【文献】ICUで早期経腸栄養を受けている人工呼吸患者へのPPIは有益性なし(POP-UP trial)
■集中治療の進歩に伴ってストレス潰瘍出血率が低下してきた背景には早期経腸栄養の普及が関連していると言われています.実際,経腸栄養時にストレス潰瘍予防が必要かについては,経腸栄養を行った方がむしろ消化管出血を抑えるという報告が以前からあります.近年のMarikらのメタ解析(Crit Care Med 2010; 38: 2222-8)では,H2RAの消化管出血予防効果は全体では認められるが,経腸栄養を施行した患者に限定したサブ解析ではH2RA投与有無で消化管出血リスクに影響はなく,経腸栄養そのものが上部消化管出血を予防する可能性を示唆する結果となっています.
■これは,経腸栄養によってプロスタグランジン分泌と消化管血流が改善する,胃内pHが経腸栄養によって希釈され上昇する,ストレス起因性の迷走神経刺激伝達系を経腸栄養が抑制することなどが理由と考えられています.さらに,H2RAは全体では肺炎,死亡率を増加させなかったが,経腸栄養患者ではH2RAを投与した方が肺炎や死亡率が増加しています.以上から,経腸栄養はストレス潰瘍に対する予防効果があり,経腸栄養施行患者へのストレス潰瘍予防薬投与は合併症リスクが増加する可能性があることを考慮すると必要性は低いかもしれない,ということが言われるようになりました.
■今回紹介する論文はまさに早期経腸栄養患者でのPPIの必要性可否を問うものです.結果は,PPI群・プラセボ群いずれも臨床的に意義のある出血はゼロ,その他あらゆるアウトカムに有意差なしという結果.サンプル数が少ないですが,前述の流れも考慮すれば予想された結果ではあり,少なくともPPIをルーチンで使用する必要はないのかなという印象です.使用するにしてもASHPガイドラインの適用範囲を超えて使用する必要性はないと思われます.
ストレス潰瘍予防におけるパントプラゾールとプラセボ(POP-UP):無作為化二重盲検探索比較試験
Pantoprazole or Placebo for Stress Ulcer Prophylaxis (POP-UP): Randomized Double-Blind Exploratory Study. Crit Care Med 2016; 44: 1842–50
Abstract
【目 的】
パントプラゾールは消化管出血の予防として重症患者に頻回に投与されている.しかし,プラセボとの比較は不適切に評価されており,パントプラゾールは潜在的な有害を有する.我々の目的は,パントプラゾール投与の益と害を評価することである.
【方 法】
本研究は前向き二重盲検無作為化並行群間比較試験である.研究は大学病院の内科外科混合ICUで行った.患者は経腸栄養が適用となった人工呼吸器を装着した重症疾患患者である.我々は患者を毎日プラセボ静注群とパントプラゾール静注群に無作為に割り付けた.主要評価項目は臨床的に意義のある消化管出血,感染による人工呼吸器関連合併症もしくは肺炎,Clostridium difficile感染症とした.副次評価項目は明らかな出血,ヘモグロビン濃度,死亡率とした.
【結 果】
無作為化された214例の患者のうち,臨床的に意義のある消化管出血エピソードを有した患者はいなかった.3例(プラセボ群1例 vs パントプラゾール群2例)の患者は感染による人工呼吸器関連合併症または肺炎の基準を満たし,1例(0例 vs 1例)がClostridium difficile感染症と診断された.パントプラゾールの投与は明らかな出血率(6例 vs 3例; p=0.50),赤血球輸血施行で調整した毎日のヘモグロビン濃度(p=0.66)においていかなる差も認められなかった.死亡率は両群間で同等であった(log-rank検定 p=0.33: 調整後のパントプラゾールのハザードリスク 1.68 [95% CI0.97–2.90]; p=0.06).
【結 論】
経腸栄養を受ける人工呼吸器を装着した重症疾患患者に対するパントプラゾールの予防的投与において益と害の根拠は得られなかった.ストレス潰瘍予防のための重症疾患患者への酸抑制薬ルーチン投与のプラクティスについてはさらなる評価が必要である.