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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【RCT】ICUでの抗菌薬ローテーション(サイクリング)に薬剤耐性に対する有効性認めず

■薬剤耐性菌対策の手法として,抗菌薬ローテーションが提唱されています.その手法としてサイクリング療法とミキシング療法があります.サイクリング療法では,一つの施設(あるいは病棟単位)で使用する抗菌薬を一定期間ごとに他のクラスに変更し,ミキシング療法では同一患者において異なる種類のクラスの抗菌薬を同時に使用する方法です.ちなみに,いずれも違うクラスを用いるという意味であり,(たまに見かける勘違いですが)カルバペネムローテーションのような同一クラス内での変更ではありません.

■サイクリング戦略は,Brownらのシステマティックレビュー(J Antimicrob Chemother 2005; 55: 6-9)において有効性を証明することはできないと結論づけており,IDSA/SHEAによるAntibiotic Stewardship Programガイドライン(Clin Infect Dis 2016; 62: e51-77)でも行うべきでないとされています.今回紹介する論文はこの抗菌薬サイクリングとミキシングを比較したクラスタークロスオーバーRCTです.結果はネガティブであり,サイクリング戦略は有効とはいえなさそうです.

■なお,最近これにやや類似する抗菌薬選択圧指数(antimicrobial heterogeneity index:AHI)も一部で提唱されています.抗緑膿菌薬を特定のクラスに偏らせずできる限りバランスよく使おうというやり方で,最近研究会でよく発表されています(個人的にはかなり疑問視していますし,やり方によっては現場で逆に抗菌薬不適切使用を助長しかねないなと感じています).
ICUにおける薬剤耐性菌での抗菌薬サイクリングとミキシングの効果:クラスター無作為化クロスオーバー試験
van Duijn PJ, Verbrugghe W, Jorens PG, et al; SATURN consortium. The effects of antibiotic cycling and mixing on antibiotic resistance in intensive care units: a cluster-randomised crossover trial. Lancet Infect Dis. 2018 Jan 25 [Epub ahead of print]
PMID: 29396000

Abstract
【背 景】
ICUにおいて,抗菌薬ローテーション戦略が薬剤耐性グラム陰性菌の頻度を減じるかについては正確には確立されていない.

【目 的】
我々の目的は,欧州のICUにおいて,ミキシング戦略(同一患者で抗菌薬を別のクラスに変更)と比較して,抗菌薬サイクリング戦略が薬剤耐性グラム陰性菌の頻度を減じるかについて評価することである.

【方 法】
本クラスター無作為化クロスオーバー研究では,各ICUを3つの抗菌薬(第3世代または第4世代セファロスポリン系(CEPHs),ピペラシリン/タゾバクタム(P/T),カルバペネム系(CARBs))の1つを,ICU全体で6週間の期間ごとに変更する群(サイクリング)または同一患者で変更する群(ミキシング)に無作為に割り付けた.介入およびローテートする抗菌薬順序は中央コンピューターによる無作為化で決定された.サイクリングまたはミキシングは9カ月間適用され,次いでウォッシュアウト期間が設けられ,代替戦略が施行された.我々は,薬剤耐性グラム陰性菌を,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生またはP/T耐性の腸内細菌群,P/TやCARBsに耐性を有するアシネトバクター,緑膿菌と定義した.データは研究中のすべての入院で収集された.主要評価項目は,潜在的交絡因子で調整した,平均,施設単位あるいは月ごとの,呼吸器・会陰部スワブにおける薬剤耐性グラム陰性菌検出頻度とした.本試験はClinicalTrials.gov NCT01293071に登録した.

【結 果】
8つのICU(国はベルギー,フランス,ドイツ,ポルトガル,スロベニア)が無作為化され,2011年6月27日から2014年2月16日まで患者が登録された.4069例の患者がサイクリング期間の間に入室し,4707例がミキシング期間に入室した.これらのうち,745例がサイクリング期間に,853例がミキシング期間に毎月の定点頻度調査の際に在室しており,主要な解析に組み入れられた.複合主要評価項目の平均頻度はサイクリング期間で23%(168/745),ミキシング期間で22%(184/853)であり,ミキシング期間での調整発生率比は1.039(95%CI 0.837-1.291; p=0.73)であった.介入期間中のICU全死亡率に有意差は見られなかった.

【結 論】
ICUに入室した患者において,抗菌薬サイクリングは薬剤耐性グラム陰性菌の検出頻度を減少させない.

by DrMagicianEARL | 2018-02-09 11:00 | 感染対策

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