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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

日本版敗血症診療ガイドライン2016(3) 感染症診断,画像診断,感染源コントロール

CQ2.感染症の診断
CQ2-1.血液培養をいつどのように採取するか?

A.敗血症・敗血症性ショックの患者に対して,抗菌薬投与前に血液培養を採取する(EC)
 血液培養を採取するタイミングに関する良質なエビデンスはないためエキスパートコンセンサスとなってはいるが,抗菌薬投与前に血液培養2セットは感染症診療における基本であり強く推奨されるものである.もちろん日常診療では,抗菌薬が先に投与された状態で敗血症を診断することもあるが,その場合でも「抗菌薬濃度がトラフ付近,すなわち次回の抗菌薬投与直前に採取する」と推奨文に記載されている.また,「治療に対する反応が乏しく,抗菌薬を変更する際も,あらためて採取することが望ましい」となっている.

 血液培養採取の際の皮膚消毒に関しては,皮膚消毒と清潔手袋を用い,できる限りコンタミネーションを減らす必要がある.どの消毒薬が最良かについては,評価が定まっていないが,実臨床で考えるならば,即効性と持続性から1%クロルヘキシジンアルコール製剤(ヘキザック®など)が望ましいだろう.なお,1%クロルヘキシジンアルコールなら30秒,ポビドンヨード(イソジン®)なら2分間待つ必要がある.

 ちなみに,消毒薬は「乾くまで待つ」と教えられた人は多いのではないだろうか?これは大間違いである.消毒してから手であおいだりするのは全くの無駄である.基本的に両消毒剤もそれぞれ30秒および2分間たたないと効果がでないのであって,早く乾かしたところで効果が早まるわけではない

 また,血培ボトルへの分注時は新しい針に付け替えないこと,分注したボトルは置きっぱなしにしないこと(冷蔵庫保管は厳禁)も注意されたい.

 なお,血液培養で特定の菌が検出された際の対応についてここで記載しておく.

①肺炎桿菌,カンジダ
これらは播種性病変をつくることがあり,とくに眼内炎になれば失明する恐れがある.このためこの2菌種が血液培養陽性であれば必ず眼科コンサルトを行う必要がある.

②血液培養2セット中,片方のみから黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌,カンジダ
1セットのみであればコンタミの可能性はあるが対応が遅れると死亡リスクの高い原因菌となるため,抗菌薬治療を開始すべきである.

Staphylococcus lugdinensis
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の一種であるが,この菌種は感染性心内膜炎を引き起こし,予後悪化の原因となりうるため,心臓超音波検査を必ず行う必要がある.

Streptococcus gallolyticus(旧bovis),Clostridium septicum
これらは感染性心内膜炎の原因となるため心臓超音波検査が必要となることに加え,大腸癌の患者で本菌種による菌血症が生じることが知られているため,状態が落ち着けば下部消化管内視鏡検査を行うことを忘れないようにしなければならない.

 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑う場合以外ではCVカテーテルからの血液培養検体採取はコンタミネーションのリスクを考えると推奨されない,ただし,CRBSIを疑う症例ではカテーテルルーメンと末梢のそれぞれから血液培養検体を採取し,カテーテル血の方が2時間以上早く陽性になった場合はCVカテーテルが原因であると考えてもよい.
CQ2-2.血液培養以外の培養検体は,いつ何をどのように採取するか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対して,抗菌薬投与前に必要に応じて血液培養以外の各種培養検体を採取する(EC)
 良質なエビデンスはないためエキスパートコンセンサスとなってはいるが,原則として血液培養以外に抗菌薬投与前に感染巣から培養検体を採取することは必ず必要である.例外として,髄膜炎ではすぐに検体が採取できない場合は抗菌薬を先行投与してもよい(もっとも髄液に移行するまでは時間がかかる).
CQ2-3.グラム染色は培養結果が得られる前の抗菌薬選択に有用か?

A.経験的治療に採用する抗菌薬を選択する際に,培養検体のグラム染色所見を参考にしてもよい(EC)
 敗血症におけるグラム染色に関連する良質なエビデンスは存在せず,本ガイドラインで推奨を提示することはできないため,エキスパートコンセンサスとなっている.グラム染色は敗血症診療において必須とは言えないまでも,慣れていればある程度の菌種(肺炎球菌,連鎖球菌,ブドウ球菌,腸球菌,アシネトバクター,インフルエンザ桿菌,モラキセラ,緑膿菌など)は同定可能であり,敵が早めに分かりやすいという意味では武器にすると敗血症診療はよりやりやすくなるだろう.

CQ3.画像診断
CQ3-1.感染巣診断のために画像診断は行うか?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために画像診断を行うことを推奨する(EC)
 あらためて説明するまでもなく必須である.各感染症において具体的にどのような画像検査が必要であるかの詳細が推奨文に記載されているので参照されたい(50ページ).
CQ3-2.感染巣が不明の場合,早期(全身造影)CTは有用か?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために早期(全身造影)CTを行うことを推奨する(EC)
 感染巣が不明な場合の造影CTの有効性についてはRCTレベルのエビデンスはないものの観察研究が複数あり,行わない場合に比して診断率は著明に向上している.もちろん造影剤腎症のリスクはあるが,得られる情報量,感染巣を特定する確率が大幅に上がることを考慮すれば,造影剤腎症を危惧して造影CTを躊躇する必要はないと推奨文にも記載されている.

CQ4.感染源のコントロール

感染源コントロールは抗菌薬以上に威力のある感染症治療手段であり,逆に言えば,適切な感染源コントロールがなされていない場合はいかに適切な抗菌薬を投与しても救命は困難となりやすいことは既に多くの医師が経験していることであろう.とりわけ敗血症においては感染源コントロールのDDD(Drainage,Debridement,Device除去)を迅速に行わなければならない.SSCG 2012でも感染源コントロールは12時間以内に行うことを推奨している.
CQ4-1.腹腔内感染症に対する感染源コントロールはどのように行うか?

A.腹腔内感染症による敗血症に対しては感染巣コントロールを可能な限り早期に行うことを推奨する(EC/D)
 本CQに対応するRCTは存在しないが(倫理的にRCTはもはや不可能),多施設前向き観察研究においては感染巣コントロールが死亡率を改善することが方置くされており,各種ガイドラインでも強く推奨されている.消化管穿孔による敗血症では,手術による感染巣コントロールが遅れるほど死亡率が上昇することが複数の研究で示されていることからも,できるだけ早期に行う必要が示唆される.
CQ4-2.感染性膵壊死に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

A.感染性膵壊死による敗血症患者に対しては,

タイミング
全身状態が安定している場合,インターベンション治療は急性壊死性貯留が被包化(walled-off necrosis, WOW)される発症後4週以降まで待つことを弱く推奨する(2C).全身状態が不安定な場合,インターベンション治療は発症後4週間を待たずに実施することを弱く推奨する(EC)

処置方法
まずドレナージ(経皮的または内視鏡的経消化管的)を行い,改善が得られない場合には壊死組織切除(後腹膜的または内視鏡的アプローチ)を行うことを弱く推奨する(2C)
 他の敗血症と異なり,感染性膵壊死では発症早期での介入は行わない.これは,時間が経過することで壊死部位と正常部位の識別が容易になるためである.実際,2-3週間待ってからデブリドマンを行った方が治療成績がよいことがMierらのRCT(Am J Surg 1997; 173: 71-5)と2報の症例集積研究(J Gastrointest Surg 2002; 6: 481-7,Ann Surg 2001; 234: 572-9)で示されている.
CQ4-3.敗血症患者で血管カテーテルを早期に抜去するのはどのような場合か?

A.血流感染が疑われた場合に限り,血管カテーテルを早期に抜去することを弱く推奨する(2D)
 発熱だけでカテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑ってカテーテルを全例で抜去することは推奨されない.しかし,重症度が敗血症まで進展している場合,感染源の可能性があるカテーテルは早期抜去が必要である.敗血症進展例でカテーテル抜去有無を検討したRCTは存在しないが,早期に抜去することが死亡率の改善につながったとする観察研究は存在している.なお,中心静脈カテーテルや動脈カテーテルだけでなく,末梢サーフローでも中心静脈カテーテルの1/5の確率ではあるがCRBSIが起こりうることを忘れてはならない(Mayo Clin Proc 2006; 81: 1159-71)

 「コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)によるCRBSIでは抜去しなくてもいいか?」とコンサルトを受けることがある.確かにCNSによるCRBSIは比較的予後がいいため抜去しない選択肢もありえるが,それでも再発率は20%あるため(Infect Control Hosp Epidemiol 1992; 13: 215-21),(しかも敗血症に進展しているのであれば)原則抜去すべきである(Lancet Infect Dis 2007; 7: 645-57)
CQ4-4.尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による敗血症の感染源のコントロールはどのように行うか?

A.尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による敗血症に対しては,経皮的腎ろう増設術あるいは経尿道的尿管ステント留置術による迅速な感染源コントロールを行うことを推奨する(EC)
 RCTは存在しないものの,排尿によるドレナージが効かない状態であることを考えれば当然行うべきものであり,米国や欧州の泌尿器学会のガイドラインでも強く推奨されている.
CQ4-5.壊死性軟部組織感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

A.壊死性軟部組織感染症による敗血症に対しては早期に外科処置を行うことを推奨する(EC)
 RCTは存在しないものの各種ガイドラインで強く推奨されている.また,診断から24時間以内に行うことで20%程度死亡率が改善することが知られている.

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by DrMagicianEARL | 2017-01-05 16:49 | 敗血症