【文献】院内心停止患者への気管挿管は生存率,心拍再開率,神経学的予後を悪化させる
■もっともこれは救急集中治療領域でのビッグデータでのpropensity score matching解析ですので,多数の重要な説明変数の欠落が想定されますから(結論でも潜在的交絡についてlimitationとして述べていますが,交絡が大きすぎる気もします),信憑性に関してはまだ何とも言えませんが・・・.こういう研究デザインでガイドラインの推奨に影響を与えるってどうなんでしょうね?普通に考えれば,挿管するか否かはその場での患者状況等に左右されますし,ビッグデータではそういったデータは含まれてきません.挿管した患者の方がベースが重症な可能性がある以上,予後が悪いというのは当然の話とも言えます.なので一概に気管挿管が悪いこととはとらえない方がいいかと思います.関連性と因果関係は別の話ですし.
成人の院内心停止における気管挿管と生存との関連
Andersen LW, Granfeldt A, Callaway CW, et al; American Heart Association’s Get With The Guidelines–Resuscitation Investigators. Association Between Tracheal Intubation During Adult In-Hospital Cardiac Arrest and Survival. JAMA. 2017 Feb 7;317(5):494-506
PMID: 28118660
Abstract
【背 景】
気管挿管は成人の院内心停止の際に一般的に行われているが,このような状況での気管挿管と生存の関連性については知見が少ない.
【目 的】
成人の院内心停止において気管挿管が退院時生存に関連しているかについて検討する.
【方 法】
本研究は,2000年1月から2014年12月まで米国の院内心停止の多施設レジストリであるGet With The Guidelines-Resuscitationレジストリに登録された院内心停止をきたした成人患者の観察コホート研究である.心停止時に侵襲的気道確保がなされていた患者は除外した.任意の時間(0-15分)に挿管された患者は,複数の患者,イベント,病院の特性から計算された時間依存性傾向スコアに基づいて,同じ時間以内(すなわち,まだ蘇生を受けている)に挿管されるリスクのある患者とマッチさせた.曝露(介入)は心停止の気管挿管とした.主要評価項目は退院時生存とした.副次評価項目は心拍再開(ROSC)と良好な機能予後を含めた.脳機能カテゴリースコア(CPCスコア)1点(神経学的欠落が軽度もしくはなし)または2点(中等度の脳機能障害)を良好な機能予後とした.
【結 果】
傾向スコアマッチングコホートは668病院の成人患者108079例が抽出された.年齢中央値は69歳(四分位範囲58-79歳)で,45073例(42%)が女性であり,24256例(22.4%)が生存退院した.71615例(66.3%)は最初の15分以内に挿管され,43314例(60.5%)は同じ時間で挿管されなかった患者とマッチした.生存率は,43314例中7052例(16.3%) vs 43314例中8407例(19.4%)(RR 0.84; 95%CI 0.81-0.87; P<0.001)で,挿管された患者の方が挿管されなかった患者よりも低かった.ROSCが得られた患者の比率は,43311例中25022例(57.8%) vs 43310例中25680例(59.3%)(RR 0.97; 95%CI 0.96-0.99; P<0.001)で,非挿管患者よりも挿管患者の方が低かった.良好な機能予後も,41868例中4439例(10.6%) vs 41733例中5672例(13.6%)(RR 0.78; 95%CI 0.75-0.81; P<0.001)で,非挿管患者よりも挿管患者の方が低かった.事前に規定されたサブグループ解析で差が見られたが,いかなるサブグループでも挿管は予後改善と関連していなかった.
【結 論】
院内心停止の成人患者において,蘇生の最初の15分間での任意の時間での気管挿管は,同じ時間での非挿管に比して,退院時生存の減少に関連していた.研究デザインは潜在的な交絡が除外していないが,本知見は成人の院内心停止において早期の気管挿管を支持しない.