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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【RCT】重症患者の早期栄養投与経路は静脈よりも経腸の方が腸管合併症が多い(NUTRIREA-2)

■原稿執筆に追われて話題の論文を紹介するのがだいぶ遅れてしまいましたが,NUTRIREA-2 studyがLancetにonline publishされました.この研究は人工呼吸器を装着したショック患者において,早期経腸栄養と早期静脈栄養をガチンコ勝負させたものです.結果は死亡率,感染症発生率に有意差なし,消化管合併症は早期経腸栄養群の方が有意に多かったということで,安全監視委員会の勧告により2410例を登録した時点で研究中止となっています.これだけ見ると早期静脈栄養の時代到来か?と一瞬思いましたが,研究デザインを見ると首をかしげたくなります.少なくとも私は本研究結果を見て早期経腸栄養をやめる気はまったくありません.

■死亡率が高めなのは気になりますがそれ以上に気になることがあります.2ヶ月前にpublishされたEAT-ICU trial(Intensive Care Med 2017; 43: 1637-47)の時もそうだったんですが,実臨床においてpermissive underfeedingが主流のこの時代になぜフルカロリー量の栄養投与設計でRCTを行うんでしょうかね・・・?そりゃいきなりそんな量入れたら消化管合併症増えるに決まってるでしょうとしか言いようがありません.この投与設計ではネガティヴな結果になるのは当然だろうなというのが率直な感想です.

■2012年に報告されたEDEN trial(JAMA 2012; 307: 795-803)ではARDS患者1000例を対象として,400kcal/dayと1300kcal/dayを比較した結果,死亡率や人工呼吸器装着期間に有意差はなく,嘔吐・胃内残量増加・便秘が1300kcal群の方が有意に多かったという結果でした.また,2015年に報告されたシステマティックレビュー(Crit Care 2015; 19:180)では,目標エネルギー量の33.3-66.6%の群が最も死亡率が低かったという結果がでています.おそらく今回のNUTRIREA-2 trialもEAT-ICU trialもoverfeeding傾向かと思われ,必要とするインスリン量も多くなります.全体の死亡率がやや高めなのはそれが関連しているのかなとも思ってます.
ショックを伴う人工呼吸患者における早期経腸栄養vs早期静脈栄養:無作為化多施設共同オープンラベル並行群間研究(NUTRIREA-2 trial)
Reignier J, Boisramé-Helms J, Brisard L, et al; NUTRIREA-2 Trial Investigators; Clinical Research in Intensive Care and Sepsis (CRICS) group. Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2). Lancet 2017 Nov 8 [Epub ahead of print]

Abstract
【背 景】
早期栄養投与ルートが重症疾患患者の予後に影響を与えるかについては議論の余地がある.我々は早期静脈栄養を第一選択とするよりも早期経腸栄養を第一選択とする方が予後良好であると仮説をたてた.

【方 法】
フランスの44施設の集中治療室(ICU)で行われた本無作為化多施設共同オープンラベル並行群間研究(NUTRIREA-2 trial)では,侵襲的人工呼吸管理とショックに対して血管作動薬投与を受けている成人(18歳以上)を,標準カロリー(20-25kcal/kg/日)を目標として挿管から24時間以内に静脈栄養群と経腸栄養群に1:1に無作為に割り付けた.無作為化は可変サイズの順列ブロックを用いてセンターで層別化された.栄養投与ルートはマスクできないため,医師と看護師の盲検化はできなかった.ショックが改善した場合(24時間連続して血管作動薬投与がなく,動脈血乳酸値<2mmol/L)に,静脈栄養を受けている患者は少なくとも72時間後には経腸栄養に変更できた.主要評価項目はIntention-to-treat集団で無作為化から28日後の死亡率とした.本研究はClinicalTrials.govの番号NCT01802099で登録されている.

【結 果】
2回目の中間解析で,独立したデータ安全監視委員会が,患者の登録を完了することが試験結果を大きく変える可能性は低いと判断し,患者登録を中止することを勧告した.2013年3月22日から2015年6月30日までで2410例の患者が登録され,1202例が経腸栄養群に,1208例が静脈栄養群に無作為に割り付けられた.28日目までに,経腸栄養群で1202例中の443例(37%),静脈栄養群で1208例中422例(35%)が死亡した(絶対差推定 2.0%; 95%CI -1.9 to 5.8; p=0.33).ICU関連感染症の発生率は経腸栄養群(173例[14%])と静脈栄養群(194例[16%]; HR 0.89; 95%CI 0.72 to 1.09; p=0.25)で差はみられなかった.静脈栄養群と比較して,経腸栄養群は嘔吐(406例[34%] vs 246例[20%]; HR 1.89; 95%CI 1.62-2.20; p<0.0001),下痢(432例[36%] vs 393例[33%]; HR 1.20; 95%CI 1.05 to 1.37; p=0.009),腸管虚血(19例[2%] vs 5例[<1%]; HR 3.84; 95%CI 1.43-10.3; p=0.007),急性腸管偽性閉塞(11例[1%] vs 3例[<1%]; HR 3.7; 95%CI 1.03-13.2; p=0.04)の発生率が高かった.

【結 論】
ショックを伴う成人重症患者において,早期静脈栄養と比較して,早期経腸栄養は死亡率や二次感染を減少させず,消化管合併症リスクの増加に関連していた.

by DrMagicianEARL | 2017-12-01 16:41 | 文献

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