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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】遺伝子組み換えトロンボモデュリンは敗血症性DICの死亡率を改善する(JSEPTIC-DIC study)

■先日の第43回日本集中治療医学会で発表されたJSEPTIC-DIC studyの結果が早くもonline publishとなりました.敗血症のデータベースとしては日本救急医学会や日本集中治療医学会が行ったSepsis Registryがありますが,本研究で得られたデータは症例数が1桁違う最大かつ最新のものです.以前にTagamiらが報告しているDPCデータのpropensity score解析と同じく,propensity scoreによるマッチング法,IPTW法,層別解析法を用いており,いずれにおいても遺伝子組み換えトロンボモデュリン(rhTM)が敗血症性DICの死亡率を有意に改善するという結果でした.ICUにおける細かいデータが入っているため,DPCデータ解析よりもより信頼性は高いと思われます.もちろんJSEPTIC-DIC studyはRCTではありませんが,これまでの集中治療領域の研究では,RCTとpropensity score解析の研究とでeffect sizeは違えどそのベクトルは同じとの傾向が知られています.これを裏付けられるかどうかは海外で現在行われているPhaseⅢにかかっています.

■以前に本ブログでrhTMに関するレビュー記事(http://drmagician.exblog.jp/22868432/)を書いた際に,RCTで死亡率改善効果がみられず,観察研究では改善が得られているのは,研究デザイン以外に患者の重症度が関与していることを述べました.軽症の感染性DICはDIC治療薬を用いずとも抗菌薬治療のみであっさり改善することは日常的に経験されますから,このような軽症患者を含む集団でrhTMの効果を検証したRCTを行っても有意差がつくはずがありません.これまでの研究結果から,せめてAPACHEⅡスコア20~25以上でなければ有意差はつかないでしょう.この傾向はJSEPTIC-DIC studyの別の解析においてもみられています.rhTMの海外PhaseⅢがpositiveにでるか否かは登録された患者の重症度にかかっていると考えています.
敗血症性DICにおける遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンと死亡率:多施設共同後ろ向き研究(JSEPTIC-DIC study)
Hayakawa M, Yamakawa K, Saito S, et al; Japan Septic Disseminated Intravascular Coagulation (JSEPTIC DIC) study group. Recombinant human soluble thrombomodulin and mortality in sepsis-induced disseminated intravascular coagulation. A multicentre retrospective study. Thromb Haemost. 2016 Mar 3;115(6). [Epub ahead of print]
PMID: 26939575

Abstract
【背 景】
遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリン(rhTM)は播種性血管内凝固を治療する抗凝固薬の新しいクラスの薬剤である.日本中の臨床現場においてrhTMは広く使用されているにもかかわらず,敗血症性DIC患者におけるrhTMの使用を支持する臨床エビデンスは限られている.さらに,rhTMは他の国のDIC治療においては承認されていない.

【目 的】
本研究の目的は,重症患者におけるrhTMの投与の生存利益を明らかにすることである.

【方 法】
2011年1月から2013年12月までに重症敗血症および敗血症性ショックの治療を受けるため42のICUに入院した3195例の連続的な成人患者のデータを後ろ向きに解析し,1784例が日本救急医学会DICによるスコアリングアルゴリズムに基づいてDICと診断された(rhTM群645例,対照群1139例).

【結 果】
傾向スコア(Propensity score)マッチングにより452のペアが作られ,傾向スコアマッチング集団においてロジスティック回帰解析により,rhTM投与と低い院内全死亡率との間に有意な関連性がみられた(OR 0.757; 95 %CI 0.574-0.999; p=0.049).傾向スコア逆数重みづけ(IPTW法)と四分位層別解析においても,rhTM投与と低い院内全死亡率との間には有意な相関がみられた.傾向スコアマッチング後rhTM群における生存期間は,傾向スコアマッチング後対照群よりも有意に長かった(HR 0.781; 95%CI 0.624-0.977, p=0.03).出血合併症頻度はrhTM群においてより多いことはなかった.

【結 論】
結論として,本研究は,rhTMの投与が敗血症性DIC患者において院内全死亡率減少に関連していることを示した.

by DrMagicianEARL | 2016-03-10 09:00 | 敗血症性DIC

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