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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】免疫グロブリン製剤は壊死性軟部組織感染症の長期的身体機能を改善しない(INSTINCT trial)

■免疫グロブリン製剤(IVIG)は壊死性軟部組織感染症の原因となりやすい連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の毒性の中和作用があることが知られていますが,壊死性軟部組織感染症に対するIVIGを検討したRCTは1報のみで,それも患者登録がなかなか進まずわずか21例で中止となっています.

■今回紹介する論文は,もう少し症例数を増やして検討しようということで行われた研究(INSTINCT trial)です.主要評価項目は,リハビリテーションなどでよく評価される長期機能の指標となるSF36-PFスコアリングシステム(SF36は健康関連QOL評価ツールであり,SF36-PFは運動関連のADLに相当)を用いています.これは,IVIGによる菌毒性や炎症の中和作用が身体機能を改善するのではないかという執筆者らの仮説からくるものです.

■目のつけどころは興味深く,近年トピックスとなっているPICSにも関連する研究ですが,結果はネガティブでした.もっともPICSを評価する上で重要な他の介入(リハビリテーション等)が具体的にどのようになされていたのかは不明ですが,少なくともIVIGがPICSに大きなインパクトを与えるような効果はこの研究では見られません.

■副次評価項目では死亡率を評価しています.有意差はないものの28日死亡率,90日死亡率,180日死亡率と日数が伸びるにつれてIVIG群の方が死亡率が低く,180日時点では6%の差がついてはいます.サンプル数不足とも言えるかもしれませんが,Kaplan-Miere曲線を見ると途中で交差しておりますので,臨床的に有意な差とは言い難いと思います.
壊死性軟部組織感染症患者における免疫グロブリンG(INSTINCT):二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験
Madsen MB, Hjortrup PB, Hansen MB, et al. Immunoglobulin G for patients with necrotising soft tissue infection (INSTINCT): a randomised, blinded, placebo-controlled trial. Intensive Care Med 2017 Apr 18[Epub ahead of print]
PMID: 28421246

Abstract
【目 的】
本INSTINCT試験の目的は,壊死性軟部組織感染症(NSTI)のICU患者における自己報告の身体機能において,プラセボと比較した多特異性免疫グロブリンG注射製剤(IVIG)の効果を評価することである.

【方 法】
我々は,NSTI患者100例を,ICU入室から最初の3日間にIVIG(Privigen, CSL Behring) 25gまたは同用量の0.9%生理食塩水を1日1回静注する群に無作為化した.主要評価項目は無作為化から6ヶ月後の36項目のの健康サーベイ(SF-36)の身体的サマリースコア(PCS)とし,死亡した患者は最も低いスコア(0点)とした.

【結 果】
無作為化された100例の患者のうち,87例がPCSスコアのITT解析に登録され,IVIG群が42例(84%),プラセボ群が45例(90%)であった.2つの介入群は,無作為化前のIVIG使用(1回投与は許容)を除いた背景因子や急性腎傷害の率は同等であった.PCSスコアの中央値は,IVIG群で36点(四分位範囲 0-43),プラセボ群で31点(0-47)であった(平均調整差 1点(95%CI -7 to 10), p=0.81).
※本文より,平均値は29点vs28点
本結果は背景因子で調整した解析,per-protocol集団,サブグループ解析(NSTIの部位),無作為化前のIVIG使用で調整したpost-hoc解析でも維持されていた.

【結 論】
NSTIのICU患者では,6ヶ月時点での自己報告での身体機能においてアジュバントIVIGの効果は見られなかった.

by DrMagicianEARL | 2017-04-21 16:51 | 敗血症

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