networkプロトコル群,p=0.53,Fisher's正確確率検定),人工呼吸器非装着日数(オープンラングアプローチ群8[0-20] vs 7[0-20] ARDS Networkプロトコル群,p=0.53,Wilcoxon rank検定)に有意差はみられなかった.24,48,72時間時点での気道駆動圧(プラトー圧ーPEEP)およびPaO2/FiO2はARDS Networkプロトコル群に比してオープンラングアプローチ群で有意に改善していた.圧損傷は両群間で同等であった.
【結 論】
ARDS患者において,オープンラングアプローチは死亡率,人工呼吸器非装着日数,圧損傷に対する効果減弱なしに酸素化と駆動圧を改善した.本予備試験は,ARDS遷延例におけるリクルートメント手技とPEEP漸減を用いた大規模研究が必要であることを支持する.