【文献】グリコペプチド系,βラクタム系の薬剤熱
■薬剤熱のうち最も多い機序は過敏反応で,抗原抗体複合体,T細胞性免疫反応など様々な要因があり,薬剤投与から数日~3週間以内に生じやすいとされています.ときには投与開始から数年後に発症したり,複数の薬剤が組み合わさることで生じることもあり,診断が容易ではないこともしばしばあります.また,投薬中止から3-4日以内に解熱するのが一般的ですが,1週間ほどかかるケースもあります.抗菌薬としてはβラクタム系,ST合剤が特にこれにあてはまります.また,そのほかの抗菌薬による薬剤熱の機序としては,静注投与に特異的なもの(薬剤溶液のエンドトキシンなどの外因性発熱物質による汚染,化学性静脈炎,投与部位の炎症や無菌性膿瘍など)としてペンタゾシン,アンホテリシンBが,薬剤作用(Jarisch-Herxhemier反応)などが知られています.
■特徴としては,発熱のわりに元気で頻脈もそれほどなく(比較的徐脈),CRPも軽度上昇程度にとどまっていることが多いです.問診上は過去の薬剤使用歴はもちろんアトピー性皮膚炎の既往もヒントになります.皮疹(斑状丘状皮疹maculopapular)がでることもあります.検査所見では白血球数上昇(左方移動も多い),赤沈亢進,肝機能異常,軽度CRP上昇などが特徴です.
感染症コンサルテーション中に診断された薬剤熱の後ろ向き解析
Yaita K, Sakai Y, Masunaga K, et al. A Retrospective Analysis of Drug Fever Diagnosed during Infectious Disease Consultation. Intern Med 2016; 55(6): 605-8
【目 的】
日本での薬剤熱に関する現在の状況を明確にするために,我々の施設において感染症のコンサルテーションを受けた患者を後ろ向きに解析した.
【方 法】
2014年4月から2015年3月までに,久留米大学附属病院で感染症のコンサルテーションがあった388例の患者から薬剤熱の患者の記録を抽出した.我々は患者のカルテをレビューし,薬剤熱の特性をまとめた.
【結 果】
本研究は16例の患者の記録が登録された.既知の報告から臨床徴候(比較的徐脈,薬剤投与から発熱までの期間,薬剤中断と解熱までの期間),血液検査(多様な白血球数,CRP低値,トランスアミナーゼの軽度上昇)が適合した.薬剤確認例では,一般的でない原因と考えられた5例がグリコペプチド系(バンコマイシン3例,テイコプラニン2例),他の5例はβラクタム系であった.加えて,プロカルシトニンを計測された11例のうち10例においてプロカルシトニンレベルは陰性または低値であった(0.25≦ng/mL).
【結 論】
我々の知見は,βラクタム系と同様にグリコペプチドが薬剤熱の要因となる可能性を示した.さらに,プロカルシトニンは,他の詳細な所見との併用においてのみであるが,薬剤熱の診断の補助となる可能性がある.