【文献】低酸素血症のない急性心筋梗塞疑いへの酸素投与の是非(DETO2X-AMI trial)
■今回紹介する論文は,同内容の研究としてはこれまでにない6629例を登録した大規模RCT(DETO2X-AMI trial)です.結果は,低酸素血症のないAMIに酸素を投与してもしなくても,死亡率,心筋梗塞再発,トロポニン最高値に有意差はない,という結果で,ルーチンでの酸素投与に有益性は見られなかったと結論づけています.これを見るに,ルーチンでの酸素投与は,有害ではないが,あえてする必要もないということになるでしょうか(一応,酸素も医療資源ですし).AMIのリスク因子である喫煙を考慮するならば,COPDを基礎疾患に持っている患者もそれなりの割合で存在しますから,やはりSpO2を見て酸素投与するかどうか判断する,が一番安全かと思われます.
■このDETO2X-AMI trialと,有害性を報告したAVOID trialの違いについて触れておきます.
・DETO2X-AMIの方がN数が15倍
・「低酸素血症のない」のカットオフが異なる(DETO2X-AMIはSpO2≧90%,AVOIDはSpO2≧94%)
・酸素投与群はDETO2X-AMIが6L/分の開放型マスク,AVOIDが8L/分の閉鎖型マスク
・DETO2X-AMIは,病院前および院内発症のnonSTEMI(STが上昇していないAMI)を含むAMI疑い患者を登録しているのに対し,AVOIDは救急車を要請したSTEMI患者を登録している
N数の違いは大きいですが,それ以外の違いを見ていくと,酸素の有害性を示したAVOIDの方が,低酸素になりにくく,かつ酸素投与群はDETO2X-AMIよりも高酸素になりやすい,登録された患者はAVOIDの方がSTEMIが多い,ということが言えるかと思いますし,そういうセッティングだと酸素の有害性が出やすくなる,とも考えられるかもしれません.
急性心筋梗塞疑いへの酸素療法(DETO2X-AMI trial)
Hofmann R, James SK, Jernberg T, et al; for the DETO2X-SWEDEHEART Investigators. Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction. N Engl J Med 2017 Aug.28 [Epub ahead-of-print]
Abstract
【背 景】
ベースラインで低酸素血症がない急性心筋梗塞疑いの患者におけるルーチンの酸素療法の臨床効果は明確ではない.
【方 法】
レジストリーに基づいた本無作為化臨床試験は,患者登録とデータ収集が行われたスウェーデン全国レジストリーを用いた.心筋梗塞疑いで,酸素飽和度が90%以上の患者を酸素投与群(オープンフェイスマスクで6L/分を6~12時間)と室内気群に無作為に割り付けた.
【結 果】
計6629例の患者が登録された.酸素療法の中央期間は11.6時間で,治療期間終了時の酸素飽和度中央値は酸素投与群で99%,室内気群で97%であった.低酸素血症に進展した患者は酸素投与群で62例(1.9%),室内気群で254例(7.7%)であった.入院中のトロポニン値最高値の中央値は,酸素投与群で946.5ng/L,室内気群で983.0ng/Lであった.主要評価項目である無作為化から1年以内全原因死亡率は,酸素投与群で5.0%(166/3311),室内気群で5.1%(168/3318)であった(HR 0.97; 95%CI 0.79-1.21; p=0.80).1年以内の心筋梗塞再入院は酸素投与群で126例(3.8%),室内気群で111例(3.3%)であった(HR 1.13; 95%CI 0.88-1.46; p=0.33).本結果は事前に定められたすべてのサブグループにおいても一貫していた.
【結 論】
低酸素血症のない心筋梗塞疑いの患者におけるルーチンの酸素投与は1年全死亡率を減少させなかった.