村中璃子氏のWSJ寄稿「日本の反ワクチンパニック拡散を止めること」をざっと日本語要約
■読んでいただければ分かる通り,反HPVワクチン騒動は日本の問題のみではなくなってきているようです.ワクチンに限った話ではないですが,根拠なき恐怖がもたらす実害は想像をはるかに超えた大きなものとなりえます.
全文・原文
Stopping the Spread of Japan’s Antivaccine Panic
Riko Muranaka
http://www.wsj.com/articles/stopping-the-spread-of-japans-antivaccine-panic-1480006636
日本の反ワクチンパニック拡散を止めること
寄稿:村中璃子氏
主な内容
■2013年6月、HPVワクチンが全国予防接種プログラムに含まれてからわずか2カ月後に有害な副反応疑いの報告が多数明らかとなったため、日本政府は積極的接種推奨を中止し、接種対象年齢層の女子のワクチン接種率は約70%から1%以下に低下した。
※日本産婦人科学会が同様のデータを発表しています。
■子宮頸がんは日本では毎年約9,300例の浸潤性子宮頸癌があり3,000例が死亡しており、多くは、HPVワクチンによって予防することができるものである。HPVワクチンの効果、有効性、安全性は何度も証明されていて、世界保健機構(WHO)および日本の医療機関によって支持され推奨されている。
※疫学データ,ワクチンについての詳細は以下の国立がん研究センターサイト,厚生労働省ホームページが参考になります
http://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html
■日本の厚生労働省の厚生科学審議会が策定した「ワクチン副反応検討部会」は、HPVワクチンと症状に因果関係はなく、ほとんどの症例は心身症の可能性が高いと結論づけた。名古屋市での約7万例の解析でも、ワクチン誘発症状とHPVワクチンとの間には有意な関連性は見られなかった。
※名古屋市のデータに関しては以下を参照ください(Wedge2016年6月)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7148
■しかし、2016年3月16日に、有害事象を調査するために政府から委託された主任研究者である信州大学の池田修一氏が、厚生労働省の科学研究費補助金の委員会で誤解を招く遺伝子やマウスの実験データを提示し、同日にテレビで「間違いなく脳障害の徴候がある。この結果は、このような脳障害を訴える患者に共通する客観的な所見を明確に反映している」と語っている。
■Wedge誌(2016年7月号参照)で村中璃子氏が報告した通り、ワクチン接種患者に統計的に有意な遺伝型はないことが判明、また、自己抗体沈着の証拠として提示された緑色蛍光の脳切片はワクチンを接種されたマウスのものではなく、1匹のマウスのみが使用されたチャンピオンデータであった。この告発のもと、信州大学は調査委員会を設置して調査を行い、11月15日に、信州大学は村中璃子氏の告発内容に同意する内容の記者会見を行ったが、データ捏造にはあたらないとした。一方で池田氏は実験の再現性を実証することを要求され、厳重注意を受けた。
※厚生労働省ホームページ参照
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp160316.html
※2016年11月16日読売新聞を参照
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161116-OYTET50005/
■厚生労働省は「厚生労働省としては、厚生労働科学研究費補助金という国の研究費を用いて科学的観点から安全・安心な国民生活を実現するために池田班への研究費を補助しましたが、池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての池田氏の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております。また、厚生労働省は、この度の池田班の研究結果ではHPVワクチン接種後に生じた症状がHPVワクチンによって生じたかどうかについては何も証明されていない、と考えております。」という前例のない声明を発表した。
※厚生労働省ホームページ参照
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp161124.html
■2016年7月以降、数十名の副反応疑いの被害者が、各地の地方裁判所に日本政府とワクチン製造会社に対して訴訟を起こした。日本のメディアはこの訴訟を取り上げたが、医学的根拠については無視しており、これは、原告の主張に対する信頼性を不当に高めている。
■HPVワクチンの問題は過去最大のワクチンスキャンダルであるウェイクフィールド事件を連想させる。1998年、アンドリュー・ウェイクフィールド氏はMMRワクチンが自閉症を引き起こしたという証拠としてLancet誌に「科学的データ」を発表したが、後に捏造であったことが判明し、2010年に論文は取り下げ、医師免許は取り消しとなっている。
※下の方にあるリンク参照
■今年の初めに、ウェイクフィールド氏は「Vaxxed:From Cover-Up to Catastrophe」という映画を発表した。自閉症の子どもをもつロバート・デ・ニーロがトライベッカ映画祭でこの映画を上映しようとした。これにより、米国での反ワクチン感情が再び高まった。
※補足:実際にはトライベッカ映画祭で上映されることが発表されると「科学的な信憑性が低い」との批判を浴び、上映中止となった。しかし、配給会社はマンハッタンのアンジェリカ・フィルム・センターで公開した。
■我々は傍観して科学的ではない主張が全世界の人命を危険にさらすような状況を許容すべきでない。日本政府はHPVワクチンの積極的な接種勧告を復活させ、他国もワクチンの不合理な恐怖がさらに勢いづく前に、肯定的な範を示すべきである。
【文献】ワクチンやそれに含まれるチメロサール,水銀は自閉症と関連しない.メタ解析(Wakefieldの論文捏造の詳細含む)
http://drmagician.exblog.jp/22025386/
MMRワクチンと自閉症の関連性に関する2014年8月の騒動について(Brian Hookerの不適切論文撤回)
http://drmagician.exblog.jp/22464500/