【文献】デクスメデトミジンは敗血症患者の死亡リスクを改善するか?(DESIRE trial)
■昨日,人工呼吸器を要する敗血症患者へのデクスメデトミジンを検討した本邦8施設共同RCTであるDESIRE trialがJAMA誌にonline firstでpublishされたので御紹介します.サンプル数201例であり,検出力不足のためか死亡率や人工呼吸器非装着期間に有意差はなし,良好な鎮静管理はデクスメデトミジンの方が有意に多く,サブ解析ではAPACHEⅡスコア23以上の重症例に限定するとデクスメデトミジンが有意に死亡率を改善するという結果でした.
■この結果,いろんなことが言えるとは思います.まず第一に死亡率の絶対差が8%もあることです.サンプル数不足のため統計学的有意差はありませんが,臨床的には無視できない大きな差です.問題はこの8%が偶然の産物なのかですが,過去の報告を見ると,ICU患者を対象とした16報RCTのメタ解析であるCrit Care Med 2014; 42: 1442-54においては死亡リスクをアウトカムとしてデクスメデトミジンはOR 0.90,95%CI 0.76-1.06で改善傾向を示しており,本研究結果の効果推定値を考慮しても非一貫性はほぼないものと考えられ,偶然ではないであろうと推測できます(ただこのメタ解析は患者集団や介入の統一性が乏しく,もう少し絞り込んだシステマティックレビューが必要だろうとは思います).
■サブ解析ではAPACHEⅡスコア23以上でデクスメデトミジン群が有意に死亡率を改善しています.これは昨今の集中治療領域での研究でよく見られる「重症例ほど死亡率改善効果が得られやすい」と矛盾しないものです.ただし,確かにAPACHEⅡ≧23と<23とで効果推定値のベクトルは真逆ですが,95%信頼区間は半分ほど重なっています(なのでおそらく交互解析をしても有意差はでません).サブ解析はあくまでも恣意的に選んだ患者集団ですから,これをもってAPACHEⅡスコア23以上に対象を絞って再度RCTをやり直しても有意差がつくとは限りません(特に集中治療領域ではサブ解析を元にRCTを組んで有意差がだせた研究はほとんどありません).
■では,さらなるRCTを組むとしたらどれだけサンプル数を集めるかですが,ICU患者の死亡率が30%以下に突入している昨今,統計学的有意差という意味では限界が見えると最近感じています.差がまずつかないため,p値に縛られない解釈が必要だとは思います.例えば今回と同じデザインで行うならば,効果推定値0.69(相対死亡リスク31%減少),対照群の死亡率30.8%と仮定して死亡率で統計学的有意差を得るためにはサンプル数は約1000例は必要です.こんなサンプル数は日本だとまず無理でしょうし海外でもできるのはANZICSぐらいじゃないでしょうか?
■もしサブ解析結果をそのまま信じるなら,効果推定値0.39(相対死亡リスク61%減少),対照群死亡率が40%と仮定した場合120例で済みますが(と言っても患者集団を絞っているので患者登録期間は今回より長期化しやすくなってしまいますので,試験参加施設を増やす必要があります),前述の通りサブ解析を元にしたRCTはある意味博打です.次の研究でどのようなデザインを組むのかは悩ましい話だと思いますが頑張っていただきたいです.できればPICSの評価も・・・
敗血症で人工呼吸管理を要する患者における死亡率と人工呼吸器非装着日数におけるデクスメデトミジンの効果:無作為化比較試験(DESIRE trial)
Kawazoe Y, Miyamoto K, Morimoto T, et al; for the Dexmedetomidine for Sepsis in Intensive Care Unit Randomized Evaluation (DESIRE) Trial Investigators. Effect of Dexmedetomidine on Mortality and Ventilator-Free Days in Patients Requiring Mechanical Ventilation With Sepsis: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2017, Mar21 [Epub ahead-of-print]
Abstract
【背 景】
デクスメデトミジンは人工呼吸管理下の患者に鎮静作用を与えるが,敗血症患者の死亡率や人工呼吸器非装着日数への効果についてはよく研究はされていない.
【目 的】
デクスメデトミジンによる鎮静戦略が人工呼吸管理を受ける敗血症患者の臨床アウトカムを改善できるかについて検討する.
【方 法】
本研究は2013年2月から2016年1月までに日本の8つの集中治療室において行われた,少なくとも24時間の人工呼吸管理を要する成人敗血症患者201例を連続的に登録したオープンラベル多施設共同無作為化臨床試験である.患者はデクスメデトミジンによる鎮静(n=100)またはデクスメデトミジンを用いない鎮静(対照群;n=101)を受ける群に無作為化された.両群で他に用いた薬剤はフェンタニル,プロポフォール,ミダゾラムであった.主要評価項目は死亡率と人工呼吸器非装着日数(28日間)とした.Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(1,2,4,6,8病日),鎮静管理,せん妄・昏睡の発生,集中治療室入室期間,腎機能,炎症,栄養状態を副次評価項目として評価した.
【結 果】
203例の患者がスクリーニングされ,201例が無作為化された.平均年齢は69歳(標準偏差14年)であり,63%が男性であった.28日死亡率はデクスメデトミジン群と対照群で有意差はみられなかった(19例[22.8%] vs 28例[30.8%]; HR 0.69; 95%CI 0.38-1.22; p=0.20).28日での人工呼吸器非装着期間は両群間で有意差が見られなかった(デクスメデトミジン群中央値20日[四分位範囲5-24日] vs 対照群中央値18日[四分位範囲 0.5-23日]; p=0.20).デクスメデトミジン群は人工呼吸管理中の良好な鎮静管理率が有意に高かった(範囲17-58% vs 20-39%; p=0.01).その他の評価項目は両群間で有意差は見られなかった.有害事象はデクスメデトミジン群と対照群でそれぞれ8例(8%)と3例(3%)であった.
※本文より:APACHEⅡスコアが23以上のサブ解析ではデクスメデトミジン群が有意に死亡率が低かった(APACHEⅡスコア≧23:OR 0.39; 95%CI 0.16-0.91,APACHEⅡスコア<23:HR 1.13; 95%CI 0.36-3.57).
【結 論】
人工呼吸器を要する患者において,デクスメデトミジンの使用はデクスメデトミジンがない場合に比して死亡率や人工呼吸器非装着日数を統計学的に有意に改善した結果とはならなかった.しかし,本研究は死亡率については検出力不足の可能性があり,追加研究としてさらなる評価が必要である.