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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】肺炎球菌毒素投与マウスにおいてNSAIDs投与は死亡率悪化,抗ロイコトリエン拮抗薬投与は改善を示す

■久々の更新になります.今回は基礎研究ですがなかなか興味深かったのでとりあげました.

■肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)の代表的な毒素にpneumolysin(ニューモリシン)があります.肺炎球菌が気道に感染するとそこで増殖し,autolysin(オートリシン)により一定の割合の菌体が自己融解を起こし,ニューモリシンを放出します.ニューモリシンは感染した気道上皮細胞の細胞膜上にmembrane pore formationを形成して細胞膜を穿孔させ,細胞を死滅させます(J Mol Biol 1998; 284: 449–61).また,ニューモリシンはこれとは異なる機序でマクロファージのリソソーム膜を透過させてマクロファージのアポトーシスを誘導させることも知られています(MBio 2014; 5: e01710-14).さらに,RSウイルスのGグリコプロテインは肺炎球菌のペニシリン結合蛋白(PBP)1aに結合することでニューモリシンなどの毒素産生遺伝子の発現をアップレギュレーションし,RSウイルスと肺炎球菌の混合感染が重症度と死亡率を悪化させることも報告されています(Am J Respir Crit Care Med 2014;190:196-207)

■このように厄介な毒素ニューモリシンですが,マクロライド系抗菌薬は,抗菌作用以外にニューモリシン抑制効果を有することも知られています(Eur Respir J 2006; 27: 1020-5).今回,このニューモリシンによる毒素を投与されたマウスにNSAIDsを投与すると死亡率が悪化し,抗ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト)を投与すると死亡率が改善されたという報告が出ましたので御紹介します(前者はアブストラクトになく本文参照).抗ロイコトリエン拮抗薬がこのような作用を有していたとは驚きでした.ぜひ臨床研究に繋げていただきたい知見です.また,敗血症や肺炎球菌肺炎ではNSAIDsはよくないであろうとは言われていましたが,今回肺炎球菌肺炎でのNSAIDsによる増悪機序(ニューモリシンに対する保護作用を有する12-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸をNSAIDsが抑制)がこのように分かったのは非常に興味深いなと思いました.
ロイコトリエンB4第2受容体はニューモリシンによる急性肺傷害から個体を防御する
Shigematsu M, Koga T, Ishimori A, et al. Leukotriene B4 receptor type 2 protects against pneumolysin-dependent acute lung injury. Sci Rep 2016 Oct 5;6:34560
PMID:27703200

Abstract
【背 景】肺炎球菌感染は世界的に深刻な問題であり,死亡率も高いにもかかわらず,肺炎球菌による致死的な分子機序は発見されていないままである.我々はロイコトリエンB4および12(S)-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸(12-HHT)のG蛋白共役受容体であるBLT2が肺炎球菌毒素ニューモリシン(PLY)による肺傷害からマウスを保護することを示した.

【結 果】BLT2欠損マウスにおいて,PLYの気道内投与は血管外漏出と気管支収縮を伴う致死的な急性肺傷害(ALI)を引き起こした.アナフィラキシーの低速反応物質として古典的に知られている大量のシステイニルロイコトリエン(cysLTs)がPLY投与肺から検出された.PLYに依存した血管外漏出,気管支収縮,死亡はCysLT1受容体拮抗薬の投与により著明に改善した.PLY刺激下では,血管内皮細胞および気管支平滑筋細胞に発現する,CysLT1により活性化された致死的血管外漏出と気管支収縮を誘導するcysLTsをマスト細胞が産生していた.12-HHTの産生を阻害し,PLYへの感受性を増加させるアスピリンまたはロキソプロフェンを投与されたマウスもまたCysLT1拮抗薬によって改善した.

【結 論】本研究ではPLY依存性ALIの分子機序を発見し,肺炎球菌感染によるALIに対する保護的治療手段としてCysLT1拮抗薬が使用できる可能性が示唆された.

by DrMagicianEARL | 2016-10-12 00:00 | 肺炎

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