【文献】急性気道感染症に対する抗菌薬使用のアドバイス(米国内科学会&CDC)
■今回このHigh-Value Care initiativeとして,米国内科学会と米国CDCが共同で,成人の急性気道感染症(気管支炎,咽頭扁桃炎,感冒,副鼻腔炎)に対する抗菌薬の適正使用を促す文献がAnnals Internal Medicine誌にでましたので紹介します.と言っても感染症を少しでも勉強した人にとっては当たり前のことしか書いてませんが,この当たり前のことが全然守られていないのが実臨床です.先日のJAMA Internal Medicine誌に報告された「急性呼吸器感染症では抗菌薬はすぐに処方せず一旦待つのがいい」という結果になったDAP study(http://drmagician.exblog.jp/23990355/)もあわせると,いきなり最初から抗菌薬を使うケースはほとんどないはずです.おそらく,抗菌薬による有害事象は極めて軽視されています(有害事象が出ていてもそれが抗菌薬によるものと気づかれないこともしばしば).
■耐性菌や有害事象等の問題は病院のみでは解決できませんが,感染対策加算が始まって以降,抗菌薬適正使用が病院においては推進されているものの,プライマリの現場ではまったく進んでいないのが実態だと思いますし,特に年配の開業医さん相手に抗菌薬適正使用の直接介入を行うことは極めて難しいです(私はもうあきらめて,感染対策加算ブームに乗っかった世代に交代するのを待つしかないなと思ってます).ただし,間接的介入はまだできる余地があるのではないかと思います.もっとも抗菌薬処方は患者側が不要なのに「抗菌薬を欲しい」と求めてくることもあるからです.昨年から始まった世界抗菌薬啓発週間等も使って市民へ啓発していくこともひとつの手段だと思います.
成人における急性気道感染症における適切な抗菌薬使用:米国内科学会および疾病管理センター(CDC)からのHigh-Value Careのためのアドバイス
Harris AM, Hicks LA, Qaseem A; High Value Care Task Force of the American College of Physicians and for the Centers for Disease Control and Prevention. Appropriate Antibiotic Use for Acute Respiratory Tract Infection in Adults: Advice for High-Value Care From the American College of Physicians and the Centers for Disease Control and Prevention. Ann Intern Med. 2016 Jan 19 [Epub ahead of print]
PMID:26785402
Abstract
【背 景】
急性気道感染症(Acute respiratory tract infection;ARTI)は成人において抗菌薬処方理由として最も多い.ARTI患者に対しては抗菌薬はしばしば不適切に処方されている.本文献は,ARTIを呈した健常成人(慢性肺疾患や免疫不全状態を除く)において,抗菌薬処方の最良のプラクティスを提示するものである.
【方 法】
成人のARTIに対する適切な抗菌薬使用についてのエビデンスのナラティブな文献レビューを行った.専門的学会の最も最近の臨床ガイドラインを,メタ解析,システマティックレビュー,無作為化比較試験で補完した.エビデンスに基づいた文献を抽出するため,Medical Subject Headings(MeSH)用語である"acute bronchitis(急性気管支炎)","respiratory tract infection(気道感染症)","pharyngitis(咽頭炎)","rhinosinusitis(副鼻腔炎)","the common cold(感冒)"
を用いて,2015年9月までCochrane Library,PubMed,MEDLINE,EMBASEで検索した.
【High-Value Care アドバイス1】
臨床医は肺炎に進展していない気管支炎が疑われた患者において検査や抗菌薬治療の開始を行うべきではない.
【High-Value Careアドバイス2】
臨床医は,A群溶連菌咽頭炎が疑われる症状(例えば,遷延する発熱,前頸部リンパ節炎,咽頭扁桃の浸出液,あるいは他の症状の合併)の患者には迅速抗原感知テストと/またはA群溶連菌の培養の検査を行うべきである.臨床医は溶連菌咽頭炎と確認した場合においてのみ抗菌薬による治療を行うべきである.
【High-Value Careアドバイス3】
臨床医は,10日間以上の遷延する発熱,重篤な症状または高熱(>39℃)かつ3日連続で続く膿性鼻汁または顔面痛の発症,5日間の典型的ウイルス疾患の初期改善に続発する症状悪化(重複感染)を呈するまで急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療を温存すべきである.
【High-Value Careアドバイス4】
臨床医は感冒患者に対して抗菌薬を処方すべきではない.