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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】ICU患者のSpO2 94-98%の管理は≧98%の管理より死亡リスクが43%低下(Oxygen-ICU trial)

■私は普段から口酸っぱく「高酸素血症は(挿管処置時をのぞく)一利なしどころか有害,SpO2が98%以上なら投与酸素量はすみやかに下げるべき」と言っています.医療従事者は低酸素血症には敏感ですが,高酸素血症は放置してしまうことが多々あり,その根底には,高酸素血症は有害でないという勘違い,SpO2 98%以上はPaO2 100-500mmHgに相当することが周知されていない,SpO2が高いときにモニターアラームが鳴るような設定がほとんどされていない,ということが挙げられると思います.

■高酸素血症のデメリットは何かと聞くと,多くの人は高炭酸ガス血症による呼吸性アシドーシス,さらにはCO2ナルコーシスを挙げると思いますが,それ以外のデメリットを挙げられますか?これまで分かっている知見では,肺胞内酸素が急激に吸収されることによる肺胞虚脱,肺サーファクタントの減少が生じることによる気道閉塞,吸収性無気肺,さらにはこれらの影響によるずり応力(shear stress)による肺傷害(atelectrauma)から炎症を惹起してARDS悪化の要因となりえます.また,気管支繊毛が不全状態となり気道クリアランスが低下することによる感染リスク増大,急性心筋梗塞における冠血流量低下や梗塞範囲増加などがあります.実際,観察研究では高酸素血症で死亡率が増加している報告が救急集中治療領域でいくつも報告されており,そのうちのいくつかは低酸素血症よりも死亡率が高くなっています.

■今回御紹介するRCT,Oxygen-ICU trialは高酸素血症を回避する酸素療法プロトコル(SpO2 94-98%に管理)と,高酸素血症を許容する従来の酸素療法(SpO2 98-100%,上限PaO2 150mmHg)を比較したところ,高酸素を回避した方が死亡リスクが43%有意に低下したという結果(NNT 11.6)となり,これまでの観察研究結果を指示する結果となりました.ちなみに私はICU患者に対しては本研究の高酸素回避プロトコルよりもさらに低いSpO2(目標値88-92%)で管理しています.

■なお,高酸素血症の有害性等は以下の記事にまとめておりますのでご参照ください.
SpO2の落とし穴 ~酸素投与患者の「SpO2 99%」を見て安心してませんか?~
http://drmagician.exblog.jp/22262792/
集中治療室の患者の死亡率における保守的vs従来型酸素療法の効果:Oxygen-ICU無作為化比較試験
Girardis M, Busani S, Damiani E, et al. Effect of Conservative vs Conventional Oxygen Therapy on Mortality Among Patients in an Intensive Care Unit: The Oxygen-ICU Randomized Clinical Trial. JAMA 2016, Oct.5 [Epub ahead-of-print]

Abstract
【背 景】
不必要な酸素療法による潜在的有害性が示唆されているにもかかわらず,重症疾患患者は相当な期間高酸素血症状態となっている.動脈血酸素化のコントロール戦略は合理的ではあるが,臨床においては評価されていない.

【目 的】
酸素投与の保守的プロトコルは集中治療室(ICU)に入室した患者の予後を改善しうるかを評価する.

【方 法】
Oxygen-ICU試験は2010年3月から2012年10月までに,イタリアのモデナ大学病院の内科外科ICUに72時間以上入室することが予測された全患者を登録して行われた単施設オープンラベル無作為化臨床試験である.原案でのサンプルサイズは660例であったが,480例を登録した後,登録が困難との判断で早期中止となった.

【介 入】
患者は,PaO2を70-100mmHgまたは動脈血酸素飽和度SpO2を94-98%に維持するように酸素療法を受ける群(保守群)と,標準的ICUに沿ってPaO2を150mmHgまでまたはSpO2を97-100%まで許容する群(従来群)に無作為に割り付けられた.主要評価項目はICU死亡率とした.副次評価項目は,ICU入室から48時間以上後の新規の臓器不全と感染症の発生率とした.

【結 果】
計434例(年齢中央値64歳,188[43.3%]が女性)が,保守的(218例)または従来的(216例)の酸素療法を受け,修正intent-to-treat解析に登録された.ICU在室中の毎日の時間加重平均PaO2は,保守群(PaO2中央値87mmHg [四分位範囲79-97])よりも従来群(PaO2中央値102mmHg [四分位範囲88-116])の方が有意に高かった(p<0.001).ICU在室中に,保守的酸素療法群で25例(11.6%),従来型酸素療法群は44例(20.2%)が死亡した(絶対リスク減少[ARR] 0.086 [95%CI 0.017-0.150]; 相対リスク[RR] 0.57 [95%CI 0.37-0.90]; p=0.01).新規のショックエピソード(ARR 0.068 [95%CI 0.020-0.120]; RR 0.35 [95%CI 0.16-0.75]; p=0.006),肝不全(ARR 0.046 [95%CI 0.008-0.088]; RR 0.29 [95%CI 0.10-0.82]; P =0.02),新規の血流感染(ARR 0.05 [95%CI 0.00-0.09]; RR 0.50 [95%CI 0.25-0.998; P =0.049)の発生率はは保守的酸素療法群の方が低かった.

【結 論】
72時間以上ICUに在室する重症疾患患者において,保守的酸素療法プロトコルは従来型治療と比較して低いICU死亡率であった.これらの予備的知見は計画されていなかった試験の早期中止に基づいており,本アプローチの潜在的利益の評価のためにはより大規模の多施設試験が必要である.

by DrMagicianEARL | 2016-10-17 00:00 | 文献

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