■新年あけましておめでとうございます.今年もよろしく御願い申し上げます.さて,新年最初の論文紹介はClinical Infectous Diseaseに掲載された以下の論文から.救急部に敗血症患者が来た時に感染症チームが早期介入したらガイドライン遵守率と死亡率が改善したという前後比較研究です.私自身,大阪時代に実際にそのようなことをやって遵守率も死亡率も大幅に改善したので,納得の結果です.
■この論文では,13名の感染症医により構成された感染症チームが作られ,救急医が敗血症患者を見つけた時点でチームが呼ばれます.感染症チームが行うのは,認知から1時間以内に患者評価を行い,診断ワークアップの推奨,抗菌薬治療介入(薬剤選択,用量,投与スケジュール),必要時の感染巣コントロールの導入推奨を行います.
■結果は,介入前後で14日死亡率は39%から29%に有意に改善したという結果です.ただし,敗血症性ショックに限定すると57%から51%に減少はしているものの有意差はありません.敗血症性ショックに関しては死亡率がちょっと高すぎる印象ですね.SSCGバンドル遵守率は4.6%から17.6%に有意に改善していますが,まだまだ低すぎると言わざるを得ません.このあたりは何年もかかる取り組みでしょうから,続報に期待します.
■ついでであれですが,私の大阪時代の介入についてはエンドトキシン血症救命治療研究会で発表しておりますので,そちらの要約も下に掲載しました.大阪にいたときは救急医すらおらず,ERは主に3~10年目あたりのドクターで回していた状態で,敗血症性ショックの院内死亡率は8割と極めて高いものでした.その状況からICTとして介入を行い,4割まで改善しています.遵守率も最終的に81%まで改善し,ガイドライン遵守患者に絞ると院内死亡率は26%でした.一般病棟での看護師へのSIRS基準および臓器不全トリアージのプロトコル教育を行うと,30日生存率,臓器不全,ICU/HCU入室期間が有意に改善したという報告も出ています(Crit Care 2016; 20: 244).たとえ救急・集中治療医がいなくとも,敗血症死亡率改善に向けてICTにもできることはあります.
救急部における重症敗血症および敗血症性ショックの早期管理のための感染症チーム
Viale P, Tedeschi S, Scudeller L, et al. Infectious Diseases Team for the Early Management of Severe Sepsis and Septic Shock in the Emergency Department. Clin Infect Dis 2017; 65: 1253-9
PMID: 28605525
Abstract
【背 景】
救急部における重症敗血症/敗血症性ショックの初期管理に特化した感染症チームによる患者の生存への影響はいまだに評価されていない.
【方 法】
我々の病院の救急部において準実験的前後比較研究を行った.前期(2013年6月から2014年7月)では,重症敗血症/敗血症性ショックのすべての連続した成人患者は標準ケアに従って管理されており,データは前向きに収集した.後期(2014年8月から2015年10月)では,患者は救急部到着から1時間以内にベッドサイドの患者評価を行うことに特化した感染症チームと協力して管理された.
【結 果】
全体で382例の患者が登録され,前期が195例,後期が187例であった.年齢中央値は82歳(四分位範囲70-88歳)であった.最も多い感染巣は肺(43%),次いで尿路(17%)であり,22%は感染巣不明であった.後期では,Surviving Sepsis Campaign(SSC)バンドル遵守率(4.6% vs 32%, p<0.001),適切な初期抗菌薬投与率(30% vs 79%, p<0.001)が改善した.多変量解析では,全原因14日死亡の予測因子は,qSOFA≧2(HR 1.68; 95%CI 1.15-2.45; p=0.007),血清乳酸値≧2mmol/L(HR 2.13; 95%CI 1.39-3.25; p<0.001),感染巣不明(HR 2.07; 95%CI 1.42-3.02; p<0.001)であり,後期は保護因子であった(HR 0.64; 95%CI 0.43-0.94; p=0.026).
【結 論】
救急部における重症敗血症/敗血症性ショックの早期管理のための感染症チームの介入はSSC推奨の順守率と患者生存率を改善させた.
DrMagicianEARL.救急・集中治療医不在の病院におけるICT主導の敗血症性ショック治療プロトコルの導入;89例単施設後ろ向き観察研究.第21回日本エンドトキシン救命治療研究会
【背 景】
近年,敗血症の治療成績は改善傾向にあるが,その報告は救急医・集中治療医がいる施設からのものであり,これらのエキスパートが不在の施設における敗血症性ショックの治療成績の報告はまだない.当院では2011年3月までの敗血症性ショックの院内死亡率は約8割であり,その背景には,SSCGの周知不足,診断の遅れや不適切な治療の常態化が挙げられた.そこで,2011年8月より感染対策室(ICT)が主導となり,敗血症性ショック治療への介入を開始した.具体的には,SSCGをベースとしたより使いやすい院内プロトコルの作成と導入,敗血症性ショック発生時の検査・治療推奨,院内の多職種への研修,非侵襲的陽圧換気や乳酸値計測が可能な血液ガス分析機の導入を行った(第1次介入).さらに,2年後(第2次介入)に治療成績のフィードバックを行い,プロトコルの改訂と研修を行った.
【目 的】
ICT主導の敗血症性ショック治療介入の有効性を評価する.
【方 法】
本研究は,2009年4月から2016年2月まで当院のICUに入室した全ての敗血症性ショック患者89例を後ろ向きに抽出登録した単施設観察研究である.主要評価項目は蘇生プロトコルの遵守群と非遵守群の院内死亡とした.統計解析ソフトはR®を用い,有意水準は0.05とした.
【結 果】
全89例のうち,遵守群が50例,非遵守群が39例であり,患者背景因子では有意差はみられなかったが,治療介入については非遵守群の方が免疫グロブリンの使用が有意に多かった(38% vs 72%; p=0.002).院内死亡率は遵守群の方が有意に低かった(26% vs 80%, p<0.00001).また,第一次介入の前後での院内死亡率も有意に改善していた(40% vs 81%, p=0.001).多重ロジスティック回帰解析では,プロトコル遵守(OR 0.021; 95%CI 0.004-0.11),SOFAスコア(OR 1.53; 95%CI 1.10-2.24),日本救急医学会急性期DIC診断基準スコア(OR 1.87; 95%CI 1.11-3.15),挿管拒否の意思表示(OR 15.3; 95%CI 2.9-80.7)が院内死亡・生存の有意な関連因子であった.第1次介入前,第1次介入後~第2次介入前,第2次介入後のそれぞれの院内死亡率は81%,42%,38%,蘇生プロトコル遵守率は0%,65%,81%であった.
【結 論】
当院で行ったICT主導の敗血症性ショック治療介入により,蘇生プロトコルの遵守率が向上し,院内死亡率が低下した.