■敗血症病態においては全身性炎症反応症候群であるSIRSとその反対の抗炎症性に働くCARSが起こるとされており,その混合病態はMARSと呼ばれ,この状態は病状が落ち着いてからも遷延するとされています(PICS:Persistent Inflammation-immunosuppression Catabolism Syndrome).今回はそれに関する研究を紹介します.敗血症生存者は免疫能が低下していると考えた方がいいでしょう(免疫学的麻痺:immunoparalysis).
敗血症に起因する長期の免疫学的麻痺 - 記述的探索的研究結果
Arens C, Bajwa SA, Koch C, et al. Sepsis-induced long-term immune paralysis - results of a descriptive, explorative study. Crit Care 2016 Feb 29; 20(1): 93
PMID:27056672
Abstract
【背 景】
免疫系の長期的障害は敗血症生存後の晩期の死亡の根本的な原因として考えられている.我々は初回の敗血症の生存者において,免疫系の変化が遷延するという仮説を検証した.
【方 法】
本前向き横断予備研究では,カテコラミンを要した敗血症から生存した8例の元患者と年齢,性別,糖尿病,腎不全でマッチした8例の対照者を登録した.各参加者は既往,薬剤内服歴,感染症既往についてアンケートを行った.末梢血は,α-CD3/28,LPS,ジモサンによって刺激を加えた全血でⅰ)免疫細胞サブセット(CD4+,CD8+T細胞;CD25+CD127-制御性T細胞;CD14+単球),ⅱ)細胞表面受容体発現(PD-1,BTLA,TLR2,TLR4,TLR5,Dectin-1,PD-1L),ⅲ)HLA-DR発現,ⅳ)サイトカイン分泌(IL-6,IL-10,TNF-α,IFN-γ)を計測するため採取した.
【結 果】
敗血症生存後に,元患者は,免疫系の障害に典型的に関連した臨床的に明らかな感染症の数の増加を呈した.標準的な炎症マーカーは,元敗血症患者において低いレベルの炎症を示した.CD8+細胞表面受容体ならびに単球HLD-DR密度の数値は二群間で有意差はみられなかったが,一方でCD4+T細胞はPD-1およびBTLAによる負の免疫調節の対向機序の傾向がみられた.加えて,敗血症後群は単球表面の明確なパターン認識受容体の発現において変化が見られ,最も顕著だったのはTLR5発現の減少であった.自然免疫系(LPS,ジモサン)および獲得免疫系(α-CD3/28)の両方の重要な活性化因子への反応におけるサイトカイン分泌は元敗血症患者において弱まっていた.
【結 論】
免疫系の異なる活性化因子への反応としてのサイトカイン分泌は,敗血症生存者において総合的に障害されていた.とりわけ,これは明確な細胞表面受容体のダウンレギュレーションの傾向に基づいていた.我々の結果に基づくと,変化を特徴づけ,係合する潜在的な治療ターゲットを見つけることを目的としたより大きな検証研究の実施が可能と思われる.