【RCT】ARDS患者への肺リクルートメント手技は死亡率を悪化させる(ART)
■今回紹介する論文は,中等症以上のARDS患者1010例を登録し,肺リクルートメント手技を検討した大規模RCT(ART)です.結果は,肺リクルートメント手技を行った方が死亡率が悪化し,圧傷害や気胸が増加したという惨憺たる結果でした.私もARDS患者に肺リクルートメント手技はやりますが,このARTのような介入プロトコルほどは攻めませんし,やるにしてもICU入室初日か2日目までですし(急性期は日数がたつほど肺は硬くなるため損傷リスクがある),リクルートメントの非常に高いPEEPをかけている時間はかなり短めで,PEEPも35cmH2Oまで上げたりはしません.漸減も比較的すみやかに行っています.このためか,肺リクルートメント手技を行ってもbarotraumaや気胸をきたした経験は今のところありません.酸素化改善を得るためならもっと肺に優しいプロトコルにできるのでは?とずっと思っています.
■さて,このARTは,ブラジル,アルゼンチン,コロンビア,イタリア,ポーランド,ポルトガル,マレーシア,スペイン,ウルグアイの9カ国120のICUで行われた大規模RCTになります.患者は中等度から重症のARDS患者で,2/3が敗血症性ショック,2/3がdirect ARDSです.腹臥位療法を受けたのは1割,ARDS発症から無作為化までの時間は15時間程度,平均P/F比は120程度,TVは5.8mL/kg理想体重(研究プロトコルでは4-6mL/kg理想体重を目標),プラトー圧は26cmH2O程度です.
■リクルートメントを行う群は無作為化後すぐに神経筋遮断薬の投与を開始されています.肺リクルートメントのやり方は以下の図の通りです(論文Supplemental contentより).この手技を,初回が成功(P/F比が50以上増加)し,かつP/F比が250未満または50超の低下があれば24時間ごとに行います.
急性呼吸窮迫症候群の患者の死亡率における肺リクルートメントと呼気終末陽圧(PEEP)の漸減vs低いPEEPの効果:無作為化比較試験(ART)
Cavalcanti AB, Suzumura ÉA, Laranjeira LN, et al; Writing Group for the Alveolar Recruitment for Acute Respiratory Distress Syndrome Trial (ART) Investigators. Effect of Lung Recruitment and Titrated Positive End-Expiratory Pressure (PEEP) vs Low PEEP on Mortality in Patients With Acute Respiratory Distress Syndrome: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2017 Sep 27 [Epub ahead of print]
Abstract
【背 景】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の臨床アウトカムにおけるリクルートメント手技と呼気終末陽圧(PEEP)漸減の効果はいまだに不明確である.
【目 的】
標準的な低いPEEP戦略と比較して,最良の呼吸器系コンプライアンスのためのPEEP漸減に関連した肺リクルートメントが中等度から重症のARDS患者の28日死亡率を減少させるかについて検討した.
【方 法】
本研究は,中等度から重症のARDS成人患者を登録した,2011年11月17日から2017年4月25日までに9か国120の集中治療室(ICU)で行われた多施設共同無作為化試験である.肺リクルートメント手技と最良の呼吸器系コンプライアンスのためのPEEP漸減による実験戦略(501例;実験群)または低いPEEPの対照戦略に割り付けた.全患者はweaningまで従量式アシストコントロールモードを受けた.主要評価項目は,28日目までの全死亡率とした.副次評価項目は,ICU在室期間と入院期間,28日間での人工呼吸器非装着日数,7日間以内のドレナージを要する気胸,7日間以内の圧傷害,ICU死亡率,院内死亡率,6ヶ月死亡率とした.
【結 果】
計1010例の患者(女性37.5%; 平均[標準偏差]年齢 50.9歳[17.4])が登録・フォローアップされた.28日時点で,実験群501例のうち277例(55.3%),対照群509例のうち251例(49.3%)が死亡した(HR 1.20; 95%CI 1.01 to 1.42; p=0.041).対照群と比較して,実験群は6ヶ月死亡率を増加させ(65.3% vs 59.9%; HR 1.18; 95%CI 1.01 to 1.38; p=0.04),平均人工呼吸器非装着日数を減少させ(5.3 vs 6.4; 絶対差 −1.1; 95%CI −2.1 to −0.1; p=0.03),ドレナージを要する気胸リスクを増加させ(3.2% vs 1.2%; 絶対差 2.0%; 95%CI 0.0% to 4.0%; p=0.03),圧傷害リスクを増加させた(5.6% vs 1.6%; 絶対差 4.0%; 95%CI 1.5% to 6.5%; p=0.001).ICU在室期間,入院期間,ICU死亡率,院内死亡率に有意差はみられなかった.
【結 論】
中等度から重症のARDS患者において,低いPEEPと比較した肺リクルートメントとPEEP漸減は28日全死亡率を増加させた.本知見は,これらの患者における肺リクルートメント手技とPEEP漸減のルーチンの使用を支持しない.