【文献】HPVワクチンとワクチン接種後の症状に関連性はない(名古屋研究)
■2015年に名古屋で行われたHPVワクチンと接種後の症状との関連性を調べるための大規模アンケート調査結果がpublishされました(オープンアクセスです).もともとこのアンケートは名古屋市長である河村たかし氏が全例調査を目的して行うよう指示したものです.2015年12月14日に結果が発表され,副反応症状とワクチンに関連性は認められないという解析結果でした(その時の河村市長の発言は「驚いた」というもので,どうやら薬害ありきでこのアンケート調査を指示したともとれる発言です).今回紹介する論文はそのデータ解析結果を学術論文としてpublishしたものです.これほどの大規模データはワクチン接種率が著しく落ちてしまった今となってはとることは難しいでしょう.本研究結果がHPVワクチン積極推奨に繋がればと思います.
■さて,本研究の24の症状有無についてのアンケートでは,ワクチン接種群の方が有意に多い症状はないという結果でした.一方で,24の症状で「病院を受診した」リスクに関しては,接種群の方が月経血量異常や不規則な月経,ひどい頭痛が有意に多く,接種前からあった症状の影響を除いても受診リスクは有意に高いという結果でした.
■これは,症状頻度は増加していないが病院受診で有意差がでているということで,考察として,他の症状が増加していないことから接種群の方が重症だったとは考えにくく,副反応かもしれないという心理的要因が関係しているのではないかとしています(サブ解析を見ると,後に接種するほどORが上昇している傾向がみられていることもそれを示唆していると思われます).加えて,HPVワクチン接種後の日本のメディアや何人かの医師によって報告された複数の同時症状の発生を示唆する結果も得られていません.以上から,接種後症状とHPVワクチンとの間に因果関係はないであろうと結論づけています.
■執筆者らはlimitationとして,①回答率が100%ではないため選択バイアスが結果に影響を与えている可能性があること(これは大規模アンケート研究ではほぼ避けられない潜在的リスク),②本研究デザインでは極めて稀な症状を拾い上げることができない(ただし,本研究は子宮頸がん予防ワクチン被害者連絡会愛知支部の協力を得てHPVワクチンと関連した症状を反映する方法をとっている),③アンケートであるため,医師によって診断された症状とは限らない自己報告であること,④ワクチン接種者のみが予防接種日を有しており,ワクチン接種前に起こった症状を除外してしまうと比較の妥当性が損なわれるため,完全に除外を行っていない,を挙げています.
日本の若年女性において,HPVワクチンと,報告されたワクチン接種後の症状に関連性はない:Nagoya study
Suzuki S, Hosono A. No Association between HPV Vaccine and Reported Post-Vaccination Symptoms in Japanese Young Women: Results of the Nagoya Study. Papillomavirus Res. 2018 Feb 23. [Epub ahead of print]
PMID: 29481964
Abstract
【背 景】
名古屋市は2010年に無料のHPV予防接種を導入し,2013年4月に厚生労働省はHPVワクチンを全国予防接種プログラムに組み入れた.しかし、2013年6月に未確認の有害事象の報告後,ワクチン接種の推奨を中止した.
【方 法】
名古屋市では,ワクチンと症状の関連性を調査するため,アンケート調査を実施した.参加者は1994年4月2日から2001年4月1日までの間に生まれた名古屋市の女性71177例であった.匿名化された郵便アンケートでは,24の症状(主要評価項目)の発症,関連する病院の受診,頻度,および学校出席への影響を調査した.
【結 果】
計29846例の参加者から回答が得られた.24のHPVワクチン接種後の症状のいずれも発生率の有意な増加は見られなかった.ワクチンは「異常な月経出血量」(OR 1.43; 95%CI 1.13-1.82),「不規則な月経」(OR 1.29; 95%CI 1.12-1.49),「ひどい頭痛」(OR 1.19; 95%CI 1.02-1.39),慢性的に遷延する「異常な月経出血量」(OR 1.41; 95%CI 1.11-1.79)において,年齢で調整されたオッズの増加と関連していた.学校への出席に有意に影響を与えた症状はなく,症状の蓄積も認められなかった.
【結 論】
本結果はHPVワクチンと報告された症状の間に因果関係がないことを示唆する.