【文献】福島での若年の非浸潤性甲状腺癌では,過剰診断を防ぐ上で,すぐに診断すべきではない
■もともと成人の甲状腺癌のほとんどは癌と呼ぶには予後がかなりいいことが知られており,小児においてもその傾向が示唆される結果です.甲状腺癌発生初期の小さな結節は成長速度が速いが,一定の大きさになると増殖が止まるため,これからの患者の長いであろう人生を考えれば,過剰診断を防ぐ上で,すぐに細胞学的診断はやりにいくべきではないとしています.
原子力発電所事故後の日本における超音波検査でスクリーニングされた若年患者の甲状腺癌発育パターンの比較解析:福島健康管理調査Midorikawa S, Ohtsuru A, Murakami M, et al. Comparative Analysis of the Growth Pattern of Thyroid Cancer in Young Patients Screened by Ultrasonography in Japan After a Nuclear Accident: The Fukushima Health Management Survey. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2017 Nov 16 [Epub ahead of print]PMID: 29145557Abstract【背 景】成人では,甲状腺癌は一般的に非常に遅い速度で成長し,過剰診断が世界的問題となっている.しかしながら,若年患者でのスクリーニングによる早期のステージの甲状腺癌同定に関しては十分には知られていない.過剰診断を防ぐため,若年患者の超音波検査スクリーニングによる甲状腺癌の成長の自然経過を理解することが不可欠である.【目 的】若年患者での甲状腺癌の自然進行を評価する.【方 法】本観察研究では,悪性または悪性疑いの甲状腺腫瘍の直径の変化を2回評価した.悪性甲状腺腫瘍の直径の変化は,福島県の原子力発電所事故後で,21歳未満の患者の福島健康管理調査の第1回甲状腺超音波検査でのスクリーニングと確認検査の間の観察期間中に,悪性甲状腺腫瘍径の変化を推定した.甲状腺癌またはその疑いと細胞学的に診断された計116例の患者を,10%超の直径減少,-10%~+10%の直径変化,10%超の直径増加の3群に分類した.腫瘍成長率と主要径の関連性について解析を行った.本研究は2016年3月1日から2017年8月6日までの期間に行った.評価項目は,腫瘍径変化,若年患者における甲状腺癌の成長係数,観察期間または腫瘍径とそれらの関連性とした.【結 果】116例の患者のうち,77例が女性であり,平均年齢は16.9歳(中央値17.5歳)であった.平均観察期間は0.488年(範囲 0.077-1.632)であった.3群間で年齢,性別,腫瘍径,観察期間,甲状腺刺激ホルモン,サイログロブリンに有意差はみられなかった.腫瘍径変化は観察期間と直線的には相関していなかったが(Pearson R=0.121; 95%CI -0.062 to 0.297),スクリーニング検査では増殖係数は腫瘍径と有意に負の相関がみられており(Spearman ρ=-0.183; 95%CI -0.354 to -0.001),初期増殖後の増殖停止を示唆していた.【結 論】超音波検査によるスクリーニングは,多くの若年患者において成長が停止するパターンになっている無症候性の甲状腺癌を同定しうる.患者の予測される長い人生を考慮すると,過剰診断の予防のためには,非浸潤性甲状腺癌疑いをすぐに診断することなく,慎重に長期間観察していくことが必要である.